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最終章 エピローグ編
第124話 宣戦布告
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それは、ミュリヌス領内の激闘から2ヶ月ほどが経過した頃の時期だった。
領内にあるミュリヌス学園演習場『コロッセオ』に、大衆が集められていた。
そして彼らが崇めるように視線を送るテラス席のような舞台には、聖アルマイト王国第2王女、大陸中から「純白の姫」と謳われるリリライト=リ=アルマイトの姿があった。
まるで、毎春に執り行われるミュリヌス学園の入学式のようだった。
しかしコロッセオ広場に群がる大衆の様相がまるで違う。
入学式であれば、初々しい可憐な女学生ばかりのはずであるが、そこには老若男女問わず、様々な人間が入り乱れていた。ついでに言うならば、聖アルマイト国民以外にも、ヘルベルト連合国から流れてきたのか、連合国の人間や、柄の悪い龍の爪の兵士と思わしき人物までもが混ざっている。
そしてテラス席でリリライトの側に控えているのも、いつもの大臣グスタフではなく、2人の女性だった。
「皆さん、今日はお集りいただきありがとうございます」
定刻になり、「純白の姫」が言葉を紡ぎ始める。
その言葉は凛としており、ただただ「可愛い」「可憐」だと言われていた以前の彼女までとは少し違う。僅かながらだが大人びた声調と、強く気高い意志の強さが感じられる声だった。
「こんなにもたくさんの方が、私の想いに、決意に賛同して下さったこと、大変に感謝しております。そんな皆さんの想いに応えるべく、今日は私も不安と恐怖を振り払い、皆さんに私の重大な決意と覚悟を伝えさせていただきます」
かつては、公式の場でも朗らかで、良い意味での調子の軽さがあったリリライト。
しかし、今日この場においてそれらはない。
逆にあるのは、悲壮とも言える程に真っ直ぐな瞳と声だ。
そして、リリライトは演説を開始する。
「私、リリライト=リ=アルマイトは、今日ここに悪辣の徒カリオス=ド=アルマイトを討ち、聖アルマイト王国を本来のあるべき姿ーー正義の国へ導くことを、ここに宣言致します」
静かだが淀みのないリリライトの宣言に、一斉にコロッセオの広場はざわめき、リリライトの側に控える女性は2人とも笑みを浮かべる。
しばらくどよめきが続く広場において、リリライトはそのざわめきが落ち着くのを待ってから、絶妙なタイミングで演説を再開する。
「兄カリオスは、聖アルマイト王国の国民に広く慕われていることは私も承知しております。その理由も。……しかし、冷静に考えてみて下さい。彼の打ち出す方策は、考えは、本当に国のためになっているのですか? 耳障りの良い言葉に、彼の調子の良い態度に惑わされず、真剣に今一度考えてみて下さい」
カリオスの進める大改革は色々とある。奴隷取引や貴族制度といった王族を含めた特権制度の撤廃、王制政治から民主制への移行などと、それまでの制度を概念から崩壊させるような革新的な改革だ。
「確かに、兄カリオスの言葉は、改革を成した後に待っているのは理想の世界だと、非常に耳障りの良いことばかりです。貴族や奴隷といった、身分格差や貧富の差もなく皆平等。国民1人1人が政治に参加して、皆が考えながら思うような国を皆で作っていくという。ああ、確かに……なんという理想の世界でしょうか! まるで物語に出てくる夢の世界のようです」
それは過剰に芝居がかった口調だった。そんな役者がかった演説手法も、実にリリライトらしからぬものだ。
しかし、それはこの場の独特な空気で聞き入る民衆には効果絶大。皆、食い入るようにリリライトの言葉に耳を傾けている。
「しかし! 冷静に考えてみて下さい。今、多くの人達が安定的に生活を送れているのは、奴隷の存在があってこそのものです。それに特権階級を持つ貴族は、その代わりに平民達を庇護する責を負っています。その庇護を失った奴隷は、平民は急に野に放たれて何が出来るのでしょうか? 自由になったその先は? 何も考えも無しに開放された彼らは、今度は自由という名の重責に苦しむことになるのです! 更に言うなら、政治に関して素人同然の民衆にいきなり政治に参加をしろと言っても、何が出来るでしょうか? 何が分かるのでしょうか? そんな民衆が自ら政治に参加しようと思うでしょうか? こうして考えると、彼の考える革新的だという様々な改革は、全て絵空事に過ぎません。現実の問題から目を逸らし、民衆が聞いてきて気持ちの良いことしか語らず、ただただ人気取りにしか走らない愚かな第1王子――それがカリオス=ド=アルマイトの真の姿です。そんな彼の作る未来の王国は、そこに住む皆さんは、果たして幸せでしょうか? 具体的な方策も、確とした方向性も何もない、ただただ理想論だけの政治を布いたところで、その後に待っているのは皆さまへのしわ寄せです。きっと、過酷で辛い生活を皆様に強いることになるでしょう」
兄は妹を溺愛し、妹も兄を溺愛していると、大陸の至るところで微笑ましく噂される程の兄妹であるカリオスとリリライト。
そのリリライトが、芝居がかった演説で、その兄の全てを全面否定する。
更にリリライトは、今度は悔しそうに拳を握りしめながら続ける。
「まだ、それであれば私は妹として、カリオス殿下の補佐を努めようと考えておりました。愚かな兄の考えを正すことは、妹として当然の責務――しかし、私を今回の決断に至らせた決定的な事実は、お父様――ヴィジール=ド=アルマイトのことです」
その目に涙すら浮かべるくらい勢いで続けるリリライト。しかし勿論、その瞳に涙が浮かぶことは無かったし、やはり後ろの2人の女性も笑っているだけだった。
「ヴィジオール陛下が表に出ず、隠居状態と言われておりますが、皆様はそこに隠された事実に気づいておられますか? 私も、つい最近まで全く知る由もありませんでした。兄カリオスは、己の愚かな政策に強固に反対する父王陛下を幽閉しているのです!」
ざわざわと、民衆がどよめく。今度はその騒がしさが鳴りやまぬのも待たず、リリライトは勢いのまま続ける。
「思い通りにならない政敵を葬る――決して正道だけではまかならない政治の世界で致し方ないことかもしれません。私も王族の1人、政治に携わる第2王女として、そういった謀略や陰謀を、褒めることは出来ませんが、安易に完全否定することもしません。でも! それでも、です! 親、ですよ? 血を分け与え、この世で最も深い愛情を注いでくださった肉親を、その手にかけようとしている――そんな親殺しが、大陸を代表する国王になるなどと……私は決して看過できません! そんな国王が治める国など、亡びるべきです。そこに住む方々が、到底幸せになるとは思えないのです!」
舞台上で悲壮ぶって語るその姿は、まるで悲劇のヒロインだ。……と思うのも、本当にバカバカしくなるくらいの大根役者だ。
後ろに控える女性の1人は、胸の前で手を組むリリライトを見ながら、嘲笑を浮かべていた。
「それならば、私は妹としてあえて「兄殺し」の不名誉を自ら負い、この手を汚してでも兄の愚行を食い止めようと思います。そして、そうしてしまえば私も父を手に掛けようとしている兄と同じです。悪逆の徒カリオスを討ち、父を救い出すことが出来たその後、私が王位を継承することはありません。その暁には、私が信頼をおける偉大な方へ、王位継承権を譲渡するつもりです。私は、この身命にかけて、民衆の皆様のために、自らの王位のことしか考えていない悪辣な王子カリオスを討つことを、ここに誓います」
悲壮な雰囲気とは打って変わって、最後には手を振り上げて、勇敢な指導者の顔つきになるリリライト。
その可憐で勇壮な姿に、広場の民衆からはわっと歓声が沸き上がり、嵐のような拍手が鳴り響く。
連呼されるリリライトの名前。中には、次期聖アルマイト女王と崇める声すら聞こえている。
これまで、偶像として国民からの人望を集めていたリリライトの存在のすさまじさを物語る光景だった。
その光景を満足そうに浮かべるリリライトの微笑は、そのあどけなさにそぐわぬ、冷酷で残忍な光をその瞳に宿していた。
やがてリリライトは手を翳すようにしながら、大衆のざわめきを制する。その堂に入った仕草は、すっかり女王気取りだ。
「ありがとうございます、皆さん。それでは、この私の想い賛同して下さり、今回協力をしていただけることになった友人2人を紹介いたします」
にっこりと太陽のような笑顔を浮かべるリリライト。七変化というくらいにころころと表情が変わっていく。
「今回、“第1王子派”と”戦争”を行うにあたり、部隊の総司令官をお願いすることにしました。“新”白薔薇騎士団騎士団長リアラ=リンデブルグです」
リリライトの後ろに控えていた1人の女性――いや、まだ少女といってもいだろう彼女が歩み出る。
もはや彼女は学生ではない。白薔薇騎士の、豪奢な装飾に彩られた礼服――それは白薔薇騎士団長にしか身に纏うことを許されていないものだ――を着た、かつてのミュリヌス学園1年首席リアラ=リンデブルグだ。
「リリライト“女王陛下”の友人などと、とても恐縮です。しかし、女王陛下の信頼に応えるべく、私も悪辣の徒カリオス=ド=アルマイトを討つべく、微力を尽くすことをここに誓います。私のような若輩者に命令されるのを不快に感じられる方もいらっしゃることは承知しております……が、必ずや勝利をお約束いたします。どうか、私についてきて下さい」
滑らかで、自身たっぷりな口調。若々しい年齢にそぐわぬ威厳たっぷりのその姿勢に、再び広場から歓声が沸き上がる。口々に叫ぶのは「リアラ」「白薔薇騎士団長」という感嘆の声。
「続いて紹介するのは、他国の友人ではありますが、リアラと同じく私の想いに賛同し、支援を約束して下さいました。彼女には、領地内の様々な調整などの内政関連、そして第1王子派との戦争における戦略責任者――いわゆる軍師をお願いすることになりました。ヘルベルト連合国代表フェスティア=マリーンです」
再び上がる歓声と感嘆の声。
まさかのヘルベルト連合の、しかもその頂点に君臨する者が、聖アルマイト王国の第2王女に手を貸すなどと誰が想像しただろうか。その期待に、その場にいる誰もが胸を震わす。
「皆さま、ご紹介にあずかりましたフェスティアです。私の微妙な立場は皆さまもご承知の通りですが、私は単純にこのリリライト女王陛下の正義に、心を打たれましたわ。まあ、本音を言えば、奴隷取引の件といった利害関係の一致といった側面も無くはありませんが……複雑な政治的事情はなんにしろ、私はヘルベルト連合国と聖アルマイトに住むすべての方々が幸せになることを願っております。そして、私に任されたこの大役を果たすことによって、それを証明してみせましょう。所詮は外国の人間かと思われるでしょうが、まあ騙されたと思ってみていて下さい。皆様に幸せな生活が訪れる、その未来の実現をお約束します」
『女傑』--その評判に違わぬ風格で、自信満々の言葉。リアラに劣らない歓声と驚嘆の声が、フェスティアの名前を連呼する声が、広場中に響き渡る。
その『扇動』の効果の程に満足したリリライトは、それこそ女王然とした笑みを浮かべて、宣言する。
「ここに、私リリライト=リ=アルマイトは悪逆の王子カリオス=ド=アルマイトを討つため、聖アルマイト王国王都ユールディアに対して宣戦を布告致します」
明らかに異常な熱狂に包まれながら、リリライトの狂った演説に狂喜する大衆の中――その中に紛れていたカリオスが放った間者は、それだけで目が眩んで倒れそうになっていた。それ程に、その演説は異常な空気に包まれていたのだ。
ここに、聖アルマイト王国建国史上初めてにして最大にして最悪で愚かな内乱が勃発した。
領内にあるミュリヌス学園演習場『コロッセオ』に、大衆が集められていた。
そして彼らが崇めるように視線を送るテラス席のような舞台には、聖アルマイト王国第2王女、大陸中から「純白の姫」と謳われるリリライト=リ=アルマイトの姿があった。
まるで、毎春に執り行われるミュリヌス学園の入学式のようだった。
しかしコロッセオ広場に群がる大衆の様相がまるで違う。
入学式であれば、初々しい可憐な女学生ばかりのはずであるが、そこには老若男女問わず、様々な人間が入り乱れていた。ついでに言うならば、聖アルマイト国民以外にも、ヘルベルト連合国から流れてきたのか、連合国の人間や、柄の悪い龍の爪の兵士と思わしき人物までもが混ざっている。
そしてテラス席でリリライトの側に控えているのも、いつもの大臣グスタフではなく、2人の女性だった。
「皆さん、今日はお集りいただきありがとうございます」
定刻になり、「純白の姫」が言葉を紡ぎ始める。
その言葉は凛としており、ただただ「可愛い」「可憐」だと言われていた以前の彼女までとは少し違う。僅かながらだが大人びた声調と、強く気高い意志の強さが感じられる声だった。
「こんなにもたくさんの方が、私の想いに、決意に賛同して下さったこと、大変に感謝しております。そんな皆さんの想いに応えるべく、今日は私も不安と恐怖を振り払い、皆さんに私の重大な決意と覚悟を伝えさせていただきます」
かつては、公式の場でも朗らかで、良い意味での調子の軽さがあったリリライト。
しかし、今日この場においてそれらはない。
逆にあるのは、悲壮とも言える程に真っ直ぐな瞳と声だ。
そして、リリライトは演説を開始する。
「私、リリライト=リ=アルマイトは、今日ここに悪辣の徒カリオス=ド=アルマイトを討ち、聖アルマイト王国を本来のあるべき姿ーー正義の国へ導くことを、ここに宣言致します」
静かだが淀みのないリリライトの宣言に、一斉にコロッセオの広場はざわめき、リリライトの側に控える女性は2人とも笑みを浮かべる。
しばらくどよめきが続く広場において、リリライトはそのざわめきが落ち着くのを待ってから、絶妙なタイミングで演説を再開する。
「兄カリオスは、聖アルマイト王国の国民に広く慕われていることは私も承知しております。その理由も。……しかし、冷静に考えてみて下さい。彼の打ち出す方策は、考えは、本当に国のためになっているのですか? 耳障りの良い言葉に、彼の調子の良い態度に惑わされず、真剣に今一度考えてみて下さい」
カリオスの進める大改革は色々とある。奴隷取引や貴族制度といった王族を含めた特権制度の撤廃、王制政治から民主制への移行などと、それまでの制度を概念から崩壊させるような革新的な改革だ。
「確かに、兄カリオスの言葉は、改革を成した後に待っているのは理想の世界だと、非常に耳障りの良いことばかりです。貴族や奴隷といった、身分格差や貧富の差もなく皆平等。国民1人1人が政治に参加して、皆が考えながら思うような国を皆で作っていくという。ああ、確かに……なんという理想の世界でしょうか! まるで物語に出てくる夢の世界のようです」
それは過剰に芝居がかった口調だった。そんな役者がかった演説手法も、実にリリライトらしからぬものだ。
しかし、それはこの場の独特な空気で聞き入る民衆には効果絶大。皆、食い入るようにリリライトの言葉に耳を傾けている。
「しかし! 冷静に考えてみて下さい。今、多くの人達が安定的に生活を送れているのは、奴隷の存在があってこそのものです。それに特権階級を持つ貴族は、その代わりに平民達を庇護する責を負っています。その庇護を失った奴隷は、平民は急に野に放たれて何が出来るのでしょうか? 自由になったその先は? 何も考えも無しに開放された彼らは、今度は自由という名の重責に苦しむことになるのです! 更に言うなら、政治に関して素人同然の民衆にいきなり政治に参加をしろと言っても、何が出来るでしょうか? 何が分かるのでしょうか? そんな民衆が自ら政治に参加しようと思うでしょうか? こうして考えると、彼の考える革新的だという様々な改革は、全て絵空事に過ぎません。現実の問題から目を逸らし、民衆が聞いてきて気持ちの良いことしか語らず、ただただ人気取りにしか走らない愚かな第1王子――それがカリオス=ド=アルマイトの真の姿です。そんな彼の作る未来の王国は、そこに住む皆さんは、果たして幸せでしょうか? 具体的な方策も、確とした方向性も何もない、ただただ理想論だけの政治を布いたところで、その後に待っているのは皆さまへのしわ寄せです。きっと、過酷で辛い生活を皆様に強いることになるでしょう」
兄は妹を溺愛し、妹も兄を溺愛していると、大陸の至るところで微笑ましく噂される程の兄妹であるカリオスとリリライト。
そのリリライトが、芝居がかった演説で、その兄の全てを全面否定する。
更にリリライトは、今度は悔しそうに拳を握りしめながら続ける。
「まだ、それであれば私は妹として、カリオス殿下の補佐を努めようと考えておりました。愚かな兄の考えを正すことは、妹として当然の責務――しかし、私を今回の決断に至らせた決定的な事実は、お父様――ヴィジール=ド=アルマイトのことです」
その目に涙すら浮かべるくらい勢いで続けるリリライト。しかし勿論、その瞳に涙が浮かぶことは無かったし、やはり後ろの2人の女性も笑っているだけだった。
「ヴィジオール陛下が表に出ず、隠居状態と言われておりますが、皆様はそこに隠された事実に気づいておられますか? 私も、つい最近まで全く知る由もありませんでした。兄カリオスは、己の愚かな政策に強固に反対する父王陛下を幽閉しているのです!」
ざわざわと、民衆がどよめく。今度はその騒がしさが鳴りやまぬのも待たず、リリライトは勢いのまま続ける。
「思い通りにならない政敵を葬る――決して正道だけではまかならない政治の世界で致し方ないことかもしれません。私も王族の1人、政治に携わる第2王女として、そういった謀略や陰謀を、褒めることは出来ませんが、安易に完全否定することもしません。でも! それでも、です! 親、ですよ? 血を分け与え、この世で最も深い愛情を注いでくださった肉親を、その手にかけようとしている――そんな親殺しが、大陸を代表する国王になるなどと……私は決して看過できません! そんな国王が治める国など、亡びるべきです。そこに住む方々が、到底幸せになるとは思えないのです!」
舞台上で悲壮ぶって語るその姿は、まるで悲劇のヒロインだ。……と思うのも、本当にバカバカしくなるくらいの大根役者だ。
後ろに控える女性の1人は、胸の前で手を組むリリライトを見ながら、嘲笑を浮かべていた。
「それならば、私は妹としてあえて「兄殺し」の不名誉を自ら負い、この手を汚してでも兄の愚行を食い止めようと思います。そして、そうしてしまえば私も父を手に掛けようとしている兄と同じです。悪逆の徒カリオスを討ち、父を救い出すことが出来たその後、私が王位を継承することはありません。その暁には、私が信頼をおける偉大な方へ、王位継承権を譲渡するつもりです。私は、この身命にかけて、民衆の皆様のために、自らの王位のことしか考えていない悪辣な王子カリオスを討つことを、ここに誓います」
悲壮な雰囲気とは打って変わって、最後には手を振り上げて、勇敢な指導者の顔つきになるリリライト。
その可憐で勇壮な姿に、広場の民衆からはわっと歓声が沸き上がり、嵐のような拍手が鳴り響く。
連呼されるリリライトの名前。中には、次期聖アルマイト女王と崇める声すら聞こえている。
これまで、偶像として国民からの人望を集めていたリリライトの存在のすさまじさを物語る光景だった。
その光景を満足そうに浮かべるリリライトの微笑は、そのあどけなさにそぐわぬ、冷酷で残忍な光をその瞳に宿していた。
やがてリリライトは手を翳すようにしながら、大衆のざわめきを制する。その堂に入った仕草は、すっかり女王気取りだ。
「ありがとうございます、皆さん。それでは、この私の想い賛同して下さり、今回協力をしていただけることになった友人2人を紹介いたします」
にっこりと太陽のような笑顔を浮かべるリリライト。七変化というくらいにころころと表情が変わっていく。
「今回、“第1王子派”と”戦争”を行うにあたり、部隊の総司令官をお願いすることにしました。“新”白薔薇騎士団騎士団長リアラ=リンデブルグです」
リリライトの後ろに控えていた1人の女性――いや、まだ少女といってもいだろう彼女が歩み出る。
もはや彼女は学生ではない。白薔薇騎士の、豪奢な装飾に彩られた礼服――それは白薔薇騎士団長にしか身に纏うことを許されていないものだ――を着た、かつてのミュリヌス学園1年首席リアラ=リンデブルグだ。
「リリライト“女王陛下”の友人などと、とても恐縮です。しかし、女王陛下の信頼に応えるべく、私も悪辣の徒カリオス=ド=アルマイトを討つべく、微力を尽くすことをここに誓います。私のような若輩者に命令されるのを不快に感じられる方もいらっしゃることは承知しております……が、必ずや勝利をお約束いたします。どうか、私についてきて下さい」
滑らかで、自身たっぷりな口調。若々しい年齢にそぐわぬ威厳たっぷりのその姿勢に、再び広場から歓声が沸き上がる。口々に叫ぶのは「リアラ」「白薔薇騎士団長」という感嘆の声。
「続いて紹介するのは、他国の友人ではありますが、リアラと同じく私の想いに賛同し、支援を約束して下さいました。彼女には、領地内の様々な調整などの内政関連、そして第1王子派との戦争における戦略責任者――いわゆる軍師をお願いすることになりました。ヘルベルト連合国代表フェスティア=マリーンです」
再び上がる歓声と感嘆の声。
まさかのヘルベルト連合の、しかもその頂点に君臨する者が、聖アルマイト王国の第2王女に手を貸すなどと誰が想像しただろうか。その期待に、その場にいる誰もが胸を震わす。
「皆さま、ご紹介にあずかりましたフェスティアです。私の微妙な立場は皆さまもご承知の通りですが、私は単純にこのリリライト女王陛下の正義に、心を打たれましたわ。まあ、本音を言えば、奴隷取引の件といった利害関係の一致といった側面も無くはありませんが……複雑な政治的事情はなんにしろ、私はヘルベルト連合国と聖アルマイトに住むすべての方々が幸せになることを願っております。そして、私に任されたこの大役を果たすことによって、それを証明してみせましょう。所詮は外国の人間かと思われるでしょうが、まあ騙されたと思ってみていて下さい。皆様に幸せな生活が訪れる、その未来の実現をお約束します」
『女傑』--その評判に違わぬ風格で、自信満々の言葉。リアラに劣らない歓声と驚嘆の声が、フェスティアの名前を連呼する声が、広場中に響き渡る。
その『扇動』の効果の程に満足したリリライトは、それこそ女王然とした笑みを浮かべて、宣言する。
「ここに、私リリライト=リ=アルマイトは悪逆の王子カリオス=ド=アルマイトを討つため、聖アルマイト王国王都ユールディアに対して宣戦を布告致します」
明らかに異常な熱狂に包まれながら、リリライトの狂った演説に狂喜する大衆の中――その中に紛れていたカリオスが放った間者は、それだけで目が眩んで倒れそうになっていた。それ程に、その演説は異常な空気に包まれていたのだ。
ここに、聖アルマイト王国建国史上初めてにして最大にして最悪で愚かな内乱が勃発した。
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