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従姉妹で妹

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「お邪魔しまーす」

 なんとかヘンタイを振り切った後、四人でまたもやスイーツを堪能してから自宅最寄り駅へと帰ってきた。
 そしてそのまま俺は、佳織の家へとお邪魔している。
 静と千亜季は降りる駅が違うので、ここにいるのは俺と佳織の二人だけだ。
 たまに学校帰りに、『女の子らしい振る舞いを教えてあげる』と半ば強制的に佳織の家に連れられることがあるが、今日はむしろありがたかった。

 ヘンタイさんこと柴山しばやま虎鉄こてつは、中学時代からの親友だ。
 つまり、俺の家にも遊びに来たことがあるわけで、俺が一人暮らしをしていることも知っているのだ。
 両親が亡くなったときに迷惑をかけた人間の一人でもあるが、それはソレ、これはコレだ。なにせヤツはヘンタイだから。
 相手が俺だからだろうか、他の女子生徒にはやらない要求を平気で突きつけて来るからたちが悪い。親友というのも考え物だな……。

 それに、さすがにないとは思うが、家の前で待ち伏せでもされていたらマジで恐ろしい。
 家の中にまで押しかけてはこないと思うが、まさかヤツの目が俺に向くとは思っていなかったぜ……。

「はい、いらっしゃい」

「ただいま」

「あら、佳織、おかえり。……もしかしてお友達かしら?」

 ちょうどリビングから廊下へと出てきたところに出くわしたおばさんに声を掛けられた。
 俺がこの姿になってから何度か顔は見かけていたが、面と向かって相対するのは今回が初めてだ。

「あ、うん」

「こんにちは。初めて見る顔だね」

 おばさんは佳織に友達が増えたことが嬉しいのか、ニコニコと笑顔で俺に尋ねてくる。
 とは言え俺としては幼馴染の佳織のおばさんだ。小さい頃から何度も世話になっている。
 もちろん、俺の両親が亡くなった時もだ。
 そんなおばさんに、自分のことを認識してもらえないことになんとなく寂しさを感じるがしょうがない。
 体格どころか性別まで変わっちまったんだから。
 でもそういうことなら、もう一度始めから認識してもらうまでだ。

「こんにちは。五十嵐圭――もごもご」

 改めて自己紹介を、と思って名乗った瞬間、佳織に口をふさがれた。
 いきなりなにすんだよ佳織!?

「ちょっとアンタ! 何自然と本名で自己紹介しようとしてんのよ!」

 おばさんに聞こえないように耳元で囁くように文句を言ってくる佳織。

「え? ダメなの?」

 学校じゃ五十嵐圭一で通していて、なぜか問題になっていないのでスルーしていたがダメなのか。いやまぁ、面倒なことになるのはわかるけど。
 よくよく考えれば不思議なことだが、学校じゃなんとかなってるんだよなぁ。きっと川渕先生がなんとかしてくれたんだろうけど。……たぶん。

「あれ……? 五十嵐さんって……、もしかして圭一君の親戚かい?」

 『五十嵐圭』までしか口には出さなかったが、しっかりと聞こえていたのは間違いないようだ。
 何かを思い出すように斜め上を見つめるおばさんに、佳織が俺の口を塞いだまま額に汗を浮かべて焦っている。
 というか口を塞がれたままだと返事もできないんだが、佳織がなんとかしてくれんのかな。

「あーっと……、えーっと、そ、そうなのよ! 圭一の……従姉妹いとこの圭ちゃん! 今年から親元を離れて一人暮らしで、同じ高校に通うことになったのよ!」

 かといって誤魔化したところでいつまでもつかわからないなぁ……って考えてたところで、佳織が盛大に誤魔化しやがった!

「へぇ、そうなの。今年からってことは、一年生なのかな?」

「え? あ、――うん。そうなの! もう妹みたいに可愛くって!」

 焦った勢いからか、否定せずに余計な言葉まで付け加える佳織。
 というかさらに学年まで偽られてるんですけど? いやもうどうなっても知らんよ? つかいつまで俺の口を塞いでるんだよ? おばさんもそこツッコんでくれないの?

「一人暮らしって……、従姉妹なら圭一君と同じ家に住めばいいんじゃないの?」

 おばさんがもっともらしいことを口にするが、その言葉に佳織は俺の顔を見てなぜか額に血管を浮かべると。

「何言ってるのよ。従姉妹とは言え、圭一なんかと一緒に住んだら危ないに決まってるじゃない!」

 何が危ないのかわからないが、佳織はどうやらご立腹な様子だ。まったくもって理不尽に責められている気がしないでもないが、もう俺は口を塞がれたままなので反論を諦めている。
 何度か塞いでいる手をはがそうと奮闘していたのだが、どうにもはがせそうにないのだ。

「危ないって何よもう。圭一君のことになると素直じゃないんだから」

 そんな佳織に、呆れたおばさんの言葉が返ってくる。

「……もう! とにかく、部屋に行ってるから!」

 それだけ言うと、佳織は俺を引きずったまま家に入ると、二階の自分の部屋へと上がっていく。
 そしてようやく階段下で解放された俺は、おばさんに改めて「お邪魔します」と言うと、佳織の後をついて行った。
 何かもう、佳織の誤魔化しを訂正する気は俺には起こらなかった。
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