67 / 81
第二章 始まりの街アンファン
第67話 匂いに釣られました
しおりを挟む
フォレストテイルと一緒だと、それはもうあっさりと街の外に出ることができた。門番に渋い顔をされることもなく、むしろ笑顔で見送られたくらいだ。
ある程度終焉の森に向かって進んだところでわき道に逸れる。多少草原が開けた場所に陣取ると、みんなでお昼ご飯の準備に取り掛かった。
「はいどうぞ」
フォレストテイルのみんなが火を熾したあたりで、鞄から取り出した魚をみんなに配って回る。
「おいおい」
「こ、こんなにあるの?」
「うん。まだあるから早く食べないとね」
「いやしかし……」
渋るクレイブに、外に連れ出してくれたお礼だと告げるとなんとか納得してもらった。私は早く魚が食べたいのだ。問答している時間も惜しい。早く魚が食べたいので何度でも言う。
自分の分の魚も取り出すと、続けてコンロも取り出して用意を進める。金網も取り出して魚を乗せると塩を振りかけてコンロに火をつけた。
しばらく上機嫌で魚が焼ける様子を見ていると、フォレストテイル全員の視線が集まっていることに気づく。
「どうしたの?」
「………………なんでもねぇ」
恐る恐る聞いてみたけど長い沈黙の後にそんな答えが返ってきた。
その反応って絶対何かあるよね……。
しかし焼ける魚から漂ってくる匂いには勝てるはずもない。
「美味そうだな」
トングで魚をひっくり返していると、話題をそらすようにクレイブがそう言葉にする。
「きっとおいしいよ」
フォレストテイルのメンバーはスープも作っていたようで、すぐ横を見れば大きな鍋がぐつぐつ煮えているのが見える。魚が焼ける以外の匂いも漂ってきた。
「そろそろできたかな?」
ティリィがかき回す鍋を覗き込みながら、マリンが鼻をひくひくさせながら匂いを嗅いでいる。
「そろそろいいんじゃねぇか?」
クレイブの一言で、出来上がった料理の配膳が始まった。
「ん?」
ちょうどそのとき、周囲の警戒をお願いしていた風の精霊のふうかが、何かの魔物が近づいてくることを感知して知らせてくれる。
何が出てくるのかそっちに視線を向けていると、スノウも気が付いたのか伏せていた状態から顔をあげて同じ方向に顔を向けた。
「どうした?」
私たちの様子に気が付いたクレイブが、スープの器を持って私に手渡しつつも聞いてくる。
「ありがとうございます。んーと、何か来るみたいです」
「は?」
私の言葉にハテナが飛びつつも、同じ方向に顔を向ける。しばらくして急に顔つきがまじめになったかと思うと、斥候のマリンとアイコンタクトを取る。
頷いたマリンが鞘から短剣を二本引き抜くと、ほかの皆も私の前に出て警戒態勢を取った。終焉の森が近いとはいえ街の近くの草原だ。そうそう手ごわい魔物が出るとも思えない。
でもそういえば最近、終焉の森の魔物が草原をうろついてるのが見つかったんだっけか。それを思えば私という足手まといがいると考えて、フォレストテイルの警戒具合もうなずけるかもしれない。
「来るぞ!」
そうしてクレイブの言葉と共に草原の向こう側から顔だけ出したのは、額に二本の角が生えた、茶色い毛で覆われた狐のような魔物だった。
うん、なんかどこかで見た記憶があるよね。
「くっ……!」
クレイブから苦悶の声が聞こえてくる。
それなりに手ごわい相手なのかもしれないけど、私からすると焼き魚の匂いに釣られて崖から落ちてくるような相手だ。
睨み合ったまま動かないフォレストテイルのメンバーではあるが、網の上に乗せられた魚はいい具合に火が通ってきている。このまま時間だけが過ぎても魚が焦げてしまうだけだ。かといって火を止めてこのまま睨み合いを続けたとしても、せっかく焼けた魚が冷めてしまう。
となればとる手段は一つしかない。一度成功もしているし、次もうまくいくだろう。
ちょうどいい具合に焼けたことを確認し、コンロの火を止めてトングで魚をつかむと二本の角が生えた魔物――ルナールに向かって歩き出す。
「あ、おい! 危ないぞ!?」
「アイリスちゃん!?」
クレイブの制止とマリンの悲鳴が聞こえるがきっと大丈夫。
「この子には前にも焼き魚をあげたことがあるから」
「……はぁ!?」
ルナールの視線はがっつりと魚に固定されていて、鼻をひくひくさせている。二メートルほど手前まで近づくと、ルナールの目の前に焼き魚を置いた。
「食べていいよ」
私と魚と交互に視線をやるルナールだったが、ゆっくりと近づいてくるとふんふんと魚の匂いを嗅ぐ。以前会った時ほど警戒心がなくなっているようで、しばらく匂いを嗅いでいたかと思ったらそのまま魚にかぶりついた。咥えてそのまま去っていくかと思いきや、その場でがつがつと平らげていく。
ちょっとだけ背中を撫でたくなったけど、警戒心の高い魔物らしいので何もせずにコンロの位置まで戻ってきた。
「あ、ごめんねスノウ」
戻ってきたところでスノウが悲しそうな表情をしており、ルナールにあげた魚はスノウ用だったことを思い出して素直に謝る。
「すぐに焼くから……」
鞄をもう一度漁ると、お肉の塊を取り出してスノウにあげる。
「焼けるまでこれで我慢して」
改めて魚を鞄からもう一匹取り出すと、網の上に乗せて塩を振って焼き始めた。
「よし」
「よし、じゃねぇよ!」
私にはクレイブたちが作ってくれているスープもあるし、あとは魚が焼けるのを待つだけだなと思っていると、間髪入れずにクレイブからツッコミが入るのだった。
ある程度終焉の森に向かって進んだところでわき道に逸れる。多少草原が開けた場所に陣取ると、みんなでお昼ご飯の準備に取り掛かった。
「はいどうぞ」
フォレストテイルのみんなが火を熾したあたりで、鞄から取り出した魚をみんなに配って回る。
「おいおい」
「こ、こんなにあるの?」
「うん。まだあるから早く食べないとね」
「いやしかし……」
渋るクレイブに、外に連れ出してくれたお礼だと告げるとなんとか納得してもらった。私は早く魚が食べたいのだ。問答している時間も惜しい。早く魚が食べたいので何度でも言う。
自分の分の魚も取り出すと、続けてコンロも取り出して用意を進める。金網も取り出して魚を乗せると塩を振りかけてコンロに火をつけた。
しばらく上機嫌で魚が焼ける様子を見ていると、フォレストテイル全員の視線が集まっていることに気づく。
「どうしたの?」
「………………なんでもねぇ」
恐る恐る聞いてみたけど長い沈黙の後にそんな答えが返ってきた。
その反応って絶対何かあるよね……。
しかし焼ける魚から漂ってくる匂いには勝てるはずもない。
「美味そうだな」
トングで魚をひっくり返していると、話題をそらすようにクレイブがそう言葉にする。
「きっとおいしいよ」
フォレストテイルのメンバーはスープも作っていたようで、すぐ横を見れば大きな鍋がぐつぐつ煮えているのが見える。魚が焼ける以外の匂いも漂ってきた。
「そろそろできたかな?」
ティリィがかき回す鍋を覗き込みながら、マリンが鼻をひくひくさせながら匂いを嗅いでいる。
「そろそろいいんじゃねぇか?」
クレイブの一言で、出来上がった料理の配膳が始まった。
「ん?」
ちょうどそのとき、周囲の警戒をお願いしていた風の精霊のふうかが、何かの魔物が近づいてくることを感知して知らせてくれる。
何が出てくるのかそっちに視線を向けていると、スノウも気が付いたのか伏せていた状態から顔をあげて同じ方向に顔を向けた。
「どうした?」
私たちの様子に気が付いたクレイブが、スープの器を持って私に手渡しつつも聞いてくる。
「ありがとうございます。んーと、何か来るみたいです」
「は?」
私の言葉にハテナが飛びつつも、同じ方向に顔を向ける。しばらくして急に顔つきがまじめになったかと思うと、斥候のマリンとアイコンタクトを取る。
頷いたマリンが鞘から短剣を二本引き抜くと、ほかの皆も私の前に出て警戒態勢を取った。終焉の森が近いとはいえ街の近くの草原だ。そうそう手ごわい魔物が出るとも思えない。
でもそういえば最近、終焉の森の魔物が草原をうろついてるのが見つかったんだっけか。それを思えば私という足手まといがいると考えて、フォレストテイルの警戒具合もうなずけるかもしれない。
「来るぞ!」
そうしてクレイブの言葉と共に草原の向こう側から顔だけ出したのは、額に二本の角が生えた、茶色い毛で覆われた狐のような魔物だった。
うん、なんかどこかで見た記憶があるよね。
「くっ……!」
クレイブから苦悶の声が聞こえてくる。
それなりに手ごわい相手なのかもしれないけど、私からすると焼き魚の匂いに釣られて崖から落ちてくるような相手だ。
睨み合ったまま動かないフォレストテイルのメンバーではあるが、網の上に乗せられた魚はいい具合に火が通ってきている。このまま時間だけが過ぎても魚が焦げてしまうだけだ。かといって火を止めてこのまま睨み合いを続けたとしても、せっかく焼けた魚が冷めてしまう。
となればとる手段は一つしかない。一度成功もしているし、次もうまくいくだろう。
ちょうどいい具合に焼けたことを確認し、コンロの火を止めてトングで魚をつかむと二本の角が生えた魔物――ルナールに向かって歩き出す。
「あ、おい! 危ないぞ!?」
「アイリスちゃん!?」
クレイブの制止とマリンの悲鳴が聞こえるがきっと大丈夫。
「この子には前にも焼き魚をあげたことがあるから」
「……はぁ!?」
ルナールの視線はがっつりと魚に固定されていて、鼻をひくひくさせている。二メートルほど手前まで近づくと、ルナールの目の前に焼き魚を置いた。
「食べていいよ」
私と魚と交互に視線をやるルナールだったが、ゆっくりと近づいてくるとふんふんと魚の匂いを嗅ぐ。以前会った時ほど警戒心がなくなっているようで、しばらく匂いを嗅いでいたかと思ったらそのまま魚にかぶりついた。咥えてそのまま去っていくかと思いきや、その場でがつがつと平らげていく。
ちょっとだけ背中を撫でたくなったけど、警戒心の高い魔物らしいので何もせずにコンロの位置まで戻ってきた。
「あ、ごめんねスノウ」
戻ってきたところでスノウが悲しそうな表情をしており、ルナールにあげた魚はスノウ用だったことを思い出して素直に謝る。
「すぐに焼くから……」
鞄をもう一度漁ると、お肉の塊を取り出してスノウにあげる。
「焼けるまでこれで我慢して」
改めて魚を鞄からもう一匹取り出すと、網の上に乗せて塩を振って焼き始めた。
「よし」
「よし、じゃねぇよ!」
私にはクレイブたちが作ってくれているスープもあるし、あとは魚が焼けるのを待つだけだなと思っていると、間髪入れずにクレイブからツッコミが入るのだった。
0
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
転生先が同類ばっかりです!
羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。
35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。
彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。
……でも世の中そううまくはいかない。
この世界、問題がとんでもなく深刻です。
弟子に”賢者の石”発明の手柄を奪われ追放された錬金術師、田舎で工房を開きスローライフする~今更石の使い方が分からないと言われても知らない~
今川幸乃
ファンタジー
オルメイア魔法王国の宮廷錬金術師アルスは国内への魔物の侵入を阻む”賢者の石”という世紀の発明を完成させるが、弟子のクルトにその手柄を奪われてしまう。
さらにクルトは第一王女のエレナと結託し、アルスに濡れ衣を着せて国外へ追放する。
アルスは田舎の山中で工房を開きひっそりとスローライフを始めようとするが、攻めてきた魔物の軍勢を撃退したことで彼の噂を聞きつけた第三王女や魔王の娘などが次々とやってくるのだった。
一方、クルトは”賢者の石”を奪ったものの正しく扱うことが出来ず次第に石は暴走し、王国には次々と異変が起こる。エレナやクルトはアルスを追放したことを後悔するが、その時にはすでに事態は取り返しのつかないことになりつつあった。
※他サイト転載
ダンジョン・ホテルへようこそ! ダンジョンマスターとリゾート経営に乗り出します!
彩世幻夜
ファンタジー
異世界のダンジョンに転移してしまった、ホテル清掃員として働く24歳、♀。
ダンジョンマスターの食事係兼ダンジョンの改革責任者として奮闘します!
The Providence ー遭遇ー
hisaragi
ファンタジー
人類は異星人によって生み出された!
人類を作った生命体は、地球に危機が迫った時、脅威を排除できるような守護者が誕生するように、特殊なコードを遺伝子に書き込んでいた。
そして、その時は来た‥‥‥。遥に人類の科学力を超越した巨大な人工物が、地球に迫っていたのだ――。
ノベルアップ+様、Noveldays様、小説家になろう様掲載中
農民の少年は混沌竜と契約しました
アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた
少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された
これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる