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第一部
発信機
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夕飯を食べた後、早々にベッドへと潜り込んだその夜。かすかな気配を感じて目が覚めた。魔の森で野営をすることもあった俺たちは、寝ている間も気配察知をかかすことがない。
隣のベッドを見ると、莉緒は気づいていないようでかすかな寝息が聞こえる。
「莉緒、起きろ」
そろりと起き上がると即座に行動を開始する。声を掛けられた莉緒もパチリと目を開けると、静かに、だが勢いよく上半身を起き上がらせる。
「……何かあった?」
「下の階から気配と足音を殺して近づいてくる者がいる」
「……あー、言われてみれば」
眉間に皺を寄せて部屋の入り口を凝視しつつ呟く莉緒。微かに感知はできているらしい。
「そこそこ気配遮断できてるけど、確かにゆっくりとこの部屋に近づいてくる気配が二つある」
どうにも夜中に宿へと帰ってきた宿泊客という感じがしない。それならいちいち気配を隠さずにもっと堂々としているはずだ。
「そうね」
枕元に置いてあったローブを羽織り、杖を手にして準備を整えている。俺の気配察知の方が感度がいいのは莉緒も知っているので、気のせいで済ませたりはしない。
「部屋の前まできた」
さっきよりも声を潜めて身構える。相手も気配察知スキルは持っていると思っていたほうがいい。ここで扉の影に移動などすれば、こっちが気付いていることに気付かれる可能性がある。
気配は部屋の前から動かない。やっぱり俺たちを狙ってるんだろうか。
しばらく待っていると、カチャリと微かに鍵の開く音が響く。
「来るぞ」
静かに告げると同時にゆっくりと魔力を練り上げ、いつでも飛び出せるようにベッドから降りる。
静かに扉が開いたところで莉緒の魔法が発動した。
「ぐあっ!」
目の前がうすぼんやりと明るくなる。闇魔法で俺たちの周囲を闇で覆い、同時に光魔法で視界がすべて真っ白になる閃光を一瞬だけ発動したのだ。
光がおさまった直後に俺も飛び出し、相手に接触すると激しい電撃を浴びせて無力化する。もう一人にも視界が戻る前に電撃を浴びせておいた。
「ふう」
一息つくと異空間ボックスからロープを取り出し、まだ痙攣している相手を縛っていく。不意打ちが決まって何よりだ。莉緒の閃光で明るくはなったが窓の外にはほとんど漏れていないと思う。廊下側はわからないけど、物音はあんまり立ってないし起きてくる人はいない……はず。
「相手が悪かったわね」
「はは、まったくだ。……にしてもこいつら」
一瞬だけ明るくはなったが、闇魔法の闇ごしだったのでシルエットくらいしか見えなかった。改めて魔法で明かりを生成してみると。
「……黒装束」
見た瞬間に莉緒の顔つきが変わる。ちょっと抑えてくれませんか。殺気が駄々洩れですよ莉緒さんや。
「どうどう……」
両肩を両手で掴み、莉緒を落ち着ける。
「なんでこいつらがいるのよ……!」
こいつらに殺されそうになったのはそう過去のことではない。というかすぐ最近だ。服装は似てるけど、やっぱりあのときと同じヤツらなんだろうか。
「まぁわからないことは本人に聞けばいいか」
素直に教えてくれるかどうかはともかく。
口元を覆っている布を剥がして治癒魔法をかける。電撃で痙攣していた体が徐々に回復していく。
「よう。気が付いたか」
目を見開いて俺を凝視する襲撃者。
「な……、いったい何が……」
「それはこっちのセリフだ。なぜ俺たちを襲ってきた。……ってかお前ら誰だ?」
宿の鍵を無断で開けられて侵入されれば、被害は受けていなくても襲撃者として認定してやっても問題ないだろう。文句は受け付けない。
「……」
「やっぱり素直に答えてはくれないみたいね」
「だよなぁ」
予想通りの無言の答えに頬をポリポリと掻く。
「俺たちは王都に来たばっかりなんだが……、誰だかわかった上で襲ってきたんだよな?」
「……お前たちはどうやって、ザインからここまで二日で来たんだ?」
はい? 何言ってんのコイツ?
あれだけ偽装して名前も見た目の職業も偽ったってのに、全部バレてる? 俺たちの居場所が筒抜けってこと?
「……逆になんで俺たちが二日でここまで来たってわかるんだ?」
答えてやってもいいがその前にいろいろ聞いておきたい。というか主導権はこっちが握ってるはずだ。ロープでぐるぐる巻きにしてるから身動きは取れないし、魔法を使うにしても魔力感知すれば発動前に叩き潰せる。
ザインにいたことを知ってるってことは、俺たちが逃げ出すことになった衛兵の件もこいつら絡みか?
「……もしかしてあのブローチ」
ハッとした表情で莉緒が呟くが、それってまさにビンゴじゃねぇのか……。いやむしろそれしか思いつかんがな。莉緒が怪しがってたけど、まさに怪しかったわけだ。
「これか……」
懐から取り出すふりをして異空間ボックスから出す。
「ってことは、二週間前に魔の森で襲ってきた黒装束の連中も、お前らの関係者ってことか」
魔の森にポツンと建つ一軒家なんぞ、運良く見つけられるとも思えない。やっぱりこのブローチが発信機みたいな役割してるとしか思えない。
ってか異空間ボックスに入れててもちゃんと機能するんだな。ファンタジー世界ってすげぇな。
「ふん、その通りだ。……答えてやったんだから、お前たちも答えろ。どうやって二日でザインから移動したんだ」
捕まってるってのに態度デカいなオイ。二度も襲ってきておいてこいつらどうしてやろうか。
隣のベッドを見ると、莉緒は気づいていないようでかすかな寝息が聞こえる。
「莉緒、起きろ」
そろりと起き上がると即座に行動を開始する。声を掛けられた莉緒もパチリと目を開けると、静かに、だが勢いよく上半身を起き上がらせる。
「……何かあった?」
「下の階から気配と足音を殺して近づいてくる者がいる」
「……あー、言われてみれば」
眉間に皺を寄せて部屋の入り口を凝視しつつ呟く莉緒。微かに感知はできているらしい。
「そこそこ気配遮断できてるけど、確かにゆっくりとこの部屋に近づいてくる気配が二つある」
どうにも夜中に宿へと帰ってきた宿泊客という感じがしない。それならいちいち気配を隠さずにもっと堂々としているはずだ。
「そうね」
枕元に置いてあったローブを羽織り、杖を手にして準備を整えている。俺の気配察知の方が感度がいいのは莉緒も知っているので、気のせいで済ませたりはしない。
「部屋の前まできた」
さっきよりも声を潜めて身構える。相手も気配察知スキルは持っていると思っていたほうがいい。ここで扉の影に移動などすれば、こっちが気付いていることに気付かれる可能性がある。
気配は部屋の前から動かない。やっぱり俺たちを狙ってるんだろうか。
しばらく待っていると、カチャリと微かに鍵の開く音が響く。
「来るぞ」
静かに告げると同時にゆっくりと魔力を練り上げ、いつでも飛び出せるようにベッドから降りる。
静かに扉が開いたところで莉緒の魔法が発動した。
「ぐあっ!」
目の前がうすぼんやりと明るくなる。闇魔法で俺たちの周囲を闇で覆い、同時に光魔法で視界がすべて真っ白になる閃光を一瞬だけ発動したのだ。
光がおさまった直後に俺も飛び出し、相手に接触すると激しい電撃を浴びせて無力化する。もう一人にも視界が戻る前に電撃を浴びせておいた。
「ふう」
一息つくと異空間ボックスからロープを取り出し、まだ痙攣している相手を縛っていく。不意打ちが決まって何よりだ。莉緒の閃光で明るくはなったが窓の外にはほとんど漏れていないと思う。廊下側はわからないけど、物音はあんまり立ってないし起きてくる人はいない……はず。
「相手が悪かったわね」
「はは、まったくだ。……にしてもこいつら」
一瞬だけ明るくはなったが、闇魔法の闇ごしだったのでシルエットくらいしか見えなかった。改めて魔法で明かりを生成してみると。
「……黒装束」
見た瞬間に莉緒の顔つきが変わる。ちょっと抑えてくれませんか。殺気が駄々洩れですよ莉緒さんや。
「どうどう……」
両肩を両手で掴み、莉緒を落ち着ける。
「なんでこいつらがいるのよ……!」
こいつらに殺されそうになったのはそう過去のことではない。というかすぐ最近だ。服装は似てるけど、やっぱりあのときと同じヤツらなんだろうか。
「まぁわからないことは本人に聞けばいいか」
素直に教えてくれるかどうかはともかく。
口元を覆っている布を剥がして治癒魔法をかける。電撃で痙攣していた体が徐々に回復していく。
「よう。気が付いたか」
目を見開いて俺を凝視する襲撃者。
「な……、いったい何が……」
「それはこっちのセリフだ。なぜ俺たちを襲ってきた。……ってかお前ら誰だ?」
宿の鍵を無断で開けられて侵入されれば、被害は受けていなくても襲撃者として認定してやっても問題ないだろう。文句は受け付けない。
「……」
「やっぱり素直に答えてはくれないみたいね」
「だよなぁ」
予想通りの無言の答えに頬をポリポリと掻く。
「俺たちは王都に来たばっかりなんだが……、誰だかわかった上で襲ってきたんだよな?」
「……お前たちはどうやって、ザインからここまで二日で来たんだ?」
はい? 何言ってんのコイツ?
あれだけ偽装して名前も見た目の職業も偽ったってのに、全部バレてる? 俺たちの居場所が筒抜けってこと?
「……逆になんで俺たちが二日でここまで来たってわかるんだ?」
答えてやってもいいがその前にいろいろ聞いておきたい。というか主導権はこっちが握ってるはずだ。ロープでぐるぐる巻きにしてるから身動きは取れないし、魔法を使うにしても魔力感知すれば発動前に叩き潰せる。
ザインにいたことを知ってるってことは、俺たちが逃げ出すことになった衛兵の件もこいつら絡みか?
「……もしかしてあのブローチ」
ハッとした表情で莉緒が呟くが、それってまさにビンゴじゃねぇのか……。いやむしろそれしか思いつかんがな。莉緒が怪しがってたけど、まさに怪しかったわけだ。
「これか……」
懐から取り出すふりをして異空間ボックスから出す。
「ってことは、二週間前に魔の森で襲ってきた黒装束の連中も、お前らの関係者ってことか」
魔の森にポツンと建つ一軒家なんぞ、運良く見つけられるとも思えない。やっぱりこのブローチが発信機みたいな役割してるとしか思えない。
ってか異空間ボックスに入れててもちゃんと機能するんだな。ファンタジー世界ってすげぇな。
「ふん、その通りだ。……答えてやったんだから、お前たちも答えろ。どうやって二日でザインから移動したんだ」
捕まってるってのに態度デカいなオイ。二度も襲ってきておいてこいつらどうしてやろうか。
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