102 / 143
第2章『クラベール城塞都市決戦』編
第100話 クラベール城塞都市決戦(18)――最後の戦場
しおりを挟む
突撃部隊による城塞都市占領――失敗。
勇者リアラを配した兵糧防衛戦――失敗。
開戦当初は揺るぎなき優勢だった第2王女派は一転して窮地に立たされており、そのことは前線にいるフェスティアも既に肌で感じ取っていた。
(魔術攻撃が止まない……!)
後方兵糧区画への爆撃が一向に止まない。
その事実から導き出される真実は単純明快だ。信じられないことだが、あのリアラが強襲部隊を止められなかったのだ。
(フォルテア森林帯に現れたあの若い騎士を連れてきたのかもしれないわね)
無敵のはずのリアラが抑えられる唯一の可能性に、この時になってフェスティアはようやく気付いていた。
しかし、時は既に遅い。
魔術攻撃が開始されてから既に十数分が過ぎている。このままでは確実にこちらの物資は全滅する。そうなれば、この部隊の維持は極めて困難。そのままこの場所に留まれば、ここぞとばかりに兵糧攻めに合い、部隊は餓えてしまう。
早急に撤退し、態勢を立て直す必要がある。……と、普通の指揮官ならば、そう判断するだろう。
「――来なさい、ゾーディアス」
ヘルベルト連合最強の剣士を連れて、フェスティアは前線へと馬を駆けさせる。
コウメイにしてやられたということ。ここまでは敵の思い通りに事を運ばせてしまった。苛立たしいことだが、それは認めざるを得ない。既に後方には敵の伏兵に回り込まれている。今慌てて全軍が撤退したとしても、最早兵糧の防衛には間に合わないだろう。
このままでは、何も得る物がないままの敗北となってしまう。同じ負けるにしろ、せめて何か1つでも持って帰らねばならない。
「ただでは終わらないわ。コウメイ……貴様の首だけでも、あの御方の手土産にしてみせる!」
幸いにも、両軍本隊同士のこの戦場では、今はまだフェスティア側が優勢に戦況を進められている。しかし敵の士気も上がっており、このままでは押し返される可能性が高い。
但し、敵指揮官のコウメイが前線に出てきている今、コウメイの首を取る好機でもあるのだ。
フェスティアは隊を、後方の退路を確保する部隊と、それまで敵の追撃を押しとどめる前衛部隊に分けて、それぞれ当たらせていた。
こちらが優勢を保っている内に退路を確保しつつ、敵の大将首を取る。
こんな状況下でも最大戦果が取れるように、フェスティアは極めて冷静に思考・判断していた。
――と、思っているのは実はフェスティア本人だけ。
「代表はお下がり下さい。敵元帥の首なら、私1人で取ってみせます」
外から見れば、明らかに血気盛んな表情を剥き出しにしたフェスティア。戦場で初めて見る主人のそんな感情を露わにした様子に、ゾーディアスは心配そうな声を掛ける。
「なに? 私の護衛を担っているにも関わず、私を守れないとでも言うつもり?」
「――いえ。どんな状況にあっても、私は代表をお守り致します」
いつもが冷静で理知的だからこそ、こうまで無茶苦茶なことを言い始めるフェスティアを見て、それ以上言葉を重ねるのを諦める。その代わりに胸中で嘆息する。
あの『女傑』をここまでにさせるとは、コウメイ=ショカツリョウという男は驚くべき人物だ。敵ながら畏敬の念を抱かずにはいられない。
だが、ゾーディアスは指揮官ではない。あくまでもその手足となり、武器となり、敵と実際に戦う1つの駒――ただ1人の戦士である。コウメイとは戦うステージが全く違う。
今のフェスティアへの回答も、決して軽く流したわけではない。
確かにフェスティアには後ろ下がってくれていた方が安全であるが、結局のところ結果は変わらない。なぜならば自分が守るからだ。つまり、ゾーディアスは必ずコウメイの首を刈り取る自信があった。
そのコウメイを守るのが、あの龍牙騎士団副団長ジュリアス=ジャスティンだろうが。
あの赤髪の護衛騎士だろうが。
「プリシティア=ハートリング……!」
脳裏に焼き付いたまだあどけなさすら残る若き騎士の顔。そしてその名をこぼしながら、ヘルベルト連合最強の剣士は、主人と共に最前線へと疾走していた。
□■□■
フェスティア部隊によって押し込まれていたコウメイ部隊だったが、徐々に戦線を押し戻し始めていた。
ジュリアスとラディカル率いる城塞都市防衛部隊が合流したのも大きいが、それ以上に兵糧区画を強襲した魔術部隊による攻撃の影響が強い。とにかく派手な魔術攻撃は少なからずフェスティア部隊を動揺させて、それは士気に大きく影響した。
個々の実力差があるとはいえど、部隊としての士気の上下は戦果に大きく関わってくる。
城塞都市防衛や兵糧強襲の成功で士気が急激に上昇したコウメイ部隊は、劣勢だった状況を五分五分へ戻すまでに至ったのだった。
「ジュリアス副長、ラディカル将軍! よくやってくれ――うげ」
戦場の中で、コウメイは城塞都市防衛という大任を果たしたという両者と会い、その燦燦たるありさまに思い切り引いた。
ラディカルの右手は明らかに重傷だと分かるくらいに包帯が巻かれていて、全身の火傷はそのままにしてきている。ジュリアスも、乱雑な手当てがされているだけで、全身傷だらけ。全身にこびりついている得体の知れない黒い血のようなものの跡が、事情を知らないコウメイにとっては不気味なことこの上ない。
「無事でよかったです、元帥閣下」
「いやー。ここまで思い通りに運ぶと、清々しいですなぁ」
2人とも満身創痍な状態だが、真面目で礼儀正しいジュリアスと、良い意味で気安いラディカルの、両者ともいつも通りな様子を見て、コウメイは安堵する。
「思い通りなんかじゃないですよ。読み違いも多かったです。お二人が支えて下さったおかげで、ここまで来られました」
コウメイも城塞都市防衛戦の内容については、ごく簡単に聞いていた。
本来の予定では、フェスティアが部隊を分隊させてくることは想定していなかった。部隊を丸ごと城塞都市まで引き寄せるつもりで、こちらも戦力を集中させるつもりだったが、突撃部隊の突破を許してしまった結果、ここ前線防衛戦と城塞都市防衛戦に2場面に分かれてしまったのだ。
まさかルルマンドがラディカルを脅かす程の脅威になる想定は無かった。ジュリアスがクリスティアに苦戦することは想定していたものの、その内容はコウメイの想定以上だったとのこと。そんな中で、クリスティアを殺すのではなく捕縛したのは、コウメイが考え得る限り最高の結果だった。
立案したコウメイにとってみれば、全く思い通りなどではない。現場で奮戦してくれた2人の尽力があって、なんとかかんとか結果が取れただけである。
ただその奮戦としての代償が、この満身創痍な状態だ。今もこの2人はコウメイよりもスマートに戦術指揮をこなしてくれているが、本人達が直接戦うのは無理そうだ。今ならコウメイでも勝ててしまいそうな気がするくらい、明らかに弱っている。
コウメイは駆けつけてくれた2人から視線を滑らせると、この戦いではずっと側についていてくれているプリシティアへ目を向ける。コウメイが無言で何か質問するような視線を投げかけると
「ぜえ、ぜえ……ば、ばっちぐー……っち」
「副長達がいるのに、方言に戻っているぞ」
馬の上で汗だくになって、まだ息を荒げている彼女へ、とりあえずコウメイは突っ込んでおく。
プリシティアがここまで疲弊させられるのも想定以上だった。
新白薔薇騎士の力は大袈裟に見積もっていたつもりだったが、現実にはそれでも油断の域を出ていなかった。そんなコウメイの甘い認識を助けてくれたのは、同じように想定以上の力を発揮してくれたプリシティアのおかげだった。彼女の『紅蓮弓』による圧倒的な火力は、窮地にあったコウメイ部隊を救ったのだ。
しかし、それによってプリシティアがここまで消耗してしまったのは、コウメイの責任だ。
(出来れば、この戦場でフェスティアを追い詰めたかったが……)
自分にはプリシティアがいたように、フェスティアの側にはあの厄介な剣士がいるだろう。最初の一騎打ちで負傷させたとはいえ、ここまで疲労困憊のプリシティアを、もうあの剣士と戦わせたくはない。だからといって、ジュリアスもラディカルもこの状態では無理だろう。
”フェスティアを直接追い詰める”と、コウメイが密かに『最後の仕上げ』は諦めざるを得ないようだ。貴重で大切な仲間達を危険に晒すよりは、よっぽどましである。
「まあ、もともとおまけみたいな物だったし--」
「こちらに向かってくる部隊がいます!」
コウメイの言葉を遮って届けられた報告に、その場にいた全員は眼を剥いて反応する。
「この期に及んで突っ込んでくる部隊がいるのか?」
糧食を失った今、それは愚策だろう。まだこちらが追撃の準備が整わない内に撤退しなければ、敵部隊無駄に被害を大きくするだけだ。
まさか、『死なば諸共』--道連れなどという馬鹿な策にフェスティアが走るはずがない。
「一体どういう――」
「危ないっ!」
再び声を遮られるコウメイ。次の瞬間、強く身体を押されて、コウメイは馬上から突き飛ばされて地面をゴロゴロと転がる。
背中を地面に打って、一瞬息が出来なくなる。そのまま直後に襲ってきた痛みに喘いでいると、それまでコウメイがいた馬上を、目に見えない風の刃が掠めるのを感じる。
それは、ヘルベルト連合代表フェスティア=マリーンが得意とする剣術『風刃』だった。
「――っし!」
すぐさまプリシティアが反撃の矢を放つ。
地面に転げているコウメイからは見えないが、彼女の矢は『風刃』が飛んできた元の方向へ真っ直ぐ向かっていたようだった。
しかしそれは目標のフェスティアに突き刺さることなく、その前に立ち塞がった剣士の剣に叩き伏せられる。
その間に、コウメイは打った背中をさすりながら、周りの兵士の力も借りてようやく馬に乗る。すると、コウメイらの前には少数部隊を引き連れたフェスティアとゾーディアスの姿があった。
「おいおい。指揮官がここまで突っ込んでくるのかよ」
コウメイは、引きつった笑みを浮かべながら開戦時以来、再び顔を合わせることとなったフェスティアを見る。
フェスティアの表情は至って冷静だった。しかしその瞳には、冷たい怒りの感情が確かに込められている。
「ただでは帰れないわ。ゾーディアス、そこの小娘とコウメイの首を刈り取りなさい。手土産にするわ」
(そういうことかい……)
今、クラベール城塞都市決戦における最後の戦いが始まる。
勇者リアラを配した兵糧防衛戦――失敗。
開戦当初は揺るぎなき優勢だった第2王女派は一転して窮地に立たされており、そのことは前線にいるフェスティアも既に肌で感じ取っていた。
(魔術攻撃が止まない……!)
後方兵糧区画への爆撃が一向に止まない。
その事実から導き出される真実は単純明快だ。信じられないことだが、あのリアラが強襲部隊を止められなかったのだ。
(フォルテア森林帯に現れたあの若い騎士を連れてきたのかもしれないわね)
無敵のはずのリアラが抑えられる唯一の可能性に、この時になってフェスティアはようやく気付いていた。
しかし、時は既に遅い。
魔術攻撃が開始されてから既に十数分が過ぎている。このままでは確実にこちらの物資は全滅する。そうなれば、この部隊の維持は極めて困難。そのままこの場所に留まれば、ここぞとばかりに兵糧攻めに合い、部隊は餓えてしまう。
早急に撤退し、態勢を立て直す必要がある。……と、普通の指揮官ならば、そう判断するだろう。
「――来なさい、ゾーディアス」
ヘルベルト連合最強の剣士を連れて、フェスティアは前線へと馬を駆けさせる。
コウメイにしてやられたということ。ここまでは敵の思い通りに事を運ばせてしまった。苛立たしいことだが、それは認めざるを得ない。既に後方には敵の伏兵に回り込まれている。今慌てて全軍が撤退したとしても、最早兵糧の防衛には間に合わないだろう。
このままでは、何も得る物がないままの敗北となってしまう。同じ負けるにしろ、せめて何か1つでも持って帰らねばならない。
「ただでは終わらないわ。コウメイ……貴様の首だけでも、あの御方の手土産にしてみせる!」
幸いにも、両軍本隊同士のこの戦場では、今はまだフェスティア側が優勢に戦況を進められている。しかし敵の士気も上がっており、このままでは押し返される可能性が高い。
但し、敵指揮官のコウメイが前線に出てきている今、コウメイの首を取る好機でもあるのだ。
フェスティアは隊を、後方の退路を確保する部隊と、それまで敵の追撃を押しとどめる前衛部隊に分けて、それぞれ当たらせていた。
こちらが優勢を保っている内に退路を確保しつつ、敵の大将首を取る。
こんな状況下でも最大戦果が取れるように、フェスティアは極めて冷静に思考・判断していた。
――と、思っているのは実はフェスティア本人だけ。
「代表はお下がり下さい。敵元帥の首なら、私1人で取ってみせます」
外から見れば、明らかに血気盛んな表情を剥き出しにしたフェスティア。戦場で初めて見る主人のそんな感情を露わにした様子に、ゾーディアスは心配そうな声を掛ける。
「なに? 私の護衛を担っているにも関わず、私を守れないとでも言うつもり?」
「――いえ。どんな状況にあっても、私は代表をお守り致します」
いつもが冷静で理知的だからこそ、こうまで無茶苦茶なことを言い始めるフェスティアを見て、それ以上言葉を重ねるのを諦める。その代わりに胸中で嘆息する。
あの『女傑』をここまでにさせるとは、コウメイ=ショカツリョウという男は驚くべき人物だ。敵ながら畏敬の念を抱かずにはいられない。
だが、ゾーディアスは指揮官ではない。あくまでもその手足となり、武器となり、敵と実際に戦う1つの駒――ただ1人の戦士である。コウメイとは戦うステージが全く違う。
今のフェスティアへの回答も、決して軽く流したわけではない。
確かにフェスティアには後ろ下がってくれていた方が安全であるが、結局のところ結果は変わらない。なぜならば自分が守るからだ。つまり、ゾーディアスは必ずコウメイの首を刈り取る自信があった。
そのコウメイを守るのが、あの龍牙騎士団副団長ジュリアス=ジャスティンだろうが。
あの赤髪の護衛騎士だろうが。
「プリシティア=ハートリング……!」
脳裏に焼き付いたまだあどけなさすら残る若き騎士の顔。そしてその名をこぼしながら、ヘルベルト連合最強の剣士は、主人と共に最前線へと疾走していた。
□■□■
フェスティア部隊によって押し込まれていたコウメイ部隊だったが、徐々に戦線を押し戻し始めていた。
ジュリアスとラディカル率いる城塞都市防衛部隊が合流したのも大きいが、それ以上に兵糧区画を強襲した魔術部隊による攻撃の影響が強い。とにかく派手な魔術攻撃は少なからずフェスティア部隊を動揺させて、それは士気に大きく影響した。
個々の実力差があるとはいえど、部隊としての士気の上下は戦果に大きく関わってくる。
城塞都市防衛や兵糧強襲の成功で士気が急激に上昇したコウメイ部隊は、劣勢だった状況を五分五分へ戻すまでに至ったのだった。
「ジュリアス副長、ラディカル将軍! よくやってくれ――うげ」
戦場の中で、コウメイは城塞都市防衛という大任を果たしたという両者と会い、その燦燦たるありさまに思い切り引いた。
ラディカルの右手は明らかに重傷だと分かるくらいに包帯が巻かれていて、全身の火傷はそのままにしてきている。ジュリアスも、乱雑な手当てがされているだけで、全身傷だらけ。全身にこびりついている得体の知れない黒い血のようなものの跡が、事情を知らないコウメイにとっては不気味なことこの上ない。
「無事でよかったです、元帥閣下」
「いやー。ここまで思い通りに運ぶと、清々しいですなぁ」
2人とも満身創痍な状態だが、真面目で礼儀正しいジュリアスと、良い意味で気安いラディカルの、両者ともいつも通りな様子を見て、コウメイは安堵する。
「思い通りなんかじゃないですよ。読み違いも多かったです。お二人が支えて下さったおかげで、ここまで来られました」
コウメイも城塞都市防衛戦の内容については、ごく簡単に聞いていた。
本来の予定では、フェスティアが部隊を分隊させてくることは想定していなかった。部隊を丸ごと城塞都市まで引き寄せるつもりで、こちらも戦力を集中させるつもりだったが、突撃部隊の突破を許してしまった結果、ここ前線防衛戦と城塞都市防衛戦に2場面に分かれてしまったのだ。
まさかルルマンドがラディカルを脅かす程の脅威になる想定は無かった。ジュリアスがクリスティアに苦戦することは想定していたものの、その内容はコウメイの想定以上だったとのこと。そんな中で、クリスティアを殺すのではなく捕縛したのは、コウメイが考え得る限り最高の結果だった。
立案したコウメイにとってみれば、全く思い通りなどではない。現場で奮戦してくれた2人の尽力があって、なんとかかんとか結果が取れただけである。
ただその奮戦としての代償が、この満身創痍な状態だ。今もこの2人はコウメイよりもスマートに戦術指揮をこなしてくれているが、本人達が直接戦うのは無理そうだ。今ならコウメイでも勝ててしまいそうな気がするくらい、明らかに弱っている。
コウメイは駆けつけてくれた2人から視線を滑らせると、この戦いではずっと側についていてくれているプリシティアへ目を向ける。コウメイが無言で何か質問するような視線を投げかけると
「ぜえ、ぜえ……ば、ばっちぐー……っち」
「副長達がいるのに、方言に戻っているぞ」
馬の上で汗だくになって、まだ息を荒げている彼女へ、とりあえずコウメイは突っ込んでおく。
プリシティアがここまで疲弊させられるのも想定以上だった。
新白薔薇騎士の力は大袈裟に見積もっていたつもりだったが、現実にはそれでも油断の域を出ていなかった。そんなコウメイの甘い認識を助けてくれたのは、同じように想定以上の力を発揮してくれたプリシティアのおかげだった。彼女の『紅蓮弓』による圧倒的な火力は、窮地にあったコウメイ部隊を救ったのだ。
しかし、それによってプリシティアがここまで消耗してしまったのは、コウメイの責任だ。
(出来れば、この戦場でフェスティアを追い詰めたかったが……)
自分にはプリシティアがいたように、フェスティアの側にはあの厄介な剣士がいるだろう。最初の一騎打ちで負傷させたとはいえ、ここまで疲労困憊のプリシティアを、もうあの剣士と戦わせたくはない。だからといって、ジュリアスもラディカルもこの状態では無理だろう。
”フェスティアを直接追い詰める”と、コウメイが密かに『最後の仕上げ』は諦めざるを得ないようだ。貴重で大切な仲間達を危険に晒すよりは、よっぽどましである。
「まあ、もともとおまけみたいな物だったし--」
「こちらに向かってくる部隊がいます!」
コウメイの言葉を遮って届けられた報告に、その場にいた全員は眼を剥いて反応する。
「この期に及んで突っ込んでくる部隊がいるのか?」
糧食を失った今、それは愚策だろう。まだこちらが追撃の準備が整わない内に撤退しなければ、敵部隊無駄に被害を大きくするだけだ。
まさか、『死なば諸共』--道連れなどという馬鹿な策にフェスティアが走るはずがない。
「一体どういう――」
「危ないっ!」
再び声を遮られるコウメイ。次の瞬間、強く身体を押されて、コウメイは馬上から突き飛ばされて地面をゴロゴロと転がる。
背中を地面に打って、一瞬息が出来なくなる。そのまま直後に襲ってきた痛みに喘いでいると、それまでコウメイがいた馬上を、目に見えない風の刃が掠めるのを感じる。
それは、ヘルベルト連合代表フェスティア=マリーンが得意とする剣術『風刃』だった。
「――っし!」
すぐさまプリシティアが反撃の矢を放つ。
地面に転げているコウメイからは見えないが、彼女の矢は『風刃』が飛んできた元の方向へ真っ直ぐ向かっていたようだった。
しかしそれは目標のフェスティアに突き刺さることなく、その前に立ち塞がった剣士の剣に叩き伏せられる。
その間に、コウメイは打った背中をさすりながら、周りの兵士の力も借りてようやく馬に乗る。すると、コウメイらの前には少数部隊を引き連れたフェスティアとゾーディアスの姿があった。
「おいおい。指揮官がここまで突っ込んでくるのかよ」
コウメイは、引きつった笑みを浮かべながら開戦時以来、再び顔を合わせることとなったフェスティアを見る。
フェスティアの表情は至って冷静だった。しかしその瞳には、冷たい怒りの感情が確かに込められている。
「ただでは帰れないわ。ゾーディアス、そこの小娘とコウメイの首を刈り取りなさい。手土産にするわ」
(そういうことかい……)
今、クラベール城塞都市決戦における最後の戦いが始まる。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる