上 下
26 / 81
第一章 神霊の森

第26話 精霊との契約

しおりを挟む
 そろそろ下位精霊たちとの付き合い方にも慣れてきた。
 つまり、わらわらと寄ってくる精霊たちを無視できるようになったのだ。いちいち対応していたらキリがないことを実感したとも言える。それでもいつも見かける精霊はじっくり見てしまうのは、まだ抜けきっていないのかもしれないけど。

「ああ、屋根があるって素晴らしい」

 そこには木の精霊魔術を使って作ってもらった屋根があった。四隅に木を配置して、それぞれの木の高所から中心に向かって細い枝をたくさん伸ばしてもらった。さらに葉っぱをたくさん生やしてもらえば屋根の完成だ。多少の雨では雨漏りしたりしない。

「こんなに心地いい魔力をもらえるなら、ボクなんでもするのねん」

 肩の上に立って、私の頬へとそっと体を寄せるかえで。
 なんでもするとか、危険なので私以外に言ったらダメだぞ。

『私も雨で濡れなくなったのでありがたいことだ』

 屋根は結構頑張ったと思う。

「うーん……。普通の魔術だったら、一つ上のレベルの魔術を使えばレベルが上がるって聞くけど、精霊魔術はどうなんだろう」

『精霊魔術以外であれば、レベルはその魔術の消費魔力で決まる。発動の難易度は関係ない』

「えっ? そうなの?」

 王宮で当時、私の魔術の講師をしていた人物から、それぞれの属性魔術のレベル表を見せてもらったことがある。単純にレベルいくつの魔術はこれとこれとこれ、と言った簡単な表だ。なぜその魔術はそのレベルなのかといった話は聞いたことがない。

『ああ。まれにスキルレベルよりも一つ上の魔術を放つ人間がいるが、魔力効率が極端にいいとそうなってしまう。逆にスキルレベルが固定されている魔術もある。レベル6以上の魔術に多く見られる傾向だ』

「ええええ、そんな仕組みになってるんだ……」

 まったくもって初耳な話ばかりだ。魔力効率がいい人っていうのも聞いたことがない。スキル関連は自身が持つことができなかったせいか、いろいろと本を読み漁って知識だけはある程度持っていると思い込んでいた。
 しかし口は悪いが、キースは腐っても古代文明時代の秘宝具アーティファクトということか。

『それともう一つ言えることだが』

「まだあるんだ」

『魔術スキルについては、レベルは1ずつ上げる必要はない』

「……どういうこと?」

『例えば、火魔術レベル2の人間がいたとして、いきなりレベル4に属するファイアランスを発動させることができれば、その人間の火魔術レベルは4と認定されるということだ』

「へぇ、そうなんだ」

 ファイアランスって言えば炎の槍を飛ばす魔術でしょ。でも火の矢を飛ばすレベル3のファイアアローをすっ飛ばして使おうと思う人自体がいないと思うんだよね。基本的にはレベルが上がれば発動難易度も上がるわけだし。

『それがどうしたという知識には違いないが、当時は無駄なことを研究したがる人種も少数だがいたのだよ』

 一瞬だけキースが遠い目をしたような気がしたが、当時の知り合いにそういう研究者でもいたんだろうか。
 それはともかく、各魔術による消費魔力もある程度わかっている。撃てるだけの魔力を持っていれば試してみたくなるのかもしれない。
 そういえば精霊魔術は消費魔力がよくわからないし、ステータス見ながら使ってみようかな。魔術スキルが軒並みレベル2になったからか、魔力が305になっていた。これはなかなかの数字じゃないだろうか。一般兵魔術士並みくらいの魔力はある。

『ちなみに精霊魔術だが、通常の魔術に比べて魔力効率はいいとされている。だが起こしたい現象に対応した精霊が近くにいない環境だとそもそも使えないし、精霊が少ない場合は消費魔力が増える』

「そうなんだ……。ちなみにレベルは?」

『……当時は高レベルの精霊術士がなかなかいなくてな。未だにどうやったら精霊魔術のスキルレベルが上がるのか、はっきりとは解明されていない』

 キースが言葉を濁しながらも教えてくれたが、古代文明でもわからないことがあるようだ。

『一説には契約した精霊の数だとか、精霊との親密度だとかという研究者もいたがな』

「けいやく?」

『当時、契約できた精霊術士がいた記録はない。精霊は捕獲すればだいたい誰でも使えたからな』

 そりゃそんな非人道的な行為がまかり通る時代だ。契約が具体的にどういうものなのかは知らないけど、なんとなく公にするのはやめておいたほうがよさそうな雰囲気はある。けど、契約か……。ちらりと肩の上のかえでへと視線を向けるとちょうど目が合った。

「どうかしたなのねん? もしかして、ボクと契約して精霊術師になりたいのねん?」

「えっ?」

『はっ?』

 思わずキースと声が重なる。
 精霊との契約について何か知ってることがあるかなと思って見ただけなんだけど、まさかの核心を突かれてしまった。知ってるどころか契約できそうですよ。
 しかし何も知らずに「はい」とは言えないのが契約である。

「えーっと、契約して精霊術師になると……、どうなるの?」

「……どう、なるのねん?」

 おっかなびっくりで聞いてみるも、かえでは首を傾げるだけだ。

『契約した人間や精霊に、何か変化は出るのか?』

「そういうことなのねん。ボク以外の精霊からもある程度認められるのねん。あとは精霊魔術が使いやすくなるのねん」

「デメリットはないの? 例えばなにかできなくなることがあるとか……」

「うーんと……、そういえば精霊の姿が常に見えるようになるのねん」

「うっ」

 今のところ目に魔力を集めないと精霊を見ることはできないんだけど、常に見えるってことは常に下位精霊まみれになりそうだな……。うーん。

『ふむ。これは未知の探求のためにもぜひ契約を結ぶべきだろう。実に興味深い』

 他人事な上に自分の趣味に走ってるぞコイツ……。

「うふふ、契約すればある程度下位精霊は言うことを聞いてくれるようになるのねん」

 そうなのか。そうであれば結構契約するメリットはありそうな気がするな。

「そういうことなら……、契約しようか」

「わかったのねん!」

「じゃあ――」

 どうやったら契約できるのかを聞こうとしたとき、神の声が聞こえてきた。

<精霊魔術スキルがレベル2からレベル3に上がりました>
<精霊魔術スキルがレベル3からレベル4に上がりました>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

僕は絶倫女子大生

五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。 大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。 異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。 そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

達也の女体化事件

愛莉
ファンタジー
21歳実家暮らしのf蘭大学生達也は、朝起きると、股間だけが女性化していて、、!子宮まで形成されていた!?

異界転生譚シールド・アンド・マジック

長串望
ファンタジー
 古槍 紙月(ふるやり しづき)二十二歳。男性。大学生。趣味は資格取得とMMORPG。そんなどこにでもいそうな経歴の持ち主である紙月は、ある日突然、見知らぬ世界で目覚めるや化け物に襲われることに。  MMO内の相棒であったMETOの助けもあり、ゲームの魔法を使って化け物を退ける紙月たち。どうやら彼らはゲームの体で異世界に飛ばされてしまったらしい。  一息ついてお互いを確認してみれば、紙月は女性キャラクターを使っていたからか女性……ではなくなんと女装していた。  そして相棒のMETOこと衛藤未来はなんと小学生。  女装ハイエルフとケモ耳小学生の凸凹コンビは、ファンタジーな異世界で冒険屋として生計を立てていくことになるが、そのデビューからチートなスキルで大物退治を繰り広げてしまい、一躍時の人に。  森の魔女と盾の騎士として有名になった二人は、ファンタジー世界を楽しみながら冒険を繰り広げていくことになる。  紙月は保護者精神を発揮し、未来は未来でひ弱な紙月を守ろうとする。  二人の間で揺れ動くキモチの行方とは。  女装ハイエルフママ男子とケモ耳小学生の異色の異世界ファンタジー冒険譚はどこへ向かうのか。 ハーメルンでも連載中!

処理中です...