成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa

文字の大きさ
上 下
4 / 421
第一部

追放の決定

しおりを挟む
 さすがにこの一週間、文句も言わず何もしなかったわけでもない。
 クラスメイトに会うために、仕事が終わってから隣の部屋へと訪れた。が、ノックをしても何も反応がなかったのだ。もちろん他の部屋も同じだ。うろうろしていたらメイドに見つかり、部屋へと強制送還される始末。境遇を訴えても取り付く島もない。
 どうもクラスメイトたちとは離れた場所に案内されたらしかった。

「俺も一緒に行く」

「申し訳ございませんがご遠慮願います」

 作った夕食を乗せたワゴンを持っていくメイドにそう宣言するも、すげなく断られてしまう。

「はぁ? なんでだよ」

「なぜと言われましても……。皆様ミズモト様とは会いたくないとおっしゃっておられますので……」

 ボッチだった自覚はあるけどそこまで嫌われてたのか。無職と知った時の真中まなか火野ひののバカにした反応を思えば納得できないこともない。
 学校じゃ直接何かされることはなかったけど、俺を見てコソコソと囁きあうクラスメイトの姿を見たことはあった。被害妄想が過ぎると気にしないようにしてたけど……。

「はぁ……」

 今日もため息をつきながら野菜の皮むきをしているが、この一週間ほどで恐ろしいほど慣れてきた気がする。初日は時間をかけて分厚い皮むきしかできなかったが、今ではしっかり実を残した皮むきが数秒で終わってしまう。熟練の料理人もかくやといったところか。皮しかむけないけど。

「兄ちゃん、皮むきすげー上達したなぁ」

「えっ、あ、そうですか?」

 そういえば神様のところで選んだスキルは『取得経験十倍』の他に、『成長速度十倍』『成長率十倍』だったっけ。最後の二つはあわててたから何も考えずに選んだけど、この皮むき習熟度を考えると重複して効果ありそうだよなぁ。

 ……ってことはトータル千倍の成長速度か?
 もし料理スキルがあったら取得できてるかもしれないな。……皮むきしかしてないけど。

 いつものように出来上がった夕食をワゴンに乗せていると、メイドの一人が俺の前まで近づいてきた。

「ミズモト様、第三王女殿下がお呼びです。明日の朝食後に迎えに参りますのでよろしくお願いいたしますね」

「え?」

「それではまた」

 そして返事を聞かずに去っていく。特に用事があるわけでもないけど、なんだかなぁ。なんとも釈然としない思いを抱えたまま、翌日を迎えた。



 朝食後、メイドに案内されたのは地下にある石造りの部屋だった。学校の教室くらいある部屋には誰もいない。

「では王女殿下が来るまでお待ちください」

 とだけ告げるとメイドは仕事は終わりとばかりに去っていく。
 何もない部屋でボケーっと三十分ほど待たされたあと、リリィ王女が姿を現した。鎧で装備を固めた騎士っぽい人物二人と、メイドも一緒だ。そしてその後ろからぞろぞろとクラスメイトが勢ぞろいでやってくる。最初に会った頃と違って、軽装備に身を包んでいる。そしてなぜかみんなの俺を見る目が厳しい。

「今日来てもらったのは他でもありません、あなたの処遇が決まったので伝えるためです」

「……はい?」

 処遇ってなんだよ。何もやらかしてなんかないぞ。勝手にハブられてるだけで、俺は何もやってない。

「魔王との戦いが嫌だとわがままを言っているらしいじゃないか」

 顔を顰めながら清水が理由を口にする。

「んん……?」

 確かに嫌だとは思ってるけど、それを表明した覚えはないぞ。というかいきなり料理の下働きに回されたせいで、何かを訴えることもできなくなったというのが正解か。なんでそんなことになってるんだ?

「言った覚えはないんだけど……」

「デュフフフ、嘘をつくんじゃないんだな。ぼ、僕は知ってるんだ、毎日料理人たちに、ぐ、愚痴をこぼしてるのを」

 確かにちらっと愚痴ったことはあるけど、厨房に押し込められてからだからな。魔王軍と戦いたくなくて厨房に引きこもったわけじゃないからな。

 しかし気持ち悪い笑い方するなコイツは……。誰だっけ。クラスにいたのはわかってるんだけど名前が思い出せない。隣を見ればもう一人、ずっと俯いてブツブツ何かを呟いてる男子がいる。こっちも名前を憶えていない。

 男子勢は清水と真中と、あと名前のわからない二人の計四人か。女子を見ると、生徒会副会長の長井さんと、火野さんとあとはおっとりした雰囲気を振りまいている大鳥おおとり穂乃花ほのかが三人で固まっている。柚月さんだけなぜかちょっと離れたところにぽつんと立ってるのはなんだろうな。

「それでは、あなたに対する処分を言い渡します」

 おい、ちょっと待て。処遇じゃなかったのか。処分ってなんなんだ。

「魔王と戦う気のない人をここに置いておく理由はありませんので、出て行っていただきます。もちろん、厨房で働いていただいた分の対価は支払います」

「はぁ……、そうですか」

 そんなにひどいことじゃなくて安心した。ってかここから出ていけるならむしろありがたいくらいだ。結局常識を学ぶことはできなかったけどしょうがない。王女やメイドの態度も気に入らないし、自由のない環境で生活するのは嫌になってたところだ。

 じゃらりと音のする革袋をメイドから渡される。それなりに入っているようだけど、この世界の貨幣価値も知らないのでいくら入ってるのか不明だ。

「では、部屋の隅にある転移魔法陣から直接外に出られますので、そちらからお願いします」

 いきなりだなオイ。普通に歩いてこの建物から出たらダメなのか。召喚されたこの建物がどこにあるのかもわかってないが。辺鄙なところにでもあるんだろうか。
 二人の騎士が一歩、二歩とこちらに近づいてきて威圧してくる。さすがに抵抗できずに部屋の隅の魔法陣の上にまで追いやられてしまった。
 まぁ特に荷物もないからいいけど……、やっぱり納得いかない。

「魔王が倒されるまで会うこともないでしょうけれど、ごきげんよう」

 王女の言葉と共に足元の魔法陣が光を帯びていく。光が強まり、そろそろ目を開けていられなくなったとき、何かの影が近づいてくるのがちらりと見え。

「ちょっ――、おい!」

 誰かの声が聞こえた瞬間に、視界が暗転した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...