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第一部
一番の調味料はやっぱり空腹でした
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「うめー」
俺と柚月さんは涙を流しながら飯を食っていた。よくある異世界転移モノ小説で、泣きながら飯を食う主人公を見ては嘘くさいと思ったりしたものだけど……、嘘じゃなかった。疑ってごめんなさい。ホントに感動するほど美味いです。
丸一日以上何も食ってなくて、獣に襲われて、木の実にも襲われて、死ぬかと思った極限状態で、生きてることを実感できた。
「美味しいです」
「おいおい、大げさだな」
何の肉かわからないステーキだが、肉汁たっぷりうまみも十分。特別柔らかいというほどでもないが、噛み応えのある肉は十分に美味い。
スープにも同じ肉と野菜が入っている。あっさりした味は、肉の脂身をさっぱりと流してくれる。
「はー、ごちそうさまでした」
「そりゃよかった。いい食いっぷりだったぜ」
ひとごこち着いたところでヴェルターさんがハーブティーを出してくれる。
「ありがとうございます。本当に助かりました。何とお礼を言っていいのやら……」
今の俺たちには本当に言葉で礼を尽くすことしかできない。マジで何も持ってないからなぁ。お金はいくらかあるけど、命を助けてもらったお礼には到底足りるものでもないだろう。
「ふん、だからガキが気にするなって言ってんだろ」
苦笑いしながらもハーブティーに口を付ける。すっきりした香りが鼻に抜けて心地いい。ぶっきらぼうな口調だけど、細かいところにまで気が付く世話焼きといった第一印象だった。
「改めて……、俺は水本柊と言います」
「わ、私は柚月莉緒です」
二人掛けダイニングテーブルに無理やり三人座った形だ。椅子は二つだが、今はヴェルターさんだけが木箱に座っている状態だ。なんでも、客をそんなところに座らせられないとかなんとか。
「ふむ。ミズモトシューって、えらい言いづらい名前だな」
「あ、柊が名前で、水本が家名なんです」
「ほう、家名持ちか。坊主は貴族なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……」
「私たちの国は、国民全員が家名持ちなんです」
「そりゃすごいな」
感心した様子のヴェルターさんだったが、家名を持ってるのは貴族だけと教えられる。そこは魔族も人族も同じらしい。
「そうなんですか……」
柚月さんと顔を見合わせるが、そもそも魔族なヴェルターさんは、人族の国の話をどこまで知っているんだろうか。
「魔族は魔法に長けた種族だからな。こうやって魔法で角を隠して、人族に紛れて生活してるやつも多いのさ」
そういうと徐々に額の角が消えていく。
「ホントだ……、すごい」
「ってことは、名前に関しては嬢ちゃんもか」
「あ、はい。莉緒が名前になります」
思案顔のヴェルターさんだったが、急に眉をしかめたかと思うと、続けて口を開く。
「にしても、子どもを魔の森に放り込むなんざ、いったいどこのどいつだ」
俺たちが森に送り込まれたことを怒ってくれているみたいだ。魔族なのに。
「ん? どうしたんだ? 変なものでも見たような顔して……」
「あ、いや……。その、人族の国で、魔族を率いて魔王が攻めてきたと話を聞いたもので……」
俺の言葉にヴェルターさんの眉がピクリと動くと、苦々しい表情へと変わっていく。
「その話は誰から聞いたんだ?」
少しだけ重苦しくなった空気に、俺たちは正直に話をした。命の恩人に、隠し事をする気になれなかったのだ。
もちろん俺たちが異世界から召喚されてこの世界にやってきたところから正直に話をしている。そのほうが、敵対しているこの世界の人族と、俺たちは違うんだと思ってくれるかもしれないと思って。
「そうか……」
黙って話を聞いていたヴェルターさんが腕を組んで、重苦しく頷く。
「16でその体格はちょっと小さすぎるんじゃねぇか? むしろ異世界人とやらの特徴だったりするんかね?」
「反応するところそこですかっ!?」
すかさずツッコミを入れる柚月さん。なんだか俺が気絶してる間にちょっと仲良くなってない?
まぁ確かに、身長は低い方だけどさ……。柚月さんより小さいのはちょっと気にしてるんだから、ツッコまないでほしかった。
「くくくく、まぁそうカッカするな。……まぁ、なんだ。お前らも苦労したんだな」
軽い口調で言われるけど、実際に助けてくれた本人なのでそこは気にならない。だけど続けて語られた魔族の情勢は、召喚された王女から聞いた話とはまったく異なるものだった。
「魔王は確かに存在するが、それは単に魔族たちが住む国の王っていうだけだ。人族の国に侵攻なんて攻撃的な魔王陛下でもない」
「そんな……! じゃあやっぱり……」
「あぁ、お前の考える通り、召喚した勇者ってやつをか? 魔族の国へ攻めるための兵士に仕立て上げたいだけなのかもな」
オレの話が信じられるならな、と言葉を追加するヴェルターさんだが、どっちの方が信じられると聞かれれば断然ヴェルターさんだ。
「はん、そりゃ嬉しいね」
肩をすくめてハーブティーを啜るヴェルターさん。
「まぁ状況は把握した。……それで、そろそろ本題の話でもしようか」
まっすぐにこちらを見つめるヴェルターさんに、俺たちも居住まいを正して向かい合う。そう、むしろこれからが大事なことだ。俺たちの進退にかかわることなのだから。
「どうせお前らは行く当てもないんだろう?」
まっすぐに切り出してきた世話焼きの魔族へと、これからについて相談を始めた。
俺と柚月さんは涙を流しながら飯を食っていた。よくある異世界転移モノ小説で、泣きながら飯を食う主人公を見ては嘘くさいと思ったりしたものだけど……、嘘じゃなかった。疑ってごめんなさい。ホントに感動するほど美味いです。
丸一日以上何も食ってなくて、獣に襲われて、木の実にも襲われて、死ぬかと思った極限状態で、生きてることを実感できた。
「美味しいです」
「おいおい、大げさだな」
何の肉かわからないステーキだが、肉汁たっぷりうまみも十分。特別柔らかいというほどでもないが、噛み応えのある肉は十分に美味い。
スープにも同じ肉と野菜が入っている。あっさりした味は、肉の脂身をさっぱりと流してくれる。
「はー、ごちそうさまでした」
「そりゃよかった。いい食いっぷりだったぜ」
ひとごこち着いたところでヴェルターさんがハーブティーを出してくれる。
「ありがとうございます。本当に助かりました。何とお礼を言っていいのやら……」
今の俺たちには本当に言葉で礼を尽くすことしかできない。マジで何も持ってないからなぁ。お金はいくらかあるけど、命を助けてもらったお礼には到底足りるものでもないだろう。
「ふん、だからガキが気にするなって言ってんだろ」
苦笑いしながらもハーブティーに口を付ける。すっきりした香りが鼻に抜けて心地いい。ぶっきらぼうな口調だけど、細かいところにまで気が付く世話焼きといった第一印象だった。
「改めて……、俺は水本柊と言います」
「わ、私は柚月莉緒です」
二人掛けダイニングテーブルに無理やり三人座った形だ。椅子は二つだが、今はヴェルターさんだけが木箱に座っている状態だ。なんでも、客をそんなところに座らせられないとかなんとか。
「ふむ。ミズモトシューって、えらい言いづらい名前だな」
「あ、柊が名前で、水本が家名なんです」
「ほう、家名持ちか。坊主は貴族なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……」
「私たちの国は、国民全員が家名持ちなんです」
「そりゃすごいな」
感心した様子のヴェルターさんだったが、家名を持ってるのは貴族だけと教えられる。そこは魔族も人族も同じらしい。
「そうなんですか……」
柚月さんと顔を見合わせるが、そもそも魔族なヴェルターさんは、人族の国の話をどこまで知っているんだろうか。
「魔族は魔法に長けた種族だからな。こうやって魔法で角を隠して、人族に紛れて生活してるやつも多いのさ」
そういうと徐々に額の角が消えていく。
「ホントだ……、すごい」
「ってことは、名前に関しては嬢ちゃんもか」
「あ、はい。莉緒が名前になります」
思案顔のヴェルターさんだったが、急に眉をしかめたかと思うと、続けて口を開く。
「にしても、子どもを魔の森に放り込むなんざ、いったいどこのどいつだ」
俺たちが森に送り込まれたことを怒ってくれているみたいだ。魔族なのに。
「ん? どうしたんだ? 変なものでも見たような顔して……」
「あ、いや……。その、人族の国で、魔族を率いて魔王が攻めてきたと話を聞いたもので……」
俺の言葉にヴェルターさんの眉がピクリと動くと、苦々しい表情へと変わっていく。
「その話は誰から聞いたんだ?」
少しだけ重苦しくなった空気に、俺たちは正直に話をした。命の恩人に、隠し事をする気になれなかったのだ。
もちろん俺たちが異世界から召喚されてこの世界にやってきたところから正直に話をしている。そのほうが、敵対しているこの世界の人族と、俺たちは違うんだと思ってくれるかもしれないと思って。
「そうか……」
黙って話を聞いていたヴェルターさんが腕を組んで、重苦しく頷く。
「16でその体格はちょっと小さすぎるんじゃねぇか? むしろ異世界人とやらの特徴だったりするんかね?」
「反応するところそこですかっ!?」
すかさずツッコミを入れる柚月さん。なんだか俺が気絶してる間にちょっと仲良くなってない?
まぁ確かに、身長は低い方だけどさ……。柚月さんより小さいのはちょっと気にしてるんだから、ツッコまないでほしかった。
「くくくく、まぁそうカッカするな。……まぁ、なんだ。お前らも苦労したんだな」
軽い口調で言われるけど、実際に助けてくれた本人なのでそこは気にならない。だけど続けて語られた魔族の情勢は、召喚された王女から聞いた話とはまったく異なるものだった。
「魔王は確かに存在するが、それは単に魔族たちが住む国の王っていうだけだ。人族の国に侵攻なんて攻撃的な魔王陛下でもない」
「そんな……! じゃあやっぱり……」
「あぁ、お前の考える通り、召喚した勇者ってやつをか? 魔族の国へ攻めるための兵士に仕立て上げたいだけなのかもな」
オレの話が信じられるならな、と言葉を追加するヴェルターさんだが、どっちの方が信じられると聞かれれば断然ヴェルターさんだ。
「はん、そりゃ嬉しいね」
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「まぁ状況は把握した。……それで、そろそろ本題の話でもしようか」
まっすぐにこちらを見つめるヴェルターさんに、俺たちも居住まいを正して向かい合う。そう、むしろこれからが大事なことだ。俺たちの進退にかかわることなのだから。
「どうせお前らは行く当てもないんだろう?」
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