プリティー・フランス革命

加藤労全(ろーぜん)

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第1話(1) メイドのニコレットはパリ育ち

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 ダルゴーニュ伯爵の城内で働くメイド達。その一人、名前はニコレットだ。
 最近、メイドとして雇用されたが、過去の実績があり、メイド内での序列は高い。
 十五歳の彼女。自分より年上だが賃金は低い先輩メイド達から、この城でのメイドの仕事を学ぶ。

☆☆☆
 時系列は遡り、パリ時代の話となる

 パリ出身のニコレットは、小学校を出てから、貴族である男爵だんしゃく屋敷で見習いメイドをしていた。
 本人は上級の学校に通いたかった。しかし、長女できょうだいが多く、両親は小学校に通わせるのが精一杯であった。
 見習い中は賃金は安いが、先輩メイドから多くのことを学べる。貴族の爵位の上下関係。貴族や紳士の呼び方。掃除の方法、淑女としてのマナーなどだ。
 貴族の屋敷で住み込み、つまり、衣食住が主人持ちの立場である。家族に仕送りもできる。
 家事使用人になるには、それなりの立場の人物の推薦が必要だ。犯罪などを起こされたら困るからだ。
 小学校の校長先生の推薦をしてくれたからだ。
 担任の女性教師が、「校長の推薦状が必要なら、いつでも誰にでも出す」、と言い切ってくれた。
 著しく景気が悪いご時世に、両親は長女の就職先が決まり、喜んでくれた。
「絶対に辞めるな」
 念押しされた。
 外務省勤務の男爵は、契約書面を重んじる性格であった。
 見習いメイドになり、メイド長から一人前と判断されたら、正式なメイドに昇格する約束で契約した。
 しかし、数年たっても、見習いのままだ。男爵は雲の上の人。家令も気安く声をかけられない。直属上司のメイド長に何度も相談した。
「先に勤めた人がまだ、見習い待遇だから」「年上の××さんが見習い待遇だから」
 メイドのスキルは高い、といつも、メイド長から褒められていた。
 もう、数年見習いをこなし、正式なメイドになっても良いキャリアを積んだのだ。
 たまにある休みに帰省する。しかし、毎日、全力で働きながら、弟や妹を育てている両親に相談するのは、躊躇した。
 どこか、メイドの転職先はないのか、メイド長に正直に話して探しまくった。
 しかし、まともな職に就けているだけで幸運だ。仕事で買い物に出かけことは多い。自分の弟くらいの子供が、物乞いをしている光景。妹に近い世代の子が、街角で男に買われる光景は心が痛む。
 そんなとある日、メイド長に呼び出された。
「今から話すことは、絶対私が言ったと言わないと約束してくれますか?」
 部下に厳しい性格のメイド長、二人きりで温和な表情は珍しい。
「誰にも言いません」
「奥さまの兄君様が伯爵閣下でカナイド県でご領地をお持ちになっているのはご存じ?」
「かなり以前、伯爵閣下が、お屋敷にご逗留とうりゅうされて存じております。また奥さまがご実家にお戻りになられた折、私もご同行させていただきました」
 男爵の妻が、裕福な実家にお金の無心をした。ニコレットは口にはしなかったが、そのぐらいは感づいていた。
 カナイド県まで駅馬車に相乗りをして、ダルゴーニュ伯爵領近くで豪華なドレスに着替える。その後、貸し切り馬車に乗り換えていたのだ。
 男爵夫人は兄であるロペールを経済的な頼りにしていた。大学を出て定職に就かないのが、泊りがけで遊びに来たことを言わない。
 メイド長は、宿泊費として多すぎるリーブル紙幣をロペールが姉にに渡すのを何度も見ていた。
 納得顔をしてから、ゆっくり告げる。
「ニコレットさんはパリにご家族がいるでしょう? お休みに自宅に帰れませんが、カナイド県のダルゴーニュ伯爵閣下のお城で正式なメイドを募集しているのです。俸給は三倍です」
 ニコレットは即答できない。カナイド県はパリから遠い。しかし、農作業をしてる人々の姿からうかがえたのは、パリより食糧事情は良いことだ。
 農業生産地と都市部の差を肌で感じた。
 駅馬車でパリと往復すれば幾らになるか頭で計算をする。実家に帰る機会は、年に一回か二回に減るだろう。それでも、仕送りの額は増える。家族とのやり取りは手紙になるが、郵便代も考えた。
「私をご紹介してくださるのですね?」
 メイド長は頬をほころばせ、無言で肯定していた。
 家族との別れはつらかった。母親はきょうだいたちに呟く。
「お姉ちゃんは、年に一回は、家に、びに来てくれるんだよ。笑顔で送り出しましょう」
 きょうだいの前ではニコレットも気丈に振る舞う。しかし、きょうだい居なくなってから、母親に抱きついて泣きじゃくってしまった。父親も目にうっすら涙を浮かべていた。
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