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プロローグ

第1話 サイラス・アレイン・ラルターク

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<剣術スキルがレベル1からレベル2に上がりました>

 日課にしている剣術の訓練中、久しく聞いていなかった神の声が頭の中に響いてきた。長い間聞くことがなさ過ぎて諦めの境地にも達していたが、実際に声を聞くと嬉しいものである。

 =====
 ステータス:
  名前:サイラス・アレイン・ラルターク
  種族:人族
  レベル:12
  年齢:31
  性別:男
  状態:正常
  HP:167/167
  SP:15/35
  MP:2/2

 物理スキル:
  剣術(2)
 =====

 久々にステータスを開くと、確かに剣術がレベル2になっている。SPの数値は定型通り20増えたが、消費して発動する武技アーツは習得していないので、悲しくはあるが問題ない。

「ふう」

「どうかされましたか、サイラス殿下」

 スキルのレベルアップの余韻と共に一息ついていると、いつも訓練に付き合ってくれる近衛騎士のウォルターが声を掛けてきた。
 殿下と呼ばれた通り、私はこの国の王子という肩書を持っている。といっても才能のかけらもない落ちこぼれの第五王子だ。ここまでくれば次期国王の予備の予備にもならず、ただの無駄飯食らい扱いをされているだけの人間だ。王宮内には面と向かって言ってくる者はほぼいないが、態度に出る人間はそこそこいる。
 だからなのかもしれないが、三十一にもなって嫁どころか婚約者の一人もいない独身の身であった。

「いや……、剣術スキルがレベル2になったみたいだ」

 言うまいかどうか悩んだが、ウォルターはこんな私の剣術訓練にも付き合ってくれる珍しい人間でもある。せっかくなので伝えることにした。

「ほ、本当ですか!? やりましたね! 今までしてきたことは無駄ではなかったんですよ!」

 自分のことのように喜びを表現してくれると伝えてよかったと思うが、私としてもここまで付き合ってくれたウォルターの努力が無駄にならずに済んだとホッと胸をなでおろす。

「ああ、ありがとう。これもウォルターのおかげだよ」

「いえ、これも殿下の努力の賜物かと」

 真面目に返すウォルターに苦笑が漏れるが、上がったといってもたかがレベル2だ。程度で言えば初心者が初級者になったくらいの進歩しかない。軍の兵士としてみれば一般兵にも劣るレベルなのだ。近衛騎士のウォルターともなればレベル5はあるだろう。

「はは、まぁがんばるよ」

 一概にレベルがすべてとは言えないが、基本的に低レベルは上位レベルには敵わないようになっている。

「きりがいいから今日はこれで終わろうか」

「はい。承知いたしました」

「またよろしく頼む」

 終わりの言葉と共に跪いて丁寧に礼を返すウォルターを見送ると、王宮の離れの自室へと足を向ける。訓練場から離宮へと向かう道中ですれ違う人はほぼ存在しない。いたとしても私など存在しないかのように無視をしてすれ違うだけだ。王宮の……、いやこの国の人間にとって、私はすでに王族ではないという扱いなのだろう。
 私だって許されるのであれば、このような場所からはとっとと逃げ出してのんびりと過ごしたいものだ。

「おかえりなさいませ」

 部屋へと戻ると、私の専属である侍女がきっちりと腰を折り迎えてくれる。

「ただいま。聞いてよレイラ。今日は剣術のスキルレベルが上がったよ」

「…………本当ですか!? すごいです、サイラス様!」

 何気ない口調で教えてあげると、顔を上げた後の表情に徐々に驚きが広がっていき、爆発したかのように満面の笑みに変わる。

「ああ。まだまだ私の努力も捨てたものじゃないね」

 心にもないことを口にしながら、訓練用に身に付けていた軽鎧を外していく。

「当たり前じゃないですか! サイラス様はまだまだこれからなんですから!」

 当然と言った様子のレイラに苦笑しつつ、軽鎧を外し終えて軽く全身をほぐしていく。これほど周囲から疎まれている私をそこまで信じられる理由がよく理解できないが、それでも王宮にはウォルターを始め、私の味方は少数ながら存在するのだ。
 それが逃げ出さない理由なのだと言い聞かせてはみるが、本当はわかっている。自分の身一つで生きていける自信がないからだ。お金の稼ぎ方ひとつ知らない王宮育ちの自分に、外で生活などできるはずもない。

「でも今日はゆっくりと休んでくださいね」

「わかってるさ」

 そう、明日は表向き重要な任務があるのだ。
 古代遺跡の視察という名の、嫌がらせ・・・・だ。

 古代遺跡とは言いつつも、視察をするのは探索者が完全に攻略を済ませた遺跡なので危険はない。遠出する公務として、未成年の王族が初めて遣わされる行事としてよく使われる。それに私がわざわざあてがわれているというわけだ。
 もちろんそんなものに付き合わされる護衛の者たちに、数少ない私の味方と言われる者が選抜されるはずもなく。非常に気まずい公務になることは間違いなしだ。

「万が一があっては困るからな」

「そうですよ。ご自分を大事になさってくださいね」

 恐らくレイラは、夜更かしなんてしたら明日が辛いですよ、くらいにしか思っていないはずだ。私の境遇を思えば嫌味とも取れるが、これが素なので仕方がない。そう考えればレイラとは肩の力を抜いて接することができる、数少ない人種だ。

「ははっ」

 レイラと話していると落ち着いては来るが、明日のことを思うと乾いた笑いしか出い。しかし少なくとも、一人で鬱々と明日が来るのを待つよりはマシだと思う。

「じゃあレイラには明日の準備をお願いするよ」

「畏まりました!」

 私のお願いに満面の笑みが返ってきた。
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