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プロローグ
第2話 古代遺跡の視察
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翌朝。
「いってらっしゃいませ」
朝早くから起きて準備を終えた私は、レイラに見送られて第二飛行場へと向かっていた。古代文明遺跡へ向かうための飛行船が準備されていると聞いている。が、来てみれば早朝すぎるのか人がほとんどいない。
「うーん、確かここから出るって聞いたんだけどな」
聞き間違いかとも思いながら周囲を見回していると、あまり顔を合わせたくない人物と遭遇してしまった。
「おや、サイラス殿下ではありませんか。おはようございます」
「……おはよう」
「今日は古代遺跡の視察でしたな。何も起こらないでしょうが、無事の御帰還をお祈りしております」
宰相のジェラルド・フィブリーンが、蔑んだ表情を隠そうともせずにそう告げてくる。最後にニヤリと口元を笑みの形に変えると、そのまま城の方へと去っていく。
「はぁ……、わざわざ嫌味でも言いに来たのかね……」
気分を落としながらも飛行場へと足を踏み入れると、小さ目の飛行船が一隻佇んでいた。その手前には見慣れない装備に身を包んだ四人組が待ち構えている。
疑問に思いながらも近づいていくと、四人組が姿勢を正し、先頭にいた一人が一歩踏み出してきた。
「護衛の任を賜りました、探索者パーティ『エクスプローラ』のリーダー、エリサスと申します」
「あ、あぁ、そうなのかい。よろしくお願いするよ」
いつものように騎士団員が数名就くのかと思っていたけど、探索者パーティがつくのか……。どういう態度を取ってくるかわからないが、敵意をむき出しにしてくる騎士よりはマシなのだろうか。
いろいろと疑問は尽きないが、これも自分の境遇のせいだと折り合いをつけて気にしないことにした。飛行船に乗って古代遺跡へと向かうことに変わりはないのだから。
ここはラルターク皇国皇都オルグレインから飛行船で半日ほどのところにある古代遺跡である。この世界には古代文明の遺跡がそこかしこに存在している。約二千年前に滅んだとされるその古代文明は高度な科学力を持っており、人々の生活に欠かせない物であったという。
点在している遺跡はほとんどが朽ちているのだが、稀に使用可能な道具が発掘されたり、さらには稼働可能な施設が発見されることもある。
今回乗ってきた飛行船なども発掘品の一つであり、現代の技術では一から作り上げることはできないが、整備やある程度の改造であればなんとかこなせる代物となっている。
「ここがドゥードー遺跡か……」
お昼前に到着したここは、半年前くらいに見つかった古代遺跡だった。一メートルくらいの草が生えているだけの草原にポツリと穴が空いており、地下へと下った先にその遺跡はある。
探索者たちが発見し探索され尽くした遺跡は、最後に国の視察を受けて遺跡の安全確認が行われる。
「はー、ちゃっちゃと終わらせて飲みに行こうぜー」
感慨深げに地下へと続く道を覗き込んでいると、遠くからそんな声が聞こえてきた。護衛である彼らではあるが、特に飛行船の中では接触をしていない。おかげで穏便に船旅ができたので探索者というのも悪くないかもしれない。
「では行くとしようか」
「おうよ」
昼食を済ませた後、私の掛け声で遺跡へと続く穴の中へと潜っていく。今となっては同行する者たちは護衛のみとなっており、身の回りの世話をしてくれる侍女なども同伴しなくなった。おかげで大抵のことは自分でできるようにはなったが、周りから徐々に人がいなくなるにつれ、ある種の不安が生まれる要因にもなっている。
「と言っても探索済みの遺跡だからな。特に魔物もいないって話だし、大丈夫だろ」
男四人の探索者パーティーと共に遺跡の中を進む。
中は横幅五メートルほどで、数人が並んで歩けるような広さがある。護衛の一人が光の魔術で照らした内部は、途中から明らかに人工物といった様相を呈していた。まっ平に整えられた床と壁と天井が奥まで続いている。
途中いくつか部屋があったが、扉はついておらず中に何もないようで素通りして奥へと進んで行く。
「何もないな」
「そりゃ探索済みだからな」
探索者たちの会話を聞きながらもいくつか階段を降り、数階層下までたどり着いたときに行き止まりの部屋へと到達した。
「ここが最奥か?」
「ええ、そうみたいですね」
思わずこぼれた言葉に返事が返ってくる。
部屋を見回せば、ベッドのような大きさの高さ50センチくらいの台が四つほど。古代遺跡には似つかわしくないクローゼットがいくつか。そして部屋の隅に高さ1メートルほどの柵で囲まれた、2メートル四方ほどの大穴があった。
「古代遺跡とは聞いていたが、このクローゼットは綺麗だな」
まったく朽ちた様子を見せないクローゼットの扉を開けてみるが、何も入っていない。
「当時は当たりの遺跡だったと聞いていますね。いくつか魔道具も発掘されたとかで」
「そうなのか」
部屋の隅にある穴も覗き込んでみるが、すぐに底が見えた。本当に何もないらしい。
「……これで私の任務も終わりかな」
「ええ、そうですね。……永遠にね」
その言葉を聞いたとき、腹部が熱を持つ。
「えっ?」
疑問に思って自身を見下ろすと、腹部から剣が生えている。
「じゃあな。サイラス殿下」
別れの言葉と共に剣が引き抜かれ、後ろから蹴り込まれて穴の中へと落下していく。すぐに底に着くと思っていたが、いつまでたっても落下は終わらなかった。覗き込んだ時に見えていた穴の底は幻影だったのだろうか。
「かはっ」
血を吐き出しながらも落下の勢いに任せていると、ようやく地面にたどり着いた。激しく全身を打ち付け、意識が朦朧としてくる。
ふと脳裏に宰相のいやらしい表情が浮かび上がったあと、意識を失った。
『………………855605番目の廃棄物ヲ確認。……人型でアることヲ確認。……10854番目の被検体ト認定しマす』
「いってらっしゃいませ」
朝早くから起きて準備を終えた私は、レイラに見送られて第二飛行場へと向かっていた。古代文明遺跡へ向かうための飛行船が準備されていると聞いている。が、来てみれば早朝すぎるのか人がほとんどいない。
「うーん、確かここから出るって聞いたんだけどな」
聞き間違いかとも思いながら周囲を見回していると、あまり顔を合わせたくない人物と遭遇してしまった。
「おや、サイラス殿下ではありませんか。おはようございます」
「……おはよう」
「今日は古代遺跡の視察でしたな。何も起こらないでしょうが、無事の御帰還をお祈りしております」
宰相のジェラルド・フィブリーンが、蔑んだ表情を隠そうともせずにそう告げてくる。最後にニヤリと口元を笑みの形に変えると、そのまま城の方へと去っていく。
「はぁ……、わざわざ嫌味でも言いに来たのかね……」
気分を落としながらも飛行場へと足を踏み入れると、小さ目の飛行船が一隻佇んでいた。その手前には見慣れない装備に身を包んだ四人組が待ち構えている。
疑問に思いながらも近づいていくと、四人組が姿勢を正し、先頭にいた一人が一歩踏み出してきた。
「護衛の任を賜りました、探索者パーティ『エクスプローラ』のリーダー、エリサスと申します」
「あ、あぁ、そうなのかい。よろしくお願いするよ」
いつものように騎士団員が数名就くのかと思っていたけど、探索者パーティがつくのか……。どういう態度を取ってくるかわからないが、敵意をむき出しにしてくる騎士よりはマシなのだろうか。
いろいろと疑問は尽きないが、これも自分の境遇のせいだと折り合いをつけて気にしないことにした。飛行船に乗って古代遺跡へと向かうことに変わりはないのだから。
ここはラルターク皇国皇都オルグレインから飛行船で半日ほどのところにある古代遺跡である。この世界には古代文明の遺跡がそこかしこに存在している。約二千年前に滅んだとされるその古代文明は高度な科学力を持っており、人々の生活に欠かせない物であったという。
点在している遺跡はほとんどが朽ちているのだが、稀に使用可能な道具が発掘されたり、さらには稼働可能な施設が発見されることもある。
今回乗ってきた飛行船なども発掘品の一つであり、現代の技術では一から作り上げることはできないが、整備やある程度の改造であればなんとかこなせる代物となっている。
「ここがドゥードー遺跡か……」
お昼前に到着したここは、半年前くらいに見つかった古代遺跡だった。一メートルくらいの草が生えているだけの草原にポツリと穴が空いており、地下へと下った先にその遺跡はある。
探索者たちが発見し探索され尽くした遺跡は、最後に国の視察を受けて遺跡の安全確認が行われる。
「はー、ちゃっちゃと終わらせて飲みに行こうぜー」
感慨深げに地下へと続く道を覗き込んでいると、遠くからそんな声が聞こえてきた。護衛である彼らではあるが、特に飛行船の中では接触をしていない。おかげで穏便に船旅ができたので探索者というのも悪くないかもしれない。
「では行くとしようか」
「おうよ」
昼食を済ませた後、私の掛け声で遺跡へと続く穴の中へと潜っていく。今となっては同行する者たちは護衛のみとなっており、身の回りの世話をしてくれる侍女なども同伴しなくなった。おかげで大抵のことは自分でできるようにはなったが、周りから徐々に人がいなくなるにつれ、ある種の不安が生まれる要因にもなっている。
「と言っても探索済みの遺跡だからな。特に魔物もいないって話だし、大丈夫だろ」
男四人の探索者パーティーと共に遺跡の中を進む。
中は横幅五メートルほどで、数人が並んで歩けるような広さがある。護衛の一人が光の魔術で照らした内部は、途中から明らかに人工物といった様相を呈していた。まっ平に整えられた床と壁と天井が奥まで続いている。
途中いくつか部屋があったが、扉はついておらず中に何もないようで素通りして奥へと進んで行く。
「何もないな」
「そりゃ探索済みだからな」
探索者たちの会話を聞きながらもいくつか階段を降り、数階層下までたどり着いたときに行き止まりの部屋へと到達した。
「ここが最奥か?」
「ええ、そうみたいですね」
思わずこぼれた言葉に返事が返ってくる。
部屋を見回せば、ベッドのような大きさの高さ50センチくらいの台が四つほど。古代遺跡には似つかわしくないクローゼットがいくつか。そして部屋の隅に高さ1メートルほどの柵で囲まれた、2メートル四方ほどの大穴があった。
「古代遺跡とは聞いていたが、このクローゼットは綺麗だな」
まったく朽ちた様子を見せないクローゼットの扉を開けてみるが、何も入っていない。
「当時は当たりの遺跡だったと聞いていますね。いくつか魔道具も発掘されたとかで」
「そうなのか」
部屋の隅にある穴も覗き込んでみるが、すぐに底が見えた。本当に何もないらしい。
「……これで私の任務も終わりかな」
「ええ、そうですね。……永遠にね」
その言葉を聞いたとき、腹部が熱を持つ。
「えっ?」
疑問に思って自身を見下ろすと、腹部から剣が生えている。
「じゃあな。サイラス殿下」
別れの言葉と共に剣が引き抜かれ、後ろから蹴り込まれて穴の中へと落下していく。すぐに底に着くと思っていたが、いつまでたっても落下は終わらなかった。覗き込んだ時に見えていた穴の底は幻影だったのだろうか。
「かはっ」
血を吐き出しながらも落下の勢いに任せていると、ようやく地面にたどり着いた。激しく全身を打ち付け、意識が朦朧としてくる。
ふと脳裏に宰相のいやらしい表情が浮かび上がったあと、意識を失った。
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