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第3章『”剣士”覚醒』編
第122話 クラベール領内飛竜争奪戦模様
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第2王女派の前線地帯バーグランド領。そこから出撃するのは、ステラ率いる淫魔部隊。
淫魔のみで構成されたその部隊の行軍は、極めて遅かった。
龍牙騎士団或いは龍の爪や新白薔薇騎士団のように、彼女らは訓練された部隊ではない。というか、そもそも人間ですらない。
数としては100と少しという小規模部隊のそれは、まるで女学生が遠足に行くような光景で、各自が自由気ままに、おしゃべりなどをしながら歩き、道を進んでいた。
統率の取れた動きだとか、最早そんなレベルではないお粗末な行軍だった。
「お姉様ぁ~。楽しみですねぇ」
その先頭を行くのは、部隊を統率するステラだ。
淫魔部隊の頂点ーーかの暗黒時代には、魔王を倒した4英雄を苦しめたという伝説に残る程の淫魔である。
しかし、そんな伝説級の存在であるはずのステラは、角や牙が生えている周囲の淫魔達の誰よりも人間らしい外見をしている。
優雅な金髪に、凹凸がはっきりと出ている魅惑的な身体。第2王女派が蜂起するまでは、ミュリヌス学園のフォーマルな制服を着こなしていたが、今は紫を基調とした複雑な紋様が刻まれた軽鎧にその身を包んでいた。
その恰好は戦場に向かう平凡な1女戦士そのものである。彼女が淫魔であると知らない人間からすれば、それ以上には見えない。
「くすくす。そうですわね」
そうして話しかけてきた彼女が言うところの“妹”の1人から話しかけられたステラは、頬に手を当てながら滔々とした表情で返事をした。
見た目は普通の人間の女戦士――しかしその瞳は、理性と淫欲を両立させた、人外なる赤い光を宿していた。
「偏食はいけませんもの。たまには男の精を喰わらないと、身体に悪いですし。さて、”妹”達を率いるのは、暗黒時代以来……数百年ぶりですわね」
理性と本能ーーその相反する感情を見事に両立されている人外の化物。外見は普通の女性にしか見えないのに、そこに立っているだけで周囲の畏怖を与える驚異的な存在。
それが、淫魔ステラ。
彼女は、獲物を前にした肉食獣が舌なめずりをするように、唇を舌でぺろりと舐める。
「――さぁ、いきますわよ。貴女達も、存分に雄の精を喰らいつくし楽しみなさい」
後続の淫魔達に背中を向けながら、ステラは片手を上げて、高らかに宣言するように言う。
すると、それまでぺちゃくちゃと雑談を交わしながら歩いていた淫魔達は、己が主人の声に反応し、ぴたっと動きを止める。
そして次の瞬間には、その一団は高度に統率が取れた熟練部隊のように動きを揃えると……
次の瞬間、ステラを含めた全ての淫魔達が、背中から羽を展開させる。
まるで蝙蝠を思わせるような漆黒の羽――“魔族”という名が示す通り、正に悪魔を思わせる禍々しいその羽を展開させた一団は、バッと上空に舞い上がっていく。
「飛竜使いをつまみ食いのするのもいいかもしれませんわね。それに……勇者特性を受付けない龍騎士、未だ性の快感も知らないような無垢な魔具持ちの弓術士、そしてグスタフ様と同類だという謎の男コウメイ……どんな味がするのかしら? 今から楽しみですわね」
空を行く第2王女派淫魔部隊の魔の手が、遂にクラベール領へと伸ばされようとしていた。
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クラベール城塞都市では、コウメイとラミアが率いる王下直轄・紅血騎士団の混成部隊が、城塞都市を出立しようとしていた。
今回の目的は、領内に潜伏していると思われる敵飛竜使いの確保。
現在もその行方を追っている追跡部隊より、飛竜使いが潜伏しているのは領内の北部、ノースポール領にほど近い地帯であるという。コウメイらはそこを目指して、今まさに城塞都市を出発しようとしていた。
コウメイの麾下では、最も彼に近しい側近になるでろう龍騎士リューイも、当然のことながらその部隊に組み込まれていた。
「リューイさん! リューイさーん」
城塞都市正門の前で、部隊に混じった自分の名を呼ぶ声が聞こえて、リューイはそちらの方へ視線を向ける。
先の防衛戦の勝利ですっかり人気となった王下直轄部隊の出立を見送る領民達の群れの中、そこには聖王教会のシスター達が集まっていた。そしてそのシスター達の中で、ぴょんぴょんと飛びながら、手を振っている人物がいた。
彼女は、多くの群衆が集った中でも、一際目立つ程の美貌を持った、平たく言えば”美少女”。
修道女でありながら、祈りや奉仕などよりも何よりも、歌をこよなく愛する彼女は、リューイの知り合いであるシスティーナだった。
「ちょっとぉぉ、いいですかぁぁ?」
お互いざわついた人の群れの中にいるのに、彼女の声はよく聞こえる。歌を歌うのが趣味というだけあって、よく通る声をしている。
「ちょっと、すみません」
リューイが周りの騎士達に一言おくと、その騎士達はリューイの名を呼ぶ美少女の姿を認める。するとニヤニヤとリューイのことをからかい始めると、リューイはなんとなく気まずさを感じながら、部隊の中から駆け出してシスティーナの側へ駆け寄る。
「ち、ちょっと! システィーナってば、龍騎士様とお知り合いなのですか?」
「シスターだというのに、そんなに飛んだり跳ねたり……ああ、なんとはしたない。申し訳ございません、龍騎士様。聖アルマイト最高の騎士様の前で、このような無作法な態度を……」
「あ、ちょっと先輩達黙っててくれます?」
龍騎士として知られたリューイを前に、恐れおののくように一歩退く先輩シスター達を、システィーナは容赦なく一息で一蹴。
その語気の強さにリューイも思わず一歩退くが、システィーナはそんなことお構いないしに、逆にリューイに向かって一歩進み出る。
「あの、その……なんていうか……えぇと……頑張ってきて下さいね」
「え? あ、ああ……ありがとう」
わざわざ呼び止めたくらいだから何事だろうかと思ったのだが、それだけなのだろうか。
勿論、その声一つだけでもリューイは嬉しい。それが、あの夜に再度立ち上がる力をくれたシスティーナであれば尚更ではあるのだが、どこか違和感がある。何か別に言いたいことがあるのではないだろうか。
「あぁ……えーと……ううぅ……」
案の定、システィーナが伝えたかったことはそれだけではなかったようだ。唇に手を当てて、何か言いたいけど言いづらそうに、リューイから視線をずらして口ごもっている。
「どうした? 何か心配事でも?」
「ん、んん……えーとですね」
リューイに問われて、それでも言いづらそうにしているシスティーナ。それから数秒ほど「うーん、うーん」と言いながら、ようやく意を決したようにリューイの顔を見上げる。
「出発する前のリューイさんにこんなこと言うのもなんだと思ったんですけど……私、どうしても心配で……」
そう言うシスティーナの瞳には、真剣さが込められているのが分かる。その内容は、あまり良いものでは無さそうだ。
リューイはなんとなく察すると、首をうなずかせてシスティーナの次の言葉を待つ。
「その……本当に、気を付けて下さい! 上手く言えないんだけど……私、凄く嫌な予感がするんです! リューイさんがこのまま帰ってこなくなっちゃうような……もう、リューイさんと会えなくなるような気がしてっ! そんなの嫌だからっ……だから、気を付けてっ! そして、帰ってきて下さいね」
「……」
「そ、それだけですっ!」
リューイが無言のままでいると、システィーナは申し訳なさそうに頭を下げる。
いくら気安く親し気に話すとはいえ、リューイは龍騎士だ。一般市民のシスティーナにとっては、元帥であるコウメイと同じくらいに、雲の上の存在である。
そんなリューイの足をわざわざ止めて、しかもこのような不吉な言葉――当然、周りの先輩シスター達がシスティーナを咎め始める。
が――
「ありがとう、システィーナ」
リューイは笑みを浮かべながら、社交辞令ではない、本気の感謝の念を伝える。
そのリューイの声に、システィーナらはハッとしながら、リューイの顔を見返した。
「約束したろ? システィーナの歌、必ず恋人と一緒に聞かせてもらうって。楽しみにしているんだ。だから、今回も必ず無事に帰ってくるよ。システィーナは、ちゃんと歌の練習をしておいてくれ」
爽やかな笑みを浮かべてリューイがそう言って手を差し出す。システィーナはボーっとしながら、その手を機械的に握りしめる。
「あーーーーーーーっ! リューイさが、リューイさがー! 浮気しとるがやー! 恋人いるっちゅうに、最低の男っちよ! いーってやろ、言ってやろっ! 元帥さにもカリオス殿下にも告げ口したるがよー!」
どこか嬉しそうな少女のような声が聞こえてくると、リューイは苦笑しながら「やれやれ」と頭を掻く。
「それじゃ、行ってくるよシスティーナ。戻ってきたら時間を作るから、またゆっくり話そう」
握り返されたシスティーナの手を優しく解き、リューイは背を向けて手を振りながら、システィーナ達の前から立ち去って行った。
「ち、ちょっとシスティーナ、どういうこと?」「説明しなさい!」
リューイとシスティーナの関係を知らない先輩達から詰問される彼女は、しかしボーっとしたまま、その声は耳に届いていないようだった。
ただ茫然としながら、遠ざかるリューイの背中を見送り続ける。
傍から見れば、平凡な一市民の少女が、王国最高峰の龍騎士へ憧れの視線を送っているようにしか見えない。
--しかし、そのシスティーナの胸中は、決して穏やかなものでは無い。
(止められなかった。これで、良かった……のかな?」)
今まで感じたことのないような気持ち悪さ、重苦しさを感じる。
去って行くリューイに手を伸ばしても、もう二度とその手は届かないのではないか。それ程に感じる不吉な予感。
システィーナはじっとりと冷や汗を垂らしながら、両手を胸の前で組む。
(神様……聖龍様。お願いです……どうか、どうかリューイさんをお守りください)
今まで真面目にお祈りなどしたことがないシスティーナが、本気で神に祈りを捧げるのだった。
□■□■
「本当に良い天気ねぇ~。こんな日は、生きたまま敵の頸動脈を切り裂いて、噴水のように血を噴かせると、とても素敵な眺めになりそうねぇ~。数十人くらいの血飛沫は、それはそれは壮観でしょうねぇ」
「……」
「中には、大量の血を見ただけで意識を失って、最悪なのは苦しむことなく死んでしまうような脆弱な人間もいるからぁ~、ちゃ~んと断末魔の声と絶望の表情が見えるようにぃ、処置をしておかないとぉ~。なんか、薬とかで出来そうな感じもするけどぉ、魔術の方が手っ取り早いかしら? なら龍牙で新しく就任した魔術将軍とやらを紅血に引き抜いて――」
「リリライト様の顔で、凄まじく怖いこと言うの止めてくれないですかね!?」
夏の太陽が地上を焦がすように照り付ける中、クラベール領内を行く王下直轄・紅血騎士団の混成部隊。そのそれぞれの部隊の統括役であるコウメイとラミアは、部隊中央で馬を並べて、道を進んでいた。
いつものゆったりとした口調で喋っているのは、第1王女ラミア。
今回捜索任務とはいえ、戦闘に入ることも充分に想定される。従って第1王女たるラミアも、王宮内でいつも纏っている真紅のドレス姿とは違って、戦場に相応しい恰好をしている。
防御力よりも身軽さを重視しているため軽くて薄い鎧だが、王族であるラミアが装備するそれは、言うまでもなく聖アルマイト最高級の物である。その色は、いつものドレスの同じ彼女のパーソナルカラーでもある“紅”。
そして色以外に、いつもと変わりないのは、腰に下げている神器ーー獄炎の剣“紅蓮”である。
「いやねぇ~、冗談よぉ」
馬上でケラケラと笑うラミアの顔は、コウメイの言う通り、彼女の妹であるリリライトそのものと言っても良い程に似通っている。
しかし、実際に彼女とリリライトを見紛う者などいないだろう。
どちらかといえば子供体型なリリライトと比べれば、ラミアは鎧の上からでもわかる程に色気たっぷりで、妖艶で魅惑的な肉付きをしている。そしてそれ以上に、その目つきや表情は、天真爛漫で穏やかなリリライトとは、全く異なるものだ。
不思議なことに、顔のパーツは同じなはずなのに、リリライトとラミアを取り違えることは、1万人いれば1万人が間違えることはないだろう。
人の容姿は内面を映し出しているとはよく言ったものだと、コウメイはリリライトとラミを比べてそう思うのだった。
「コウメイが無視するからぁ、すこ~し意地悪したくなっちゃっただけよぉ」
「あんな物騒な発言に、どう反応しろと?」
唾を飛ばしながら反論するコウメイ。
そんな二人のやり取りを後ろから見ているのは、同じく愛馬に乗って付き従うようにするプリシティアだった。プリシティアは唇を尖らせながら
「いいなぁ~。コウメイさもラミア殿下も、仲良くて楽しそうっち……」
「これが仲良いように見えるのかな!?」
後ろの護衛騎士にも丁寧に突っ込んでおいてから、コウメイは深呼吸をするように息を吸って吐く。
そんなやり取りをしていると、部隊前方から近づいてくる人影に気づく。コウメイ達は馬を止めると、彼らの前に現れたのはリューイだった。
彼はコウメイやプリシティアと違って馬術を身に着けていないため、リューイの移動は自然徒歩となるため、このような部隊行軍では別行動となることが多い。
「コウメイさん。追跡部隊と合流出来ました」
「おお、ご苦労さん。それで状況は聞けたかい?」
「はい」
リューイがうなずき、追跡部隊の報告を簡単にコウメイに伝える。
飛竜使いが潜伏しているであろう候補は、大まかにあと2つの区域が残っているらしい。
1つはここから真っ直ぐ西進したところにある丘陵地帯。
もう1つは、少し北へずれた場所にある森林地帯だという。
「身を隠すなら森林地帯の方が良さそうだけどな……飛竜は草食らしいし、食料の確保なんかもそっちの方が楽そうだよな」
ぶつぶつと口の中で言葉を並べるコウメイだが、決定的な根拠があるわけではない。結局はしらみつぶしに両方とも探すしかないだろう。
時間を掛ければ、いつ第2王女派の軍勢と鉢合わせになるか分からない。次の本格的な武力衝突までには、余計な消耗は出来るだけ避けたいと考えるコウメイは、この作戦にはなるべく時間をかけたくないと考えている。
効率的に捜索を行うというのであれば……
「部隊を2つに分けるか」
幸いにも、今引き連れているのは2部隊が合流している混成部隊だ。それをそれぞれの部隊に分けるだけで良い。
ただ、心配なのは――
「それでぇ? 飛竜使いを見つけたらどうすればいいのかしらぁ? その場で知っていることを、血反吐と共に洗いざらい吐き出せた後は、飛竜と一緒に沼の底に沈めでもしておけばいいのかしらぁ?」
「や、止めて下さい! 洒落にならないっす!」
『鮮血の姫』と恐れられるラミアだが、決して人格破綻者の戦闘狂ではないことをコウメイは把握している。それどころか、その感情の出し方は歪ながらも、ラミアは味方――特に血族には、揺るぎない愛と優しさを持ち合わせている。
反面、1度敵とみなした相手には、とことん容赦がない。物騒な異名は、そちらの側面があまりにも強烈過ぎるから付いたものだ。それは、かつて彼女が統治と支配を任されていた旧ネルグリア帝国領の当時の様相を聞けば、決して誇張されたものではないと確信できる。
だから先ほどまでの発言が冗談だとしても、敵である飛竜使いに対する今の発言は、とても冗談にも洒落にも聞こえなかった。
物騒な発言をするラミアに、コウメイは馬を寄せると、他の人間には聞こえないように声を潜める。
「カリオス殿下から飛竜使いの一族のことは教えてもらっています。その聞いた話から察すると、彼らが自ら進んで第2王女派に協力しているとは思えません。ましてや飛竜使いは……その……つまり……」
「ええ。私もぉ、そこら辺はコウメイと同じ考えよぉ~。飛竜使いは、可愛らしい少女だと、私も聞いているわぁ~」
コウメイが言わんとすることを察したラミアは、そこはお互いに共通認識であることを伝える。
ーーつまり、飛竜使いはグスタフの「異能」の犠牲者である可能性が高い。
「その飛竜使いは、倒すべき敵じゃない。救われるべき存在だと考えています。だから、出来得る限りは助けたいと思っています」
それは、コウメイの正義感が特別強いというわけではない。
あのグスタフの「異能」の悪辣さを知っていれば、大体の人間はそう思うだろう。
しかし、その「異能」の手にある飛竜使いをそのまま野放しにしてしまえば、その存在は今後の戦いに置いて第1王子派の多くの兵士や民衆を危険に晒し、犠牲を拡大させることになるだろう。
元帥としてコウメイが選ぶべき命の優先順位は、言うまでもない。飛竜使いよりも、自軍の兵士や民衆である。
だから個人としての正義感に囚われて、万が一飛竜使いを取り逃すようなことなどあってはならない。第2王女派の下に戻してしまうくらいのであれば、殺してでも飛竜使いを止める必要がある。彼女が罪のないただの被害者だとしても。
もう迷う余裕すらない。そんな状況に直面すれば、即座に決断・実行しなければいけない。
それが元帥と言う重要職に就いていながら、凡愚に過ぎないコウメイが抱える苦悩でもあった。
「あなたの考えは分かっているわぁ」
そんなコウメイの苦悩を察するように、ラミアは言う。そのおっとりとした口調、しかし次に出た言葉は、コウメイの胸を突き刺すような鋭さがあった。
「甘すぎるわぁ、コウメイ。私は、私や兄様が預かる国民の命を脅かしたこと、絶対に許すことは出来ないわぁ~。まぁ、元帥たる貴方の意に沿えるよう努力はするけれどもぉ~」
リリライトと同じ顔――だから、彼女と同じように笑えば、きっとラミアの笑顔も太陽のような輝かしいものだろう――その瞳に、見ているだけで背筋が凍り付くような、残忍な光を宿らせる。
「逆らったりすれば、容赦なく飛竜共々焼き尽くし、死んでいった者達へ謝罪させるわぁ~。操られているとか、そういうことは関係ない――生まれてきたことを後悔するくらいに焼いて、苦しめて、殺してあげるわぁ~」
残忍極まり無い、しかしそこにあるのはラミアなりの愛なのだろうか。
かくしてコウメイ側は二手に分かれる。
コウメイ率いる王下直轄部隊は丘陵地帯へ。ラミア率いる紅血騎士団の部隊は森林地帯へ。それぞれ飛竜使いの捜索に赴くのだった。
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現在、この大陸において飛竜を自由自在に使いこなせるのはフェア1人だけである。
同じ出身の村の中には、飛竜に乗ってなんとか空を駆けることが出来る者もいる。しかしその時間はごく僅かで、戦場で敵情視察が出来るくらいまでの技量を持っているのは、やはりフェアだけである。
そんな稀有な才能を有したフェアの現状は、極めて悲惨だった。
「大丈夫……? ミーティア?」
「……ルゥゥ」
クラベール領内の丘陵地帯。綺麗な水が流れる小川で、フェアは明らかに弱っている愛竜ミーティアを気遣う声を掛けていた。
起伏に富んでいる地帯で、見渡しの良い平原などに比べれば身を隠すのに適している。しかし、あまり視界を遮るような木々などは少ない。成人男性よりも大きな飛竜と一緒であれば、身を隠し続けることは難しいだろう。
先の戦いで、フェアは偵察任務が終わった後は、フェスティア部隊本隊と離れた場所へ避難していた。その存在を第1王子派に気取られないためだ。
フェスティアがクラベール城塞都市を占領した後、改めてそこで合流する手はずだったのだが。
結果は、まさかのフェスティア部隊の大敗。その状況を知るのを遅れたフェアは、そのまま領内に取り残される形となってしまっていた。
第1王子派がフェアの存在に気づいていなければ、そのまま身を隠し続けることも可能だったかもしれない。しかし生憎と飛竜の存在に気付いていたコウメイは、即座に捜索部隊を差し向けてきた。そうしてフェアが、自分が敵の捜索対象となっていることを気づくのに、そう時間はかからなかった。
偵察任務で酷使した愛竜は、既に空を舞うことが出来る状態ではない。人が歩く程度の速さで歩くことしか出来ない愛竜とフェアが逃げ続けて、既に2週間程度が経過していた。
逃げ続けているといっても、そんな状態の愛竜であるから、移動できる範囲はそう広くない。なるべく同じ場所に留まらないようにするのが精一杯だった。
フェアは知る由もないが、コウメイが放った捜索部隊は、今彼女らが潜伏している場所とは違う場所を捜索している。しかしその範囲は徐々に狭まれており、確実に追い詰められつつあった。
城塞都市から出撃したコウメイの部隊が捜索部隊に合流すれば、いよいよ見つけ出されるだろう。
そして、フェア自身も弱っていた。
水はともかく、満足な食料が確保出来ていない状況で、既にフラフラだった。
人・飛竜共々に衰弱しているが、やはり元々虚弱体質である愛竜のミーティアの衰弱ぶりは深刻だった。今はもう生命に関わる程まで体力が尽きかけて、小川の側で座るフェアの横でぐったりとしていた。
「どうして……こんなことになっちゃたんだろうね……」
フェアは、フェスティア部隊にいた頃の雰囲気とは少し変わっている。
というか、むしろこちらの方が彼女の本来の姿だ。自分のために、身体を酷使して尽くしてくれた結果、命の危機に瀕している愛竜の頭を気遣うように撫でる。
今日までの日々を思い返す。
醜悪な中年男に強姦されて、婚約者が自殺して、愛竜を酷使しながら多くの人を苦しめて殺すことに手を貸していた。その報酬として、あの悪魔のような男から性の快楽を与えられる、そんな生き方が幸せで溜まらなかった。
今まで生きていた中で、一番充実していた。幸せだった。
愛していた婚約者からプロポーズされたよりも、初めて結ばれた夜などよりも、ずっとずっと幸せで気持ちよかった。人生最高の時間だった。
「どうして……こんな、ことに……なっちゃったんだろぉ……」
同じ言葉を、フェアは今度は嗚咽を交えながら、絞り出すように紡いでいく。
愛している婚約者と、大切な家族と、大好きな村で過ごす穏やかな平和な日々。
大事な愛竜を酷使しながら、何の罪のない人々を苦しめ、その幸せを奪い、己の欲望を優先して、ひたすら雌の悦びを貪り続ける幸福な日々。
本当に幸せだったのは、どちらだったのだろう。
死に瀕して極限の精神状態となったのと併せてグスタフやリアラから離れて時間が経っているためか、フェアは今この瞬間だけは元の自分を取り戻そうとしているようだった。
「怖い……怖いよぅ」
普通に考えれば、フェアは第1王子派に捕まれば極刑は免れないだろう。
自分がどうしてあんなことに手を貸してしまったのか、今となっては自分でも訳が分からない。何故、あんな残酷で愚かなことをしてしまったのが理解出来ない。だから、そのことで死刑になることなど、到底受け入られることでは無かった。
「う……うぅぅぅ……わぁぁぁ……っ!」
ポロポロと零れだした涙は止まることがなく、フェアはそのまま泣き崩れる。
時間を戻すことなど出来ない。自分がやってしまったことを無しにすることなど出来ない。
死の恐怖に怯えるフェアだったが、それと同じくらいに彼女の胸を苛むのは
「ごめん……ごめんね……ユリアン、おじいちゃん……みんな……」
愛する婚約者、大切な家族、大好きな村の人達、そして
「許して、ミーちゃん……ごめんね、ごめんね……ごめんね……!」
悪魔の手先となってしまっていた自分自身。
とても大事な友人であるはずの愛竜を、己の欲望のままに酷使した。しかし愛竜は逆らうことなく、ひたむきにその残酷な仕打ちに応えてくれた。
フェアが変わってしまっていても、友人の愛竜は変わらないでいてくれた。今まで共に育った時間で育んだ友情を守り、最低な人間となっていたフェアに寄り添っていてくれた。
「ごめん。ごめん……ごめんねぇ、ミーちゃん。許して、許してぇ……うえええ…・…」
フェアは何度も謝る。弱って地面に顎を付いたその顔に、自分の顔をすり寄せて、泣きながら。
「ルゥゥ……ウウウ……」
応える飛竜ミーティアの声は、とても弱弱しくか細いものであった。しかし目を細めているその姿は、ようやくフェアが元の優しい主人に戻ってくれたことに喜んでいるようも見えた。
「助けて……誰か、助けて……」
それが手前勝手な願いだとは分かっている。
だけど死の恐怖から、取り返しのつかない罪悪感から救ってくれる手を求めながら、フェアはガクガクと身体を震わせていた。
悪魔に狙われて不幸な状況に陥ったフェア。
彼女の救いの手を取ることが出来るのは、コウメイかステラか。
コウメイの手が彼女を絶望から引き抜く救いの手となるのか、それともかつて人類の多くを狂わせて苦しめた伝説の淫魔ステラの手に堕ちるのが先か。
飛竜使い争奪戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
淫魔のみで構成されたその部隊の行軍は、極めて遅かった。
龍牙騎士団或いは龍の爪や新白薔薇騎士団のように、彼女らは訓練された部隊ではない。というか、そもそも人間ですらない。
数としては100と少しという小規模部隊のそれは、まるで女学生が遠足に行くような光景で、各自が自由気ままに、おしゃべりなどをしながら歩き、道を進んでいた。
統率の取れた動きだとか、最早そんなレベルではないお粗末な行軍だった。
「お姉様ぁ~。楽しみですねぇ」
その先頭を行くのは、部隊を統率するステラだ。
淫魔部隊の頂点ーーかの暗黒時代には、魔王を倒した4英雄を苦しめたという伝説に残る程の淫魔である。
しかし、そんな伝説級の存在であるはずのステラは、角や牙が生えている周囲の淫魔達の誰よりも人間らしい外見をしている。
優雅な金髪に、凹凸がはっきりと出ている魅惑的な身体。第2王女派が蜂起するまでは、ミュリヌス学園のフォーマルな制服を着こなしていたが、今は紫を基調とした複雑な紋様が刻まれた軽鎧にその身を包んでいた。
その恰好は戦場に向かう平凡な1女戦士そのものである。彼女が淫魔であると知らない人間からすれば、それ以上には見えない。
「くすくす。そうですわね」
そうして話しかけてきた彼女が言うところの“妹”の1人から話しかけられたステラは、頬に手を当てながら滔々とした表情で返事をした。
見た目は普通の人間の女戦士――しかしその瞳は、理性と淫欲を両立させた、人外なる赤い光を宿していた。
「偏食はいけませんもの。たまには男の精を喰わらないと、身体に悪いですし。さて、”妹”達を率いるのは、暗黒時代以来……数百年ぶりですわね」
理性と本能ーーその相反する感情を見事に両立されている人外の化物。外見は普通の女性にしか見えないのに、そこに立っているだけで周囲の畏怖を与える驚異的な存在。
それが、淫魔ステラ。
彼女は、獲物を前にした肉食獣が舌なめずりをするように、唇を舌でぺろりと舐める。
「――さぁ、いきますわよ。貴女達も、存分に雄の精を喰らいつくし楽しみなさい」
後続の淫魔達に背中を向けながら、ステラは片手を上げて、高らかに宣言するように言う。
すると、それまでぺちゃくちゃと雑談を交わしながら歩いていた淫魔達は、己が主人の声に反応し、ぴたっと動きを止める。
そして次の瞬間には、その一団は高度に統率が取れた熟練部隊のように動きを揃えると……
次の瞬間、ステラを含めた全ての淫魔達が、背中から羽を展開させる。
まるで蝙蝠を思わせるような漆黒の羽――“魔族”という名が示す通り、正に悪魔を思わせる禍々しいその羽を展開させた一団は、バッと上空に舞い上がっていく。
「飛竜使いをつまみ食いのするのもいいかもしれませんわね。それに……勇者特性を受付けない龍騎士、未だ性の快感も知らないような無垢な魔具持ちの弓術士、そしてグスタフ様と同類だという謎の男コウメイ……どんな味がするのかしら? 今から楽しみですわね」
空を行く第2王女派淫魔部隊の魔の手が、遂にクラベール領へと伸ばされようとしていた。
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クラベール城塞都市では、コウメイとラミアが率いる王下直轄・紅血騎士団の混成部隊が、城塞都市を出立しようとしていた。
今回の目的は、領内に潜伏していると思われる敵飛竜使いの確保。
現在もその行方を追っている追跡部隊より、飛竜使いが潜伏しているのは領内の北部、ノースポール領にほど近い地帯であるという。コウメイらはそこを目指して、今まさに城塞都市を出発しようとしていた。
コウメイの麾下では、最も彼に近しい側近になるでろう龍騎士リューイも、当然のことながらその部隊に組み込まれていた。
「リューイさん! リューイさーん」
城塞都市正門の前で、部隊に混じった自分の名を呼ぶ声が聞こえて、リューイはそちらの方へ視線を向ける。
先の防衛戦の勝利ですっかり人気となった王下直轄部隊の出立を見送る領民達の群れの中、そこには聖王教会のシスター達が集まっていた。そしてそのシスター達の中で、ぴょんぴょんと飛びながら、手を振っている人物がいた。
彼女は、多くの群衆が集った中でも、一際目立つ程の美貌を持った、平たく言えば”美少女”。
修道女でありながら、祈りや奉仕などよりも何よりも、歌をこよなく愛する彼女は、リューイの知り合いであるシスティーナだった。
「ちょっとぉぉ、いいですかぁぁ?」
お互いざわついた人の群れの中にいるのに、彼女の声はよく聞こえる。歌を歌うのが趣味というだけあって、よく通る声をしている。
「ちょっと、すみません」
リューイが周りの騎士達に一言おくと、その騎士達はリューイの名を呼ぶ美少女の姿を認める。するとニヤニヤとリューイのことをからかい始めると、リューイはなんとなく気まずさを感じながら、部隊の中から駆け出してシスティーナの側へ駆け寄る。
「ち、ちょっと! システィーナってば、龍騎士様とお知り合いなのですか?」
「シスターだというのに、そんなに飛んだり跳ねたり……ああ、なんとはしたない。申し訳ございません、龍騎士様。聖アルマイト最高の騎士様の前で、このような無作法な態度を……」
「あ、ちょっと先輩達黙っててくれます?」
龍騎士として知られたリューイを前に、恐れおののくように一歩退く先輩シスター達を、システィーナは容赦なく一息で一蹴。
その語気の強さにリューイも思わず一歩退くが、システィーナはそんなことお構いないしに、逆にリューイに向かって一歩進み出る。
「あの、その……なんていうか……えぇと……頑張ってきて下さいね」
「え? あ、ああ……ありがとう」
わざわざ呼び止めたくらいだから何事だろうかと思ったのだが、それだけなのだろうか。
勿論、その声一つだけでもリューイは嬉しい。それが、あの夜に再度立ち上がる力をくれたシスティーナであれば尚更ではあるのだが、どこか違和感がある。何か別に言いたいことがあるのではないだろうか。
「あぁ……えーと……ううぅ……」
案の定、システィーナが伝えたかったことはそれだけではなかったようだ。唇に手を当てて、何か言いたいけど言いづらそうに、リューイから視線をずらして口ごもっている。
「どうした? 何か心配事でも?」
「ん、んん……えーとですね」
リューイに問われて、それでも言いづらそうにしているシスティーナ。それから数秒ほど「うーん、うーん」と言いながら、ようやく意を決したようにリューイの顔を見上げる。
「出発する前のリューイさんにこんなこと言うのもなんだと思ったんですけど……私、どうしても心配で……」
そう言うシスティーナの瞳には、真剣さが込められているのが分かる。その内容は、あまり良いものでは無さそうだ。
リューイはなんとなく察すると、首をうなずかせてシスティーナの次の言葉を待つ。
「その……本当に、気を付けて下さい! 上手く言えないんだけど……私、凄く嫌な予感がするんです! リューイさんがこのまま帰ってこなくなっちゃうような……もう、リューイさんと会えなくなるような気がしてっ! そんなの嫌だからっ……だから、気を付けてっ! そして、帰ってきて下さいね」
「……」
「そ、それだけですっ!」
リューイが無言のままでいると、システィーナは申し訳なさそうに頭を下げる。
いくら気安く親し気に話すとはいえ、リューイは龍騎士だ。一般市民のシスティーナにとっては、元帥であるコウメイと同じくらいに、雲の上の存在である。
そんなリューイの足をわざわざ止めて、しかもこのような不吉な言葉――当然、周りの先輩シスター達がシスティーナを咎め始める。
が――
「ありがとう、システィーナ」
リューイは笑みを浮かべながら、社交辞令ではない、本気の感謝の念を伝える。
そのリューイの声に、システィーナらはハッとしながら、リューイの顔を見返した。
「約束したろ? システィーナの歌、必ず恋人と一緒に聞かせてもらうって。楽しみにしているんだ。だから、今回も必ず無事に帰ってくるよ。システィーナは、ちゃんと歌の練習をしておいてくれ」
爽やかな笑みを浮かべてリューイがそう言って手を差し出す。システィーナはボーっとしながら、その手を機械的に握りしめる。
「あーーーーーーーっ! リューイさが、リューイさがー! 浮気しとるがやー! 恋人いるっちゅうに、最低の男っちよ! いーってやろ、言ってやろっ! 元帥さにもカリオス殿下にも告げ口したるがよー!」
どこか嬉しそうな少女のような声が聞こえてくると、リューイは苦笑しながら「やれやれ」と頭を掻く。
「それじゃ、行ってくるよシスティーナ。戻ってきたら時間を作るから、またゆっくり話そう」
握り返されたシスティーナの手を優しく解き、リューイは背を向けて手を振りながら、システィーナ達の前から立ち去って行った。
「ち、ちょっとシスティーナ、どういうこと?」「説明しなさい!」
リューイとシスティーナの関係を知らない先輩達から詰問される彼女は、しかしボーっとしたまま、その声は耳に届いていないようだった。
ただ茫然としながら、遠ざかるリューイの背中を見送り続ける。
傍から見れば、平凡な一市民の少女が、王国最高峰の龍騎士へ憧れの視線を送っているようにしか見えない。
--しかし、そのシスティーナの胸中は、決して穏やかなものでは無い。
(止められなかった。これで、良かった……のかな?」)
今まで感じたことのないような気持ち悪さ、重苦しさを感じる。
去って行くリューイに手を伸ばしても、もう二度とその手は届かないのではないか。それ程に感じる不吉な予感。
システィーナはじっとりと冷や汗を垂らしながら、両手を胸の前で組む。
(神様……聖龍様。お願いです……どうか、どうかリューイさんをお守りください)
今まで真面目にお祈りなどしたことがないシスティーナが、本気で神に祈りを捧げるのだった。
□■□■
「本当に良い天気ねぇ~。こんな日は、生きたまま敵の頸動脈を切り裂いて、噴水のように血を噴かせると、とても素敵な眺めになりそうねぇ~。数十人くらいの血飛沫は、それはそれは壮観でしょうねぇ」
「……」
「中には、大量の血を見ただけで意識を失って、最悪なのは苦しむことなく死んでしまうような脆弱な人間もいるからぁ~、ちゃ~んと断末魔の声と絶望の表情が見えるようにぃ、処置をしておかないとぉ~。なんか、薬とかで出来そうな感じもするけどぉ、魔術の方が手っ取り早いかしら? なら龍牙で新しく就任した魔術将軍とやらを紅血に引き抜いて――」
「リリライト様の顔で、凄まじく怖いこと言うの止めてくれないですかね!?」
夏の太陽が地上を焦がすように照り付ける中、クラベール領内を行く王下直轄・紅血騎士団の混成部隊。そのそれぞれの部隊の統括役であるコウメイとラミアは、部隊中央で馬を並べて、道を進んでいた。
いつものゆったりとした口調で喋っているのは、第1王女ラミア。
今回捜索任務とはいえ、戦闘に入ることも充分に想定される。従って第1王女たるラミアも、王宮内でいつも纏っている真紅のドレス姿とは違って、戦場に相応しい恰好をしている。
防御力よりも身軽さを重視しているため軽くて薄い鎧だが、王族であるラミアが装備するそれは、言うまでもなく聖アルマイト最高級の物である。その色は、いつものドレスの同じ彼女のパーソナルカラーでもある“紅”。
そして色以外に、いつもと変わりないのは、腰に下げている神器ーー獄炎の剣“紅蓮”である。
「いやねぇ~、冗談よぉ」
馬上でケラケラと笑うラミアの顔は、コウメイの言う通り、彼女の妹であるリリライトそのものと言っても良い程に似通っている。
しかし、実際に彼女とリリライトを見紛う者などいないだろう。
どちらかといえば子供体型なリリライトと比べれば、ラミアは鎧の上からでもわかる程に色気たっぷりで、妖艶で魅惑的な肉付きをしている。そしてそれ以上に、その目つきや表情は、天真爛漫で穏やかなリリライトとは、全く異なるものだ。
不思議なことに、顔のパーツは同じなはずなのに、リリライトとラミアを取り違えることは、1万人いれば1万人が間違えることはないだろう。
人の容姿は内面を映し出しているとはよく言ったものだと、コウメイはリリライトとラミを比べてそう思うのだった。
「コウメイが無視するからぁ、すこ~し意地悪したくなっちゃっただけよぉ」
「あんな物騒な発言に、どう反応しろと?」
唾を飛ばしながら反論するコウメイ。
そんな二人のやり取りを後ろから見ているのは、同じく愛馬に乗って付き従うようにするプリシティアだった。プリシティアは唇を尖らせながら
「いいなぁ~。コウメイさもラミア殿下も、仲良くて楽しそうっち……」
「これが仲良いように見えるのかな!?」
後ろの護衛騎士にも丁寧に突っ込んでおいてから、コウメイは深呼吸をするように息を吸って吐く。
そんなやり取りをしていると、部隊前方から近づいてくる人影に気づく。コウメイ達は馬を止めると、彼らの前に現れたのはリューイだった。
彼はコウメイやプリシティアと違って馬術を身に着けていないため、リューイの移動は自然徒歩となるため、このような部隊行軍では別行動となることが多い。
「コウメイさん。追跡部隊と合流出来ました」
「おお、ご苦労さん。それで状況は聞けたかい?」
「はい」
リューイがうなずき、追跡部隊の報告を簡単にコウメイに伝える。
飛竜使いが潜伏しているであろう候補は、大まかにあと2つの区域が残っているらしい。
1つはここから真っ直ぐ西進したところにある丘陵地帯。
もう1つは、少し北へずれた場所にある森林地帯だという。
「身を隠すなら森林地帯の方が良さそうだけどな……飛竜は草食らしいし、食料の確保なんかもそっちの方が楽そうだよな」
ぶつぶつと口の中で言葉を並べるコウメイだが、決定的な根拠があるわけではない。結局はしらみつぶしに両方とも探すしかないだろう。
時間を掛ければ、いつ第2王女派の軍勢と鉢合わせになるか分からない。次の本格的な武力衝突までには、余計な消耗は出来るだけ避けたいと考えるコウメイは、この作戦にはなるべく時間をかけたくないと考えている。
効率的に捜索を行うというのであれば……
「部隊を2つに分けるか」
幸いにも、今引き連れているのは2部隊が合流している混成部隊だ。それをそれぞれの部隊に分けるだけで良い。
ただ、心配なのは――
「それでぇ? 飛竜使いを見つけたらどうすればいいのかしらぁ? その場で知っていることを、血反吐と共に洗いざらい吐き出せた後は、飛竜と一緒に沼の底に沈めでもしておけばいいのかしらぁ?」
「や、止めて下さい! 洒落にならないっす!」
『鮮血の姫』と恐れられるラミアだが、決して人格破綻者の戦闘狂ではないことをコウメイは把握している。それどころか、その感情の出し方は歪ながらも、ラミアは味方――特に血族には、揺るぎない愛と優しさを持ち合わせている。
反面、1度敵とみなした相手には、とことん容赦がない。物騒な異名は、そちらの側面があまりにも強烈過ぎるから付いたものだ。それは、かつて彼女が統治と支配を任されていた旧ネルグリア帝国領の当時の様相を聞けば、決して誇張されたものではないと確信できる。
だから先ほどまでの発言が冗談だとしても、敵である飛竜使いに対する今の発言は、とても冗談にも洒落にも聞こえなかった。
物騒な発言をするラミアに、コウメイは馬を寄せると、他の人間には聞こえないように声を潜める。
「カリオス殿下から飛竜使いの一族のことは教えてもらっています。その聞いた話から察すると、彼らが自ら進んで第2王女派に協力しているとは思えません。ましてや飛竜使いは……その……つまり……」
「ええ。私もぉ、そこら辺はコウメイと同じ考えよぉ~。飛竜使いは、可愛らしい少女だと、私も聞いているわぁ~」
コウメイが言わんとすることを察したラミアは、そこはお互いに共通認識であることを伝える。
ーーつまり、飛竜使いはグスタフの「異能」の犠牲者である可能性が高い。
「その飛竜使いは、倒すべき敵じゃない。救われるべき存在だと考えています。だから、出来得る限りは助けたいと思っています」
それは、コウメイの正義感が特別強いというわけではない。
あのグスタフの「異能」の悪辣さを知っていれば、大体の人間はそう思うだろう。
しかし、その「異能」の手にある飛竜使いをそのまま野放しにしてしまえば、その存在は今後の戦いに置いて第1王子派の多くの兵士や民衆を危険に晒し、犠牲を拡大させることになるだろう。
元帥としてコウメイが選ぶべき命の優先順位は、言うまでもない。飛竜使いよりも、自軍の兵士や民衆である。
だから個人としての正義感に囚われて、万が一飛竜使いを取り逃すようなことなどあってはならない。第2王女派の下に戻してしまうくらいのであれば、殺してでも飛竜使いを止める必要がある。彼女が罪のないただの被害者だとしても。
もう迷う余裕すらない。そんな状況に直面すれば、即座に決断・実行しなければいけない。
それが元帥と言う重要職に就いていながら、凡愚に過ぎないコウメイが抱える苦悩でもあった。
「あなたの考えは分かっているわぁ」
そんなコウメイの苦悩を察するように、ラミアは言う。そのおっとりとした口調、しかし次に出た言葉は、コウメイの胸を突き刺すような鋭さがあった。
「甘すぎるわぁ、コウメイ。私は、私や兄様が預かる国民の命を脅かしたこと、絶対に許すことは出来ないわぁ~。まぁ、元帥たる貴方の意に沿えるよう努力はするけれどもぉ~」
リリライトと同じ顔――だから、彼女と同じように笑えば、きっとラミアの笑顔も太陽のような輝かしいものだろう――その瞳に、見ているだけで背筋が凍り付くような、残忍な光を宿らせる。
「逆らったりすれば、容赦なく飛竜共々焼き尽くし、死んでいった者達へ謝罪させるわぁ~。操られているとか、そういうことは関係ない――生まれてきたことを後悔するくらいに焼いて、苦しめて、殺してあげるわぁ~」
残忍極まり無い、しかしそこにあるのはラミアなりの愛なのだろうか。
かくしてコウメイ側は二手に分かれる。
コウメイ率いる王下直轄部隊は丘陵地帯へ。ラミア率いる紅血騎士団の部隊は森林地帯へ。それぞれ飛竜使いの捜索に赴くのだった。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
現在、この大陸において飛竜を自由自在に使いこなせるのはフェア1人だけである。
同じ出身の村の中には、飛竜に乗ってなんとか空を駆けることが出来る者もいる。しかしその時間はごく僅かで、戦場で敵情視察が出来るくらいまでの技量を持っているのは、やはりフェアだけである。
そんな稀有な才能を有したフェアの現状は、極めて悲惨だった。
「大丈夫……? ミーティア?」
「……ルゥゥ」
クラベール領内の丘陵地帯。綺麗な水が流れる小川で、フェアは明らかに弱っている愛竜ミーティアを気遣う声を掛けていた。
起伏に富んでいる地帯で、見渡しの良い平原などに比べれば身を隠すのに適している。しかし、あまり視界を遮るような木々などは少ない。成人男性よりも大きな飛竜と一緒であれば、身を隠し続けることは難しいだろう。
先の戦いで、フェアは偵察任務が終わった後は、フェスティア部隊本隊と離れた場所へ避難していた。その存在を第1王子派に気取られないためだ。
フェスティアがクラベール城塞都市を占領した後、改めてそこで合流する手はずだったのだが。
結果は、まさかのフェスティア部隊の大敗。その状況を知るのを遅れたフェアは、そのまま領内に取り残される形となってしまっていた。
第1王子派がフェアの存在に気づいていなければ、そのまま身を隠し続けることも可能だったかもしれない。しかし生憎と飛竜の存在に気付いていたコウメイは、即座に捜索部隊を差し向けてきた。そうしてフェアが、自分が敵の捜索対象となっていることを気づくのに、そう時間はかからなかった。
偵察任務で酷使した愛竜は、既に空を舞うことが出来る状態ではない。人が歩く程度の速さで歩くことしか出来ない愛竜とフェアが逃げ続けて、既に2週間程度が経過していた。
逃げ続けているといっても、そんな状態の愛竜であるから、移動できる範囲はそう広くない。なるべく同じ場所に留まらないようにするのが精一杯だった。
フェアは知る由もないが、コウメイが放った捜索部隊は、今彼女らが潜伏している場所とは違う場所を捜索している。しかしその範囲は徐々に狭まれており、確実に追い詰められつつあった。
城塞都市から出撃したコウメイの部隊が捜索部隊に合流すれば、いよいよ見つけ出されるだろう。
そして、フェア自身も弱っていた。
水はともかく、満足な食料が確保出来ていない状況で、既にフラフラだった。
人・飛竜共々に衰弱しているが、やはり元々虚弱体質である愛竜のミーティアの衰弱ぶりは深刻だった。今はもう生命に関わる程まで体力が尽きかけて、小川の側で座るフェアの横でぐったりとしていた。
「どうして……こんなことになっちゃたんだろうね……」
フェアは、フェスティア部隊にいた頃の雰囲気とは少し変わっている。
というか、むしろこちらの方が彼女の本来の姿だ。自分のために、身体を酷使して尽くしてくれた結果、命の危機に瀕している愛竜の頭を気遣うように撫でる。
今日までの日々を思い返す。
醜悪な中年男に強姦されて、婚約者が自殺して、愛竜を酷使しながら多くの人を苦しめて殺すことに手を貸していた。その報酬として、あの悪魔のような男から性の快楽を与えられる、そんな生き方が幸せで溜まらなかった。
今まで生きていた中で、一番充実していた。幸せだった。
愛していた婚約者からプロポーズされたよりも、初めて結ばれた夜などよりも、ずっとずっと幸せで気持ちよかった。人生最高の時間だった。
「どうして……こんな、ことに……なっちゃったんだろぉ……」
同じ言葉を、フェアは今度は嗚咽を交えながら、絞り出すように紡いでいく。
愛している婚約者と、大切な家族と、大好きな村で過ごす穏やかな平和な日々。
大事な愛竜を酷使しながら、何の罪のない人々を苦しめ、その幸せを奪い、己の欲望を優先して、ひたすら雌の悦びを貪り続ける幸福な日々。
本当に幸せだったのは、どちらだったのだろう。
死に瀕して極限の精神状態となったのと併せてグスタフやリアラから離れて時間が経っているためか、フェアは今この瞬間だけは元の自分を取り戻そうとしているようだった。
「怖い……怖いよぅ」
普通に考えれば、フェアは第1王子派に捕まれば極刑は免れないだろう。
自分がどうしてあんなことに手を貸してしまったのか、今となっては自分でも訳が分からない。何故、あんな残酷で愚かなことをしてしまったのが理解出来ない。だから、そのことで死刑になることなど、到底受け入られることでは無かった。
「う……うぅぅぅ……わぁぁぁ……っ!」
ポロポロと零れだした涙は止まることがなく、フェアはそのまま泣き崩れる。
時間を戻すことなど出来ない。自分がやってしまったことを無しにすることなど出来ない。
死の恐怖に怯えるフェアだったが、それと同じくらいに彼女の胸を苛むのは
「ごめん……ごめんね……ユリアン、おじいちゃん……みんな……」
愛する婚約者、大切な家族、大好きな村の人達、そして
「許して、ミーちゃん……ごめんね、ごめんね……ごめんね……!」
悪魔の手先となってしまっていた自分自身。
とても大事な友人であるはずの愛竜を、己の欲望のままに酷使した。しかし愛竜は逆らうことなく、ひたむきにその残酷な仕打ちに応えてくれた。
フェアが変わってしまっていても、友人の愛竜は変わらないでいてくれた。今まで共に育った時間で育んだ友情を守り、最低な人間となっていたフェアに寄り添っていてくれた。
「ごめん。ごめん……ごめんねぇ、ミーちゃん。許して、許してぇ……うえええ…・…」
フェアは何度も謝る。弱って地面に顎を付いたその顔に、自分の顔をすり寄せて、泣きながら。
「ルゥゥ……ウウウ……」
応える飛竜ミーティアの声は、とても弱弱しくか細いものであった。しかし目を細めているその姿は、ようやくフェアが元の優しい主人に戻ってくれたことに喜んでいるようも見えた。
「助けて……誰か、助けて……」
それが手前勝手な願いだとは分かっている。
だけど死の恐怖から、取り返しのつかない罪悪感から救ってくれる手を求めながら、フェアはガクガクと身体を震わせていた。
悪魔に狙われて不幸な状況に陥ったフェア。
彼女の救いの手を取ることが出来るのは、コウメイかステラか。
コウメイの手が彼女を絶望から引き抜く救いの手となるのか、それともかつて人類の多くを狂わせて苦しめた伝説の淫魔ステラの手に堕ちるのが先か。
飛竜使い争奪戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
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