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第1章 入学の春 編

第11話 引きずり出される本能

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「この五日間は貴女が疲れていたようだ、とアンナさんが心配していましたわ」



 ミュリヌス学園の学生寮。



 リアナとステラの部屋には、ステラが5日間の遠征合宿から戻ってきていた。



「ふふ。きちんと言われた通り、5日間ずっと身に付けていました?」



 白い清楚で上品な下着に身を包みステラはベッドに座っている。そしてそのステラの前には、顔を真っ赤にしてステラと視線を合わせられないリアラが立っていた。



 彼女には姿見が向けられている。



 その姿見の中には、およそリアラには似合わない、紫色の大人びた下着。しかも下半身はガーターベルトという、扇情的な格好が映っていた。



 リアラはステラの返事に、こくりとうなずく。



「どんな感じでしたか? 私が合宿に出る前に、たっぷりと汗を掻いて着込んだ下着を、5日間洗いもせずにずっと着用していた気分は。貴女のサイズに合わせていたから、少し胸がきつかったですが」



 と、何の邪気もない優雅な笑みで問いかけるステラ。それを口に出されて、リアラはますます顔を赤くして黙り込んでしまう。



「約束でしたわよね? 夜の行為を止めて欲しい、と。そのために私の提案を受け入れる、と」



 その言葉にリアラは合宿前とのステラとの会話を思い出す。



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 今ではもう毎夜のようにステラと行為に及ぶようになっていたリアラ。しかも女同士という抵抗感も、リューイに対する罪悪感も、どんどん薄れていき、リアラ自身もステラを求めるようになってしまっていた。



 いけないことだとは分かっていても、これ以上ずぶずぶとハマっていくと抜け出せない。合宿前にリアラは勇気を振り絞ってステラに言った。



『ステラ先輩とは健全な先輩と後輩の仲でいたい。もう止めて欲しいんです』



 そんなステラはリアラに何度も確認した。気持ちよくなかったのか、自分のことが嫌いなのか、もうあの快感が無くなってもいいのか――



 何度も何度も確認してくるステラに、リアラは心が折れそうになりながらも、元々学園に来た崇高な目的を思い出す。リンデブルグ家のためにも、そして笑顔で送り出してくれたリューイのためにも、そんなことをしている暇はない。現に、夜枚の行為によって授業に支障が出始めている。こんなは調子ではいつ上位5席から零れ落ちてもおかしくない。



『分かりましたわ。本当にリアラが嫌がっているのは私が望むところではありません。でも、リアラがつまらない常識に捕らわれて、意地を張っているだけで……本当の気持ちを誤魔化しているならば、その気持ちを解き放ってあげますわ』



 そう言ってから、ステラはリアラの気持ちを確認するため、と提案をしてきた。



『私との行為が負担となり学業に支障が出ている――それならばとりあえず私が不在となる来週からの遠征合宿の期間、学業に集中出来るということですわね。本当にリアラが私との行為を望んでいないのであれば、どんなことをしても私との行為を忘れて、学業に没頭できる。間違いありませんわね?』



 ステラ先輩のことが嫌いというわけではないんです――その行為以外は、本当に親切によく接してくれる先輩にそう解釈しながら、リアラは肯定する。



『そうしましたら、貴女は抵抗があるかもしれませんが……一つ提案ですわ。実はリアラが心の底では私との行為を望んでいるのではないか、それを確かめるための』



 ステラが不在の間は、当然行為が行われることがない。健全な先輩と後輩というなら、ステラを思い出しても、そういった欲求は生まれてこないというはずだ。



 それならば、ステラが装着して温もりや匂いが残った下着を五日間ずっと着用すること。勿論洗濯などしてはいけない。本当にリアラの言うことが真実なら、不潔で不快だと思うはずだが、ステラはリアラの本音を分かっている。



だからステラが身に付けていた下着を装着することで、体温や匂いをずっと感じることで、きっとリアラの本音があらわになる。それでも、リアラの気持ちが変わらないのであれば諦めてリアラの言うとおりにする。



 当然、リアラはこの提案には難色を示した。他人の下着を、しかも洗うことなく着続けることなど、ステラの言う通り不潔だ。ステラが合宿前に、汗で蒸れたその下着を渡してきた時に、更にその思いは強くなった。



 しかしステラを説得するには、この提案にのるしかないとも考えた。これでしっかり自分の気持ちを証明出来れば、自分で言っている通りステラは諦めるだろう。今までも暴力の類で無理やりされたことはない。



 無論、ステラが合宿に出る前――この時点では、リアラは自分がステラに伝えた気持ちを信じて疑っていなかった。



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「どうでしたか? きちんと答えていただかないと、せっかく受け入れてくれた貴女自身のためにもなりませんわ」



「それは……」



 姿見に映る自分の姿からも目を逸らして、リアラは言いよどむ。



 おかしい。提案を受け入れた時は、笑顔で即答できるつもりだったのに。どうしてこんな気持ちになっているのだろうか。



「それでは、答えやすいように私から質問して差し上げますわ」



 まるでこの状況を予想していたかのように余裕の笑みを浮かべる。いや、実際に予想していたのだ。提案時にステラは「リアラの本音を分かっている」と言っていた。



「汗で蒸れて、匂いましたか?」



 あまりにも直接的な質問に、リアラの顔がますます赤くなっていく。



 そして数秒の沈黙の後、リアラは首を横に振る。



「先輩の……良い匂いがしました……」



 そういうと、自分の心臓がどきどきと高鳴っているのが分かる。



 渡された時は確かに汗で蒸れていた下着。しかし、その時は汗臭さよりも、程よくステラのシャンプーの良い香りが立ち込めていた。ただリアラが数日間着込んで、彼女自身も汗もかけば悪臭は避けられない。すると、他人に事情を悟られかねない…ということで、ステラは一つの条件を出した。



 匂いに関しては、ステラが置いていった、ステラが使用している香水を使用することを許可したのだった。それでリアラはこの五日間、ずっとステラの匂いに包まれることとなった。



「貴女も実技講習などで汗を掻くことがあったでしょう? 不快でしたか?」



 その通りだ、と答えなくてはいけない。こんな異常で意味が無い行為、気持ち悪いだけだったと。



 しかし、実際にこの五日間のことを思い出すと、リアラは素直にうなずけなかった。



「暖かくて、先輩の体温を感じて……その……」



「はっきり、具体的に、分かりやすく答えて下さいまし」



 ステラの言葉は優しいが、短く断じるような冷たい声色が混ざっていた。



 リアラはごくりと生唾を飲み込み、その時に感じた心情を吐露する。



「先輩が着ていたと思うと……その……まるで胸が……体中が先輩に包まれているみたいで。そう思うと、先輩とのことを思い出してしまって……でも先輩はいなくて……」



「それで? 思い出したんですの? 私も、貴女が来ていた下着を持っていったことに」



 いわゆる、お互いが会えなくなる期間、お互いが出発前に来ていた下着を交換したのだった。お互いの存在を肌で感じられるよう、ステラがそう仕向けた。



 ちなみに双方とも、今回使用した下着はこの提案のために新しく準備したもの。先ほどステラが言ったように相手の体型に合わせたものだったので、リアラはブラのサイズが大きくて合わなかったということがあったが。



 ステラの問いにリアラはうなずく。



「せ、先輩も私の下着をつけていて同じだと思ったら……う、嬉しくなってしまって……先輩のことで頭がいっぱいになって……テストでミスしたり、友達との約束を忘れてしまったり……」



 自分は何を言っているのだろうか。正直に言ってはいけない……でも止まらない。この湧き上がる思いを、ステラに知って欲しいという気持ちがどんどん強くなっていく。



「すごく寂しいのに、嬉しくて……下着を脱ぎたくなくなってしまって……」



 真っ赤な顔に、欲情に濡れた瞳。もうこの時点で既にステラの思い通りになっていることは間違いなかった。ステラは満足そうな笑みを浮かべると、ステラの背後に回り肩に両手を置く。



 肩にステラの手を感じるだけで、リアラはビクンと体を震わせる。



「さ、鏡を見るんですわ」



 ステラに促されるまま、リアラは姿見に映る自分を見る。今までに着たことがないような、艶めかしい紫色の下着にガーターベルト。



「乳房の部分をよくごらんなさい」



「……あっ」



 リアラの身体には触れることなく、その部分を指し示すステラ。このためにわざわざ薄い生地のものを準備したのだ――そこには、ぷっくりと乳首が尖っているのが下着の上からでも分かる程だった。



「……あぅ、あぅ」



 もうステラが帰ってくるのを、ステラとの行為を期待していることを隠し切れないと悟ったリアラは、まともに言葉を喋られなくなっていた。困ったようにあうあう言いながら、太ももともどかしそうに擦り合わせる。



「そのっ……私っ……寂しくて、どうしても我慢出来なくてっ! 一人でして……私の汚いので先輩の着ていた下着をっ……!」



 言葉に詰まりながら、聞いてもいない痴態を告白するリアラ。



 まさか一人で慰めるまでは予想外だったのか、珍しくステラは意外そうに眼を丸める。そして既に染みが広がっているショーツを見て、予想以上に自分の仕込んだことの効果を実感し、心底嬉しそうに微笑む。



「さあそろそろ答えを出しましょうか、リアラ。もうこのようなことは止めてほしい? 貴女の本音を聞かせていただきたいですわ」



 ダメ。



 ここで絶対に流されたらいけない。もう二度と戻って来られなくなる。



 懸命に理性を働かせて、身体の奥から、脳の奥から出てくる欲求に抵抗する。



 しかしその抵抗を許さないよう、ステラは後ろからリアラの手を愛おしく握る。そしてリアラの身体を抱き寄せる。



 ステラの柔らかい体温を背中に感じるリアラ。その途端に得体のしれない、何か暖かいものが胸の奥から込みあがってくる。心臓が破裂するくらい、激しく脈打ち始める。



 そうしてリアラは、自分の答えを示す。



 握られた手を握り返しながら、身体をステラと向き合うように反転させる。そしてステラの背中に手を回しながら、蕩けた瞳をステラに向けて。



「――今夜は五日ぶりですから……朝まで、可愛がって欲しいです」



 明日もまた普通に授業があるにも関わらず、そう懇願するのを抑えられなかった。



 リアラは、ステラに引きずり出された本能と欲求に屈した。
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