上 下
75 / 81
第二章 始まりの街アンファン

第75話 ギルド証

しおりを挟む
「ちょっと待って!?」

「はい?」

 足元に置いた兎を担ぎなおそうとしたところで待ったがかかる。

「その、お嬢ちゃんはテイマーかしら?」

 スノウたちに恐る恐る視線を向けつつも、職員が確認してくる。ギルドには他にもテイマーがいるようで、従魔もちらほらと見える。すごくスノウたちを凝視してるんだけどなんとなく腰が引けているように見える。

「はい、そうですよ」

 ギルド証を取り出すと職員に見えるように掲げる。そこにはもちろんランク2の文字が燦然と輝いている。

「……アイリスちゃんっていうのね。見せてくれてありがとう」

「あ、はい」

「買取が終わったらまたここに来てもらっていいかな?」

「わかりました」

 ギルド証を仕舞いながら返事をする。なんだかよくわからないけど、とりあえず買い取ってはくれるみたいだ。改めて兎を担ぎなおして奥のカウンターに向かうと、列は少なくなっていた。

 自分の番になったのでひとまず兎を地面に下ろす。こっちのカウンターは低くて私の胸の高さくらいだけど、重い兎を持ち上げて乗せられそうになかった。

「これも上に乗せてくれる?」

 スノウに頼んでみれば、鹿を置いた後に兎も咥えてカウンターの上に乗せてくれた。

「ありがと」

 お礼を言って首をもふもふと撫でてあげる。トールも鹿を乗せ終わったので首をもふもふしてあげた。

「これの買取お願いします」

「お、おう」

 私が声をかけるまで引きつった顔をしながら見ていた職員がようやく反応してくれた。カウンターの上に乗せた獲物を検分すると、何かを記載して木札を一枚渡してくれる。

「明日の昼には査定結果が出るからまた来てくれるか。あと、自分たちで確保しておきたい肉の部位や素材があれば言ってくれ」

 へぇ、そんなことができるんだ。んー、でも特に欲しいところとかはないかな? お肉ならまだ鞄の中に入ってるやつがあるし……。

「大丈夫です。全部売ります」

「そうか。わかった」

 木札を鞄にしまうと、職員が私の後ろに並んでいる人物に声をかける。どうやらギルドでのやり取りはこれで終わりみたいだ。となればここに長居は無用だ。お腹すいたし早く帰ってご飯にしたいんだけど、そういえばカウンターにもう一回寄らないといけないんだっけ。
 お腹をさすりながら女性職員のいたカウンターへと戻ってくると、背伸びをしてカウンターから目だけを出して見上げる。

「あ、戻ってきてくれたわね」

 ホッとした様子で言われたけど無視なんてしませんよ?

「アイリスちゃんって言ったかしらね」

「はい」

「えーっと、狩りにはあなた一人で行ったのかしら? 保護者の方はいるの?」

 心配そうに尋ねてくる女性職員の眉が、話しながらもだんだんと中央に寄せられていく。

「あたしとこの子たちで行きました。親はいないです」

「そう……」

 伏し目がちにそう言葉にすると、顎に手を当てて何か考えこんでいる。
 こちらとしては親がいないからこそ自分で稼がないと生活ができないのだ。スノウたちもいるし、狩りをするのが一番簡単だと思っているけど、それは他にお金の稼ぎ方を知らないだけかもしれない。

「わかったわ」

 何かを真剣に考えた後、そう言って女性職員がカウンターの下から用紙とペンを取り出した。

「名前はアイリスちゃんでよかったかしら」

「はい」

「今いくつなの?」

「……四歳ですけど」

 四歳児という実感はないけど、ステータス上そうなっているので間違いはないはず。

「そ、そうなんだ。……従魔は他にはいないわよね?」

「はい。スノウとトールだけです」

 なんだかいろいろと質問が来るけど順番に答えていく。そのたびにペンが動いて用紙に書き込まれているようだけど何をしてるんだろうか。

「ありがとう。ちょっと待っててくれるかな」

 そこまで質問は多くなかったみたいですぐに終わったけど、職員はそう言って返事も聞かずにどこかへ行ってしまった。
 お腹すいたから早く帰りたかったんだけど、これは待ってないとダメなパターンだよね……。

「お待たせ」

 しばらくすると返ってきた職員にカードを渡される。金属製の薄いカードで、そこには狩猟ギルドのマークに私の名前とランク2という記載があった。

「え? これって……」

「狩猟ギルド証よ。査定結果はまだでしょうけど、あれだけ立派な獲物を狩れるんですもの。これからも狩りは続けるんでしょう?」

「あ、はい」

 もちろんやめるつもりはないけど、なんでこの人はギルド証なんて作ってくれたんだろうな?

「だったらちょっとでもギルドの恩恵を受けられるほうがいいわよね。一部の手数料が割り引かれたりするし、大事な連絡なんかもいきやすくなるわ」

「そうなんですね」

 それならギルド証はあったほうがお得なのかな。だからと言って本人の同意なく勝手にカードを作るのはどうかと思うけど、疑いもせずにホイホイ質問に答えた私もダメだったかもしれない。

『馬鹿だな』

 予想通りにツッコミがきたぞ。反応してやる義理はないけどね。

「いやいや! ギルド証与えるとか本気か!? まだガキじゃねぇか!?」

 そこに割って入る見知らぬ人物が、カウンターに両手を叩きつけて女性職員に食って掛かってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少年退行モラトリアム

絃屋さん  
ファンタジー
受験勉強の現実逃避で、イツキは神様にあるお願い事をした。 勉強せずに遊んで暮らしたい。 なぜか間違った形で願いは叶えられ、イツキの生活は一変する。

異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~

ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した 創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる 冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる 7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す 若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける そこからさらに10年の月日が流れた ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく 少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ その少女の名前はエーリカ=スミス とある刀鍛冶の一人娘である エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた エーリカの野望は『1国の主』となることであった 誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた エーリカは救国の士となるのか? それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか? はたまた大帝国の祖となるのか? エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……

変態の烙印 ーー平凡男子の無茶ブリ無双伝ーー

おもちさん
ファンタジー
■あらすじ……  凄く雑な流れで同じ世界へと転生した青年レイン。 また同じく雑に、世界の命運をフワッとしたノリで託される。 しかし、彼にとって一番の問題は、別の国に転生したことでも、命がけの戦闘でもない。 本来なら味方となるはずの、彼を取り巻く街の人たちとの軋轢だった。 ブラッシュアップしての再投稿です。  エブリスタでも掲載中です。

The Providence ー遭遇ー

hisaragi
ファンタジー
人類は異星人によって生み出された! 人類を作った生命体は、地球に危機が迫った時、脅威を排除できるような守護者が誕生するように、特殊なコードを遺伝子に書き込んでいた。 そして、その時は来た‥‥‥。遥に人類の科学力を超越した巨大な人工物が、地球に迫っていたのだ――。 ノベルアップ+様、Noveldays様、小説家になろう様掲載中

俺この戦争が終わったら結婚するんだけど、思ってたより戦争が終わってくれない

筧千里
ファンタジー
 ガーランド帝国最強の戦士ギルフォードは、故郷で待つ幼馴染と結婚するために、軍から除隊することを決めた。  しかし、これまで国の最前線で戦い続け、英雄と称されたギルフォードが除隊するとなれば、他国が一斉に攻め込んでくるかもしれない。一騎当千の武力を持つギルフォードを、田舎で静かに暮らさせるなど認めるわけにはいかない。  そこで、軍の上層部は考えた。ギルフォードに最後の戦争に参加してもらう。そしてその最後の戦争で、他国を全て併呑してしまえ、と。  これは大陸史に残る、ガーランド帝国による大陸の統一を行った『十年戦役』において、歴史に名を刻んだ最強の英雄、ギルフォードの結婚までの苦難を描いた物語である。  俺この戦争が終わったら結婚するんだ。  だから早く戦争終わってくんねぇかな!? ※この小説は『小説家になろう』様でも公開しております。

スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢
ファンタジー
この世界はスキルが全て。 成人の儀式で神様から誰もが一つスキルを授かる事ができる。 スキルを授ける神は様々おり、争いの絶えないこの世界では戦闘系スキルこそ至上と考えられていた。 そしてそれ以外の補助系スキルや生活スキルなど、後発的に習得可能とされるスキルを得た者は世界から冷遇される。 これはそんなスキル至上世界で効果不明なスキル『箱庭』を得た主人公【レイ・イストリア】が家から追放されるもそのスキルを駆使し、世界を平和に導く英雄伝説である。

喫茶店のマスター黒羽の企業秘密3

天音たかし
ファンタジー
沖縄の琉花町で喫茶店を経営する黒羽秋仁は、異世界トゥルーで食材の仕入れを行っている。ある日、トゥルーの宿屋にてウトバルク王国の女王から食事会の誘いを受ける。 黒羽は緊張しながらも、相棒の彩希と共にウトバルクへと旅立つ。 食事会へ参加した黒羽は、事故で異世界に渡ってしまった沖縄出身の料理人「山城誠」と出会う。彼の腕前に感動した黒羽は、山城と交流を深めていく。 しかし、彼は女王暗殺を目論んだ犯人として、投獄されてしまう。黒羽は彼の無実を信じ、動き出した。 ――山城の投獄、それはウトバルク王国の影に潜む陰謀の序章に過ぎなかった。 ※前作 「喫茶店のマスター黒羽の企業秘密」 「喫茶店のマスター黒羽の企業秘密2」 「喫茶店のマスター黒羽の企業秘密 外伝~異世界交流~」 こちらも公開していますので、よろしくお願いします!

異能力と妖と

彩茸
ファンタジー
妖、そして異能力と呼ばれるものが存在する世界。多くの妖は悪事を働き、異能力を持つ一部の人間・・・異能力者は妖を退治する。 そんな異能力者の集う学園に、一人の少年が入学した。少年の名は・・・山霧 静也。 ※スマホの方は文字サイズ小の縦書き、PCの方は文字サイズ中の横書きでの閲覧をお勧め致します

処理中です...