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第一部
いざ魔の森へ
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「はぁ? おいおい、断っちゃっていいのか? すっこんでろとは言ったものの、あっちのガキが痛い目に遭うかもしれないぜ」
威圧だけでなく、今度は直接言葉にして脅してきた。今更そんなのでビビる俺たちじゃないが、そろそろ相手するのも面倒になってきた。
ゆっくりと魔力を込めると重力魔法を三人組に対して発動する。最初は気づかれないくらいに微弱に重力をかけていく。
「用はそれだけですか?」
莉緒も俺が何をやってるのか気づいたようで、さっさと会話を打ち切る方向へ持っていっている。
「はっ、あとは冒険者のいろはについても、たっぷりとじっくり時間をかけて教えてやるよ」
気持ち悪い顔をしながら気持ち悪いことを口にする冒険者三人組。
「ちょっとそんなこと気持ち悪い顔で言われてホイホイ付いていくわけないじゃないですか。お断りさせていただきます。では失礼します」
きっぱりと拒絶すると、三人の横を通り抜けてさっさと行ってしまう莉緒。
「じゃ、そういうことなんで、関係ない俺はすっこんでますね」
そろそろ動けないほどにまで重力をかけている相手に向かって言い捨てると、莉緒の後を追いかけた。
「ちょっ、待ちやがれ! ……くそっ、どうなってんだ! 体が急にすげーだるい……」
緩慢な動きで俺たちを振り返るが、追いかけては来ずに自分の手足を確認している。
あ、そうだ、ついでだから実験に付き合ってもらおうかな。
「はー、まさか絡まれるとは思わなかったな」
重力魔法を少し緩めつつも維持しながら莉緒に追いつくとため息をつく。
「うん。それにしてもあいつらって、やっぱり鑑定持ちなのかしらね?」
「だと思う。さすがにギルドが漏らしたりはしないと思いたい」
仮にも国をまたいで展開する冒険者ギルドという組織だ。信頼はあるものと思いたい。
他愛のない話をしながら北門へ向かっていると、維持していた重力魔法が切れた。一キロくらいの距離なら離れても魔法は維持できるのかもしれない。
中央広場を少し過ぎたあたりで、左側に見慣れた看板を出している建物を見つけた。風呂に入っている絵だ。ベッドの絵が一緒に描かれていないところを見ると、宿ではないらしい。
「あれ……? ここは……」
ふとギルドにあった、風呂掃除の依頼が頭をよぎる。そういえば場所は中央広場北って書いてあった気がする。もしかしなくても風呂掃除の現場はここだろうか。
「もしかして公衆浴場なのかな」
「ちょっと気になるわね」
なんとなしに入り口に近づいていくと、料金の書かれた看板もあった。
「一人50フロンだって。宿のお風呂より安いわね」
「公衆浴場だったら多少安くてもわかる気がするけど」
「うーん……」
「こっちのお風呂も帰りにでも入ってみようか?」
どっちの風呂がいいなんてのは、入ってみないとわからない。
「そうしましょうか」
依頼の帰りに寄ることに決めた俺たちは、公衆浴場を通り過ぎて北大通りを行く。ここから先は行ったことないけど、東大通りとそれほど変わりはない。気になる雑貨屋や魔道具店などがあるが、お金もないしこっちも依頼が終わってからだな。
「こうしてみると普通に街中を馬車とか通ってるわねー」
「街中を行く乗合馬車らしいよ。歩くより早いけど、俺らは気になったお店をチェックしながらだし、何しろお金がないからなぁ」
「へー、そうなんだ」
「東西南北と中央に駅があって、一駅10フロンで乗せてくれるらしいよ」
「今度乗ってみようよ!」
「お、おう、そういえばまだ乗ったことないもんな」
「うん!」
そうして昼前には北門へと到着する。北門からへは魔の森へ行く道しかないのだが、そこそこ賑わっていた。
「必需品の買い忘れはないかい!」
「乗合馬車の空きはあと三名だよ! 埋まったら出発するよ!」
様々な人の声が飛び交う北門前。魔の森といえど、入り口や森の浅い部分は弱い魔物しか出ないため、初心者と思しき冒険者の姿もちらほら見える。
「へー、魔の森行きの乗合馬車もあるんだ」
「片道みたいだな。帰りは自分で歩けってことらしい」
仮にも魔物が出るこの世界だ。街中では満員になるまで待つことはできても、帰りは無理なんだろう。
「乗っていく?」
魔の森行きも一人10フロンらしい。街中と違って、ただの街道で途中に気になるものもあるとは思えない。しかし。
「今の手持ちが110フロンだろ。乗ると帰りに風呂入れなくなるぞ」
「じゃあ歩きましょう」
即答だった。
「おう」
歩いて北門を出ようとする冒険者の数は少ない。そんな中、門番へギルド証を見せながら通り抜けようとしたんだが。
「待てお前ら。……見ない顔だな。この先は魔の森しかないが知ってるな?」
心配されて止められてしまった。じろじろと俺たちの姿を見てるが、特に変な恰好はしてないと思う。
改めて自分たちの様子を確認してみるが、魔物の革を使った胸当てに、師匠謹製の短剣を腰に差している。莉緒は魔法使い然とした見た目で、他の冒険者と比べて特に問題となることはなさそうに思うんだが。
「知ってますよ」
「そ、そうか。……それならいいんだ。気をつけてな」
何か言いたそうな門番に見送られて、俺たちは北門から魔の森へと歩き出した。
威圧だけでなく、今度は直接言葉にして脅してきた。今更そんなのでビビる俺たちじゃないが、そろそろ相手するのも面倒になってきた。
ゆっくりと魔力を込めると重力魔法を三人組に対して発動する。最初は気づかれないくらいに微弱に重力をかけていく。
「用はそれだけですか?」
莉緒も俺が何をやってるのか気づいたようで、さっさと会話を打ち切る方向へ持っていっている。
「はっ、あとは冒険者のいろはについても、たっぷりとじっくり時間をかけて教えてやるよ」
気持ち悪い顔をしながら気持ち悪いことを口にする冒険者三人組。
「ちょっとそんなこと気持ち悪い顔で言われてホイホイ付いていくわけないじゃないですか。お断りさせていただきます。では失礼します」
きっぱりと拒絶すると、三人の横を通り抜けてさっさと行ってしまう莉緒。
「じゃ、そういうことなんで、関係ない俺はすっこんでますね」
そろそろ動けないほどにまで重力をかけている相手に向かって言い捨てると、莉緒の後を追いかけた。
「ちょっ、待ちやがれ! ……くそっ、どうなってんだ! 体が急にすげーだるい……」
緩慢な動きで俺たちを振り返るが、追いかけては来ずに自分の手足を確認している。
あ、そうだ、ついでだから実験に付き合ってもらおうかな。
「はー、まさか絡まれるとは思わなかったな」
重力魔法を少し緩めつつも維持しながら莉緒に追いつくとため息をつく。
「うん。それにしてもあいつらって、やっぱり鑑定持ちなのかしらね?」
「だと思う。さすがにギルドが漏らしたりはしないと思いたい」
仮にも国をまたいで展開する冒険者ギルドという組織だ。信頼はあるものと思いたい。
他愛のない話をしながら北門へ向かっていると、維持していた重力魔法が切れた。一キロくらいの距離なら離れても魔法は維持できるのかもしれない。
中央広場を少し過ぎたあたりで、左側に見慣れた看板を出している建物を見つけた。風呂に入っている絵だ。ベッドの絵が一緒に描かれていないところを見ると、宿ではないらしい。
「あれ……? ここは……」
ふとギルドにあった、風呂掃除の依頼が頭をよぎる。そういえば場所は中央広場北って書いてあった気がする。もしかしなくても風呂掃除の現場はここだろうか。
「もしかして公衆浴場なのかな」
「ちょっと気になるわね」
なんとなしに入り口に近づいていくと、料金の書かれた看板もあった。
「一人50フロンだって。宿のお風呂より安いわね」
「公衆浴場だったら多少安くてもわかる気がするけど」
「うーん……」
「こっちのお風呂も帰りにでも入ってみようか?」
どっちの風呂がいいなんてのは、入ってみないとわからない。
「そうしましょうか」
依頼の帰りに寄ることに決めた俺たちは、公衆浴場を通り過ぎて北大通りを行く。ここから先は行ったことないけど、東大通りとそれほど変わりはない。気になる雑貨屋や魔道具店などがあるが、お金もないしこっちも依頼が終わってからだな。
「こうしてみると普通に街中を馬車とか通ってるわねー」
「街中を行く乗合馬車らしいよ。歩くより早いけど、俺らは気になったお店をチェックしながらだし、何しろお金がないからなぁ」
「へー、そうなんだ」
「東西南北と中央に駅があって、一駅10フロンで乗せてくれるらしいよ」
「今度乗ってみようよ!」
「お、おう、そういえばまだ乗ったことないもんな」
「うん!」
そうして昼前には北門へと到着する。北門からへは魔の森へ行く道しかないのだが、そこそこ賑わっていた。
「必需品の買い忘れはないかい!」
「乗合馬車の空きはあと三名だよ! 埋まったら出発するよ!」
様々な人の声が飛び交う北門前。魔の森といえど、入り口や森の浅い部分は弱い魔物しか出ないため、初心者と思しき冒険者の姿もちらほら見える。
「へー、魔の森行きの乗合馬車もあるんだ」
「片道みたいだな。帰りは自分で歩けってことらしい」
仮にも魔物が出るこの世界だ。街中では満員になるまで待つことはできても、帰りは無理なんだろう。
「乗っていく?」
魔の森行きも一人10フロンらしい。街中と違って、ただの街道で途中に気になるものもあるとは思えない。しかし。
「今の手持ちが110フロンだろ。乗ると帰りに風呂入れなくなるぞ」
「じゃあ歩きましょう」
即答だった。
「おう」
歩いて北門を出ようとする冒険者の数は少ない。そんな中、門番へギルド証を見せながら通り抜けようとしたんだが。
「待てお前ら。……見ない顔だな。この先は魔の森しかないが知ってるな?」
心配されて止められてしまった。じろじろと俺たちの姿を見てるが、特に変な恰好はしてないと思う。
改めて自分たちの様子を確認してみるが、魔物の革を使った胸当てに、師匠謹製の短剣を腰に差している。莉緒は魔法使い然とした見た目で、他の冒険者と比べて特に問題となることはなさそうに思うんだが。
「知ってますよ」
「そ、そうか。……それならいいんだ。気をつけてな」
何か言いたそうな門番に見送られて、俺たちは北門から魔の森へと歩き出した。
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