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第一部
もう一組の冒険者パーティー
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「魔の森から出てきたはずが、すぐに魔の森に戻ってくることになるとは……」
「昨日ぶりだね」
草原の中にできている一本道をまっすぐ歩いていく。時折馬車に追い抜かれたり、誰も乗っていない馬車とすれ違ったりするくらいで、徒歩の人間は他にはいない。
「こうして実際に歩いてみると、何もねぇな」
「昨日突っ切った草原よりは背が低いから、周りは見渡せるけどね」
「だから余計に何もないのがわかるんだけどな」
「あはは、そうね」
一時間も歩くと樹がまばらに生えてきた。二時間も歩くと草原がなくなって土がむき出しのところが増えてくる。というところで狼の魔物に出くわしたのでサクッと狩って収納する。
「帰りは人のいるところはできれば獲物を担いで帰りたいところだけど」
「うーん……、異空間ボックスに入れちゃダメ?」
「別に構わないけど、担いで持って帰った方がインパクトが大きいじゃない? そのほうが周りにも、俺たちが倒したんだって黙ってるだけで周知できるし」
「だよねぇ……。変なトラブルを避けるにはしょうがないか」
持ち帰り方法について話し合った後は腹が減ったので、思いっきり料理をしてやった。
昨日の夕飯からずっと保存食だったからか、それはもういつもより手の込んだ料理だった。道から外れて草原に入って一キロほど離れたところで草刈りをし、土魔法でかまどを作って異空間ボックスに入っている土魔法製の鍋とフライパンで、スープとステーキを作った。
「美味しいけど、調味料も欲しいわね」
微妙に物足りなさも感じてしまったけど。
紆余曲折あったが、道を歩くこと四時間弱、無事に広場に到着した。
ぱっと見では道がここで途切れているように見えるが、そうでもなさそうだ。奥には細い道が続いている。きっとここが魔の森行き乗合馬車の終着点なんだろう。
「さて、レグルスの実はどこかな」
「とりあえず奥に行ってみましょ」
レグルスの実は握りこぶし大の楕円形をした赤い実だ。実全体がトゲトゲしているのが特徴で、甘くておいしいのである。いわゆるサボテンなんだが、大きいものだと高さ三メートルくらいになる。
魔の森までくると、高さ三メートル級の木はそこら中に生えてるので、上空から探すということはできない。
「いつもの探し方でいいわよね」
「うん。いいんじゃないかな」
「わかった。また後で」
二手に分かれて同じ森の奥方向へと進んでいく。莉緒とある程度距離を空け、できるだけ広範囲を探せるように歩いていく。お互い気配察知の範囲内だが、視界に入らない程度には離れている。
「ん~、ちらほらと人がいるっぽいなぁ」
たまに気配察知の範囲に他の冒険者が入ってくる。が、特にぶつからない気配はスルーだ。しかし一時間ほど歩いたところで、進行方向に四人の気配が入ってきた。このままいくと接触しそうだったので、少し進路をずらす。
「……ずらしたのになんで近づいてくるんだ」
が、どうやらスルーさせてくれないようだ。どうも向こうもこっちに気づいてるみたいだな。今更気配遮断してもダメか。
足を止めて待ち構えることにする。しばらくして二人の人間が真正面の藪をかき分けて姿を現した。がっちり防具で固めた赤毛の男と、身軽で細身の男だ。
「……子ども?」
俺を見た第一声がそれだった。
まぁ確かに日本じゃ子どもですけどね!
「何か用ですか?」
返事をすると、声を掛けてきたもう一人が後ろを振り返って手を振っている。……と、残りの二人も姿を現した。こっちは魔法使いかな。ローブ姿の女が二人だ。
「用というか、魔の森を一人でうろつく気配がしたもんだから気になってな」
「あ、そうですか。それなら大丈夫ですよ。ちゃんと相棒もいますので」
「そ、そうか……」
問題ないことをアピールするが、何やらぼそぼそ囁き合っている。莉緒はこの場にいないが、二人で森に来たことに間違いはない。
「と言っても相棒の姿は見えないようだが……」
あぁ、莉緒が気になってるのかな。俺が立ち止まったからか、こっちに気配を殺して近づいてきてるけど。
「ちょっとだけ別行動してただけなんで大丈夫ですよ。……あ、ほら、ちょうどあなたたちの後ろに」
言葉と共に二人がギョッとして勢いよく振り返ると、莉緒がゆっくりと姿を現した。二人は俺に視線を向けたままだが、若干動揺しているように見える。
「どうかしたの、柊?」
「あー、大丈夫。一人で森をうろついてる子どもが心配で声を掛けてきただけっぽい」
自分を子ども扱いするのはアレだが、情報は正確に伝えないとね。
「そうなのね」
莉緒が現れたことでまたもやぼそぼそと囁き合いが始まった。ところどころで声は拾えるけど、何をしゃべってるのかまではわからない。
「あー、すまんな。おれたちはこれから帰るからついでに送ってやろうかと思ったんだが……。どうも余計なお世話みたいだったようだな」
「あ、そうなんですね。お気遣いありがとうございます」
「ハハ……、じゃあな」
どうやらお人好しの冒険者パーティーだったようだ。今朝絡まれたばっかりだけど、いい人たちもやっぱりいるんだな。
「ええ、お気をつけて」
そう声を掛けると、俺を避けるようにして四人のパーティーは去っていった。
「昨日ぶりだね」
草原の中にできている一本道をまっすぐ歩いていく。時折馬車に追い抜かれたり、誰も乗っていない馬車とすれ違ったりするくらいで、徒歩の人間は他にはいない。
「こうして実際に歩いてみると、何もねぇな」
「昨日突っ切った草原よりは背が低いから、周りは見渡せるけどね」
「だから余計に何もないのがわかるんだけどな」
「あはは、そうね」
一時間も歩くと樹がまばらに生えてきた。二時間も歩くと草原がなくなって土がむき出しのところが増えてくる。というところで狼の魔物に出くわしたのでサクッと狩って収納する。
「帰りは人のいるところはできれば獲物を担いで帰りたいところだけど」
「うーん……、異空間ボックスに入れちゃダメ?」
「別に構わないけど、担いで持って帰った方がインパクトが大きいじゃない? そのほうが周りにも、俺たちが倒したんだって黙ってるだけで周知できるし」
「だよねぇ……。変なトラブルを避けるにはしょうがないか」
持ち帰り方法について話し合った後は腹が減ったので、思いっきり料理をしてやった。
昨日の夕飯からずっと保存食だったからか、それはもういつもより手の込んだ料理だった。道から外れて草原に入って一キロほど離れたところで草刈りをし、土魔法でかまどを作って異空間ボックスに入っている土魔法製の鍋とフライパンで、スープとステーキを作った。
「美味しいけど、調味料も欲しいわね」
微妙に物足りなさも感じてしまったけど。
紆余曲折あったが、道を歩くこと四時間弱、無事に広場に到着した。
ぱっと見では道がここで途切れているように見えるが、そうでもなさそうだ。奥には細い道が続いている。きっとここが魔の森行き乗合馬車の終着点なんだろう。
「さて、レグルスの実はどこかな」
「とりあえず奥に行ってみましょ」
レグルスの実は握りこぶし大の楕円形をした赤い実だ。実全体がトゲトゲしているのが特徴で、甘くておいしいのである。いわゆるサボテンなんだが、大きいものだと高さ三メートルくらいになる。
魔の森までくると、高さ三メートル級の木はそこら中に生えてるので、上空から探すということはできない。
「いつもの探し方でいいわよね」
「うん。いいんじゃないかな」
「わかった。また後で」
二手に分かれて同じ森の奥方向へと進んでいく。莉緒とある程度距離を空け、できるだけ広範囲を探せるように歩いていく。お互い気配察知の範囲内だが、視界に入らない程度には離れている。
「ん~、ちらほらと人がいるっぽいなぁ」
たまに気配察知の範囲に他の冒険者が入ってくる。が、特にぶつからない気配はスルーだ。しかし一時間ほど歩いたところで、進行方向に四人の気配が入ってきた。このままいくと接触しそうだったので、少し進路をずらす。
「……ずらしたのになんで近づいてくるんだ」
が、どうやらスルーさせてくれないようだ。どうも向こうもこっちに気づいてるみたいだな。今更気配遮断してもダメか。
足を止めて待ち構えることにする。しばらくして二人の人間が真正面の藪をかき分けて姿を現した。がっちり防具で固めた赤毛の男と、身軽で細身の男だ。
「……子ども?」
俺を見た第一声がそれだった。
まぁ確かに日本じゃ子どもですけどね!
「何か用ですか?」
返事をすると、声を掛けてきたもう一人が後ろを振り返って手を振っている。……と、残りの二人も姿を現した。こっちは魔法使いかな。ローブ姿の女が二人だ。
「用というか、魔の森を一人でうろつく気配がしたもんだから気になってな」
「あ、そうですか。それなら大丈夫ですよ。ちゃんと相棒もいますので」
「そ、そうか……」
問題ないことをアピールするが、何やらぼそぼそ囁き合っている。莉緒はこの場にいないが、二人で森に来たことに間違いはない。
「と言っても相棒の姿は見えないようだが……」
あぁ、莉緒が気になってるのかな。俺が立ち止まったからか、こっちに気配を殺して近づいてきてるけど。
「ちょっとだけ別行動してただけなんで大丈夫ですよ。……あ、ほら、ちょうどあなたたちの後ろに」
言葉と共に二人がギョッとして勢いよく振り返ると、莉緒がゆっくりと姿を現した。二人は俺に視線を向けたままだが、若干動揺しているように見える。
「どうかしたの、柊?」
「あー、大丈夫。一人で森をうろついてる子どもが心配で声を掛けてきただけっぽい」
自分を子ども扱いするのはアレだが、情報は正確に伝えないとね。
「そうなのね」
莉緒が現れたことでまたもやぼそぼそと囁き合いが始まった。ところどころで声は拾えるけど、何をしゃべってるのかまではわからない。
「あー、すまんな。おれたちはこれから帰るからついでに送ってやろうかと思ったんだが……。どうも余計なお世話みたいだったようだな」
「あ、そうなんですね。お気遣いありがとうございます」
「ハハ……、じゃあな」
どうやらお人好しの冒険者パーティーだったようだ。今朝絡まれたばっかりだけど、いい人たちもやっぱりいるんだな。
「ええ、お気をつけて」
そう声を掛けると、俺を避けるようにして四人のパーティーは去っていった。
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