79 / 81
佳織がいないとダメなんだ
しおりを挟む
どうしてこうなった。
佳織をからかっていただけのはずなのに、なんで俺は佳織にキスまでしてしまったんだろうか。雰囲気に流されたと言えばそれまでだが。
ひとまず顔に出ないように動揺を必死に押し殺す。
そもそも佳織の唇がすごく柔らかそうに見えたのが原因か。実際すごく柔らかかったです。
いやそんなことはどうでもいい。
「圭一……」
切なさを感じさせるかすれた、だがしっかりと熱を持った声で呼びかけられる。一歩二歩とこちらに近づいてくるが、どう反応していいか迷っているうちに捕捉されてしまう。
しっかりと両手を背中に回されて抱きしめられたのだ。首元に顔をうずめられているため、佳織の表情を伺うことはできない。が、その体は微妙に震えているような気がする。
マジで何やってんだ俺は。いくら佳織が可愛く見えたからって、そりゃねぇわ。自分で自分にドン引きだ。
佳織に今まで彼氏がいたとかいう話は聞いたことがないから、おそらくファーストキスだったんじゃないかと思う。それがこれだよ。いや女同士ならノーカンとか? ってそれは佳織が判断することであって俺じゃないしなぁ……。
「あー、佳織……。その、ごめん」
もしかして泣いているのかもしれないと思って謝罪するも、しっかりと首を左右に振って否定する佳織。そしてますます力を入れて俺を抱きしめてくる。
「……どうして謝るの?」
理由がわからずに困惑していると、耳元から佳織の小さい声が聞こえてきた。俺がやらかしたんだから謝るのは当たり前だと思うんだが。いつもなら「何すんのよ!」と激しく責めるところじゃないのか?
「嬉しかったんだから……。謝らないで」
どう答えていいかわからない俺に、佳織が言葉を重ねてくる。
「えっ?」
……嬉しかった?
俺にキスされて?
なんで?
「あたしは、圭一のことが好きなんだから……。嬉しかったのよ」
はい? 今なんと?
佳織は俺のことが……好き?
えっ?
「だから圭一」
抱きしめていた両腕を緩めて俺を解放すると、俺の両肩に手を置いてまっすぐに見つめてくる。その表情は泣き笑いのように見えて、心が苦しくなってきた。
「あたしは圭一の味方だから。安心して?」
諭すように掛けられた言葉が、自分の中へとすとんと入ってくる。
佳織は俺の味方。
佳織は俺のことが……好き。
「そっか……」
まだ頭の中が整理しきれず、なんとか絞り出せた言葉がこれだけだった。
でもはっきりしていることはある。
「ありがとう」
佳織と一緒にいると俺は安心するということだ。
「やっぱ俺は佳織がいないとダメみたいだ」
今度は自分から近づくと、佳織を力いっぱい抱きしめた。
「圭ちゃん、大丈夫?」
昼休みにいつものように四人でお昼を食べ終わったあと、静に声を掛けられた。そんなに顔色悪いのか……。佳織にも即バレたしなぁ。だが睡眠不足なだけで、精神的な不安はさっぱりなくなっている。これも佳織のおかげだ。
「あー、大丈夫。ただの寝不足だから」
ちらりと向かいに座る佳織に視線を向けると、少し頬を染めてぎこちない笑みを浮かべている。
「そう? それならいいけど……」
あのあと電車に乗って学校まですげー気まずかった。我に返って恥ずかしかったのは佳織も一緒だろう。学校に着くまではお互いに顔が見れなかった。
昼休みになって俺は慣れてきたが、佳織はまだみたいだな。
「……佳織ちゃんは何かあったの?」
「えっ? ……別に何もないよ?」
千亜季が気になって首をかしげているが、佳織の挙動が不審だ。
「ほほぅ、何かあったわけですな」
何かを察した静はキュピーンと目を光らせている。
「だ、だから、何もないってば……!」
ちらちらと俺に視線を向けながら必死に否定しているが、その反応はむしろ逆効果だろ。ある意味ではいつも通りの佳織とも言えるが。
「ほれほれ、何があったのかキリキリ白状してみなさい」
しかしこのままだと無関係とはいえない俺にもとばっちりがきそうだな……。なんとかしないと。
……しかし腹が膨れたからかすげー眠いな。
「圭ちゃんは佳織ちゃんに何かあったか知らない?」
「ふへっ?」
眠気で鈍る頭をフル回転させていたところだったからか、変な声が出てしまった。やばい、これはマジで眠い……。これは昼寝をするべきではなかろうか。いやしかし、とばっちりがこっちに来ないように……。
って寝てしまえば来ないのでは? むしろ佳織に全部押し付ければいいのでは。そうすれば昼寝もできて一石二鳥ではないか。
「あぁ、ちょっとね……」
佳織をちらちらみながら勿体を付けて言葉を切ると、顔を赤くした佳織の百面相が見られた。遮ったら何かあったと自爆するもんだし、かといって話されるとバレるというどうしようもない状態だ。
「『佳織がいないと俺は生きていけない』みたいなことを言ったらこうなった。……ふわぁ」
あくび交じりで冗談っぽく聞こえるように言うと、そのまま昼寝をするべく机に突っ伏す。
「あ、ちょっと、圭一! なに寝ようとしてるのよ!?」
「ふおぉぉ! やったね佳織ちゃん!」
「ほほぅ……。で、佳織はなんて返したの?」
俺を起こそうと肩を揺する佳織に、興奮して歓喜する千亜季。静は面白がるように佳織を問い詰めている。
「えぇっ!? いや……、えっと……」
通学時の会話は俺のその言葉が最後だったため、もちろん佳織からの返答など聞いていない。矛先が佳織へと向き、しどろもどろになったためか睡眠妨害もなくなっている。これ幸いにと心地よい眠気に誘われるように、俺の意識は落ちていった。
佳織をからかっていただけのはずなのに、なんで俺は佳織にキスまでしてしまったんだろうか。雰囲気に流されたと言えばそれまでだが。
ひとまず顔に出ないように動揺を必死に押し殺す。
そもそも佳織の唇がすごく柔らかそうに見えたのが原因か。実際すごく柔らかかったです。
いやそんなことはどうでもいい。
「圭一……」
切なさを感じさせるかすれた、だがしっかりと熱を持った声で呼びかけられる。一歩二歩とこちらに近づいてくるが、どう反応していいか迷っているうちに捕捉されてしまう。
しっかりと両手を背中に回されて抱きしめられたのだ。首元に顔をうずめられているため、佳織の表情を伺うことはできない。が、その体は微妙に震えているような気がする。
マジで何やってんだ俺は。いくら佳織が可愛く見えたからって、そりゃねぇわ。自分で自分にドン引きだ。
佳織に今まで彼氏がいたとかいう話は聞いたことがないから、おそらくファーストキスだったんじゃないかと思う。それがこれだよ。いや女同士ならノーカンとか? ってそれは佳織が判断することであって俺じゃないしなぁ……。
「あー、佳織……。その、ごめん」
もしかして泣いているのかもしれないと思って謝罪するも、しっかりと首を左右に振って否定する佳織。そしてますます力を入れて俺を抱きしめてくる。
「……どうして謝るの?」
理由がわからずに困惑していると、耳元から佳織の小さい声が聞こえてきた。俺がやらかしたんだから謝るのは当たり前だと思うんだが。いつもなら「何すんのよ!」と激しく責めるところじゃないのか?
「嬉しかったんだから……。謝らないで」
どう答えていいかわからない俺に、佳織が言葉を重ねてくる。
「えっ?」
……嬉しかった?
俺にキスされて?
なんで?
「あたしは、圭一のことが好きなんだから……。嬉しかったのよ」
はい? 今なんと?
佳織は俺のことが……好き?
えっ?
「だから圭一」
抱きしめていた両腕を緩めて俺を解放すると、俺の両肩に手を置いてまっすぐに見つめてくる。その表情は泣き笑いのように見えて、心が苦しくなってきた。
「あたしは圭一の味方だから。安心して?」
諭すように掛けられた言葉が、自分の中へとすとんと入ってくる。
佳織は俺の味方。
佳織は俺のことが……好き。
「そっか……」
まだ頭の中が整理しきれず、なんとか絞り出せた言葉がこれだけだった。
でもはっきりしていることはある。
「ありがとう」
佳織と一緒にいると俺は安心するということだ。
「やっぱ俺は佳織がいないとダメみたいだ」
今度は自分から近づくと、佳織を力いっぱい抱きしめた。
「圭ちゃん、大丈夫?」
昼休みにいつものように四人でお昼を食べ終わったあと、静に声を掛けられた。そんなに顔色悪いのか……。佳織にも即バレたしなぁ。だが睡眠不足なだけで、精神的な不安はさっぱりなくなっている。これも佳織のおかげだ。
「あー、大丈夫。ただの寝不足だから」
ちらりと向かいに座る佳織に視線を向けると、少し頬を染めてぎこちない笑みを浮かべている。
「そう? それならいいけど……」
あのあと電車に乗って学校まですげー気まずかった。我に返って恥ずかしかったのは佳織も一緒だろう。学校に着くまではお互いに顔が見れなかった。
昼休みになって俺は慣れてきたが、佳織はまだみたいだな。
「……佳織ちゃんは何かあったの?」
「えっ? ……別に何もないよ?」
千亜季が気になって首をかしげているが、佳織の挙動が不審だ。
「ほほぅ、何かあったわけですな」
何かを察した静はキュピーンと目を光らせている。
「だ、だから、何もないってば……!」
ちらちらと俺に視線を向けながら必死に否定しているが、その反応はむしろ逆効果だろ。ある意味ではいつも通りの佳織とも言えるが。
「ほれほれ、何があったのかキリキリ白状してみなさい」
しかしこのままだと無関係とはいえない俺にもとばっちりがきそうだな……。なんとかしないと。
……しかし腹が膨れたからかすげー眠いな。
「圭ちゃんは佳織ちゃんに何かあったか知らない?」
「ふへっ?」
眠気で鈍る頭をフル回転させていたところだったからか、変な声が出てしまった。やばい、これはマジで眠い……。これは昼寝をするべきではなかろうか。いやしかし、とばっちりがこっちに来ないように……。
って寝てしまえば来ないのでは? むしろ佳織に全部押し付ければいいのでは。そうすれば昼寝もできて一石二鳥ではないか。
「あぁ、ちょっとね……」
佳織をちらちらみながら勿体を付けて言葉を切ると、顔を赤くした佳織の百面相が見られた。遮ったら何かあったと自爆するもんだし、かといって話されるとバレるというどうしようもない状態だ。
「『佳織がいないと俺は生きていけない』みたいなことを言ったらこうなった。……ふわぁ」
あくび交じりで冗談っぽく聞こえるように言うと、そのまま昼寝をするべく机に突っ伏す。
「あ、ちょっと、圭一! なに寝ようとしてるのよ!?」
「ふおぉぉ! やったね佳織ちゃん!」
「ほほぅ……。で、佳織はなんて返したの?」
俺を起こそうと肩を揺する佳織に、興奮して歓喜する千亜季。静は面白がるように佳織を問い詰めている。
「えぇっ!? いや……、えっと……」
通学時の会話は俺のその言葉が最後だったため、もちろん佳織からの返答など聞いていない。矛先が佳織へと向き、しどろもどろになったためか睡眠妨害もなくなっている。これ幸いにと心地よい眠気に誘われるように、俺の意識は落ちていった。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした
恋狸
青春
特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。
しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?
さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?
主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!
小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
カクヨムにて、月間3位
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる