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第一部
金策と掘り出し物探し
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「どうした!? ……ってなんじゃこりゃ!」
談話エリアで打ち合わせをしていた冒険者グループが悲鳴を上げた職員に声を掛けている。
「おい、何があった?」
そしてギルドのカウンター奥からも職員の男が顔を出してきた。が、獲物を視界に収めた瞬間に黙り込んで動かない。
「……なんだか思ったより大変なことになってるわね」
しんと静まり返ったギルド内に、莉緒の声が小さく響き渡る。
「こいつは……、マーダーラプトルじゃねぇか」
ゴクリと唾を飲み込むような音が聞こえてきそうな声音で、カウンター奥から出てきた男が呟いた。
「あ、はい。ちょっとこれを買い取ってもらいたくて」
ようやく話ができそうな人物が出てきたと思って声をかける。悲鳴を上げたお姉さんは腰が抜けたのか、立ち上がれないようなのでしょうがない。
「なんだって? ……これはお前らが仕留めたのか?」
胡散臭そうに尋ねてくる男にゆっくりと頷き返す。
「そうか……。あー、おれはこのギルドのサブマスターをやっているビルダインだ。買い取るのは構わないが、この大きさだとちょっと査定に時間がかかる」
ほほう、時間をかけて査定するのか。ザインの商人に売った時は獲物を触って確認してたくらいだけど、どこまで査定で調べるんだろうな。
「どれくらいかかりますか? できれば今日中に受け取りたいのですが」
「今日中であれば問題ない。ちなみに取っておきたい部位とかあるか?」
おお、そんなに細かい要望にも応えてくれるのか。
「いえ、全部売ります」
とはいえ今はお金が優先だ。城に乗り込──訪ねるにあたって何か使えそうなものがあれば買い揃えておきたいし。
「わかった。昼過ぎにまた来るといい。……ほら、ユリエール、いい加減に立て」
サブマスターがそう声を掛けると、腰を抜かしたままだったお姉さんを引っ張り上げる。どうやらユリエールという名前らしい。
そして「割符を渡しておけよ」と言い残してカウンターの奥へと引っ込んでいった。
「し、失礼しました……」
何とか気を取り直したユリエールさんが、引きつりそうになる顔を笑顔にしようとがんばっている。
カウンターの中から木の札を二枚取り出すと、一枚をカウンターに乗せられている獲物へと張り付ける。そしてもう一枚を俺に差し出してきた。
「こちら割符になります。無くされると最悪、売却金を受け取れなくなりますのでご注意ください」
「あ、どうも。またお昼過ぎにこれ持ってきますね」
受け取った割符をカバンに仕舞うとそのまま背負い、静まり返っているギルドを後にした。
「結局マーダーラプトルの魔物のランクわからず仕舞いだったわね」
「そういえばそうだなぁ。そこそこ強いとは思うんだけど……、同じ『マーダー』がつく熊がCランクだから、同じCランクかも?」
「かもしれないわね」
他愛のない話をしながら辺りをぶらつく。まだ売り上げは手に入ってないが、使えそうなものが売ってないか探すことにしたのだ。主に魔道具屋が目的だけど、掘り出し物でもないかなぁと思っている。
ひとまず目についた、魔法陣の看板のあるお店に入る。
「いらっシゃい」
出迎えてくれたのは、開いてるのか瞑っているのかよくわからない薄目をしたおじいちゃんだった。
「何かお探しでスかい?」
「……何か面白そうな魔道具ってないかな?」
これといって目的の物を探しに来たわけでもないので、おじいちゃんに聞いてみることにした。
「面白い魔道具ネぇ」
薄目のまま辺りをごそごそと漁りだすおじいちゃん。
「これはどうジゃ?」
直径1センチで長さが15センチほどの棒を取り出した。
「これは?」
「光るんジゃ」
持ち手のところにスイッチがあるらしく、ぽちっと押すと棒の先端が光る。どうもレーザーポインタみたいなやつだった。
「へぇ」
光を収束させればいいわけだし、なんとなく魔法でもできそうだよな。
と思いながらも無感動な声を返すと、今度は別の道具を漁りだすおじいちゃん。
「次はこれジゃ」
それから次々と魔道具を見せてくれるおじいちゃん。自動で扇いでくれるウチワとか、転がした方向に魔力の続く限り転がっていく玉とか、ひたすら回転する独楽とか。しかしどんなにくだらなくても最低10万フロンするというのがいただけない。さすが魔道具なのか。
中でも気になったのは『真実を映す鏡』だ。それなんてラーの鏡とか思ったけど、効果があるのかよくわかってないらしい。
「そもそも真実の姿とはなんジゃろなぁ?」
知らんがな。人に化ける魔物とかがいれば正体がわかるんだろうか。
……いや待て、ファンタジーには人化する魔物はつきものじゃないか? きっとこの世界にもいるのでは……!
師匠にもらった古赤竜の鱗の盾だって、きっと人化した竜と仲良くなってお土産感覚でもらったんじゃなかろうか。あの師匠なら竜もぶっ飛ばしそうだけど、知り合いという線もありえそうだ。
「……どうしたの柊?」
一人でうんうんと頷いていたら、莉緒から変な目で見られた。
「いや、師匠なら竜の知り合いもいそうだなって思って」
「はい?」
どうやら莉緒には通じなかったらしい。うん、ちょっと会話を端折りすぎたな。結局ラーの――真実を映す鏡は、面白そうだったのでほぼ全財産の150万フロンをはたいて購入した。
談話エリアで打ち合わせをしていた冒険者グループが悲鳴を上げた職員に声を掛けている。
「おい、何があった?」
そしてギルドのカウンター奥からも職員の男が顔を出してきた。が、獲物を視界に収めた瞬間に黙り込んで動かない。
「……なんだか思ったより大変なことになってるわね」
しんと静まり返ったギルド内に、莉緒の声が小さく響き渡る。
「こいつは……、マーダーラプトルじゃねぇか」
ゴクリと唾を飲み込むような音が聞こえてきそうな声音で、カウンター奥から出てきた男が呟いた。
「あ、はい。ちょっとこれを買い取ってもらいたくて」
ようやく話ができそうな人物が出てきたと思って声をかける。悲鳴を上げたお姉さんは腰が抜けたのか、立ち上がれないようなのでしょうがない。
「なんだって? ……これはお前らが仕留めたのか?」
胡散臭そうに尋ねてくる男にゆっくりと頷き返す。
「そうか……。あー、おれはこのギルドのサブマスターをやっているビルダインだ。買い取るのは構わないが、この大きさだとちょっと査定に時間がかかる」
ほほう、時間をかけて査定するのか。ザインの商人に売った時は獲物を触って確認してたくらいだけど、どこまで査定で調べるんだろうな。
「どれくらいかかりますか? できれば今日中に受け取りたいのですが」
「今日中であれば問題ない。ちなみに取っておきたい部位とかあるか?」
おお、そんなに細かい要望にも応えてくれるのか。
「いえ、全部売ります」
とはいえ今はお金が優先だ。城に乗り込──訪ねるにあたって何か使えそうなものがあれば買い揃えておきたいし。
「わかった。昼過ぎにまた来るといい。……ほら、ユリエール、いい加減に立て」
サブマスターがそう声を掛けると、腰を抜かしたままだったお姉さんを引っ張り上げる。どうやらユリエールという名前らしい。
そして「割符を渡しておけよ」と言い残してカウンターの奥へと引っ込んでいった。
「し、失礼しました……」
何とか気を取り直したユリエールさんが、引きつりそうになる顔を笑顔にしようとがんばっている。
カウンターの中から木の札を二枚取り出すと、一枚をカウンターに乗せられている獲物へと張り付ける。そしてもう一枚を俺に差し出してきた。
「こちら割符になります。無くされると最悪、売却金を受け取れなくなりますのでご注意ください」
「あ、どうも。またお昼過ぎにこれ持ってきますね」
受け取った割符をカバンに仕舞うとそのまま背負い、静まり返っているギルドを後にした。
「結局マーダーラプトルの魔物のランクわからず仕舞いだったわね」
「そういえばそうだなぁ。そこそこ強いとは思うんだけど……、同じ『マーダー』がつく熊がCランクだから、同じCランクかも?」
「かもしれないわね」
他愛のない話をしながら辺りをぶらつく。まだ売り上げは手に入ってないが、使えそうなものが売ってないか探すことにしたのだ。主に魔道具屋が目的だけど、掘り出し物でもないかなぁと思っている。
ひとまず目についた、魔法陣の看板のあるお店に入る。
「いらっシゃい」
出迎えてくれたのは、開いてるのか瞑っているのかよくわからない薄目をしたおじいちゃんだった。
「何かお探しでスかい?」
「……何か面白そうな魔道具ってないかな?」
これといって目的の物を探しに来たわけでもないので、おじいちゃんに聞いてみることにした。
「面白い魔道具ネぇ」
薄目のまま辺りをごそごそと漁りだすおじいちゃん。
「これはどうジゃ?」
直径1センチで長さが15センチほどの棒を取り出した。
「これは?」
「光るんジゃ」
持ち手のところにスイッチがあるらしく、ぽちっと押すと棒の先端が光る。どうもレーザーポインタみたいなやつだった。
「へぇ」
光を収束させればいいわけだし、なんとなく魔法でもできそうだよな。
と思いながらも無感動な声を返すと、今度は別の道具を漁りだすおじいちゃん。
「次はこれジゃ」
それから次々と魔道具を見せてくれるおじいちゃん。自動で扇いでくれるウチワとか、転がした方向に魔力の続く限り転がっていく玉とか、ひたすら回転する独楽とか。しかしどんなにくだらなくても最低10万フロンするというのがいただけない。さすが魔道具なのか。
中でも気になったのは『真実を映す鏡』だ。それなんてラーの鏡とか思ったけど、効果があるのかよくわかってないらしい。
「そもそも真実の姿とはなんジゃろなぁ?」
知らんがな。人に化ける魔物とかがいれば正体がわかるんだろうか。
……いや待て、ファンタジーには人化する魔物はつきものじゃないか? きっとこの世界にもいるのでは……!
師匠にもらった古赤竜の鱗の盾だって、きっと人化した竜と仲良くなってお土産感覚でもらったんじゃなかろうか。あの師匠なら竜もぶっ飛ばしそうだけど、知り合いという線もありえそうだ。
「……どうしたの柊?」
一人でうんうんと頷いていたら、莉緒から変な目で見られた。
「いや、師匠なら竜の知り合いもいそうだなって思って」
「はい?」
どうやら莉緒には通じなかったらしい。うん、ちょっと会話を端折りすぎたな。結局ラーの――真実を映す鏡は、面白そうだったのでほぼ全財産の150万フロンをはたいて購入した。
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