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第三章
モンスターズワールド -マコト1-
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私はブレイブリス王国の第三王女、フィアリーシス・フォン・ブレイブリス。
この度、異世界人であるマコトと婚約することになりました。発表はまだまだ先とのことですが、いろいろと準備が必要なようです。
そのためにマコトは今、商会を立ち上げて商品の仕入れを自分の世界で行っているところです。
なんでもそのままだと身分が釣り合わないとお父様はおっしゃるのですが、私にはよくわかりません。マコトと一緒の旅は楽しかったし、それでいいんじゃないでしょうか。
一時的にマコトと離れ、私は無事に帰還したことを静かに国民へと伝えるために奔走していました。
余りにも姿を現さない期間が長すぎたため、よからぬことを考え始める有力貴族も多かったのです。
しかしそれからというもの、胸のもやもやが晴れません。これはいったい何なのでしょうか。時折きゅうっと胸が締め付けられるようです。
もうすぐ婚約するところまで漕ぎつけたのです。王女として国の発展に繋がる重要人物と縁を持てたのです。この先不安に思うことなどあるはずがありません。
ですが……、この気持ちはなんなのでしょうか……。
初めてマコトを見たのは、いつものように傭兵さん達を激励に行った兵舎訓練場でした。
「……あれっ?」
上から見ていたから気づいたのかもしれませんが、マコトがあの集団のなかに突然現れたように見えたのです。たぶん錯覚ではないと思います。
現れた場所も集団の最後尾だからか、他の人は気づいていないんでしょうか……。不思議です。
しかもちらりと見えたあの本は……。いえ、いくら七年前に見たことがあるからと言って、言い伝えにある魔法書とは限りません。
気になって思わず後をつけてしまいましたが、なんと向かったのは騎士団の詰め所ではありませんか!
「あなたは……、魔術師ではないのですか……?」
「あ、えっと……。魔術師ではないですよ」
以前魔法書を持っていた方が宮廷魔術師だったので、てっきり魔法書の所持者は魔術師かと思ったのですが……。
それともあの本はやっぱり見間違いだったのでしょうか。
いえ、例え可能性が低くとも魔法書の所持者はしっかり確保しなければ。
過去の言い伝えからお父様にも耳にタコができるほど言い聞かされました。
七年前にもレイリア様を宮廷魔術師という職に就け、王族とも親密になるように接触を図ったが駄目だったと、愚痴をこぼしているところを偶然見かけてしまったのです。
当時十歳だった私は直接叱責されることはありませんでしたが、自分が失敗したんだということがよくわかりました。
今度こそ失敗は許されないと思っていたのに、「魔術師ではなく、剣士になったのも特に理由はない」と言われ、やはりこの人ではなかったのかとなぜ諦めてしまったのか。
その日からずっと後悔の念に囚われながら日々を送っていましたが、マコトが騎士への昇格試験を受けるという情報が入った瞬間、居ても立っても居られなくなりました。
騎士団の詰め所へと呼び出しの早馬を送り、城門衛兵詰所へと呼び出しました。こうなったら多少強引になったとしてもかまうものですか!
「訓練場で初めてお見かけしたときに持っていた本を、見せていただけないでしょうか」
こうして呼び出したマコトに見せていただいた本は……、まぎれもなく本物でした!
ここで逃がしてはなるまいと、七年前に本を見せていただいた記憶を頼りに魔方陣の描かれたページを見つけると、躊躇せずに手のひらを置きました。
その先の、マコトの世界は素晴らしいものでした。
見たことのない物がたくさんあります! 本棚には本が大量に並べられており、天井には丸くて白い物が光を放っています。
テーブルにも何か紐が繋がっている手のひらサイズの平べったいものが置いてありますが、時折端の方が小さく点滅しているようです。
一番目立つのはテーブルの上にある四角い物体でしょうか。横から覗き込むとそれほど分厚いものでもないようですが……。
――と、急に四角い物体の正面から光が出てきました。
「な……、なにこれ……!? ひ、光った……!!」
えっと……、どうすればいいのかしら……! ひ、光りましたよ……! 爆発とかしないですよね……!!
「あひゃい!」
急に視界に入ったマコトに驚いて、変な声が出てしまいまいした。
思わずベッドに腰かけてしまい、改めて見知らぬ男性と、見知らぬ部屋で二人きりになってしまった事態と共に、自分が取った行動を思い出して驚きが恐怖に変わっていこうとしたところへ。
「――ぷっ、あっはっはっは!」
マコトが大笑いする声が響き渡ったのです。
根拠はまったくありませんが、マコトの笑い声で恐怖が綺麗さっぱりと消えてなくなり、なぜか「この人なら大丈夫」という思いになるとともに恥ずかしさがこみあげてきました。
「もう……、笑わないでください……」
安心した私は手当たり次第に部屋にある見たこともないものについて、マコトにあれこれと質問を投げかけました。
もう驚きの連続で興奮してしまいました。しばらくして冷静になったマコトに諭されて一度帰ろうという話になったのですが、まさかさらに別の世界へと飛んでしまうとは!
この先どうなるかと思いましたが、ワクワクする気持ちのほうが勝っていたと思います。
上がった気分に任せて、マコトを逃がさないように迫ってもみましたがひらひらと躱されてしまいました。悔しい思いもありますが、ちょっと安心した自分が嫌になります。
――ああそうだ。思い出しました。
この度、異世界人であるマコトと婚約することになりました。発表はまだまだ先とのことですが、いろいろと準備が必要なようです。
そのためにマコトは今、商会を立ち上げて商品の仕入れを自分の世界で行っているところです。
なんでもそのままだと身分が釣り合わないとお父様はおっしゃるのですが、私にはよくわかりません。マコトと一緒の旅は楽しかったし、それでいいんじゃないでしょうか。
一時的にマコトと離れ、私は無事に帰還したことを静かに国民へと伝えるために奔走していました。
余りにも姿を現さない期間が長すぎたため、よからぬことを考え始める有力貴族も多かったのです。
しかしそれからというもの、胸のもやもやが晴れません。これはいったい何なのでしょうか。時折きゅうっと胸が締め付けられるようです。
もうすぐ婚約するところまで漕ぎつけたのです。王女として国の発展に繋がる重要人物と縁を持てたのです。この先不安に思うことなどあるはずがありません。
ですが……、この気持ちはなんなのでしょうか……。
初めてマコトを見たのは、いつものように傭兵さん達を激励に行った兵舎訓練場でした。
「……あれっ?」
上から見ていたから気づいたのかもしれませんが、マコトがあの集団のなかに突然現れたように見えたのです。たぶん錯覚ではないと思います。
現れた場所も集団の最後尾だからか、他の人は気づいていないんでしょうか……。不思議です。
しかもちらりと見えたあの本は……。いえ、いくら七年前に見たことがあるからと言って、言い伝えにある魔法書とは限りません。
気になって思わず後をつけてしまいましたが、なんと向かったのは騎士団の詰め所ではありませんか!
「あなたは……、魔術師ではないのですか……?」
「あ、えっと……。魔術師ではないですよ」
以前魔法書を持っていた方が宮廷魔術師だったので、てっきり魔法書の所持者は魔術師かと思ったのですが……。
それともあの本はやっぱり見間違いだったのでしょうか。
いえ、例え可能性が低くとも魔法書の所持者はしっかり確保しなければ。
過去の言い伝えからお父様にも耳にタコができるほど言い聞かされました。
七年前にもレイリア様を宮廷魔術師という職に就け、王族とも親密になるように接触を図ったが駄目だったと、愚痴をこぼしているところを偶然見かけてしまったのです。
当時十歳だった私は直接叱責されることはありませんでしたが、自分が失敗したんだということがよくわかりました。
今度こそ失敗は許されないと思っていたのに、「魔術師ではなく、剣士になったのも特に理由はない」と言われ、やはりこの人ではなかったのかとなぜ諦めてしまったのか。
その日からずっと後悔の念に囚われながら日々を送っていましたが、マコトが騎士への昇格試験を受けるという情報が入った瞬間、居ても立っても居られなくなりました。
騎士団の詰め所へと呼び出しの早馬を送り、城門衛兵詰所へと呼び出しました。こうなったら多少強引になったとしてもかまうものですか!
「訓練場で初めてお見かけしたときに持っていた本を、見せていただけないでしょうか」
こうして呼び出したマコトに見せていただいた本は……、まぎれもなく本物でした!
ここで逃がしてはなるまいと、七年前に本を見せていただいた記憶を頼りに魔方陣の描かれたページを見つけると、躊躇せずに手のひらを置きました。
その先の、マコトの世界は素晴らしいものでした。
見たことのない物がたくさんあります! 本棚には本が大量に並べられており、天井には丸くて白い物が光を放っています。
テーブルにも何か紐が繋がっている手のひらサイズの平べったいものが置いてありますが、時折端の方が小さく点滅しているようです。
一番目立つのはテーブルの上にある四角い物体でしょうか。横から覗き込むとそれほど分厚いものでもないようですが……。
――と、急に四角い物体の正面から光が出てきました。
「な……、なにこれ……!? ひ、光った……!!」
えっと……、どうすればいいのかしら……! ひ、光りましたよ……! 爆発とかしないですよね……!!
「あひゃい!」
急に視界に入ったマコトに驚いて、変な声が出てしまいまいした。
思わずベッドに腰かけてしまい、改めて見知らぬ男性と、見知らぬ部屋で二人きりになってしまった事態と共に、自分が取った行動を思い出して驚きが恐怖に変わっていこうとしたところへ。
「――ぷっ、あっはっはっは!」
マコトが大笑いする声が響き渡ったのです。
根拠はまったくありませんが、マコトの笑い声で恐怖が綺麗さっぱりと消えてなくなり、なぜか「この人なら大丈夫」という思いになるとともに恥ずかしさがこみあげてきました。
「もう……、笑わないでください……」
安心した私は手当たり次第に部屋にある見たこともないものについて、マコトにあれこれと質問を投げかけました。
もう驚きの連続で興奮してしまいました。しばらくして冷静になったマコトに諭されて一度帰ろうという話になったのですが、まさかさらに別の世界へと飛んでしまうとは!
この先どうなるかと思いましたが、ワクワクする気持ちのほうが勝っていたと思います。
上がった気分に任せて、マコトを逃がさないように迫ってもみましたがひらひらと躱されてしまいました。悔しい思いもありますが、ちょっと安心した自分が嫌になります。
――ああそうだ。思い出しました。
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