本からはじまる異世界旅行記

m-kawa

文字の大きさ
上 下
60 / 153
第三章

モンスターズワールド -マコト1-

しおりを挟む
 私はブレイブリス王国の第三王女、フィアリーシス・フォン・ブレイブリス。
 この度、異世界人であるマコトと婚約することになりました。発表はまだまだ先とのことですが、いろいろと準備が必要なようです。
 そのためにマコトは今、商会を立ち上げて商品の仕入れを自分の世界で行っているところです。
 なんでもそのままだと身分が釣り合わないとお父様はおっしゃるのですが、私にはよくわかりません。マコトと一緒の旅は楽しかったし、それでいいんじゃないでしょうか。

 一時的にマコトと離れ、私は無事に帰還したことを静かに国民へと伝えるために奔走していました。
 余りにも姿を現さない期間が長すぎたため、よからぬことを考え始める有力貴族も多かったのです。

 しかしそれからというもの、胸のもやもやが晴れません。これはいったい何なのでしょうか。時折きゅうっと胸が締め付けられるようです。
 もうすぐ婚約するところまで漕ぎつけたのです。王女として国の発展に繋がる重要人物と縁を持てたのです。この先不安に思うことなどあるはずがありません。
 ですが……、この気持ちはなんなのでしょうか……。



 初めてマコトを見たのは、いつものように傭兵さん達を激励に行った兵舎訓練場でした。

「……あれっ?」

 上から見ていたから気づいたのかもしれませんが、マコトがあの集団のなかに突然現れた・・・・・ように見えたのです。たぶん錯覚ではないと思います。
 現れた場所も集団の最後尾だからか、他の人は気づいていないんでしょうか……。不思議です。
 しかもちらりと見えたあの本は……。いえ、いくら七年前に見たことがあるからと言って、言い伝えにある魔法書とは限りません。

 気になって思わず後をつけてしまいましたが、なんと向かったのは騎士団の詰め所ではありませんか!

「あなたは……、魔術師ではないのですか……?」

「あ、えっと……。魔術師ではないですよ」

 以前魔法書を持っていた方が宮廷魔術師だったので、てっきり魔法書の所持者は魔術師かと思ったのですが……。
 それともあの本はやっぱり見間違いだったのでしょうか。

 いえ、例え可能性が低くとも魔法書の所持者はしっかり確保しなければ。
 過去の言い伝えからお父様にも耳にタコができるほど言い聞かされました。
 七年前にもレイリア様を宮廷魔術師という職に就け、王族とも親密になるように接触を図ったが駄目だったと、愚痴をこぼしているところを偶然見かけてしまったのです。
 当時十歳だった私は直接叱責されることはありませんでしたが、自分が失敗したんだということがよくわかりました。
 今度こそ失敗は許されないと思っていたのに、「魔術師ではなく、剣士になったのも特に理由はない」と言われ、やはりこの人ではなかったのかとなぜ諦めてしまったのか。



 その日からずっと後悔の念に囚われながら日々を送っていましたが、マコトが騎士への昇格試験を受けるという情報が入った瞬間、居ても立っても居られなくなりました。
 騎士団の詰め所へと呼び出しの早馬を送り、城門衛兵詰所へと呼び出しました。こうなったら多少強引になったとしてもかまうものですか!

「訓練場で初めてお見かけしたときに持っていた本を、見せていただけないでしょうか」

 こうして呼び出したマコトに見せていただいた本は……、まぎれもなく本物でした!
 ここで逃がしてはなるまいと、七年前に本を見せていただいた記憶を頼りに魔方陣の描かれたページを見つけると、躊躇せずに手のひらを置きました。



 その先の、マコトの世界は素晴らしいものでした。
 見たことのない物がたくさんあります! 本棚には本が大量に並べられており、天井には丸くて白い物が光を放っています。
 テーブルにも何か紐が繋がっている手のひらサイズの平べったいものが置いてありますが、時折端の方が小さく点滅しているようです。
 一番目立つのはテーブルの上にある四角い物体でしょうか。横から覗き込むとそれほど分厚いものでもないようですが……。

 ――と、急に四角い物体の正面から光が出てきました。

「な……、なにこれ……!? ひ、光った……!!」

 えっと……、どうすればいいのかしら……! ひ、光りましたよ……! 爆発とかしないですよね……!!

「あひゃい!」

 急に視界に入ったマコトに驚いて、変な声が出てしまいまいした。
 思わずベッドに腰かけてしまい、改めて見知らぬ男性と、見知らぬ部屋で二人きりになってしまった事態と共に、自分が取った行動を思い出して驚きが恐怖に変わっていこうとしたところへ。

「――ぷっ、あっはっはっは!」

 マコトが大笑いする声が響き渡ったのです。
 根拠はまったくありませんが、マコトの笑い声で恐怖が綺麗さっぱりと消えてなくなり、なぜか「この人なら大丈夫」という思いになるとともに恥ずかしさがこみあげてきました。

「もう……、笑わないでください……」

 安心した私は手当たり次第に部屋にある見たこともないものについて、マコトにあれこれと質問を投げかけました。
 もう驚きの連続で興奮してしまいました。しばらくして冷静になったマコトに諭されて一度帰ろうという話になったのですが、まさかさらに別の世界へと飛んでしまうとは!
 この先どうなるかと思いましたが、ワクワクする気持ちのほうが勝っていたと思います。
 上がった気分に任せて、マコトを逃がさないように迫ってもみましたがひらひらと躱されてしまいました。悔しい思いもありますが、ちょっと安心した自分が嫌になります。

 ――ああそうだ。思い出しました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...