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第一章 神霊の森
第10話 名前を付けてみた
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翌朝になった。
ここは神霊の森の、ホワイトキングタイガーが縄張りにしているエリアにある小川らしい。元来た岩山がどこにあるのかわからないが、私が倒れてから子どものホワイトキングタイガーがここまで運んできてくれたとのことだ。
「ありがとう。本当にたすかったよ」
喉を撫でてあげるとグルグルと嬉しそうに目を細める。
その後ろにいる母虎も心なしか嬉しそうに見える。地面から三メートルくらいの位置にあるその顔は、子どもを微笑ましそうに見守っているようだ。
「とりあえず動けるようにはなったけど」
『動ける? そういうのは状態の栄養失調が消えてから言ってくれ』
「うぬぅ」
もう一度ステータスを確認してみるが、HPは回復したみたいだけど状態は栄養失調のままだった。このままだとちょっと歩いただけでまた力尽きそうだ。森の外に出るなんてできるわけがない。
「ところで、あたしが食べた果物はどこで見つけたの?」
じゃれついてくる子虎に聞いてみると、首を傾げた後に回れ右して歩き出す。つまり付いて来いということか。
「教えてくれるのかな」
『おそらくそうだろうが、ついていけるのか?』
「案内してくれるなら大丈夫じゃない?」
まったく根拠はないが、なんとなくいけそうな気がする。せっかく案内してくれるというのを断るのもなんだし、行けるところまでは行ってみたい。
にしても虎って肉食だったと思うんだけど、あの果物はやっぱり私を助けるためだけに取ってきたってことになるよな。
『やれやれ』
キースの言葉をスルーして、森の中を行く準備をする。ちゃんと回収されていたナイフを取り出して鞄を背負いなおし、気合を入れて足を進める。母虎が見守るようにしてその後ろからゆっくりとついてきた。
「……」
藪を切り分けながら黙々と森の中を進んで行く。そう、切り分けて進んで行く。
だんだん子虎と離されていくけど、子虎は気づかないまま先へと進んで行く。子虎が草をかき分けた跡はわかるのではぐれることはないと思うけど……。
「ガフゥ……」
ダメそうだと思い始めた頃、後ろの母虎からため息らしき鳴き声が聞こえてきた。と同時に襟元を咥えられて視界が高くなる。
『やはりだめだったか』
そして想定通りとでも言うようなキースの言葉も聞こえてきた。
『少し動けるようになったからと言って調子に乗らないことだな』
「ぜはー、ぜはー」
まったくもっておっしゃる通りでございます。動けるようになったとか口走って申し訳ございませんでした。
「だけど……、たいりょく、作りは、だいじだと、おもうんだ……」
『ふっ』
息も絶え絶えに答えると鼻で笑われた。
「くっ……、いまに、みてろよ……」
人が素直に反省してたというのになんという仕打ち。
母虎の口元でぶら下げられながら、キースにいつか一泡吹かせてやると胸に誓うのだった。
子虎のあとをついて行く母虎の高高度からの視界で森の中を観察する。広葉樹の広がるこの森は植生も豊かであるようだ。様々な植物が生い茂り、ちらほらと実を付けた樹木も散見される。ふと食べられないのかとも思うが、私には判断することができない。
母虎に咥えられてぶら下がること十分ほどすると、目的地へと到着した。
周囲から頭一つ抜けた高さのその果樹は、そこに一本だけあった。ちらほらと見える果実はどれも大ぶりで枝からぶら下がっている。ここからでも甘い匂いがただよってきており、他にも大小さまざまな動物が果実を狙って集まっているのが見える。
『ほう。やはり霊樹だったか』
「霊樹?」
『神霊の森の奥地に自生していると言われている木だな。今のアイリスにはちょうどいいはずだ』
「おくち……」
キースから何気なく知らされた事実に気持ちが急降下する。どうやら人里への道は険しそうだ。
『動物性たんぱく質の摂取も推奨するが、今すぐでなくてもいいだろう』
「たんぱく……なんだって?」
『動物性たんぱく質だ。無知なアイリスにもわかりやすく表現すると、肉を食えということだ』
「あぁそうですか」
これでも一応王子としてそれなりの教育は受けてきたつもりではあるけど、古代文明の知識については明るくないのだ。
「ガフガフッ」
木の手前にいた子虎が振り返って私たちを呼んでいる。
母虎がそっと地面に下ろしてくれたので、子虎へと近づいて首元を盛大にもふもふしてあげた。
「ありがとうな子虎」
なんとなく今まで心の中で呼んでいた呼称を口にすると、子虎に首を傾げられる。
「うーん。子虎と母虎って心の中で呼んでたけど、声に出すとやっぱり違和感あるなぁ。……名前ってあったりする?」
期待せずに問いかけるも、反対側に首を傾げられた。そりゃそうだよね。というか名前があったとしてもそれを知る方法もないし。他人のステータスは魔道具なしでは見れないのだ。
「でも名前がないのは不便だしなぁ……。つけてもいいかな?」
相変わらず首を傾げられるけど、私が勝手に呼ぶ分には問題ないかな?
「じゃあ子虎の名前はスノウで。母虎はシュネーって呼ぶね」
『ちゃんと反応してくれるといいがな』
「ソウダネ」
キースの無粋な返しに棒読みで返事を返したが、スノウは顔を寄せてじゃれついてきた。喜んでくれているといいな。
ここは神霊の森の、ホワイトキングタイガーが縄張りにしているエリアにある小川らしい。元来た岩山がどこにあるのかわからないが、私が倒れてから子どものホワイトキングタイガーがここまで運んできてくれたとのことだ。
「ありがとう。本当にたすかったよ」
喉を撫でてあげるとグルグルと嬉しそうに目を細める。
その後ろにいる母虎も心なしか嬉しそうに見える。地面から三メートルくらいの位置にあるその顔は、子どもを微笑ましそうに見守っているようだ。
「とりあえず動けるようにはなったけど」
『動ける? そういうのは状態の栄養失調が消えてから言ってくれ』
「うぬぅ」
もう一度ステータスを確認してみるが、HPは回復したみたいだけど状態は栄養失調のままだった。このままだとちょっと歩いただけでまた力尽きそうだ。森の外に出るなんてできるわけがない。
「ところで、あたしが食べた果物はどこで見つけたの?」
じゃれついてくる子虎に聞いてみると、首を傾げた後に回れ右して歩き出す。つまり付いて来いということか。
「教えてくれるのかな」
『おそらくそうだろうが、ついていけるのか?』
「案内してくれるなら大丈夫じゃない?」
まったく根拠はないが、なんとなくいけそうな気がする。せっかく案内してくれるというのを断るのもなんだし、行けるところまでは行ってみたい。
にしても虎って肉食だったと思うんだけど、あの果物はやっぱり私を助けるためだけに取ってきたってことになるよな。
『やれやれ』
キースの言葉をスルーして、森の中を行く準備をする。ちゃんと回収されていたナイフを取り出して鞄を背負いなおし、気合を入れて足を進める。母虎が見守るようにしてその後ろからゆっくりとついてきた。
「……」
藪を切り分けながら黙々と森の中を進んで行く。そう、切り分けて進んで行く。
だんだん子虎と離されていくけど、子虎は気づかないまま先へと進んで行く。子虎が草をかき分けた跡はわかるのではぐれることはないと思うけど……。
「ガフゥ……」
ダメそうだと思い始めた頃、後ろの母虎からため息らしき鳴き声が聞こえてきた。と同時に襟元を咥えられて視界が高くなる。
『やはりだめだったか』
そして想定通りとでも言うようなキースの言葉も聞こえてきた。
『少し動けるようになったからと言って調子に乗らないことだな』
「ぜはー、ぜはー」
まったくもっておっしゃる通りでございます。動けるようになったとか口走って申し訳ございませんでした。
「だけど……、たいりょく、作りは、だいじだと、おもうんだ……」
『ふっ』
息も絶え絶えに答えると鼻で笑われた。
「くっ……、いまに、みてろよ……」
人が素直に反省してたというのになんという仕打ち。
母虎の口元でぶら下げられながら、キースにいつか一泡吹かせてやると胸に誓うのだった。
子虎のあとをついて行く母虎の高高度からの視界で森の中を観察する。広葉樹の広がるこの森は植生も豊かであるようだ。様々な植物が生い茂り、ちらほらと実を付けた樹木も散見される。ふと食べられないのかとも思うが、私には判断することができない。
母虎に咥えられてぶら下がること十分ほどすると、目的地へと到着した。
周囲から頭一つ抜けた高さのその果樹は、そこに一本だけあった。ちらほらと見える果実はどれも大ぶりで枝からぶら下がっている。ここからでも甘い匂いがただよってきており、他にも大小さまざまな動物が果実を狙って集まっているのが見える。
『ほう。やはり霊樹だったか』
「霊樹?」
『神霊の森の奥地に自生していると言われている木だな。今のアイリスにはちょうどいいはずだ』
「おくち……」
キースから何気なく知らされた事実に気持ちが急降下する。どうやら人里への道は険しそうだ。
『動物性たんぱく質の摂取も推奨するが、今すぐでなくてもいいだろう』
「たんぱく……なんだって?」
『動物性たんぱく質だ。無知なアイリスにもわかりやすく表現すると、肉を食えということだ』
「あぁそうですか」
これでも一応王子としてそれなりの教育は受けてきたつもりではあるけど、古代文明の知識については明るくないのだ。
「ガフガフッ」
木の手前にいた子虎が振り返って私たちを呼んでいる。
母虎がそっと地面に下ろしてくれたので、子虎へと近づいて首元を盛大にもふもふしてあげた。
「ありがとうな子虎」
なんとなく今まで心の中で呼んでいた呼称を口にすると、子虎に首を傾げられる。
「うーん。子虎と母虎って心の中で呼んでたけど、声に出すとやっぱり違和感あるなぁ。……名前ってあったりする?」
期待せずに問いかけるも、反対側に首を傾げられた。そりゃそうだよね。というか名前があったとしてもそれを知る方法もないし。他人のステータスは魔道具なしでは見れないのだ。
「でも名前がないのは不便だしなぁ……。つけてもいいかな?」
相変わらず首を傾げられるけど、私が勝手に呼ぶ分には問題ないかな?
「じゃあ子虎の名前はスノウで。母虎はシュネーって呼ぶね」
『ちゃんと反応してくれるといいがな』
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