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第一章 神霊の森
第24話 初めての精霊魔術
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そこからはもう早かった。
一週間もしないうちに、手足にも魔力を循環させることができるようになった。
そして今日、ようやく。
くろすけ――と心の中で勝手に呼んでいる黒い靄の精霊――の動きに連動するようにして、指先の先端まで行き渡らせた魔力を体外へと出すことに成功した。
「やった!」
「やったのねん!」
その瞬間に一斉に集まってくる精霊たち。ただし私が出した魔力を中心にして、離れて遠巻きに見ているだけだ。魔力は目に見えないし、出した魔力は時間経過とともに空気中にすぐに霧散していく。同時に集まっていた精霊たちも霧散していく。
『今一瞬だけ魔力反応が……』
キースが反応したようだけど、体の外に出た魔力は検出できるんだ。
自慢げに話してやろうかとも思ったけど、これくらいのことではまた鼻で笑われる可能性がある。むしろこれからが本番なので、それまでは黙っていよう。
「じゃあ次は、ここにある植物の花を咲かせて欲しいって願いを込めて、ボクに魔力を渡してみるのねん」
「わかった」
前にかえでが花を咲かせる様子は一度見ている。ああいうことをイメージして魔力を渡せばいいってことだろう。
「いくよ」
――お願い。いっぱい咲いて!
またもやくろすけの力を借りて魔力を外に出すと、かえでへと吸い込まれていくのがわかった。
「ああん! なのねん!」
急に艶っぽい言葉が漏れたかと思ったけど気のせいだった。かえではやっぱりかえでだ。
しかしその次の瞬間。
私を中心にして、目に見える範囲の草花が一斉に花を咲かせたのだ。
あまり視界の良くない森の中だけど、視線だけが通る場所はそれなりにある。数十メートルにわたって咲き誇った花に、私も言葉を失った。
<精霊魔術スキルがレベル1からレベル2に上がりました>
『な、なにごとだ!?』
真っ先に気が付いたのはキースだ。神の声も聞こえたのですぐに私がやったことに気付いたんだろう。
『まさか、こんなに早く習得するだと……?』
「あ、うん……。どうだ、すごいだろ! あたしだってがんばればこれくらいできるんだからな!」
我に返るとなんとか言葉を取り繕ってキースへと自慢する。
最初は失敗すること前提で、大げさに花が咲く想像をしてかえでに魔力を渡したんだけど……。失敗するどころかうまくいきすぎた。想像以上の結果になった。
近くにいたシュネーとスノウも立ち上がって、花の咲いた場所をポカンと見つめている。
「アイリスちゃん、すごいのねん! こんなに心地いい魔力は初めてなのねん!」
かえでは大興奮だ。いつもより五割増しくらいでくるくる回りながら、私の肩へと着地する。と同時に他の精霊たちも集まってきた。今までにないくらいの集まり具合なんだけどなんなんだ。
かえでが言った魔力が心地いいってのが伝わったのかな。
「他の子でもやってみるのねん! この子は水の精霊だから、水を作れるのねん」
そうしてかえでが差し出してきたのは、半透明な水色のぷにぷにした精霊だ。
「う、うん」
半強制な感じでスライムっぽい精霊を受け取ると、水が生み出される光景を想像する。たぶん水魔術で水を生成する様子と変わりはない気がする。王宮にいたときに見た水魔術を想像しながら、スライムっぽい精霊へと魔力を渡す。
栓が壊れた水瓶から水が流れ出るがごとく、スライムっぽい体から水がだばだばと流れてきた。魔力をもらった水の精霊が嬉しそうに体を震わせている。
「うわっ、すごい……」
あたり一帯水浸しになるまで放水を続けてようやく止まった。水の精霊の震えは止まったようだけど、興奮はしたままなのか不定形の体をしきりに伸ばしたり縮めたりしていた。
そのあともかえでの指示のもと、精霊魔術の行使が続けられた。
風を吹かせては地面に穴を掘り、暗闇を生み出しては光で照らし、雲を生み出してはそこから雨を降らせた。
大抵の自然現象に対応する精霊が存在する。それらの力を借りれば普通の魔術は不要で、精霊魔術だけあればいいような気もしてくる。
「思ってたより強力なんだけど、これが精霊魔術なのかな……」
『いや、それはアイリスがおかしい』
「なんだよそれ」
『私が知る精霊魔術はそれほど威力があるものではなかった』
「……どういうこと?」
またキースが余計な文句でも言ってくるのかと身構えたけど、思ってたのと違う反応が返ってきた。
『レベル2の精霊魔術は、レベル2の同系統魔術に毛が生えた程度の効果だったはずだ』
「ふーん?」
レベル2の魔術って、確か攻撃力ゼロって言われるほどだよね。火の魔術なら種火が灯る、風の魔術ならそよ風が少し吹く、水ならちょろちょろと水がコップ半分くらい、といった程度だ。
「お互い信頼していると、これくらいの効果が出るものなのねん」
そこにかえでが胸を張って私たちの精霊魔術について語る。
信頼と言えば確かにそれなりにあると思う。といってもかえでとは半年くらいの付き合いだし、下位精霊に至っては最近見えるようになったばかりだ。でも見えるようになったらなったで、今までずっと付き添ってたことがわかるようになったのだ。なんとも温かい気持ちになれた。
『やはりそれが重要なようだな。拘束し、半ば強制的に行使する精霊魔術はもはや精霊魔術とは呼べないということか』
冷静に分析しているようだが、ちょっと古代文明人は精霊に関していろいろと間違えてる気がしますよ?
一週間もしないうちに、手足にも魔力を循環させることができるようになった。
そして今日、ようやく。
くろすけ――と心の中で勝手に呼んでいる黒い靄の精霊――の動きに連動するようにして、指先の先端まで行き渡らせた魔力を体外へと出すことに成功した。
「やった!」
「やったのねん!」
その瞬間に一斉に集まってくる精霊たち。ただし私が出した魔力を中心にして、離れて遠巻きに見ているだけだ。魔力は目に見えないし、出した魔力は時間経過とともに空気中にすぐに霧散していく。同時に集まっていた精霊たちも霧散していく。
『今一瞬だけ魔力反応が……』
キースが反応したようだけど、体の外に出た魔力は検出できるんだ。
自慢げに話してやろうかとも思ったけど、これくらいのことではまた鼻で笑われる可能性がある。むしろこれからが本番なので、それまでは黙っていよう。
「じゃあ次は、ここにある植物の花を咲かせて欲しいって願いを込めて、ボクに魔力を渡してみるのねん」
「わかった」
前にかえでが花を咲かせる様子は一度見ている。ああいうことをイメージして魔力を渡せばいいってことだろう。
「いくよ」
――お願い。いっぱい咲いて!
またもやくろすけの力を借りて魔力を外に出すと、かえでへと吸い込まれていくのがわかった。
「ああん! なのねん!」
急に艶っぽい言葉が漏れたかと思ったけど気のせいだった。かえではやっぱりかえでだ。
しかしその次の瞬間。
私を中心にして、目に見える範囲の草花が一斉に花を咲かせたのだ。
あまり視界の良くない森の中だけど、視線だけが通る場所はそれなりにある。数十メートルにわたって咲き誇った花に、私も言葉を失った。
<精霊魔術スキルがレベル1からレベル2に上がりました>
『な、なにごとだ!?』
真っ先に気が付いたのはキースだ。神の声も聞こえたのですぐに私がやったことに気付いたんだろう。
『まさか、こんなに早く習得するだと……?』
「あ、うん……。どうだ、すごいだろ! あたしだってがんばればこれくらいできるんだからな!」
我に返るとなんとか言葉を取り繕ってキースへと自慢する。
最初は失敗すること前提で、大げさに花が咲く想像をしてかえでに魔力を渡したんだけど……。失敗するどころかうまくいきすぎた。想像以上の結果になった。
近くにいたシュネーとスノウも立ち上がって、花の咲いた場所をポカンと見つめている。
「アイリスちゃん、すごいのねん! こんなに心地いい魔力は初めてなのねん!」
かえでは大興奮だ。いつもより五割増しくらいでくるくる回りながら、私の肩へと着地する。と同時に他の精霊たちも集まってきた。今までにないくらいの集まり具合なんだけどなんなんだ。
かえでが言った魔力が心地いいってのが伝わったのかな。
「他の子でもやってみるのねん! この子は水の精霊だから、水を作れるのねん」
そうしてかえでが差し出してきたのは、半透明な水色のぷにぷにした精霊だ。
「う、うん」
半強制な感じでスライムっぽい精霊を受け取ると、水が生み出される光景を想像する。たぶん水魔術で水を生成する様子と変わりはない気がする。王宮にいたときに見た水魔術を想像しながら、スライムっぽい精霊へと魔力を渡す。
栓が壊れた水瓶から水が流れ出るがごとく、スライムっぽい体から水がだばだばと流れてきた。魔力をもらった水の精霊が嬉しそうに体を震わせている。
「うわっ、すごい……」
あたり一帯水浸しになるまで放水を続けてようやく止まった。水の精霊の震えは止まったようだけど、興奮はしたままなのか不定形の体をしきりに伸ばしたり縮めたりしていた。
そのあともかえでの指示のもと、精霊魔術の行使が続けられた。
風を吹かせては地面に穴を掘り、暗闇を生み出しては光で照らし、雲を生み出してはそこから雨を降らせた。
大抵の自然現象に対応する精霊が存在する。それらの力を借りれば普通の魔術は不要で、精霊魔術だけあればいいような気もしてくる。
「思ってたより強力なんだけど、これが精霊魔術なのかな……」
『いや、それはアイリスがおかしい』
「なんだよそれ」
『私が知る精霊魔術はそれほど威力があるものではなかった』
「……どういうこと?」
またキースが余計な文句でも言ってくるのかと身構えたけど、思ってたのと違う反応が返ってきた。
『レベル2の精霊魔術は、レベル2の同系統魔術に毛が生えた程度の効果だったはずだ』
「ふーん?」
レベル2の魔術って、確か攻撃力ゼロって言われるほどだよね。火の魔術なら種火が灯る、風の魔術ならそよ風が少し吹く、水ならちょろちょろと水がコップ半分くらい、といった程度だ。
「お互い信頼していると、これくらいの効果が出るものなのねん」
そこにかえでが胸を張って私たちの精霊魔術について語る。
信頼と言えば確かにそれなりにあると思う。といってもかえでとは半年くらいの付き合いだし、下位精霊に至っては最近見えるようになったばかりだ。でも見えるようになったらなったで、今までずっと付き添ってたことがわかるようになったのだ。なんとも温かい気持ちになれた。
『やはりそれが重要なようだな。拘束し、半ば強制的に行使する精霊魔術はもはや精霊魔術とは呼べないということか』
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