69 / 81
男は三人もいませんよ
しおりを挟む
「なんかもうずっと見られてる気がするんだけど、なんだろうな……」
なんとか六人席を確保したフードコートで、お昼ご飯を食べながら祐平が不平を漏らしている。
「そりゃまぁ、祐平が目立つからじゃねぇの?」
六人席で一人だけ頭一つ分背が高いのだ。もちろんそれが一番目立つ理由じゃないんだが、本人は気づいていないのか。
「そうかぁ? 別にいつも通りで変なとこはないと思うんだが……」
まぁそうだな……。いつも通りじゃないのはむしろ祐平の周りだから。変なところがないか自分自身を見下ろしてるみたいだが、そうじゃないんだよ。
改めてこの六人席を見回してみる。端には俺が座っていて、その隣に祐平、拓也と続く。向かいの席は俺の前に佳織がいて、静、千亜季の順だ。祐平が注目される理由がわかったのか、静は笑いをこらえるように口元を手で覆っている。
「あははは!」
だがとうとう抑えきれなくなったようだ。
「な、なんだよ……」
おなかを押さえながら爆笑する静に、祐平も若干引き気味だ。
「いやだって……、別に祐平くん自身は何もおかしいところなんてないんだよ」
「えぇ……?」
自分のことを確認していた祐平が、まさに自分の行動を指摘されてちょっと恥ずかしそうにしている。
「じゃあなんで俺が……」
「えー、だって祐平くんの周りって、女子しかいないじゃない?」
「……はぁ?」
意味が分からんとばかりに首をかしげる祐平だが、俺は静の意見に同意だ。
「すごくハーレムに見えるよね」
「ぶふっ」
ハーレムという言葉に思わず吹いてしまった。口の中にご飯が入ってなくてよかった……。
「ちょっと待ってよ。……それってオレ、男として数えられてないよね?」
拓也が異議を申し立てるが、それは俺たちに注目する人間に主張して欲しい。少なくとも周囲にいる祐平を睨みつける男どもは、一人ハーレムだと思ってるんだから。
「いやいやいや……」
拓也の言葉でようやく理解したんだろう。なんとか否定の言葉を出そうとするが続きはすぐに出てこない。
「だってほら……、いち、に、さん……」
思いついたように順番に拓也、自分、俺と指さしていく祐平。だが俺に視線を止めたまま固まり、目を見開いていく。いったい何を三人分数えてたんだ。なんとなく想像はつくが、さすがにそこまで祐平はアホじゃないと思うんだ。
いやでも、男が足りないと言って拓也を連れてくる祐平のことだ。こいつが男と判断する基準は、実はけっこう女子寄りなんじゃ――
「三対三じゃなかった!?」
「当たり前だろ!」
思ったよりアホだった。
思考をぶった切って反射でツッコんでしまった。どう見ても男女比三対三じゃねぇだろ。拓也でさえ女子に見えるってのに、俺が男子に見える要素なんてこれっぽっちも存在しねぇよ!
「どういうこと!?」
俺の言葉に拓也の声が続く。三人目がなんで俺なのかという疑問だろうか。
「あー、そういえばそうだったな……。頭ではわかってたはずなんだが……」
「もしかして五十嵐さんが男子に見えてたってこと?」
「えーっと、まぁほら、コイツ自分のこと俺って言うどころか、口調がまんま男だからさ……」
口ごもりながらも言い訳を並べるが、俺がもともとは男だったことを出さないでくれているのはありがたい。自分自身も説明すると面倒というのもあるんだろうが。
それにしても男口調で悪かったな。こればっかりは素の自分なんだ。そうそう変えられると思ってないし、変える気も今のところあんまりない。
「それだけで!? 見た目は全然男に見えないじゃないか……。それにこんなに小さくて可愛いのに……」
「お、おう……」
俺が男子に見えるなんてありえないと言葉を並べる拓也に、祐平もたじたじだ。
可愛いと言ってくれるのは嬉しくないわけじゃないが、小さいは余計だ。いやしかし、男に可愛いと言われるのはなんとなくくすぐったいな……。元男の自分が可愛いと思うコーディネイトをしてるから、何か達成感みたいなものはあるが。
なんとなく直視できなくなって、テーブル向かいの三人へと視線を向ける。千亜季はポカンと口を開けているし、静はまた笑いをこらえているようだ。一度決壊してるし、もう堂々と笑えばいいと思う。佳織はといえば、なんとなく不満そうな憮然とした表情になっている。
「どうした?」
「なんでもない……。早く食べないと冷めちゃうわよ?」
気になって佳織に声をかけてみたが、そっけなく返されてしまった。本人が何でもないと言ってるならそうなんだろう。
「そうだな」
隣で問答をしている二人をスルーして、俺は昼ご飯に注力することにした。俺の話題なんだろうが、お昼ご飯が冷めるのはそれはそれでもったいない。
「ぐぬぬ……、今から呼んだら男増えるかな」
と思ったら隣の祐平からそんな声が聞こえてくる。今から呼んで来るようなヒマな奴が祐平の周りにいるのか……。
「「えー」」
向かいにいる女子三人組の反応も芳しくない。正直俺もこれ以上男子は必要ないと思ってる。
それに、今からだとしても、女子の水着の買い物に付き合えるとでも言えば飛んできそうではある。だがそんな誘い文句で寄ってくるような男はむしろお断りだ。
「今から誘っても無理だろ」
そう思った俺は、即座に祐平へと制止の言葉を投げかけておいた。
なんとか六人席を確保したフードコートで、お昼ご飯を食べながら祐平が不平を漏らしている。
「そりゃまぁ、祐平が目立つからじゃねぇの?」
六人席で一人だけ頭一つ分背が高いのだ。もちろんそれが一番目立つ理由じゃないんだが、本人は気づいていないのか。
「そうかぁ? 別にいつも通りで変なとこはないと思うんだが……」
まぁそうだな……。いつも通りじゃないのはむしろ祐平の周りだから。変なところがないか自分自身を見下ろしてるみたいだが、そうじゃないんだよ。
改めてこの六人席を見回してみる。端には俺が座っていて、その隣に祐平、拓也と続く。向かいの席は俺の前に佳織がいて、静、千亜季の順だ。祐平が注目される理由がわかったのか、静は笑いをこらえるように口元を手で覆っている。
「あははは!」
だがとうとう抑えきれなくなったようだ。
「な、なんだよ……」
おなかを押さえながら爆笑する静に、祐平も若干引き気味だ。
「いやだって……、別に祐平くん自身は何もおかしいところなんてないんだよ」
「えぇ……?」
自分のことを確認していた祐平が、まさに自分の行動を指摘されてちょっと恥ずかしそうにしている。
「じゃあなんで俺が……」
「えー、だって祐平くんの周りって、女子しかいないじゃない?」
「……はぁ?」
意味が分からんとばかりに首をかしげる祐平だが、俺は静の意見に同意だ。
「すごくハーレムに見えるよね」
「ぶふっ」
ハーレムという言葉に思わず吹いてしまった。口の中にご飯が入ってなくてよかった……。
「ちょっと待ってよ。……それってオレ、男として数えられてないよね?」
拓也が異議を申し立てるが、それは俺たちに注目する人間に主張して欲しい。少なくとも周囲にいる祐平を睨みつける男どもは、一人ハーレムだと思ってるんだから。
「いやいやいや……」
拓也の言葉でようやく理解したんだろう。なんとか否定の言葉を出そうとするが続きはすぐに出てこない。
「だってほら……、いち、に、さん……」
思いついたように順番に拓也、自分、俺と指さしていく祐平。だが俺に視線を止めたまま固まり、目を見開いていく。いったい何を三人分数えてたんだ。なんとなく想像はつくが、さすがにそこまで祐平はアホじゃないと思うんだ。
いやでも、男が足りないと言って拓也を連れてくる祐平のことだ。こいつが男と判断する基準は、実はけっこう女子寄りなんじゃ――
「三対三じゃなかった!?」
「当たり前だろ!」
思ったよりアホだった。
思考をぶった切って反射でツッコんでしまった。どう見ても男女比三対三じゃねぇだろ。拓也でさえ女子に見えるってのに、俺が男子に見える要素なんてこれっぽっちも存在しねぇよ!
「どういうこと!?」
俺の言葉に拓也の声が続く。三人目がなんで俺なのかという疑問だろうか。
「あー、そういえばそうだったな……。頭ではわかってたはずなんだが……」
「もしかして五十嵐さんが男子に見えてたってこと?」
「えーっと、まぁほら、コイツ自分のこと俺って言うどころか、口調がまんま男だからさ……」
口ごもりながらも言い訳を並べるが、俺がもともとは男だったことを出さないでくれているのはありがたい。自分自身も説明すると面倒というのもあるんだろうが。
それにしても男口調で悪かったな。こればっかりは素の自分なんだ。そうそう変えられると思ってないし、変える気も今のところあんまりない。
「それだけで!? 見た目は全然男に見えないじゃないか……。それにこんなに小さくて可愛いのに……」
「お、おう……」
俺が男子に見えるなんてありえないと言葉を並べる拓也に、祐平もたじたじだ。
可愛いと言ってくれるのは嬉しくないわけじゃないが、小さいは余計だ。いやしかし、男に可愛いと言われるのはなんとなくくすぐったいな……。元男の自分が可愛いと思うコーディネイトをしてるから、何か達成感みたいなものはあるが。
なんとなく直視できなくなって、テーブル向かいの三人へと視線を向ける。千亜季はポカンと口を開けているし、静はまた笑いをこらえているようだ。一度決壊してるし、もう堂々と笑えばいいと思う。佳織はといえば、なんとなく不満そうな憮然とした表情になっている。
「どうした?」
「なんでもない……。早く食べないと冷めちゃうわよ?」
気になって佳織に声をかけてみたが、そっけなく返されてしまった。本人が何でもないと言ってるならそうなんだろう。
「そうだな」
隣で問答をしている二人をスルーして、俺は昼ご飯に注力することにした。俺の話題なんだろうが、お昼ご飯が冷めるのはそれはそれでもったいない。
「ぐぬぬ……、今から呼んだら男増えるかな」
と思ったら隣の祐平からそんな声が聞こえてくる。今から呼んで来るようなヒマな奴が祐平の周りにいるのか……。
「「えー」」
向かいにいる女子三人組の反応も芳しくない。正直俺もこれ以上男子は必要ないと思ってる。
それに、今からだとしても、女子の水着の買い物に付き合えるとでも言えば飛んできそうではある。だがそんな誘い文句で寄ってくるような男はむしろお断りだ。
「今から誘っても無理だろ」
そう思った俺は、即座に祐平へと制止の言葉を投げかけておいた。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる