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第一部

プロローグ

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「おや、そのまま転送されずにここに留まるとは……、召喚に失敗したかね」

「へっ……?」

 わけもわからずに思わず間抜けな声が漏れる。
 確かさっきまで学校にいたはずなんだよな。ホームルームが終わってしばらくして、帰ろうとしたところだった気がする。
 ……そうだ、魔法陣が教室に現れたんだ!

 俺は帰ろうとしてたから廊下に出てたんだけど、かろうじて魔法陣の外周内に立ってたんだったか。ヤバいと思って一歩だけ魔法陣の外に足を出したところまで覚えてるけど……。

「間に合わなかったのかな……」

「なるほど、それでかのぅ」

 何かを察したかのように頷く爺さん。そう、気が付いたら目の前に白い髭と髪をした、貫頭衣を纏った爺さんがいたのだ。周囲は真っ白で何もない場所で。これはもうアレしかない。いわゆるクラス転移というやつだろうか。各種ラノベを読破した俺に抜かりはない。

「えーと、あなたは……」

 たぶん神様とかそういう人……。人でいいのかな。知らんけど。

「うむ。まぁおおむね神で間違いない」

「そ、そうですか」

 どうやら心を読めるようである。
 それにしても他に人がいないな。確か教室には他にも生徒がちらほらいたと思うんだけど。

「どこかの世界で召喚の儀式が行われたみたいじゃが、他のみなはもう召喚された国へと行ってしまったぞ」

「マジですか……」

 はあぁぁぁぁ。やっぱり俺は逃げ遅れたらしい。しかも一人だけ置いてけぼりとか、どうせ逃げられないんなら皆と一緒がよかった。……いや、どうせボッチな俺だから一緒でも変わらないかもしれないけど。

「今から元の場所に戻るってできますかね?」

 無理そうな気はするけど、聞かずにはいられない。戻れるなら逃げようとしたことも無駄じゃなかったはずだ。
 それに各種ラノベを読んではきたけど、都合よく俺TUEEEができるとも思えない。異世界には危険が満ち溢れてるのが常だ。

「それは無理じゃのう」

「理由を聞いてもいいですか……?」

「そもそも水本みずもとしゅうは今でも元気に地球で生活しとるからのぅ」

「は……?」

 水本みずもとしゅうというのは俺の名前だが……、地球にいる……だと? じゃあここにいる俺はいったい誰なんだよ。

「お主は水本みずもとしゅうの魂のコピーじゃからの。家族に心配かけてると思ってるのなら安心するがよい」

「マジですか」

 全然安心できないんですけど。
 思わず自分の両手を見つめるが、そこには相変わらずの自分の手があるだけだ。顔も触ってみるが、特にいつもと変わったところのない、小柄な体格だと思う。……たぶん。

「いやでも、ほら、地球にいる自分に合流するとか……」

「んんー、できなくはないが、結局今ここにいるお主が消えてなくなるのと変わらぬぞ? 元の魂に吸収されるような感じじゃからのぅ。コピーされたお主の今の記憶は残らん」

 えええ、それって死ぬのと変わらないんじゃ。

「母さん、父さん……」

 思わずつぶやいた言葉と共に涙がこぼれた気がする。
 魂をコピーしたってなんだよ。それって俺は本当に水本柊なの? 召喚されたって言うけど、魂だけ? 向こうに行ったときの俺の体って何なの……?
 何というかこう、誰にも知られずにひっそりと俺だけ死んでしまったような感覚に襲われた。

「まぁそう悲観するでない。ここで会ったのも何かの縁じゃ。本来ならランダムなんじゃが、自分でスキルを選ばせてやろう」

「スキル……?」

「そうじゃ。神の領域を通過して世界を渡るといろいろスキルが勝手に付随するもんじゃが、特別に選ばせてやろうぞ」

 ボケーっとしていると、ふと目の前に半透明なウインドウが浮かび上がった。どうやらスキル一覧になっているようで、『剣術』『槍術』などよく聞く名称のスキルが並んでいる。スクロールしていくと、魔法系のスキルや補助系のスキルも出てきた。

「ふーん……」

 いろいろあるなあ……。定番なのは鑑定かな。あとはスキル強奪系とか、成長率アップ系なんだろうか。いやでも鑑定スキルもたまにはずれがあったりするしなぁ……。他にもクラスメイトがいることを考えると、強奪系はちょっと印象が悪いかな。

「おっと、そろそろ残り時間もなくなってきたようじゃし、急いだほうがよいぞ」

 現実逃避をするようにラノベのテンプレを思い出していると、神様からそんな声がかかる。

「えっ!?」

 そんなに急かされても、もうちょっと考えたいんだけど!
 とりあえずこれかな。『取得経験二倍』を選ぼうとして、すぐ近くに十倍を見つけてしまう。これ以上倍率高いやつないよね……?
 慌てず素早くスクロールしていると、体力や魔力などの各種ステータスの成長率百倍なんてのもあった。
 うん、やっぱり『取得経験十倍』かな。

「他にもまだ選べるぞ?」

「ええー!?」

 ウインドウを操作する腕がだんだんとぼやけてくる。早くしないと召喚された国へと呼び出されるのが肌で感じられた。

「これと、これと……」

 とりあえず目についた成長率増加系のスキルをタッチしていると、不意に視界が暗転する。薄れる意識の中、神様からの『達者でな』という声が聞こえた気がした。
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