成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
21 / 421
第一部

魔の森から街へ

しおりを挟む
「俺たちも行くか……」

 師匠が去った後を眺めながら、一通りアイテムを収納し終えた莉緒へと声を掛ける。なんとも締まりのない別れだったけど、まぁ師匠らしくていいと思う。

「うん」

 テーブルの上にあった唯一の路銀とブローチの入った袋も異空間ボックスへと仕舞う。仮にも王家の紋章……、かどうかはわからないが、何かに使えるかもしれない。師匠曰く、街に入るには身分証がなければお金がいるみたいだし、身分証の代わりにならないかな。
 なんにしろ持っていかない理由はどこにもないのだ。

「さて、庭の獲物も持っていくか」

「私のほうが異空間ボックスの容量は多いけど、柊も食糧とかはいくつか収納しておいてね」

「ああ、わかった」

 莉緒に言われ、昨日狩って血抜きしておいた獲物は俺が回収する。

「じゃあ行くか」

「うん」

 こうして俺たちは魔の森を後にした。



 アークライト王国方面へと森を抜ける道は、徒歩で二十日ほどかかるという。今の俺たちならば、重力魔法で体重を軽くし、風魔法で空を飛ぶという方法が取れる。これでだいたい徒歩の五倍速くらいだろうか。

「あ、ドードー鳥見っけ」

 とはいえ急ぐ旅でもない。上空から獲物を見つければ狩りをするために地上へと降り、サクッと首を落として血抜きをするとまた移動を再開し。
 野営の道具は家になかったので持っていないが、そこは土魔法で壁と屋根を適当に作って寝泊まりをし。
 一週間ほどかけて魔の森を抜けることができた。

「抜けたー!」

 目の前に広がるのは一面の草原だ。ところどころに樹は生えているが、草原しかない。

「なんだかすごいね」

 莉緒も感心しているようだ。こんなに一面に広がる草原は、日本ではお目にかかったことはない。首元まで葉が伸びているから向こう側がよく見えないのだ。

「えーっと、この草原をまっすぐ突っ切ると街道とぶつかって、西に行くと交易都市ザインってのがあるんだっけか」

「師匠はそう言ってたわね」

「五十年前の知識だって言ってたけどな」

「さすがに街は五十年でなくならないでしょ」

「まぁなぁ……。街道はすぐそこなんだっけ?」

「すぐって言ってたけど、どうかしら?」

「ふむ。まぁ目立つ装備は仕舞っておくか」

「そうね」

 背負っていた竜の鱗の盾を異空間ボックスに仕舞うと、莉緒も鱗の張り付けられたローブを仕舞って、質素なローブへと着替える。

「よし、準備おっけー。ここからは歩くかー」

 変に空を飛んでいるところを目撃されても厄介だ。ここからは徒歩で行こう。草が邪魔なので刈り取りながら……。



「うおー、ザクザク刈れる。これ気持ちいい」

 足元からエアカッターを射出しながら歩く俺たち。通った後は草が刈り取られて道ができている。調子に乗ってミステリーサークルなんて作ってしまったが気にしない。

「……何やってんの?」

 俺の後ろで刈り取られた草を一生懸命異空間ボックスに詰めている莉緒に聞いてみる。

「見ての通り草を拾ってるの」

「……何かに使うの?」

「今のところ予定はないけど、何かの役に立つかなって?」

「あ、そう……」

 莉緒は思ったより貧乏性なのだろうか。草食動物の餌にはなりそうだけど、動物を飼う予定はない。
 一時間ほど草原を進んだところで、草の背が低くなり生えている間隔もまばらになってきた。すると均された地面へと突き当たる。

「お、ここが街道か。異世界の街道って初めてだな」

「普通に土の地面みたいね」

 踏み固められた地面には、馬車も通るのか轍の跡もついているようだ。

「えーっと、西ってことは右だな」

 地図を頭の中に浮かべて交易都市ザインとやらの場所を割り出す。
 マップスキルなんて生えたりしないかなぁ……、などと考えながら街道を歩く。今のところ人とはすれ違ったりしない。

「それにしても、草原に出てから魔物に会わないわね」

「まぁそれだけ魔の森が特殊なんだろ」

 魔物が多いから魔の森って呼ばれてるくらいだからな。

「……異世界の街ってどんなところなんだろう」

「師匠の家よりは文明が発達してるといいんだけどな」

「そうね」

「……緊張してんのか?」

 憂いを含んだような莉緒の口調に、思わず声をかける。ハッとした表情で俺を見下ろしてくる彼女。やっぱり並んで歩くと俺の方が小さいと実感せざるを得ない。

「そう……なのかな。初めて行くところは緊張するのかも」

「ははっ、俺もそういう意味じゃ緊張してるけど、初めて魔の森に来たときじゃないんだし、死にはしないだろうから大丈夫だろ」

 人間死ななけりゃ大丈夫だ。うん、何度か死にかけた俺が言うんだから間違いない。安心させるように莉緒の肩を叩くが、その表情はあまり晴れなかったようだ。

「実際に死にかけた柊がそんなに楽天的でどうするのよ」

 むしろ怒られてしまった。

「ご、ごめんなさい」

 さすがに適当すぎたらしい。まぁ確かにここは異世界だし、何があるかわからない。

「でも今度こそ、柊は私が守るから安心して」

 気合を入れる莉緒の言葉に何か納得しづらいものがあるが、俺も気を引き締めなおす。さすがに死にかけるのはもう御免だ。しっかり回避しないとな。

 などと会話を続けながら歩いていると、そこそこすれ違う人も出てきた。まさに異世界の冒険者といった姿に感心していると、ようやく街と思われる壁とその門が見えてきた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...