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第2章『クラベール城塞都市決戦』編

第96話 クラベール城塞都市決戦(14)――『寄り道』

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 突然、後方に大規模な爆撃を受けたことは、前線にいるフェスティも分かる程だった。

 その位置が、リアラを配置している兵糧庫の方角だと分かった時点で、フェスティアは瞬時に何が起こっているのかを察した。

「ノースポールの魔術部隊? まさか、どうして? アウドレラは何を……っ!」

 こういう事態にならないために、わざわざ3領地へ同時に戦線を展開したというのに。オーエンもアウドレラも、全く用を成さない。

 これまでフェスティアが積み上げてきた戦略を全て台無しにした指揮官2人への怒りが沸々と湧き上がる――が、そこで感情に呑まれないのが、フェスティアが『女傑』たる所以だった。怒りに任せて判断力を逸するよりも、冷静に次善策を考えるべきである。

 ――この状況で、自分が取り得る選択肢は。

 どのくらいの魔術部隊が仕掛けてきているのかは分からないが、そこを守っているのは勇者リアラであある。初手の派手な爆撃に肝を冷やされたものの、リアラであればすぐに対応して、あっという間に蹴散らすだろう。

 しかしこの期に及んで、コウメイが勇者の力を侮るはずがない。どんな準備をしているのか想像だに出来ないが、ここは用心を重ねて撤退した方がいいのではないか。

(いや……そうしてこちらの本隊を退がらせることこそが、コウメイの狙いだという可能性も)

 現状フェスティアが手にしている材料を必死に集めて、導き出される結果を必死に考え込むフェスティア。

 しかし、戦況はフェスティアの都合にかまうはずなどなく、次々と移ろっていくのだ。

「代表閣下、お時間をいただきました」

「…っ! ゾーディアス」

 黙考するフェスティアの前に、馬に乗って現れたのは開戦前の一騎打ちにてプリシティアに重傷を負わされたゾーディアスだった。治癒術師による治療を無事終えたらしく、少なくとも見た目には傷が癒えていた。

 そこにいるのは、いつも通りの冷静で不愛想なヘルベルト連合が誇る最強の剣士だった。

「何やら大掛かりなことが起こっているようですね」

「ええ。悔しいけれど、コウメイに裏をかかれたかもしれないわ。ここは大事を取って、軍を下げようかと思うのだけれども――」

 フェスティアがそこまで言ったところで、ゾーディアスは不自然にフェスティアから視線を外す。そんな側近の反応に、フェスティアが怪訝な表情を返すと

「左右両翼に伏せていた敵部隊が、我が部隊の後方に回り込んできました。前線の敵部隊に対応しつつ退がるとなると、相当の時間を要します」

「――」

 自分の思考が追い付かない速度で変わっていく戦況に、フェスティアはまたも言葉を失うのだった。

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 時はコウメイがクラベール城塞都市に入る2日前のこと。決戦当日から遡ると1週間前となる。

 その日も、アウドレラ率いる第2王女派ノースポール領攻撃部隊はいつものように攻撃を仕掛けていた。

「隊長、敵の魔術部隊が出てきました」

「見りゃあ、分かるよ」

 早速、敵陣から火の球が次々と放り込まれると、あっという間にこちらの前線が瓦解していく。

「そんじゃ、とっとと退くぞ。あくまでも時間稼ぎが目的なんだから、無駄に兵を失うこともないだろ」

「はあ……いいんですか?」

「要は、そっちが隙を見せたらいつでもこっちは攻められるぞ、って思わせとけばいいんだよ。こんな茶番で、命を落とす事程馬鹿な話はないだろ」

 アウドレラは完全にやる気をなくした口調で命令を下す。命を落とすことは当然、怪我を負うことすらバカバカしい。

 アウドレラはもうこの頃になると、真面目に戦争を行うつもりなどなくなっていた。ノースポール領への攻撃は、日々のルーティンのようになっており、攻め込んでは敵の魔術部隊が攻撃を受けてて撤退する、ということを機械的に繰り返すだけだった。それはアウドレラ以外の誰でも出来るような、誰がやっても変わらない行為である。

 投げやりに撤退の指示を出したアウドレラは、とぼとぼと自らも後方へと戻っていくのだった。

 実のところ、これこそがアウドレラのそういった性格も見越した上で、フェスティアが思い描いていた理想的なノースポールの戦況だった。つまり、こういった機械的な行為を繰り返せざるを得ない状況を作って、強力な魔術部隊を僅かな兵力で足止めするというわけである。

□■□■

 やる気がないのはアウドレラだけではなく、防衛側のニーナ=シャンディも同じだった。双方共に、この意味が感じられない戦場に辟易していたのだ。

「ご苦労様、アンリちゃん☆ 大丈夫? エッチする?」

「失せろ、変態」

 ニーナに代わって指揮を執り、アウドレラ部隊を撃退――といっても、魔術の初撃を放っただけだが――した、彼女の副官アンリエッタは、陣地に戻った時に出迎えてきた上官へ冷たい目を向けて、そう答えた。

 相変わらずの関係性だが、実はアンリエッタはニーナの龍牙騎士としての誇りに触れて以来、心の奥底では尊敬の念を寄せている。普段がこんなだから、大体はこんな攻撃的な態度になってしまうが。

「たはは~。参ったなぁ。でもね、アンリみたいなツンデレって、1回快感を知っちゃうと、その後は超淫乱になるタイプなのよ。私の経験上間違いないわ。1回だけでもどうかしら? 私ならその1回だけで、貴女をドロドロの百合の世界へハマらせる自信が--」

「ええい! 寄ってくるな、この変態! 変態、変態っ!」

 未だ戦後処理で慌ただしい中で、2人はわーわーとじゃれ合い始める。

 そんな中、ニーナは急に優しい笑みを浮かべると

「震えているわよ? ――決心したなら、遠慮せずに早めに言いなさいな」

「っ!」

 ニーナに龍牙騎士としての覚悟を問われたあの日から、アンリエッタは答えを先送りにしていた。死ぬ覚悟は勿論のこと、逃げて生き延びることすら選べないでいたのだ。

 いつかクラベール領が落ちたという報せがもたらされた時。それは、アンリエッタ達にとっては死刑宣告とも同義だ。そうなった時のことを想像しても、戦場に残って死ぬこと・仲間を見捨てて逃げること……どちらも怖くて、とても選べない。

 今はまだ茶番だ。相手は本気で攻めてくる気配はなく、何よりもニーナがこの場にいるからこそ、小規模な戦闘限定でアンリエッタは彼女に代わって前線指揮を執ることも出来る。

 やがてこの状況が一変する時、或いはその時に向けて……果たして自分はどうするべきなのか。アンリエッタはその不安と恐怖に葛藤する日々を送っていた。

 ――そんな状況を一変させたのは、正にこの日だった。

「た、たたた……隊長っ! ニーナ隊長っ! 大変ですっ!」

 ニーナとアンリエッタがじゃれ合っている中、慌てたように1人の龍牙騎士が駆けてくる。アンリエッタと同じくニーナ部隊の副官を務め、魔術師部隊を守る前衛部隊を統率するゴーガンだった。

「おー、どうしたのゴーガン君。そんなに慌てちゃってさぁ。もしかして、私の可愛いわんこの誰かが、私を待ちきれなくてオナニーしているところを目撃しちゃったかな?」

「どうして、隊長はそんなに下品なんですかっ! いーっ!」

 真面目な時とそうではない時のギャップがあまりにも激しく、アンリエッタは思わず「いーっ」となる。が、慌てているゴーガンはいちいちそれに取り合う余裕もないようだった。肩で息をしながら、報告をしてくる。

「げ、元帥が……コウメイ元帥閣下が、こちらにお見えになられましたっ!」


□■□■

 聖アルマイト王国の「元帥」職は、ここ数年間は長らく空位であった。

 軍事全権を握るその役目は第1王子カリオスが預かっていたが、第2王女反乱に伴ってカリオスが国王代理に就いたのと併せて、それは別の人間に委ねられることとなった。

 地位としては龍牙・紅血・旧白薔薇の、いわゆる王国3騎士を統率する立場であり、全騎士団に対して国王ヴィジオール――今は実質的には国王代理カリオス――に次ぐ命令権を有する程である。

 本来なら元帥と直接対面するのは王族と王国3騎士、最高執政官であるリューゲル、あとはせいぜい副団長レベルくらいであろう。

 つまり、龍牙騎士団内のとある部隊の部隊長程度の人間が、そう簡単にお目にかかれる人物ではない。

 ニーナ及びアンリエッタとゴーガンは、部隊長の幕舎内にコウメイとその護衛として同行してきたプリシティアを招いて机を囲んでいた。

 当然のことながら、ゴーガンとアンリエッタは過剰に恐縮して身を縮こまらせているわけだが

「やー、初めまして。ノースポール領防衛部隊の責任者ニーナ=シャンディです。どもども。それにしても元帥様って、意外にナヨナヨしてるんスね。そんなんで身体で大丈夫か……ふぎゃっ?」

 あまりにも余り過ぎる態度に、2人の副官から後頭部をはたかれたニーナは、そのまま机に突っ伏してしまう。

「私は、彼女に対して激しい怒りを持ちました。私はたった今、彼女を敵として認識したことでしょう」

「怖いっ!?」

 いかにも小柄で少女然とした容貌、そして落ち付いた無表情な雰囲気とは似つかわしくない、激しい怒りのオーラを放つプリシティアに、アンリエッタは思わず涙目になって怯える。

「えーと、あははははは」

 そしてコウメイは困ったように誤魔化し笑いをする。

「聞いていた評判通りで、何か安心しましたよ。ニーナ隊長」

「ひょ、評判? それはまさか私がレーーぶげらっ?」

 余計な単語がその口から吐き出される前に、アンリエッタがすかさぐ顎に強烈な一撃を入れて口を塞ぐ。さすがのコウメイも若干退きつつ、話を続ける。

「えっと、一応これでも緊急事態なので、本題に入ってもいいですかね? プリシティアも、話がこじれるから黙っててね?」

「……」

 やや不満げなところはあるらしいが、コウメイに言われるとプリシティアは大人しく口をつぐむ。

「なんか、元帥様と護衛騎士様も、だいぶ変わっているな」

「そ、そうですね。私達が言うのもなんですけど」

 コソコソと2人でコウメイとプリシティアの感想を囁き合うアンリエッタとゴーガンだったが、彼らに構わずコウメイとニーナは話を進める。

 コウメイが説明を始める前に、先に言葉を発したのはニーナの方だった。アンリエッタの一撃を受けた顎をさすりながら、もう片方の手を上げて

「はいはい。聞きたいんスけど、今やクラベールは陥落寸前の大ピンチの状況じゃないですか。そんな激ヤバな状況を放っておいて、元帥様が可愛らしい護衛騎士様と一緒に、こんな田舎の領地にどんな御用なんですか? あ、お忍びデートってやつですか? 良い御身分ですね、ごのロリコン☆」

「あばばばばば……」

「ゴ、ゴーガンさん! しっかりして下さい!」

 元帥に凄まじい口の利き方をする上官を見て、泡を吹き始めるゴーガンとそれを介抱するアンリエッタ。

「いや、なんか……キッツいなぁ。あははは」

 しかし元帥たるコウメイは、それに相応しい(?)度量を見せる。激怒するというよりは余裕ある笑みを浮かべるのだった。

「実は、ここの魔術部隊でクラベールの攻撃部隊を叩いてもらいたいんです」

「……!」

 そうしてコウメイが切り出したところで、参加者一同表情がようやく本当の意味で真剣になる。

 コウメイが提案した作戦は至ってシンプル。

 現在クラベール領にいる部隊で敵本隊を引き付けている間に、ニーナ率いるノースポール領が南下して敵の兵糧を強襲する。兵糧を攻撃することは、現状では対抗手段がない勇者に対する唯一効果的な作戦だという説明も補足する。

「2つ、いいですか?」

 真っ先に口を開いたのはニーナだった。既におちゃらけた雰囲気などはない。どころか、コウメイを刺すくらいの鋭い視線を向けて、2本の指を立てて切り出す。

「1つ目は、ノースポール防衛の要である魔術部隊をクラベールに向かわせるなら、ここの守りはどうするつもりなんです? まさか、見捨てるつもりですか?」

 ニーナなりの覚悟で持ってこの地を守っているのは、アンリエッタもゴーガンも知る所だ。

 1部隊長など全く及ばない元帥程の高官からすれば、田舎の領地を見捨てでも中央の重要拠点を守ることが戦略的価値が高いのかもしれないし、政治的にも正しい判断なのかもしれない。

 しかし、それはこれまで指揮を執ってきたジュリアスとは異なる方針だし、何よりもここまで戦線を支えたニーナの意志と覚悟を愚弄する命令だ。

 元帥だろうが何だろうが、彼女が怒りを露わにすることは無理もない。

「勿論、全部隊をクラベールに向かわせるわけじゃない。最低限の部隊は残すつもりです」

「私がいない残存部隊で、守り切れるわけないでしょう? 魔術部隊は決して無敵なんかじゃないんですよ? それを指揮できる戦術級魔術師がいないと、満足に戦うことも出来ないんです。ここにいるアンリエッタでも、1人で魔術指揮を執るのは無理です。馬鹿言ってんじゃないわよ」

「いいや。守り切れるね」

 元帥の前で足まで組み始めるニーナに、コウメイもややヒートアップしたのか、真っ向から彼女の意見を否定する。そんな元帥に、ニーナはカチンときたのか、面白くなさそうに顔を歪めて眼を更に細める。
 そんなニーナのあからさまな反発を受けてコウメイは

「ここで行われているのは、戦争なんかじゃなくて茶番だ。今の状況まで作り上げることが出来たのは貴女の功績といってもいいかもしれない。でも、これ以上貴女という逸材をこの茶番に付き合わせるわけにはいかない」

「――」

 そのコウメイの言葉に、ニーナは何も返答しない。ただジッとコウメイを探るような視線を向けてくるだけだった。

「相手は本気でノースポールを攻める気なんてない。だから僅かな魔術部隊を残して、魔術の初撃を放つだけで、ここの戦況は簡単に維持できるはずだ。――もしかして、貴女もそれに気づいていたのでは?」

 そのコウメイの指摘に、ニーナはピクリと反応する。

 その指摘は正にその通りだった。実はニーナ自身も、これ以上自らがこの戦場に留まる必要はないと感じていたのだ。

 しかし、だからといって自分がクラベール領の戦いに参戦したところで、何も出来ない。多少相手を驚かせるのが関の山だ。

 それに、もしもアウドレラがニーナの不在を察知して本格的に攻撃を仕掛けてきたらどうなるか。ゴーガンは防衛戦においては優秀な指揮官だが、主力である魔術部隊を指揮できる者が不在であれば、正直なところかなり苦しい。そういうリスクだったある。

 自分が動くことで、全体の戦況を覆すことが出来るなら、それはやるべきだろう。しかし現実は無策である。そのままここノースポール領を危険に晒すことなど、無駄で無謀なことだ。故にニーナは迷いつつも動けないでいた。

「ニーナ隊長」

 2人の会話が途切れると、割って入ってきたのはアンリエッタだった。

「……ノースポールの守りは、私に任せてもらえませんか?」

 彼女にしては珍しく弱弱しい小さな声だった。無い自信を必死に振り絞って出した声だというのは明らかである。

「隊長は、死ぬか逃げるしかないっておっしゃっていました。でも、元帥様の話を聞いたら、何とかなるんじゃないかって思えましたよ」

「アンリ……?」

「隊長が私達やノースポール領を大事に思っているからこそ、動けないのは分かります。とてもありがたいことです。でも隊長が動くことで、皆が助かるのであれば動くべきです。だって、貴女は龍牙騎士唯一の戦術級魔術師なんですよ。聖アルマイトを守る責任があると思います」

「――別に、私は……」

 副官からそう言われると、ニーナは珍しく口ごもる。

 これまでは策が無いから、リスクを取って動くことが出来なかった。しかし今こうしてコウメイから策を提示された。ならば、リスクを取って動くべきなのか。

「私は死に怯えて、死ぬ覚悟も逃げる勇気も持てませんでした。でも、今こうして元帥様の話を聞いたら、そのどちらも違うんじゃないかって気がしたんです。多分私達が決めないといけないのは、死ぬ覚悟でも逃げる勇気でもなく、守りたいものを守るために最後まで戦う意志。どんなに苦しくても、最後までに諦めない希望ではないでしょうか。もしも守りたいものが全部守れる可能性があるなら……私はそれを選びたい。諦めたくないです」

 妹のようにとても大切だと思っているニーナの言葉。

「私も、アンリエッタに賛成ですよ」

 頼れる相棒的存在の、ゴーガンの言葉。

「「私達を信じて、貴女は貴女のやるべきことを果たすべきです」」

 副官2人にそう言われて、ニーナは椅子に深く座りなおすと、大きく天を仰ぐようにして息を吐いた。

「――ったく、卑怯ね。そんな風に言われたら、私だけ諦めるわけにはいかないじゃない」

「えーと? んん?」

 勿論、コウメイにはニーナ部隊の人間関係など知る由もなかったが、どうも自分が元帥として作戦の有用性を示すよりは、副官2人の説得の方が心に響いたらしい。

 今まで敵意すら込められていた視線が、途端に変わる。

「私は安心しました。これで私とニーナ隊長は争わなくて済むと予想します」

「プリシティアは、もう少し皆と仲良く出来るように努力出来るといいな!」

 発言内容は問題ありだが、プリシティアもそう感じるくらいにニーナの態度は解けたようだった。

「1つ目については分かりました。ノースポールはアンリエッタに託そうと思います。きっと、この娘なら大丈夫だと思います」

 つい今しがたの自らの発言を翻すものだったが、異を唱える者はいなかった。ニーナが信頼を込めた瞳で副官を見つめると、アンリエッタは弱弱しいもののしっかりとうなずいた。

「では、続いて2つ目です。コウメイ元帥の思い通りに事が運んだら、私達が攻撃する場所を守っているのは勇者リアラということになりますよね? さっきも言った通り、私が率いていようがなんだろうが、魔術部隊は決して無敵なんかじゃない。不意を突けば初撃は叩き込めるとは思いますが、相手に気づかれば瞬殺されますよ? そこは、どうするんです?」

 絶大な攻撃範囲と火力を有する魔術部隊の致命的な弱点――それは脆さと足の遅さである。

 魔術による爆撃を開始すれば、すぐに方角は察知されるだろう。それに気づいて勇者リアラが突撃を仕掛けてくれば、魔術部隊は逃げることすら出来ずに一瞬にして壊滅させられるのは間違いない。

 本来であれば、そうならないように配置されるのが、ニーナ部隊内で言うならばゴーガンの指揮する前衛部隊だった。前衛で敵の攻撃を受け止める部隊と、その間に後衛から魔術攻撃をするというこの連携があって、初めて魔術部隊は成り立つのである。

「いくらゴーガン君でも、相手が勇者だとすると防ぎきれないんと思うんですけど。ていうか、クルーズ団長ですら無理じゃないですか? 兵糧を吹き飛ばす前に、こっちが全滅させられちゃいますよ」

 普段からゴーガンのことを信頼しておりよく知っているニーナが言うからこそ、その言葉には説得力が込められている。少し優秀という程度では、伝説の存在である勇者を食い止めることなど出来ないだろう。

「いや。ニーナ部隊の前衛部隊は、ノースポール領に残ってもらった方がいいでしょう。いくら相手が本気じゃないとはいえ、万が一ということもあれば、保険として残しておいた方がいい」

「は……はあああああ? そ、それじゃ誰が前衛を引き受けるっていうんですか? もしかして、王都からの増援部隊に、勇者に対抗できる部隊でも連れてきてるんですか?」

「その通り」

 あからさまに動揺するニーナの質問に、コウメイは即答した。

「王下直轄部隊に、対勇者に特化した人間がいます。今回は彼に任せようと思っています」

 あまりに予想外だったのか、ニーナがあんぐりと口を開けたままにしていると、彼女に代わってアンリエッタが聞いてくる。

「対勇者特化って……一体、どのような力を持ってる人なんですか?」

 その質問に、コウメイは照れも恥じらいもなく、自信満々に大真面目な顔で返事をした。

「愛の力ってやつかな」
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