上 下
30 / 81

ジャンプするとより揺れるんです

しおりを挟む
 バスケットボールの授業が終わり、今日の体育からバレーボールになる。
 そう、バレーボールだ。
 男の時であれば問題なかったんだが、今の俺は女の子になったせいで身長が非常に低い。
 それはもう悲しくなるくらいにちんまいことになっている。
 だというのにバレーボールなのだ。
 ……手が届くのかどうかが心配だ。

「圭ちゃんジャンプ力あるし、大丈夫じゃないかなぁ?」

 そんな心配をよそに、静は無責任に問題ないと頷いている。

「うん。私も圭ちゃんなら大丈夫だと思うよ?」

 どうやら千亜季も同意見らしい。

「アンタなら大丈夫でしょ」

 佳織は言わずもがなである。

「そうかなぁ」

 三人に太鼓判を押されたとは言え、俺自身としては男の時よりジャンプしたときの到達点が低くなっているので、問題ないと言い切れる自信はない。
 まぁ確かに、周囲からはジャンプ力があるとは言われている。
 なにしろバスケのシュートブロックが成功するたびに言われていたからだ。確かにこの身長で止められるということはそれなりのジャンプ力なんだろう。

「でもまぁ、ここで考えたところでしょうがない。届かなかったら届かなかったで、やりようはあるだろ。……じゃあまたあとで」

 ここで俺は三人と別れて教員用更衣室へと向かうのだが。

「……チッ」

 すぐ後ろを歩いていた他の女子生徒から、舌打ちが聞こえたのは聞き逃さなかった。
 これでも俺はもともと男だったのだ。それが女子に混ざって体育をやることに抵抗のある生徒が、少数ながらいるのはしょうがないと思う。



 体育館へと集合すると、すでにバレーボールのネットが張られていた。やっぱりかなり高そうに見える。
 体育教師の湯沢先生によると、その日の最初の授業のクラスがネットを張り、最後のクラスが片付けることになっているという。
 今日の俺たちは四時間目の授業で、後には他のクラスの授業があるので、用意も片づけも免除だ。

 いつものように準備運動を終え、バレーボールの授業へと入るんだが、まぁいきなりゲームから始まるわけでもなく。
 最初は二人一組になって、レシーブやトスの練習だ。
 だが、たまたま俺の位置がネットに近い位置だったので、これ幸いとばかりにネットの高さを確認することにしてみる。

「……うわー」

 ペアになった静が、非常に気の毒そうな声を上げている。
 それもそのはずだ。ネットの側に立って腕をまっすぐ伸ばしてみたんだが……。
 ネットの頂は俺の指先からさらに40センチは上にあったのだ。

「うぬぅ……」

 男の時でもネットの上部に届いていた記憶はないが、それでも10センチちょっとくらいだったかと思う。
 女子の方がネットが低いとはいえ、これはちょっと……。
 しかしだ。絶望するのはまだ早い。
 俺はその場でバネが力を溜めるかの如く膝を曲げると、勢いよくジャンプする。
 視界がみるみる上がってきたかと思うと、ちょうど静止したところで振りかぶっていた腕で勢い良くアタックだ。ボールはないけど。

「マジで……!」
「すごい」
「……ありえないし」

 俺の様子を見ていたいつものメンバーから、三者三様の反応があった。
 ジャンプしてみた感じだと、手首より上はネットから出ていたように思う。

「よし! じゃあ次はネットを挟んでアタックとブロックの練習だ!」

 というところでタイミングよく湯沢先生の声がかかる。
 ちらりと体育館に備え付けられている時計をみるが、時間的に今日の授業はこの練習をやったら終わりかな。どうもゲームをやる時間はなさそうだ。
 だがしかし、俺はこのアタックとブロックの練習を侮っていた。
 そう。バスケットボールでのシュートの比ではなかったのだ。

 ――おっぱいの揺れが。

 うーむ。これはこれで見ていて面白い。ジャンプと同時にゆっくりと上下に揺れるおっぱいを堪能していると、自分のブロックの順番が来たようだ。
 相手コートからのアタックに合わせてこちらもジャンプすると、ちょうど相手のボールをはじき返すことができた。
 やっぱり問題なくいけそうだな。

「……くそっ!」

 と思ったら、相手の女子生徒から睨みつけられた。
 明らかに染めたとわかる茶色のショートカットをした女子生徒だ。普段見覚えがないところを考えると、隣の六組の生徒なのだろう。……もしかしたら体育の前に舌打ちをしてくれた生徒か?
 しかし……、当たり前だが俺より背が高いな。なんとなくだが、佳織よりも高い気がするな。
 ひとしきり睨みつけた後、回れ右をしてアタックの練習をする列の後ろに並びなおしている。
 ふむ……。多少は気になるが、まぁ何もやってこないんであれば気にしないのが一番か。

「よし、そろそろ時間だな。ネットは片付けなくていいが、ボールを片付けたら解散だ」

 そして今日の体育の授業が終わるのだった。

「おつかれー」

 俺は佳織、静、千亜季の三人に声を掛けるが、三人とも何やらドヤ顔になっている気がしないでもない。

「ほら、大丈夫だったでしょ」

 代表して静が告げるが、そういうことね。
 まぁ確かに何も問題なかったな。

「まぁそうだけど」

「それにしても圭ちゃんのジャンプ力すごかったね」

 千亜季が珍しく興奮気味だ。そんなにすごかったんだろうか。自分じゃあんまり実感がないんだが。

「うん。確かにすごかった」

「あれは反則だよね……」

 佳織は素直に褒めてはくれないらしい。まぁいつものことだが。

「じゃあ俺はこっちだから」

 そう言って三人と別れると、教員用更衣室へと一人で向かう。
 もう何回目になるか。いちいち数えてはいないが、いい加減にもう慣れてきた。
 女性用更衣室へと入ると、ロッカーを開けて着替える。上下を脱いで下着姿になると、脱いだ体操服を畳んで置いておく。
 そのままロッカーに入っている服に着替えようと手を伸ばしたときに、更衣室の扉が開く音がした。
 今まで途中で誰かに入ってこられたことなんてなかったが、これから昼休みだし、先生も着替えたくなることもあるかな。

「五十嵐さん」

 キャミソールを着たところで、掛けられた声に振り返る。
 そこにいたのは、ブロック練習のときに睨みつけてきた茶髪の女子生徒と、もう一人の黒髪ロングの女子生徒が佇んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

処理中です...