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第一章 神霊の森
第12話 王子の初料理
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ナイフで鹿肉を適当な大きさに切り分けると、フライパンに乗せて火をつける。そういえば調味料も何もないから、適当に焼くしかできないな。ちょっと楽しそうと思ったけどがっかりだった。
『塩でもあればいいんだが、ないものはしょうがない』
そうなのか。普段王宮で食べていた料理を思い出していたけど、いろいろなソースがかかっているものが多かった。
『そろそろひっくり返していいんじゃないか』
「え? ひっくり返すの?」
『当たり前だろう。片面だけ焦げるぞ』
キースの言葉で慌ててナイフで肉をひっくり返す。いい色に焼けていて焦げていないことに安心すると、キースを睨みつけた。
『まさか料理の「り」の字も知らないとは言わないよな』
そう返されると私としても何も言い返せない。料理などしたことないし、ましてや生きていたはずの鹿がこうして肉となるさまも初めて見たのだ。
『調理道具も一式持ってきたはずだ。肉などをひっくり返す道具も入ってると思うが』
「うっ……」
慌ててナイフでひっくり返したことを思い出して恥ずかしくなる。
『なんなら料理のやり方を道具の使い方から細かく教えてやらないでもないが』
空中に浮かぶ球体が、偉そうにふんぞり返っている姿を幻視してしまう。
「……じゃあおしえてくれ」
ぶっきらぼうに答えてしまったがそれも仕方がない。何しろキースが偉そうにしているのだから。
『んん~? 聞こえないなぁ。そこは「教えてください」だろう』
くそっ! コイツすげー腹立つな!
ニヤニヤと性格悪そうに笑ってる様子まで見えてきた。
だがしかし、今ここで教わっておかないと後で恥をかくのはきっと自分なのだ。王子であった自分は料理だけでなく、きっといろいろなことを知らないに違いない。ここはあふれ出る屈辱感に蓋をしてでも教えを乞うべきではないだろうか。
「……どうぞ、むちなあたくしめに料理のやりかたをおしえてください」
両ひざを地面に着けてDOGEZAの体勢を取る。
『そこまで卑屈にならんでもいいが』
ちょっとだけキースを引かせることに成功した私は、ちょっとだけ溜飲が下がるのだった。
「……あんまりおいしくない」
キースに手ほどきを受けて焼いた鹿肉は硬くて臭かった。
『血抜きをしてないからだろうな』
「ああ……」
もちろん血抜きについても教えてもらっていた私は、獲物を取ってきたシュネーをちらりと見る。野生の動物がわざわざ血抜きをするとは思えないので、キースの推測もきっと間違いではないだろう。
とはいえこのまま捨てるという選択肢もない。健康になるために、動物性たんぱく質とやらを摂取するために焼いた鹿肉なのだ。しっかり食べなければ。
「うぐ……」
何とか硬い肉を嚥下し終えると大きく息をつく。水筒を取り出すと水で口の中をすすぐように飲んでいく。
ちなみにこの水筒も時空の魔術がかかっていて、キースいわく十立方メートルも水が入るらしい。一立方メートルで千リットルというのだからすごい容量だ。
「せめて塩があれば……」
『さすがに森の中で塩を探すのは難しいな』
それは私でもわかる。海があればすぐに手に入るだろうけど、海がある方向もわからないし、きっと遠いだろう。
食べ終わった後は後片付けである。洗う必要のある道具をまた別の時空の鞄へと突っ込むと、小川へと向かう。後ろからスノウも興味深そうに付いてきた。
食器洗い洗剤も倉庫にあったので至れり尽くせりだ。これも口の悪いキース先生の指導の下、手早く終わらせる。
「うわっ」
そのとき、洗い物が終わったことを察知したスノウがじゃれついてきた。獲物を食べた後なので、口の周りがべったりと赤くなっている。
「あ、こら。口の周りが汚いなぁ」
なんとなく拒絶したのが伝わったのか、悲しそうなスノウ。
ごめんなさい。スノウが嫌なわけじゃないんだ。ちょっと口周りがね。
「スノウ。洗ってあげるからおいで」
声を掛けてスノウを呼ぶと嬉しそうに寄ってくる。
鞄から新しい布を取り出して川に浸けると、スノウの顔をぬぐっていく。
何をされているのか理解したのか、スノウがそのまま顔を川へと突っ込んで濡らして戻ってきた。
「ははっ」
思わず笑いながら顔をぬぐっていく。
「綺麗になったぞ。最後にもう一回水で洗おうか」
そう声を掛けるともう一度川へと顔を突っ込んでいく。同じように布を洗おうと川までいくと、スノウが水を吹き飛ばすべく私の隣で全身をブルブルと震わせた。
「わぷっ」
水を掛けられて顔を手で遮るがあまり効果はなかった。自分の体を見下ろすとびしょぬれになっている。
「あっははははは!」
思わず笑いがこぼれるが、よく見れば自分が体に巻き付けていた布も土や果汁やなんやらで汚れていた。
「よーし」
ついでとばかりに一気に脱ぐと、全裸になって布も洗ってしまう。すすぐだけですぐ汚れが取れた布に驚きつつも、小川の深い部分に頭を突っ込んで髪も洗った。
「あーすっきりした」
そのあともスノウと一緒に水遊びを続けていたが、体力の限界がすぐにきたのでもうおしまいだ。そして服代わりに着ていた布であったが、水を吸って重くなったせいで川の中から引き揚げられなくなっていたことをここに記しておく。
『アホか』
ふと聞こえたキースの声はスルーしておいた。
『塩でもあればいいんだが、ないものはしょうがない』
そうなのか。普段王宮で食べていた料理を思い出していたけど、いろいろなソースがかかっているものが多かった。
『そろそろひっくり返していいんじゃないか』
「え? ひっくり返すの?」
『当たり前だろう。片面だけ焦げるぞ』
キースの言葉で慌ててナイフで肉をひっくり返す。いい色に焼けていて焦げていないことに安心すると、キースを睨みつけた。
『まさか料理の「り」の字も知らないとは言わないよな』
そう返されると私としても何も言い返せない。料理などしたことないし、ましてや生きていたはずの鹿がこうして肉となるさまも初めて見たのだ。
『調理道具も一式持ってきたはずだ。肉などをひっくり返す道具も入ってると思うが』
「うっ……」
慌ててナイフでひっくり返したことを思い出して恥ずかしくなる。
『なんなら料理のやり方を道具の使い方から細かく教えてやらないでもないが』
空中に浮かぶ球体が、偉そうにふんぞり返っている姿を幻視してしまう。
「……じゃあおしえてくれ」
ぶっきらぼうに答えてしまったがそれも仕方がない。何しろキースが偉そうにしているのだから。
『んん~? 聞こえないなぁ。そこは「教えてください」だろう』
くそっ! コイツすげー腹立つな!
ニヤニヤと性格悪そうに笑ってる様子まで見えてきた。
だがしかし、今ここで教わっておかないと後で恥をかくのはきっと自分なのだ。王子であった自分は料理だけでなく、きっといろいろなことを知らないに違いない。ここはあふれ出る屈辱感に蓋をしてでも教えを乞うべきではないだろうか。
「……どうぞ、むちなあたくしめに料理のやりかたをおしえてください」
両ひざを地面に着けてDOGEZAの体勢を取る。
『そこまで卑屈にならんでもいいが』
ちょっとだけキースを引かせることに成功した私は、ちょっとだけ溜飲が下がるのだった。
「……あんまりおいしくない」
キースに手ほどきを受けて焼いた鹿肉は硬くて臭かった。
『血抜きをしてないからだろうな』
「ああ……」
もちろん血抜きについても教えてもらっていた私は、獲物を取ってきたシュネーをちらりと見る。野生の動物がわざわざ血抜きをするとは思えないので、キースの推測もきっと間違いではないだろう。
とはいえこのまま捨てるという選択肢もない。健康になるために、動物性たんぱく質とやらを摂取するために焼いた鹿肉なのだ。しっかり食べなければ。
「うぐ……」
何とか硬い肉を嚥下し終えると大きく息をつく。水筒を取り出すと水で口の中をすすぐように飲んでいく。
ちなみにこの水筒も時空の魔術がかかっていて、キースいわく十立方メートルも水が入るらしい。一立方メートルで千リットルというのだからすごい容量だ。
「せめて塩があれば……」
『さすがに森の中で塩を探すのは難しいな』
それは私でもわかる。海があればすぐに手に入るだろうけど、海がある方向もわからないし、きっと遠いだろう。
食べ終わった後は後片付けである。洗う必要のある道具をまた別の時空の鞄へと突っ込むと、小川へと向かう。後ろからスノウも興味深そうに付いてきた。
食器洗い洗剤も倉庫にあったので至れり尽くせりだ。これも口の悪いキース先生の指導の下、手早く終わらせる。
「うわっ」
そのとき、洗い物が終わったことを察知したスノウがじゃれついてきた。獲物を食べた後なので、口の周りがべったりと赤くなっている。
「あ、こら。口の周りが汚いなぁ」
なんとなく拒絶したのが伝わったのか、悲しそうなスノウ。
ごめんなさい。スノウが嫌なわけじゃないんだ。ちょっと口周りがね。
「スノウ。洗ってあげるからおいで」
声を掛けてスノウを呼ぶと嬉しそうに寄ってくる。
鞄から新しい布を取り出して川に浸けると、スノウの顔をぬぐっていく。
何をされているのか理解したのか、スノウがそのまま顔を川へと突っ込んで濡らして戻ってきた。
「ははっ」
思わず笑いながら顔をぬぐっていく。
「綺麗になったぞ。最後にもう一回水で洗おうか」
そう声を掛けるともう一度川へと顔を突っ込んでいく。同じように布を洗おうと川までいくと、スノウが水を吹き飛ばすべく私の隣で全身をブルブルと震わせた。
「わぷっ」
水を掛けられて顔を手で遮るがあまり効果はなかった。自分の体を見下ろすとびしょぬれになっている。
「あっははははは!」
思わず笑いがこぼれるが、よく見れば自分が体に巻き付けていた布も土や果汁やなんやらで汚れていた。
「よーし」
ついでとばかりに一気に脱ぐと、全裸になって布も洗ってしまう。すすぐだけですぐ汚れが取れた布に驚きつつも、小川の深い部分に頭を突っ込んで髪も洗った。
「あーすっきりした」
そのあともスノウと一緒に水遊びを続けていたが、体力の限界がすぐにきたのでもうおしまいだ。そして服代わりに着ていた布であったが、水を吸って重くなったせいで川の中から引き揚げられなくなっていたことをここに記しておく。
『アホか』
ふと聞こえたキースの声はスルーしておいた。
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