上 下
2 / 3

異世界に俺SUGEEされました

しおりを挟む
「そうだ。せっかくだから食事でもどうだい」

 エレベーターに乗って地上へと出たところで、ラスガルさんに提案を受ける。と同時に思い出したように空腹感が襲ってきた。そしてさらに地上の風景に唖然とする。
 どこの都会だとでもいうような、高層ビルを彷彿とさせる建物がそこかしこに聳え立っている。通りを歩く人の数もけた違いだ。大阪や東京の地下街を歩いてるくらいに人が密集している。

「なんか飛んでる……」

 極めつけは空飛ぶ乗り物だろう。数は多くないが、車のような、翼のない飛行機とでも言えばいいだろうか――が空を行きかっている。

「あれは魔導ギアと言って、まぁ見てわかるように空を飛ぶ乗り物だよ。魔力を原動力に動いてるんだけど、最新型だと一日補給なしで飛び続けられるんだよ」

 おぅふ。魔力ですか。やっぱり魔法があるんだろうなぁ。いやでもこの世界の発展具合はなんなのさ。

「へぇー、すごいですね……」

 圧倒されすぎてすごい以外の言葉が出ない。道行く人の服装も、現代日本をうろついてもそこまで違和感のない恰好をしている。

「団長へは連絡を入れておきました」

「あぁ、ありがとう」

 ええっと、何かやったようには見えないが、遠方と連絡を取る方法でもあるんだろうか。聞いてみると、直径二センチで長さ十五センチくらいの細長い端末を見せてくれた。スマホみたいなもんだろうか。

「こっちにも準備が必要だからね。まぁ待ち時間もあることだし、ちょっとご飯でも食べに行こうか。あぁ、もちろん費用とかは気にしなくていい。転移してきた異邦人を保護するのが僕たちの仕事だから」

「ありがとうございます」

 なんともお優しいことだ。殺伐とした異世界事情を叩きつけられなくてホントよかった。今になって浮かれた気分が現実へと引き戻される。

「あ、じゃあわたしデルミラルに行きたいです!」

「ええー?」

 急にテンションの上がるプリシーラさんに、ラスガルさんが嫌そうに応じている。

「プリシーラの希望は聞いてないよ。……何か食べたいものはあるかい?」

 さらっとスルーすると、俺に希望を聞いてくれる。といっても普通に腹が減ってるし、ここで何が食えるのかもわからない。

「あ、えーと、晩ご飯食べ損ねてるので、なんでもいいのでがっつり食べたいです」

「じゃあデルミラルでも大丈夫ですよね!?」

 やたらと推してくるプリシーラにラスガルさんもたじたじだ。聞くところによるとスイーツがメインではあるが、飯も食えるカフェとのことだ。だったら俺も文句はない。というか言えるはずもない。
 というわけで食事はプリシーラ推しのデルミラルというお店に決まった。



「うまー!」

 写真がふんだんに使われたメニューに驚きつつも、注文した料理に舌鼓を打つ。とにかく肉が美味い。ステーキソースも三種類あり、どれも複雑な味で旨味が感じられる。
 ラスガルはコーヒーのような、すごく芳醇な香りのする飲み物を飲んでおり、プリシーラは巨大なパフェと格闘している。いろいろな種類のフルーツとアイスと、これも日本で出てくるパフェ顔負けだ。

「喜んでくれて何よりだよ」

「あぁ、超幸せ……」

「プリシーラのは経費で落ちないから自腹でよろしく」

「ええっ!?」

 俺に優しい言葉をかけてくれたラスガルが、とろける表情でパフェをつつくプリシーラを地獄に叩き込む。一瞬で変化する表情が面白い。

 お店のメニューを見て思ったけど、料理のレパートリーも豊富だ。ここに来る途中にもいろんなお店があったけど、娯楽施設みたいなのも多かった。もうなんでもありだよな……、この異世界って。

 いや待て、諦めるのはまだ早いんじゃないか? リバーシーやマヨネーズで大金を稼ぐことはできそうにないが、まだ何かあるはずだ。……そう、きっと俺には異世界転移の特典みたいに特殊なチートスキルが!

「ごちそうさまでした」

 淡い期待を抱きつつも肉を完食する。謎肉ステーキは美味かったです。

「じゃあそろそろ準備もできたみたいだし、行こうか」

 えーっと、俺の受け入れ態勢ってところかな。宿無しで放り出されても困るのでありがたい限りだ。なんという至れり尽くせりな異世界なんだろうか。

「あ、はい。お手数おかけします」

 プリシーラが端末の操作を終えるのを待ってからお店を出ると、ラスガルがこの世界の話をまた教えてくれた。

「異邦人にとって一番気になることといえば……、もちろんこの世界に魔法というものは存在するよ」

 言葉と共に隣にいたプリシーラが、人差し指の先に小さい炎を灯す。強力なものになれば地形を変えるほどの威力まで出るそうだが、プリシーラはそこまでの魔法を扱えるらしい。

「異世界マジぱねぇ……」

 ひとしきり驚いていると、駅のロータリーのような場所へと到着する。

「ちょっと目的地までは遠いからね。魔導ギアに乗っていこう」

 そこにはロータリーの傍にたたずむ、翼のない飛行機と言った見た目の機体が鎮座していた。近くで見ると、今にも変形合体しそうな雰囲気も感じられる。

 いやマジでコレに乗れるの!? 

 否が応でも上がってくるテンションを押さえつけることはできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...