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第一部

追放の決定

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 さすがにこの一週間、文句も言わず何もしなかったわけでもない。
 クラスメイトに会うために、仕事が終わってから隣の部屋へと訪れた。が、ノックをしても何も反応がなかったのだ。もちろん他の部屋も同じだ。うろうろしていたらメイドに見つかり、部屋へと強制送還される始末。境遇を訴えても取り付く島もない。
 どうもクラスメイトたちとは離れた場所に案内されたらしかった。

「俺も一緒に行く」

「申し訳ございませんがご遠慮願います」

 作った夕食を乗せたワゴンを持っていくメイドにそう宣言するも、すげなく断られてしまう。

「はぁ? なんでだよ」

「なぜと言われましても……。皆様ミズモト様とは会いたくないとおっしゃっておられますので……」

 ボッチだった自覚はあるけどそこまで嫌われてたのか。無職と知った時の真中まなか火野ひののバカにした反応を思えば納得できないこともない。
 学校じゃ直接何かされることはなかったけど、俺を見てコソコソと囁きあうクラスメイトの姿を見たことはあった。被害妄想が過ぎると気にしないようにしてたけど……。

「はぁ……」

 今日もため息をつきながら野菜の皮むきをしているが、この一週間ほどで恐ろしいほど慣れてきた気がする。初日は時間をかけて分厚い皮むきしかできなかったが、今ではしっかり実を残した皮むきが数秒で終わってしまう。熟練の料理人もかくやといったところか。皮しかむけないけど。

「兄ちゃん、皮むきすげー上達したなぁ」

「えっ、あ、そうですか?」

 そういえば神様のところで選んだスキルは『取得経験十倍』の他に、『成長速度十倍』『成長率十倍』だったっけ。最後の二つはあわててたから何も考えずに選んだけど、この皮むき習熟度を考えると重複して効果ありそうだよなぁ。

 ……ってことはトータル千倍の成長速度か?
 もし料理スキルがあったら取得できてるかもしれないな。……皮むきしかしてないけど。

 いつものように出来上がった夕食をワゴンに乗せていると、メイドの一人が俺の前まで近づいてきた。

「ミズモト様、第三王女殿下がお呼びです。明日の朝食後に迎えに参りますのでよろしくお願いいたしますね」

「え?」

「それではまた」

 そして返事を聞かずに去っていく。特に用事があるわけでもないけど、なんだかなぁ。なんとも釈然としない思いを抱えたまま、翌日を迎えた。



 朝食後、メイドに案内されたのは地下にある石造りの部屋だった。学校の教室くらいある部屋には誰もいない。

「では王女殿下が来るまでお待ちください」

 とだけ告げるとメイドは仕事は終わりとばかりに去っていく。
 何もない部屋でボケーっと三十分ほど待たされたあと、リリィ王女が姿を現した。鎧で装備を固めた騎士っぽい人物二人と、メイドも一緒だ。そしてその後ろからぞろぞろとクラスメイトが勢ぞろいでやってくる。最初に会った頃と違って、軽装備に身を包んでいる。そしてなぜかみんなの俺を見る目が厳しい。

「今日来てもらったのは他でもありません、あなたの処遇が決まったので伝えるためです」

「……はい?」

 処遇ってなんだよ。何もやらかしてなんかないぞ。勝手にハブられてるだけで、俺は何もやってない。

「魔王との戦いが嫌だとわがままを言っているらしいじゃないか」

 顔を顰めながら清水が理由を口にする。

「んん……?」

 確かに嫌だとは思ってるけど、それを表明した覚えはないぞ。というかいきなり料理の下働きに回されたせいで、何かを訴えることもできなくなったというのが正解か。なんでそんなことになってるんだ?

「言った覚えはないんだけど……」

「デュフフフ、嘘をつくんじゃないんだな。ぼ、僕は知ってるんだ、毎日料理人たちに、ぐ、愚痴をこぼしてるのを」

 確かにちらっと愚痴ったことはあるけど、厨房に押し込められてからだからな。魔王軍と戦いたくなくて厨房に引きこもったわけじゃないからな。

 しかし気持ち悪い笑い方するなコイツは……。誰だっけ。クラスにいたのはわかってるんだけど名前が思い出せない。隣を見ればもう一人、ずっと俯いてブツブツ何かを呟いてる男子がいる。こっちも名前を憶えていない。

 男子勢は清水と真中と、あと名前のわからない二人の計四人か。女子を見ると、生徒会副会長の長井さんと、火野さんとあとはおっとりした雰囲気を振りまいている大鳥おおとり穂乃花ほのかが三人で固まっている。柚月さんだけなぜかちょっと離れたところにぽつんと立ってるのはなんだろうな。

「それでは、あなたに対する処分を言い渡します」

 おい、ちょっと待て。処遇じゃなかったのか。処分ってなんなんだ。

「魔王と戦う気のない人をここに置いておく理由はありませんので、出て行っていただきます。もちろん、厨房で働いていただいた分の対価は支払います」

「はぁ……、そうですか」

 そんなにひどいことじゃなくて安心した。ってかここから出ていけるならむしろありがたいくらいだ。結局常識を学ぶことはできなかったけどしょうがない。王女やメイドの態度も気に入らないし、自由のない環境で生活するのは嫌になってたところだ。

 じゃらりと音のする革袋をメイドから渡される。それなりに入っているようだけど、この世界の貨幣価値も知らないのでいくら入ってるのか不明だ。

「では、部屋の隅にある転移魔法陣から直接外に出られますので、そちらからお願いします」

 いきなりだなオイ。普通に歩いてこの建物から出たらダメなのか。召喚されたこの建物がどこにあるのかもわかってないが。辺鄙なところにでもあるんだろうか。
 二人の騎士が一歩、二歩とこちらに近づいてきて威圧してくる。さすがに抵抗できずに部屋の隅の魔法陣の上にまで追いやられてしまった。
 まぁ特に荷物もないからいいけど……、やっぱり納得いかない。

「魔王が倒されるまで会うこともないでしょうけれど、ごきげんよう」

 王女の言葉と共に足元の魔法陣が光を帯びていく。光が強まり、そろそろ目を開けていられなくなったとき、何かの影が近づいてくるのがちらりと見え。

「ちょっ――、おい!」

 誰かの声が聞こえた瞬間に、視界が暗転した。
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