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第一部

王都へ潜入?

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 初めて街に来たときは、自分たちの生活環境を整えることでいっぱいだった。多少余裕が出てきたのは、ほぼ無傷で仕留めた獲物が売れたときだろうか。あのときはまぁ、小金持ちになったからちょっと調子に乗ってたかもしれないけど。

「西門から出た先にある大きい街って何でしょう?」

「んあ? ああ、この街を出るのか? それならまっすぐ西に十日ほど行くと王都があるぞ」

 西門へ着いたけどまだ騒ぎにはなっていないみたいだった。門番に話しかけてみたけど特に警戒もされなかった。

「そうなんですね」

「ああ。途中に宿場町が三つほどあるから、そこまで野営は必要ないがな」

「ちなみに南門には何があるんです?」

「南は穀倉地帯になっていてな、そこを抜けると迷宮都市インブランドで、さらに南へ行くと隣国の商業国家アレスグーテだ」

 へー、迷宮都市なんてあるんだ。もしかしてダンジョンがあったりするんだろうか。

「そっちも面白そうですね」

「あぁ、ダンジョンで一攫千金を狙う冒険者が多いしなぁ。俺ももうちょっと若かったら挑戦してたんだがなぁ」

「あはは」

「まぁ何にしても、気を付けてな」

「はい、ありがとうございました」

 門番に軽く礼をすると、俺は一人で・・・街の外へと出る。小細工がどれだけ役に立つかわからないけど、簡単に実行できることはやっておいて損はないだろう。
 街から離れてしばらくすると、街道のはずれに莉緒の気配を感知した。茂みをかき分けて道を逸れると莉緒のほうへと歩いていく。

「おう、お互い無事に街から出れたみたいだな」

「柊!」

 こちらを見つけた莉緒が勢いよく飛び込んできた。ぎゅっと抱きしめ返すと安心したのか、ホッと息を吐くのがわかる。
 莉緒は途中で路地に入り、空から街の壁を飛び越えて外へと出たのだ。昼間なので気づかれる可能性はあったが、街の外から空を飛ぶ魔物の襲撃に備えるならともかく、街中なら大丈夫じゃないかなという思いはあった。

「莉緒は大丈夫だったか?」

「うん。なんともないよ」

「そりゃよかった。まぁ、そもそも後を追って空を追いかける方法がないだけかもしれないけどな」

「……そういえばそうかも?」

「ま、わからないことを考えてもしょうがない。……じゃあ飛ばして王都まで行こうか」

「うん」

 そうして俺たちは空を飛んで全力で王都へと向かう。もちろん途中にある宿場町はすべてスルーした。



「思ったより近かったな」

 途中で一度だけ野営を挟んだが、トラブルもなく二日ほどで王都へと到着した。……が、さすが王都と言ったところか。入るための行列が長い。

「でもちょっと、中に入るまでまだまだ時間がかかりそうね」

「だなぁ」

 しかし人が多いことは織り込み済みだったのか、思ったより列が早く進み俺たちの番となる。よく見れば門番の数が多く、一度に八グループのチェックができるようだった。

「身分証を」

 この声掛けはどこの街に入るときでも同じみたいだ。

「あ、すみません、身分証は持ってません」

 杖を腰に差してローブを羽織った俺は、両手を広げて何もないことを主張する。

「私も持ってないよ」

 ショートソードを両腰に提げ軽鎧に身を包んだ莉緒も後に続く。

「何。そうか、じゃあちょっとこっちへ来い」

 馬鹿正直に自分の名前の入った冒険者証を見せずに行くことに決めていた。もちろん名前も偽名でいく。咄嗟に本名が出る可能性もあるけど、それはまぁそのときだ。
 他に思いついたのはお互い職業を偽ることだった。俺はともかく魔法使い特化の莉緒も、それなりに成長率マシマシスキルを持っている。そのため前衛職も、そこらの初心者よりできる。

「まずは名前を聞こうか」

「リューです」

「私はシオ」

「王都に来た理由は?」

 椅子がなく、多少背の高めのテーブルがあるだけの部屋へと通されると、門番がさっそく問いかけてきた。

「田舎だと農作業ばっかりなんで、冒険者になりに王都に来ました」

「ふむ、出身は?」

「日本というところです。あんまり田舎なんで知らないでしょう?」

「……お前もか?」

 一緒にいる莉緒へも問いかけるが。

「はい。彼と同じです」

 ニヘラと笑いかけてくる莉緒に、俺も門番の存・・・・在を忘れて・・・・・しっかりと莉緒へと笑いかける。

「あー、うおっほん! 田舎出身というわりには……、貧乏そうには見えんな」

 わざとらしい咳払いで注意を促すと、訝しそうにしている。

「田舎だから貧乏ってわけでもないですよ。それに村では俺が一番でしたし」

「そうなのか」

 ちょっと偏見の強い門番なんだろうか。いやこの世界じゃそうなのかもしれないけど。とにかく王都の中に入って、冒険者証が作れれば勝ちだ。再取得に関してのルールとかは聞いてないけど、たぶん大丈夫だろ……。

「そうなんですよ。リューはすごいんだから」

「あーもういいわかったわかった! 二人で1000フロンだ! お前ら通っていいぞ」

 またもや二人の世界に入りそうになっていた俺たちを遮ると、門番はギブアップしたようだ。

「あ、はい。ありがとうございます」

 内心でほくそ笑みながら銀貨を1枚払うと、俺たちは王都へと足を踏み入れた。
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