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第二章 始まりの街アンファン
第76話 寝落ち
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「本気に決まってるじゃない」
狩猟ギルド員と思われる体格のいい男に詰め寄られるも、全く動じた様子を見せない女性職員。澄ました表情を変えようとしないし、引く気はないようだ。
「親がいないならほら、孤児院とかあるだろ!?」
孤児院という言葉に、なにやらよくわからないいたずらをされたケイルを思い出して無表情になる。正直あそこには行きたくないです。
「従魔の面倒まで見てくれるかしらね」
「それは……」
言いよどむ男に女性職員がさらに叩き込む。
「それに、今日はギルド証も持たずに狩りをして獲物を売りに来たのよ? 強そうな従魔もいるし、やめろと言って素直に聞くのかしらね」
問いかけるように見つめられるけど、もちろん素直に聞くはずもない。だって生活がかかってるんだから。
「それともザルデン。あなたがこの子の面倒を見るのかしら?」
「ぐっ……」
ザルデンと呼ばれた男が言葉を飲み込む。
それにしてもこの二人のやり取りに何とも落ち着かない気持ちになってきた。フォレストテイルのみんなもそうだけど、こんなに私を心配してくれる人がこの世にはいるんだね……。
などと感傷的になっていると、私のお腹が盛大に空腹を訴える。
思ったより響いた音に注目が集まるけど、この注目の集め方はちょっと恥ずかしい。
「あー、えーっと、ありがとうございました」
なんとなくいたたまれなくなってきたので、勢いよく頭を下げると逃げるようにギルドを出て宿に走って帰った。
なんとか落ち着いたころに宿へとたどり着いた。太陽はすでに沈んでおり、薄闇が広がる時間帯になっている。
食堂に入ればもう半分以上の席が埋まっていた。
「うお、従魔が増えてるじゃねぇか」
「あはは、トールって言います。よろしくお願いします」
すでにご飯を食べていた同じ宿の探索者たちと軽く挨拶を交わすと、空いている席へと腰掛ける。注文した料理がきて手を付け始めたところでフォレストテイルのメンバーがやってきた。
「おう、ここにいたのか」
「ほんわんわ」
「食いながらしゃべるんじゃねえよ」
隣に座ってエールを注文しつつ、お小言が飛んできた。
「お前に会って話がしたいって人がいると言ったのは覚えてるか?」
運ばれてきたエールを一気に飲み干すと、クレイブがそう尋ねてくる。
もちろん覚えていますとも。定職に就けるかもしれない機会だ。忘れるはずもない。といってもいつになるかわからなかったから、それまでに稼げる方法はいろいろ考えてはいたけども。
口をもぐもぐしながら頷くとクレイブが話を続ける。
「ああ、一週間後の午後イチに決まったから予定を空けておいてくれ」
「わかりました」
今度はちゃんと口の中の物を飲み込んでから返事をする。
決まったといっても一週間後なのか。なかなか忙しい人みたいだなぁ。いったい誰なんだろう?
心の中で首をひねりながらも黙々とご飯を口の中に入れていく。それにしてもお腹が膨れてくるにつれて眠気が増してきた気がする。
何とか耐えながらご飯を食べる。
食べる。
食べ――
一瞬だけ首がガクンとなって我に返る。
「ぶはっ! おいおい、飯食いながら寝るんじゃねーよ」
だめだ。とてもねむい。今日は久しぶりに体を動かしたからか、それなりに疲れてるとは思ってたけど。
手に持っていたフォークを置いて皿を少し遠ざける。これで料理に顔面から突っ込む心配がなくなったと思った瞬間、テーブルに突っ伏して意識を失った。
目を開けると見慣れない天井があった。
ここどこだろう。確かご飯食べてたと思うんだけどそこから記憶がない気がする。
横を向けばベッドの下に、スノウとトールが重なり合って寝ているのが見える。
「あ、宿の部屋か」
まだ馴染むまで滞在していないからかすぐわからなかったけど、ここがどこなのかようやく気が付いた。
『見事な意識の失いっぷりだったな』
目の前で浮いているキースから呆れた声が聞こえてくる。
「まあね。森で生活してたときはあそこまでひどい寝落ちはしたことなかったんだけどなぁ」
それだけ森ではずっと緊張してたってことなんだろうか。気を抜ける環境があるのはいいことだとは思うけど、さすがにご飯食べながら眠気に勝てなくなるとは自分でも思ってなかった。
『クレイブたちがお前をここまで運んでくれたぞ』
「あ、そうなんだ。後でお礼言っとかないと」
『寝ているのをいいことにあんなことやこんなことをしていたが』
「ナニソレ!?」
不穏なキースの言葉で、大きな声とともに飛び起きる。
なんだなんだとスノウとトールも顔を上げてこっちを見てきた。
女性に卑猥な行為をする情景が浮かんだけど、私は男だ。しかも子どもだ。キースの言うあんなことやこんなことが想像つかなくて、結局キースが私をからかっているだけと結論付けることにした。
クレイブやトールが変なことをするなんて想像つかないしね。
「おはようございます」
身支度を整えて食堂に顔を出すと、宿泊客の探索者たちと挨拶を交わす。
朝ごはんを食べて東へと向かうと、昨日と同じように街の外で狩りを行う。昨日提出した獲物の査定はお昼ごろに出るらしいので、お昼を食べると切り上げて狩猟ギルドへと顔を出すことにした。
狩猟ギルド員と思われる体格のいい男に詰め寄られるも、全く動じた様子を見せない女性職員。澄ました表情を変えようとしないし、引く気はないようだ。
「親がいないならほら、孤児院とかあるだろ!?」
孤児院という言葉に、なにやらよくわからないいたずらをされたケイルを思い出して無表情になる。正直あそこには行きたくないです。
「従魔の面倒まで見てくれるかしらね」
「それは……」
言いよどむ男に女性職員がさらに叩き込む。
「それに、今日はギルド証も持たずに狩りをして獲物を売りに来たのよ? 強そうな従魔もいるし、やめろと言って素直に聞くのかしらね」
問いかけるように見つめられるけど、もちろん素直に聞くはずもない。だって生活がかかってるんだから。
「それともザルデン。あなたがこの子の面倒を見るのかしら?」
「ぐっ……」
ザルデンと呼ばれた男が言葉を飲み込む。
それにしてもこの二人のやり取りに何とも落ち着かない気持ちになってきた。フォレストテイルのみんなもそうだけど、こんなに私を心配してくれる人がこの世にはいるんだね……。
などと感傷的になっていると、私のお腹が盛大に空腹を訴える。
思ったより響いた音に注目が集まるけど、この注目の集め方はちょっと恥ずかしい。
「あー、えーっと、ありがとうございました」
なんとなくいたたまれなくなってきたので、勢いよく頭を下げると逃げるようにギルドを出て宿に走って帰った。
なんとか落ち着いたころに宿へとたどり着いた。太陽はすでに沈んでおり、薄闇が広がる時間帯になっている。
食堂に入ればもう半分以上の席が埋まっていた。
「うお、従魔が増えてるじゃねぇか」
「あはは、トールって言います。よろしくお願いします」
すでにご飯を食べていた同じ宿の探索者たちと軽く挨拶を交わすと、空いている席へと腰掛ける。注文した料理がきて手を付け始めたところでフォレストテイルのメンバーがやってきた。
「おう、ここにいたのか」
「ほんわんわ」
「食いながらしゃべるんじゃねえよ」
隣に座ってエールを注文しつつ、お小言が飛んできた。
「お前に会って話がしたいって人がいると言ったのは覚えてるか?」
運ばれてきたエールを一気に飲み干すと、クレイブがそう尋ねてくる。
もちろん覚えていますとも。定職に就けるかもしれない機会だ。忘れるはずもない。といってもいつになるかわからなかったから、それまでに稼げる方法はいろいろ考えてはいたけども。
口をもぐもぐしながら頷くとクレイブが話を続ける。
「ああ、一週間後の午後イチに決まったから予定を空けておいてくれ」
「わかりました」
今度はちゃんと口の中の物を飲み込んでから返事をする。
決まったといっても一週間後なのか。なかなか忙しい人みたいだなぁ。いったい誰なんだろう?
心の中で首をひねりながらも黙々とご飯を口の中に入れていく。それにしてもお腹が膨れてくるにつれて眠気が増してきた気がする。
何とか耐えながらご飯を食べる。
食べる。
食べ――
一瞬だけ首がガクンとなって我に返る。
「ぶはっ! おいおい、飯食いながら寝るんじゃねーよ」
だめだ。とてもねむい。今日は久しぶりに体を動かしたからか、それなりに疲れてるとは思ってたけど。
手に持っていたフォークを置いて皿を少し遠ざける。これで料理に顔面から突っ込む心配がなくなったと思った瞬間、テーブルに突っ伏して意識を失った。
目を開けると見慣れない天井があった。
ここどこだろう。確かご飯食べてたと思うんだけどそこから記憶がない気がする。
横を向けばベッドの下に、スノウとトールが重なり合って寝ているのが見える。
「あ、宿の部屋か」
まだ馴染むまで滞在していないからかすぐわからなかったけど、ここがどこなのかようやく気が付いた。
『見事な意識の失いっぷりだったな』
目の前で浮いているキースから呆れた声が聞こえてくる。
「まあね。森で生活してたときはあそこまでひどい寝落ちはしたことなかったんだけどなぁ」
それだけ森ではずっと緊張してたってことなんだろうか。気を抜ける環境があるのはいいことだとは思うけど、さすがにご飯食べながら眠気に勝てなくなるとは自分でも思ってなかった。
『クレイブたちがお前をここまで運んでくれたぞ』
「あ、そうなんだ。後でお礼言っとかないと」
『寝ているのをいいことにあんなことやこんなことをしていたが』
「ナニソレ!?」
不穏なキースの言葉で、大きな声とともに飛び起きる。
なんだなんだとスノウとトールも顔を上げてこっちを見てきた。
女性に卑猥な行為をする情景が浮かんだけど、私は男だ。しかも子どもだ。キースの言うあんなことやこんなことが想像つかなくて、結局キースが私をからかっているだけと結論付けることにした。
クレイブやトールが変なことをするなんて想像つかないしね。
「おはようございます」
身支度を整えて食堂に顔を出すと、宿泊客の探索者たちと挨拶を交わす。
朝ごはんを食べて東へと向かうと、昨日と同じように街の外で狩りを行う。昨日提出した獲物の査定はお昼ごろに出るらしいので、お昼を食べると切り上げて狩猟ギルドへと顔を出すことにした。
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