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第一部
デート
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ギルドの外に出るときに絡まれたりしないかなとか思ってたけど、何も起こらなかった。やっぱりああいうシチュエーションはラノベならではだよね。
「どこ行こうか」
「とりあえず大通りをまっすぐ行ってみようか。何があるかわからないし」
言葉通りに二人並んで街の奥へと大通りを歩いていく。が、すぐに目に入ったお店に足を止めた。
「武器防具とか、各種道具はチェックしておきたいな。魔道具とかもあるかもしれない」
「師匠も言ってたわね。魔石を燃料にした魔道具っていう便利なものがあるって」
剣と盾の絵の看板のある手近なお店へと入ると、ここは予想通り武具店のようだ。まばらに他の冒険者も商品を物色しているのが目につく。
「いろいろあるわね」
短剣や片手剣に両手剣、槍に斧といった一般的な武器から、遠距離用の弓矢や投擲用短剣なんてものもある。防具は金属製の全身鎧のようながっちりしたものから、革製の胸当てのようなライトな装備、魔法使い用のローブなど様々だ。
「装備という点では、師匠からもらったものがあるから特にいいかなぁ」
「私は……、服が欲しいわね。特に下着類が……」
切実なものを含ませた口調で恥ずかしそうに声に出すが、師匠の家で過ごしていたときには聞かなかった言葉だ。心境の変化……、には心当たりはあるが実際のところはわからない。
「普通の服売ってそうなお店に行くか」
「うん」
というわけでやってきました。古着屋です。街ゆく人に聞けば『ここ』しかないというお店はそこそこ大きかった。
……のだが。
「古着でも高いわね……」
機械製品など存在しないこの世界、古着も高かった。さすがに下着は古着屋でも新品が置いてあったりするが。
「やっぱりお金が」
これほど金欠に悩んだことがあるだろうか。今まで師匠の家での自給自足で不満はそれほどなかったが、いざお金でいろいろ手に入る環境に身を置くとこれである。
お金はないけど、下着は必須だ。自分の分は一着、莉緒は二着ほど購入した。これで今日の稼ぎもほぼすっからかんだ。宿で風呂に入る分の200フロンを残せば、残り80フロン。買い食いですら躊躇する残高である。
にしても持ち帰る用にカバンがいるな……。下着くらいなら服の下に入れとけば大丈夫だけど。
「明日は全力で依頼をこなそうか。討伐依頼は受けられなくても、襲い掛かってくる魔物を狩る分には問題ないっしょ」
「あはは、それもそうね」
「よし、お金はなくなったけど、デートは続けようか」
「え、あ、……うん」
不意打ちのように『デート』という言葉を使うと、莉緒の頬が少しだけ赤く染まる。そっと手をつないでみると、ますます赤くなる。なにこの可愛い生き物。そしてさりげなく手をつなぐとか、俺ってそんなことできたんだ。初めて知ったよ。
今度こそ大通りを街の奥へと歩いていくと、大きな広場に突き当たった。水路が走っているようで、広場の真ん中には人工池まであるようだ。
露店もたくさん出ていて見ていて飽きない。アクセサリやよくわからない置物のようなもの、食べ物に怪しい煙を焚いている露店など、さすが交易都市といったところか。ちなみに雑貨屋みたいなところで石鹸も200フロンで売っていた。高い。
「あっ、ごめんなさい」
よそ見をしていると莉緒が頭一つ分小さい子どもとぶつかっていた。
「大丈夫よー」
何でもないと子どもに手を振っているが、これはもしや。
「莉緒、何か盗られてない?」
「えっ? ……うーん、特には……、あっ」
繋いでいた手を放してローブの内側をごそごそやっていたが、やっぱり何か盗られたんだろうか。
「余りの薬草と毒消し草がないわね」
「他には?」
「他は全部異空間ボックスの中だから、ホントに草だけ」
「あはは、せっかく盗ったのに残念」
「笑い事じゃないけどね。でも薬草くらいなら別にいいけど」
わざわざ追いかけるほどでもない。テンプレならここから孤児院編とかに入るんだろうけど、そうはいかないぞ。
広場を一周してみると、大通りは東西南北に続いているようだった。それぞれに門があって外に出られるようだ。そろそろ日も傾いている。ぶらぶらしながら四時間くらいかけて中央広場まできたけど、結構この街は広いかも。
宿での夕飯もあるだろうし、そろそろ帰ることにした。
「夕飯は一人50フロンだよ」
おばちゃんの言葉に思わず口をポカンと開けてしまった。
「どうしよう。お金が足りないわね」
思わず出た言葉通り、金欠だった。いやわかってはいたけど、今日足りなくなるとは思ってなかった。てっきり飯付きの宿泊料金って思うじゃん?
現在の所持金は280フロン。お風呂に一人100フロンかかるので、それ以外で使えるのは80フロンだ。
「お風呂を取るか、夕飯を取るか。それが問題だ」
「その二択だったら決まってるでしょ」
あえて問題提示してみたが、どうやら俺たちの答えは統一されているようだ。
「「風呂に入ろう」」
「はいよー。お風呂はこの廊下の先だよ。タオルと石鹸のセットは30フロンで貸出になるよ」
なんだって。石鹸ついてないのか。だがしかし、俺たちに選択肢はない。買うと高いのだ。
「「お願いします」」
これで残高が20フロンになった。
石鹸でさっぱりしたお風呂は最高に気持ちよかったです。
「どこ行こうか」
「とりあえず大通りをまっすぐ行ってみようか。何があるかわからないし」
言葉通りに二人並んで街の奥へと大通りを歩いていく。が、すぐに目に入ったお店に足を止めた。
「武器防具とか、各種道具はチェックしておきたいな。魔道具とかもあるかもしれない」
「師匠も言ってたわね。魔石を燃料にした魔道具っていう便利なものがあるって」
剣と盾の絵の看板のある手近なお店へと入ると、ここは予想通り武具店のようだ。まばらに他の冒険者も商品を物色しているのが目につく。
「いろいろあるわね」
短剣や片手剣に両手剣、槍に斧といった一般的な武器から、遠距離用の弓矢や投擲用短剣なんてものもある。防具は金属製の全身鎧のようながっちりしたものから、革製の胸当てのようなライトな装備、魔法使い用のローブなど様々だ。
「装備という点では、師匠からもらったものがあるから特にいいかなぁ」
「私は……、服が欲しいわね。特に下着類が……」
切実なものを含ませた口調で恥ずかしそうに声に出すが、師匠の家で過ごしていたときには聞かなかった言葉だ。心境の変化……、には心当たりはあるが実際のところはわからない。
「普通の服売ってそうなお店に行くか」
「うん」
というわけでやってきました。古着屋です。街ゆく人に聞けば『ここ』しかないというお店はそこそこ大きかった。
……のだが。
「古着でも高いわね……」
機械製品など存在しないこの世界、古着も高かった。さすがに下着は古着屋でも新品が置いてあったりするが。
「やっぱりお金が」
これほど金欠に悩んだことがあるだろうか。今まで師匠の家での自給自足で不満はそれほどなかったが、いざお金でいろいろ手に入る環境に身を置くとこれである。
お金はないけど、下着は必須だ。自分の分は一着、莉緒は二着ほど購入した。これで今日の稼ぎもほぼすっからかんだ。宿で風呂に入る分の200フロンを残せば、残り80フロン。買い食いですら躊躇する残高である。
にしても持ち帰る用にカバンがいるな……。下着くらいなら服の下に入れとけば大丈夫だけど。
「明日は全力で依頼をこなそうか。討伐依頼は受けられなくても、襲い掛かってくる魔物を狩る分には問題ないっしょ」
「あはは、それもそうね」
「よし、お金はなくなったけど、デートは続けようか」
「え、あ、……うん」
不意打ちのように『デート』という言葉を使うと、莉緒の頬が少しだけ赤く染まる。そっと手をつないでみると、ますます赤くなる。なにこの可愛い生き物。そしてさりげなく手をつなぐとか、俺ってそんなことできたんだ。初めて知ったよ。
今度こそ大通りを街の奥へと歩いていくと、大きな広場に突き当たった。水路が走っているようで、広場の真ん中には人工池まであるようだ。
露店もたくさん出ていて見ていて飽きない。アクセサリやよくわからない置物のようなもの、食べ物に怪しい煙を焚いている露店など、さすが交易都市といったところか。ちなみに雑貨屋みたいなところで石鹸も200フロンで売っていた。高い。
「あっ、ごめんなさい」
よそ見をしていると莉緒が頭一つ分小さい子どもとぶつかっていた。
「大丈夫よー」
何でもないと子どもに手を振っているが、これはもしや。
「莉緒、何か盗られてない?」
「えっ? ……うーん、特には……、あっ」
繋いでいた手を放してローブの内側をごそごそやっていたが、やっぱり何か盗られたんだろうか。
「余りの薬草と毒消し草がないわね」
「他には?」
「他は全部異空間ボックスの中だから、ホントに草だけ」
「あはは、せっかく盗ったのに残念」
「笑い事じゃないけどね。でも薬草くらいなら別にいいけど」
わざわざ追いかけるほどでもない。テンプレならここから孤児院編とかに入るんだろうけど、そうはいかないぞ。
広場を一周してみると、大通りは東西南北に続いているようだった。それぞれに門があって外に出られるようだ。そろそろ日も傾いている。ぶらぶらしながら四時間くらいかけて中央広場まできたけど、結構この街は広いかも。
宿での夕飯もあるだろうし、そろそろ帰ることにした。
「夕飯は一人50フロンだよ」
おばちゃんの言葉に思わず口をポカンと開けてしまった。
「どうしよう。お金が足りないわね」
思わず出た言葉通り、金欠だった。いやわかってはいたけど、今日足りなくなるとは思ってなかった。てっきり飯付きの宿泊料金って思うじゃん?
現在の所持金は280フロン。お風呂に一人100フロンかかるので、それ以外で使えるのは80フロンだ。
「お風呂を取るか、夕飯を取るか。それが問題だ」
「その二択だったら決まってるでしょ」
あえて問題提示してみたが、どうやら俺たちの答えは統一されているようだ。
「「風呂に入ろう」」
「はいよー。お風呂はこの廊下の先だよ。タオルと石鹸のセットは30フロンで貸出になるよ」
なんだって。石鹸ついてないのか。だがしかし、俺たちに選択肢はない。買うと高いのだ。
「「お願いします」」
これで残高が20フロンになった。
石鹸でさっぱりしたお風呂は最高に気持ちよかったです。
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