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着せられる運命なのです

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「おいおい、人んち来てやることがいきなりそれかよ」

 静の家探し発言に思わずツッコんでしまう。
 パジャマパーティーってそういうことから始まるのか? ……いやさすがに違う気がするんだが。

「まぁいいじゃない。……というわけで、クローゼットの中とか開けてもいい?」

 一応許可は取ってからやんのな。

「……別にいいけど」

「やった!」

 肩をすくめながら返答すると、さっそく静がベッドの下を確認し、千亜季がクローゼットを開けている。
 ……って千亜季も参加するんだ。ちょっと予想外。
 どうせやましいものは何も出てこないからいいけど。

 俺自身は佳織の部屋に入ったことは長いことなかったが、佳織は俺の部屋に昔からちょくちょく入ってきていたんだ。
 ベッドの下やクローゼットなんぞに変なものを置いてたら、すぐにばれるに決まってる。探してすぐに出てくるようなところには置いてないんだぜ。
 ……まぁ、今となってはそういうもののたぐいには何も思わなくなったけどな。

「ないなぁ」

 ベッドの下を覗き込んでいた静が、つまらなさそうに呟いている。

「そっちはどう?」

「……」

 顔を上げて千亜季へと尋ねる静だが、何やら返事がない。

「どうしたの?」

「……学ラン」

 何事かと思って今度は佳織が尋ねると、ポツリと呟くような返事がようやく返ってきた。
 なるほど、学ランね。
 自分自身で面白味はないと思ってたが、確かに学ランは珍しいのか。

 俺たちの学校は基本的に私服でOKだが、入学式や卒業式などのイベント時には制服が必須となっている。
 なので入学式のときに着た学ランは我が家にはあるのだ。
 女の子になった今となってはもう着れないんだろうが……。まぁ今は置いておこう。最悪制服は卒業式の時にあればいいのだ。

 無言で学ランのかかったハンガーをクローゼットから取り出し、ベッドの上へと置く千亜季。
 静も興味津々でベッドに置かれた制服を見つめている。

「おぉ、これが幻の学ランか」

 何が幻なんだ。
 毎日私服を選ぶのが面倒だからって、制服を着て登校してくる生徒は一定数いるだろうが。
 かく言う俺も制服組だっただろ。

「そう言えば圭一は制服だったわね」

「そうそう。だから今となっては幻の学ランなのだ!」

「俺限定かよ」

 なぜかドヤ顔の静だが、学ランくらい他の生徒も着てる奴はいるだろう。
 別に俺じゃなくてもいいと思うんだが。

「うん。だから圭ちゃん、学ラン着てみてよ」

「なんでそうなるんだよ」

「いやほら、そこに学ランがあるから?」

「山を前にした登山家かよ」

「登りたくなったでしょ」

「……だったら着るしかないですね」

「いやだから、俺は登山家じゃねーし」

 静とくだらないやりとりをしていたら、千亜季まで参戦してきた。
 というか千亜季まで俺に学ランを着せようとするのか。いやまぁクローゼットを開けて固まってたところを見ると、興味はあったということか。
 しかしなんで俺に着せようとするのかね。

「そんなに気になるなら自分で着ればいいだろ」

 俺の言葉に顔を見合わせる静と千亜季だったが、お互いに苦笑いになるとこちらに視線を戻し。

「いやー、学ラン着たらどんな感じになるのか、まずは持ち主で確認しようかと」

「実験台かよ。……それならこの中で一番背の高い佳織に着せればいいんじゃね」

 名案とばかりに幼馴染へとスルーパスしてみる俺。男の時には百八十あった身長なので、その学ランのサイズも半端ではない。
 なのでこれを違和感なく着られるとすれば、身長の高い佳織しかいないはずだ。

「な、なんであたしが着なくちゃなんないのよ!?」

「あー、サイズの問題ね」

「……佳織ちゃんが適任かも」

「ええっ!?」

 二人からも意識を向けられてたじろぐ佳織だが、畳みかけるように追撃するとしよう。

「ほれ、カッターシャツもあるぞ」

 クローゼットへと移動して、その中の引き出しから真っ白のシャツを取り出すと同じくベッドの上に広げる。

「おおー、完璧ですな」

 静がノリノリで応じ、千亜季は無言で瞳を輝かせている。

「ふ、二人ともあたしに着ろって言うの!?」

 頬を染めて叫ぶ佳織にうんうんと頷く俺たち三人。なんかこのまま押し切れそうな勢いだな。

「ほらほら、幼馴染の服だし、どうせ二回目でしょ?」

「そ……、そんなわけないでしょ!!」

 顔を真っ赤にしながら盛大に否定する佳織だが、静はそんな言葉は聞いてないとでも言うように、広げられたカッターシャツのボタンをはずしていく。
 静が何を思ったか知らないが、佳織に俺の服を着せたことなんてないぞ。

「ちょ、ちょっと静!?」

 そしてあたふたする佳織へと羽織らせると、勝手に袖を通していく。
 何気に佳織もノリノリなんじゃなかろうか。嫌がりながらも自ら袖を通してたように見えたのは気のせいか。
 なんだかんだ否定しながらも、ここまでされれば開き直りもするか。

「おお……」

「……馬子にも衣裳だな」

「なんでよ!?」

 俺の言葉に勢いのいいツッコミが響き渡るが、二人にはそんな声も届いていないようだ。

 膝上まであるシャツの丈から少しだけ覗くミニスカート。
 袖から数センチしか見えない指先。
 ボタンを留めれば胸元はCカップのバストで持ち上げられた真っ白い丘に早変わりだ。

 着ているのが佳織という事を除けば、これはこれでかなりの破壊力がありそうだ。

「さすが佳織ね……」

「佳織ちゃん、かわいいです」

 二人の評価もそこそこ高いようだ。
 ちなみにこのあと学ランを着せてみたが、カッターシャツほど萌えはなかった。体育祭で応援団をやる女子生徒っぽくなっただけだ。いやそれはそれで需要はあるんだろうが、カッターシャツほどのインパクトはなかっただけだ。

 ん? 俺はどうだったって?
 もちろん自分のカッターシャツを着せられましたとも。

 ――大爆笑をいただきましたがね。

 膝までシャツの丈があると、お父さんの服着てる子どもみたいに見えるんだと。
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