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連れション

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「それにしても……、どーなってるの? ……これ?」

 隣の席の斉藤静が、席に座る俺を立たせて一緒に並んだかと思うと、俺を見下ろしながら頭をなでなでしてきた。
 翌日の昼休みである。
 午前中の授業は滞りなく終わった。幸いにして去年各教科を担当していた先生にはまだ遭遇していない。

 ……にしても誰も俺に詳細を聞いてこない空気は一日で霧散したようだ。

 まぁ当たり前か。いくらなんでも聞かずにはいられないか。

「これって何が?」

 なんのことかわからない振りをしながらとぼけてみるがまぁ無駄だろう。

「何って……、ちっちゃくなりすぎでしょ?」

「……ん? ああ、そうなんだよなぁ……」

 困った表情をしつつもなんて答えようか考える……が。
 結局佳織にした説明以上のことはできそうにない。昼寝して起きたらこうなっていた。
 頭を撫でられながら腕組みをしてしばらく考え込んでみるが、やっぱりそれ以上のことは出てこないな。

「うん。俺は昼寝してたんだよ」

 睡魔に負けて。

「……それで?」

 一体何の話が始まるのかよくわかっていないのか、静は首を傾げて話を促す。

「で、目が覚めるじゃん?」

「そうね」

「そうするとこうなってた」

「「……はあ?」」

 俺の席の後ろで黙って聞いていた祐平ゆうへいも一緒になって声を上げている。

「……こうなってたんや」

 大事なことなのでもう一回言っておく。

「「……はぁ」」

「だから俺にも何が起こったのかわかってない」

「……ホントなの? ……佳織ちゃん?」

 静の最後の問いかけは、俺の幼馴染である佳織に向いていた。

「あたしもビックリしたんだけど……、残念ながら、そうみたいなのよね」

 開き直った口調の佳織はそう言うが、他の生徒はそれで納得するわけもない。

「いやなんだよそれ、わけわかんねーし」

「何があったかなんて俺が知りてーわ」

 祐平ゆうへいの言葉に俺が続きを被せる。
 いやほんと、どうやったら昼寝しただけで男が女になって身長が縮むんだよ。

「だからまぁ、この話題はもうやめだ」

 考えてもわからないことは考えない。みんな無駄なことは止めようぜ?
 それよりもトイレに行きたい。おしっこ漏れそう。さすがに一日我慢は無理だな。
 撫でるのをやめたが頭の上から離れない手から逃げるように、俺は教室の外へと向かう。

「圭ちゃんどこ行くの?」

 というところで、俺に逃げられたと思った静から声が掛けられる。
 圭ちゃん? ……って俺か。というか前までは五十嵐くんじゃなかったっけ。まぁどっちでもいいけど。
 こういう時って女子は何て言うんだっけか? トイレ……? お手洗い……? いや、あれかな。

「……ちょっとお花摘みに」

「あ、わたしも行く行く~」

「あたしもー」

「……私も」

 俺の言葉に静と佳織と……、今まで大人しく黙って話を聞いていたやなぎ千亜季ちあきが名乗り出た。
 ポニーにまとめた髪に眼鏡をかけた、小柄だが巨乳な生徒だ。佳織の後ろの席に座っており、俺たちとも一緒に話をすることも多いが、大人しい性格の少女だ。
 しかしなんだこれは。ぞろぞろと女子がトイレに行くのはよく目にしていたが、……これが女子の連れションというやつなのか。
 一体どんな会話がなされているのか……。って俺はどっちだ? モールじゃ仕方なく女子トイレに入ったが。

「……」

 などと悩んでいるとトイレ前に着いてしまった。

「どっちに入ったらいいと思う?」

 一応自分からは入ってないですよアピールのために他三人に聞いてみる。

「もちろんあたしたちと一緒にこっちに入るわよ」

「だよねー」

 佳織と静はお互いに顔を見合わせながら頷きあっている。千亜季も無言ではあるが、同調するように首を縦に振っている。
 あー、うん。やっぱりそっちなのか。……大丈夫なのか? ……いやまぁ女子たちがいいというんならいいんだろう。
 ならば俺は堂々と入るだけだ。

「ほら早くしないと漏れちゃうよー」

 入る決意を固めていると、静が俺の背中を押して女子トイレへと入ってしまった。
 ……結局どっちに入ったところで気まずいのかな。

「それにしても……、圭ちゃん可愛くなったねぇ」

 トイレの中に入った瞬間、待ってましたとばかりに静が俺に後ろから抱き着いてきた。
 首の両側から差し出された両手は、そのまま俺のお腹へと伸びている。

「うおっと」

「……ちょっと! 何やってるのよ!」

 それを見た佳織が微妙に声を荒らげているが、そうか……、トイレの中だとスキンシップが激しくなるのか……?
 静かに押さえつけられた自分のお腹を見るが、着ている服のお腹部分が抑えられているせいか自分のおっぱいが強調される格好になっている。
 トイレを見回すと、他に女子生徒が二人いるようだったが俺には見覚えがない。おそらく他のクラスの女子生徒だろう。特に俺たちのやり取りに注意を向けているわけではなさそうだ。

「いいじゃない。減るもんじゃないし」

 うん。減るもんじゃないし別に俺もかまわんぞ。

「そういうことじゃなくて……、ほら、……早くしないと漏れちゃうでしょ……」

 若干反論の根拠が弱いと自覚があるのか、語尾が弱くなりつつも俺の前に回って静の手を俺のお腹からはがす佳織。
 よし、ここはスキンシップを激しくしてもいい女子トイレだ。これは他の女子生徒を見習ってだな……。

「……あ、ちょっと……!」

 俺はここぞと見計らって佳織に真正面から抱き着いた。身長差も相まって、俺の顔は佳織の首へと埋まる。
 ……あ、佳織ってちょっといい匂いがするぞ。

「――な、な……何やってるのよアンタ!」

「あー、佳織ずるーい」

 引き剥がそうとしている佳織に静からそんな声がかかるが、そんな俺に後ろからまたもや抱き着いてくる女子生徒がいた。
 さっきより背中に感じる感触が大きいような。

「あー! 千亜季までー!」

 どうやらそれは千亜季みたいだ。大人しいと思ったけど……トイレじゃこうなのか……?
 わからんが、なんにしろ今の俺はサンドイッチの具状態だ。というか佳織ってこんなに柔らかかったのか。

「アンタたちいい加減にしなさい!」

 前と後ろで柔らかい感触を楽しんでいたが、佳織が顔を真っ赤にして叫ぶのだった。
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