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第2章『クラベール城塞都市決戦』編
第95話 クラベール城塞都市決戦(13)――強襲
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「???。??――??」
飛竜使いフェアから戦況報告を来た時、フェスティアの頭と表情は?で占められた。
左右に伏せさせていた敵両翼部隊は、てっきり本隊を引き付けている隙に後方にある兵糧を強襲するために配置されていたものだと考えていた。しかし、その両翼部隊が今この本隊に迫っているという。
(意味が分からない)
それ以外にフェスティアは感想を持てなかった。
伏せさせていた部隊は、最初から兵糧ではなくこちらの本隊を攻撃するために配置されていたということか? ということは、やはりコウメイの狙いは兵糧ではなく、こちらの部隊を撃破することだったのか?
(でも、それに何の意味が?)
混乱する中でも、フェスティアは必死に思考を働かせる。
コウメイの立場からするとーー
仮にここでフェスティア本隊を撃破出来たとして……やはり、どう考えても意味が無い。
なぜならば、今日の戦いでフェスティア本隊を撃破出来たとしても、結局は後方に勇者リアラは残る。明日明後日以降の戦いでリアラが出てくれば、結局はクラベール領を守り切れないのだ。
そもそも兵力差が互角のこの戦場において、こうしてコウメイが仕掛けてきた包囲戦術も意味が分からない。
互いの兵数は拮抗しているはず。同数の兵力で、こちらの部隊を包囲することなど出来るはずがない。ただ徒に戦力を分散させているだけだ。
やはり、何を取っても意味不明だった。
それでも、意味がないと断じることはしない。何かしらコウメイ側にメリットはないかと、必死に考えた続けることで、フェスティアはとあることに気づく。
「確かに虚は突かれたけど、それだけじゃない」
確かに驚いた。こんな訳の分からない作戦など読みようがない。
こちらが受けたダメージといえば、せいぜいそれだけだ。
コウメイという人間は、その程度だったのだろうか。あのグスタフが第1王子派の中でも格別の憎悪と警戒を見せている相手だったから、フェスティアも過剰に警戒してしまっていただけなのだろうか。
その実は、相手を驚かすだけの戦術指揮を執るような、何の考えもない愚か者なのだろうか。
――とてもそうとは思えないが、もうそれ以外にコウメイが得る利益やこちらのダメージなど考えられなかった。
「そういえば、最初の一騎打ちにしたって……あれに、何の意味が?」
こうなってくると、コウメイの1つ1つの行動が気になって仕方なってくる。
これまでフェスティアが経験してきた戦場は、ほぼほぼ相手の意図や思考を読み切った上で退けてきたものばかりだった。
しかし今回は相手の読みが全く分からない。
何故、最初に大して意味が無い一騎打ちを申し込んできたのか。
何故、こちらに発見させるような形で偵察をしてきたのか。
何故、クリスティアら突撃部隊は撃破されたのか。
何故、意味のない包囲戦術を取ってくるのか。
何故、兵糧を狙わないのか。
気づけば、分からないことばかりになっていた。
こちらの思惑を超越した何かを仕掛けている天才なのか、何も考えていない愚か者なのか。フェスティアは言い知れぬ不吉さを感じる。
「ーー正面部隊を呼び戻しなさい。戦力を集中させて各個撃破するのよ。まずは左右の伏兵部隊、勢いが弱い方から片付けるわ。落ち着いて、冷静に対処なさい」
フェスティアがセオリー通りの戦術指揮を発すると、周囲の伝令係はすぐにその指示を伝えに戦場へ走っていく。
新たな戦局の展開に、安定して優勢を保っていたフェスティア部隊が慌ただしく動き始めるのだった。
一見冷静沈着に対処出来ているように見えるフェスティアだったが
(一体何が起こるというの?)
思考が全く読めない相手を敵にして、フェスティアは内心で恐怖を抱いていた。
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結論から言うと、フェスティアが感じていた不吉は的中していた。
但し、正確に表現すると、コウメイがフェスティアの思考を超越していたということは決してない。
コウメイも苦しい中、必死に頭を悩ませて苦しみながら、そして最終的には運にも助けられた結果、たまたまフェスティアの思惑を超えられたという、ただの結果論に過ぎない。
そんなコウメイ作戦の全貌が明かされたのは、決戦前のクラベール邸で行われた首脳会議の場だ。
「都市内へあえて敵をおびき寄せて叩くというのは、あくまで一時しのぎの奇策です。仮に全て上手くいったとしても、根本的な部分は何も解決していない」
そう言って自分で提言した策を、自らこき下ろすかのように言うコウメイ。
やはりこの度の決戦――いや、今後第2王女派と戦っていくならば、勇者リアラの存在は避けて通れない。そしてこれまでのコウメイの説明では、そこには何も触れていない。
「最初におっしゃられていた、勇者の力を封じるという話は?」
作戦会議の冒頭でコウメイが口走った言葉を覚えていたジュリアスが問う。
もしかすると、国王代理カリオスによって大抜擢されたこの人物は、勇者の力をも封じられるような秘密の神器なり魔具なりを持っているのかもしれない。
そんな根拠のない期待の目に晒されながら、コウメイはあっけらかんと言い放つ。
「彼女が力を発揮出来ない状況を作ってしまえばいいだけです。誰だって、腹ペコになったら戦えないでしょう? 勇者といっても同じ人間なんだから、それは同じでしょう。俺の地元に「腹は減っては戦は出来ぬ」という、万人に知れ渡る名言がありましてね」
「こ、この真面目な会議の場で何をふざけたことをっ……!」
コウメイが軽い口調でそう言うと、顔を真っ赤にするのは領主アイドラドだった。しかしそれ以外の軍人達は、そのコウメイの言葉を聞いてすぐに察する。
つまりコウメイが提案するのは『兵糧攻め』
「――なるほど。確かに連中を追っ払うには有効な作戦ですな。あの勇者と真っ向勝負で勝つ必要もねぇ」
「でしょお?」
ラディカルの言葉に、どこか得意げな反応を返すコウメイ。後ろに控えているプリシティアも、無表情なのにどこか自慢気に見える。
が、すぐにジュリアスが現実的な質問を浴びせてくる。
「具体的にはどのようにして? 元帥の言葉でいう「腹ペコ」になるまでは、勇者の力は健在ですよ」
当然、コウメイがそれを考えていないはずもない。
「具体的には、敵の兵糧を焼き払います。今回の作戦の大枠としては、敵部隊の主力を引き付けた上で、別動隊で手薄になるであろう敵の兵糧を強襲するといったものになります」
フェスティアが率いている部隊はそれなりに大規模の部隊だ。兵糧が無くてはそう長く維持できないだろう。そのような事態になれば、フェスティアはクラベール領から撤退せざるを得ないはずだ。
敵を引き付けるための作戦の1つが、あえて城塞都市内に敵を引き入れるというものだ。
そこで問題なのは
「敵の主力を引き付ける囮部隊は、どうやって勇者の攻撃を耐えるってんですか?」
これまでリアラの脅威にさらされ続けてきたラディカルが問うてくる。あのまともに剣を打ち合うことすら許されない勇者特性の恐ろしさ。それを前にすれば、時間稼ぎすらままならないだろう。
しかし、コウメイはその質問も当然の如く予期していた。不敵な笑みを浮かべながら回答する。
「皆難しく考え過ぎなんですよ。勇者だろうが何だろうが、とんでもない力を封じるのに、特別な道具も魔法も必要ない。どんな力だろうが、戦場にいなければ意味ないんだから」
今度のコウメイの言葉には、軍人の面々もその意図を察することが出来なかった。皆、首を傾けながらコウメイの続きの言葉を待つ。
「今回、勇者リアラは戦場に出て来させません。後方に引っ込んでいてもらいます」
「……それは、どのようにして?」
コウメイの短い言葉が終わった後に、静かに質問を重ねてきたのはジュリアスだった。コウメイはジュリアスに顔を向ける。
「勇者も新白薔薇騎士も有する第2王女派は、俺達にとっては無敵に近い相手です。でも、その中で食料事情だけは別問題だ。これは、相手の急所とも言えます。
これまでのフェスティアの戦い方は報告を聞いていますが、奴は完璧というか慎重過ぎるくらいの方法を取ってきている。だからこちらが急所である兵糧を狙うと分かれば、そこの防衛には必ず最大戦力の勇者を配置するはず。そもそも、相手は勇者の力に依存することなく、新白薔薇騎士だけの力でも充分に優勢に事を進めてきていますからね」
そこまでコウメイが説明すると、場が静まり返る。
今のコウメイの論を、それぞれがそれぞれの頭でゆっくりと咀嚼しているようだった。コウメイはそれを待つようにして口を閉じていると、それから最初に口を開いたのはラディカルだった。
「ーーとすると、最初からフェスティアはコウメイ元帥の策に気づくだろうってことですかい? 真っ向勝負じゃなくて、兵糧を狙うだろうってことを」
「そうですね。フェスティアくらいの人物なら、俺の浅はかな考えなんて見透かされていると思っています」
「ほお……敵ながら、随分とフェスティアのことを買っているんですな。でもそれは推測でしょう? 何か根拠はあるんですかい?」
「今の段階では推測しかないので、根拠はこれから作ろうと思います」
そんなコウメイの言葉に、ラディカルはその顔に疑問符を浮かべる。
「兵糧攻めを行うなら、まずはその場所を探るために偵察を出す必要があります。その偵察部隊を、あえて敵に気づかせます」
会議場の空気が途端にざわめくのが分かる。しかしコウメイはそのまま続ける。
「フェスティアがこちらの意図を察しているなら、偵察部隊に気づいてところで泳がせるでしょう。こちらに作戦失敗だと思わせて都市内に籠城されるよりは、出てきたところを叩いた方が相手にとっては効率が良い。
だから相手もこちらと同じことを考えると思いません? あえて相手を引きずり出したところを叩こうとする。こちらが必勝だと思って差し向けた兵糧強襲部隊を、勇者で返り討ちにしようとしてくると読んでいます」
「でも、それでも100%ってわけじゃないでしょう? 全てを把握した上で、それでも勇者を城塞都市攻撃隊に参加させる可能性もゼロじゃあない。さっきの都市内に敵をおびき寄せるって作戦も、その中に勇者が混じっているとなると随分キツイ気がしますけどね」
「万全は期するつもりです」
そう言ってから、コウメイは僅かに後ろのプリシティアを一瞥する。その視線に気づいたプリシティアは軽くなずくと、コウメイは再び会議の出席者へ視線を戻す。
「開戦前に、フェスティアに一騎打ちを申し入れます。相手にとっては不可解でしょうけど、おそらくこっちの意図を探る意味も込めて受けると思います。その際、相手が出して来るのが勇者ではなく別の人間ならば、勇者は後方に置いてきているとみて間違いない」
開戦前の騎打ちは、その戦いの士気に大きく影響する。リアラを連れてきているのならば、必勝無敗の彼女を指名しない理由がない。それでも彼女を出してこない理由は、その場に不在ということだ。
「もし勇者が一騎打ちに出てくるようであれば、全部白紙に戻します。城塞都市に逃げ帰って立てこもって、また一から作戦を考え直しましょう。……でも俺は、これはあくまで保険というか確認だと思っています。こちらが送り込んだ偵察部隊が泳がされた時点で、そうなる可能性は高いと思っていますから」
ふむ、とラディカルは顎を撫でていると、次はジュリアスが聞いてくる。
「偵察を行う人材に心当たりは? かなり危険が伴う任務ですが」
「うってつけの人材が王下直轄部隊(うち)にいます。ミュリヌス攻略戦でも大活躍してくれた、認識阻害魔術の使い手です。相手が偵察部隊を泳がせるかどうかは未知数ですが、万が一予想が外れたとしても、姿を隠せる術を持っているので生還出来る可能性は高いです」
窮地にあったルエールの救助に一躍買ったレーディルの存在はジュリアスも聞いたことがあったのか、承知したような表情を返してくる。
「ただ、俺が言うのもなんですけど、彼は戦闘能力に関しては貧弱なんですよ。護衛役として、この任務に向いた人材を当てて欲しいんです。いかがですが、ジュリアス副長」
「――そうですね。それに関しては、私の方で手当てしておきましょう」
そこはコウメイが懸念していた部分であったのか、ジュリアスの返答に安堵の息を吐く。
「そ、そういえばーー!」
と、突然大声で割って入ってきたのはアイドラドだった、一応この場ではコウメイに次ぐ立場にも関わらず話に参加出来ないことに、焦っているようだった。
「そもそも先ほどから、正門方面のことしか話をしていないが、敵は南門にも展開しておりますぞ! そちらに関してはどのように対応するおつもりか?」
アイドラドにしては、意外に鋭い質問だった。フェスティアやリアラのことばかりに気を取られていて、南に展開しているオーエン部隊については今のところ言及されていない。
しかし、コウメイがそれを忘れていることなどは有り得ない。
「ああ、それなら何てことないですよ。南の部隊には、決戦当日は黙っておいてもらいます。さすがに最低限度の警戒はしますが、放置していても問題ないくらいの状態には出来ると思います」
「ど、どうやって……!」
あまりにも簡単に言うものだから、誰もが疑わし気にコウメイを見る。ま
さか精神操作系の魔術の心得でもあるんだろうか……などと、また根拠のない邪推を始める者もいる。
「フェスティアと、南の――オーエン、でしたっけ? その連絡経路を完全に遮断してやればいいんです。フェスティアの優秀過ぎるが故の脆さを突きます」
これまでの第2王女派の快進撃は勇者と新白薔薇騎士だけではない。フェスティアの卓越した戦術指揮も大きかったはずだ。
おそらくここまでの戦況はフェスティアが思い描いてきた通りになっているはずだ。それは視点を変えてみると、フェスティア麾下の部隊は彼女の意のままに動いてきたということでもある。
その方法で、誰もが攻略出来なかった龍牙騎士団を退けて、聖アルマイトの領血をを占領してきたのだ。そんな優秀な指揮官の下では、良くも悪くも部下達は何も考えなくなるだろう。何せ黙って言うことを聞いているだけで簡単に戦果が上がるのだ。フェスティアも、意図してそのように部隊を統率している節すらある。
フェスティア部隊は、どんなに不可解に思える命令でも彼女に従順に従うはずだ。それこそがここまで第1王子派を圧倒出来る程の軍事行動を実現出来た理由に違いない。
「だから両部隊の連携を断って、こっちから戦闘が始まっても一切戦闘待機という、不可解で無意味な命令をオーエン部隊に流してやればいい。事前に聞いているオーエンとやらの雑な噂からしても、多分従順に従うと思いますよ」
この世界における通信手段は主に陸路だ。それならば、こちらは周辺の地形を把握しているため、その経路を塞ぐことは難しいことではないだろう。
しかし、その偽の命令に本当にオーエンが従うかどうかは、言葉ではそう言っていてもコウメイは正直あまり自信が持てなかった。
意見を伺うようにジュリアスへ視線を向ける。
「そうですね。連絡を遮断すること自体はそう難しくないと思います。偽の命令を流すことも、おそらく実際の連絡係は末端の奴隷兵に任せているでしょうから、それに紛れる形を取れば出来ないことはないですね。オーエンという男、部下の管理はかなり適当な男だと聞いているので、面白い方法ではあると思います。ただ、出来ればさっきの一騎打ちのように、その効果が確認できれば良いのですが」
「それなら決戦当日までに、その方法で1度オーエン部隊を動かしてみましょうか。無意味にこちらを攻撃させるよう、偽命令を試してみるのはどうです?」
「――なるほど。それならば良いと思います」
思い切った作戦を提示しながらも、1つ1つのことに対してきっちり確認作業を組み込んでくるコウメイの考えは、大胆なのか慎重なのかよう分からなくなってくる。
運に頼る部分はあるものの、リスク管理も出来ているし、試す価値はあるように感じた。少なくとも一か八かの大博打だとは思わない。
但し――
「それでは、そもそもの話をしますが……勇者リアラが、我々が狙う兵糧の防衛部隊に配置されるというならば、こちらの目的は達成出来ないのでは? あくまでも、敵の糧食を焼き払って、敵部隊を撤退させるのが狙いですよね?」
勇者リアラの圧倒的な力を戦場から排除するために後方に引っ込めさせる。そのためのあれやこれやについては分かったが、実は最初から話が進んでいないのは誰もが承知していた。
結局のところ、最強の勇者リアラ=リンデブルグに対してどのように対処するか――やはり第2王女派との戦いについて、この問題は切って離せないのだ。
再び、話は最初に逆戻りしてしまう。
「――ふふ……んふふふ」
「いや、何で君がそんなドヤ顔で笑うのさ」
静まり返った会議室内で、そんな含み笑いを漏らしたのはプリシティアだった。『護衛騎士モード』であるはずの彼女は、コウメイが言った通りのドヤ顔をして腰に手を当てていた。
コウメイはやれやれとため息を吐きながら、頭を振る。
「でもま、その質問が出てきて安心しましたよ。副長やラディカル将軍程の軍人が気づかないなら、敵も気づかないでしょうね。ここまでの下準備が整えられたなら、多分成功する」
妙に自信ありげに笑うコウメイに、誰もが眉をひそめてコウメイの顔色をうかがう。
「まあ見ていて下さいよ。そのための、『寄り道』だったんです。今までジュリアス副長がフェスティアに味合わされた屈辱は、そのまま倍返ししてやりますよ」
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「くあぁ……あ~、気持ちよかったぁ」
第2王女派後方部隊は、激戦を繰り広げている前線とは打って変わって平和そのものだった。麗かな日和に穏やかなそよ風が吹いており平穏そのもの。
その頃、フェスティアが敵指揮官のコウメイの策に動揺していることなど知らず、性欲を満たしたリアラは幕舎の外で欠伸をしながら身体を伸ばしていた。
「ふえ……あへ、あへぇぇ……~……」
リアラ既に新白薔薇騎士の胸当てなど綺麗に着こなしており、戦闘待機中という万全の状態だった。
一方、彼女の欲望の餌食になった新白薔薇騎士は、未だベッドの上で痙攣していた。様々な体液を垂れ流したまま、正気を失った瞳で、壊れた笑みを浮かべた状態で放置されている。
「ん~、よくない。よくないなぁ。気持ちよくてついやり過ぎちゃった。あんまり騎士団の女の子を壊すと、私もクリスティアさんみたいに怒られちゃう。ま、私はあの人と違って女の子を気持ちよくしてるんだけど♪」
その言葉が意味する内容とはあまりに似つかわしくない、まるで悪戯がバレてしまった時の少女のような無邪気な笑みを浮かべながら、リアラは独り言を零していた。
「でも、グスタフ以外の男とヤルのなんてゴメンだしなぁ。あ、でもリューイならアリかも? 私が逆にリューイを犯すのとか……やだ、すっごいエロいそれ。あ、やば……勃起して――」
そんな狂った妄想に興奮している中――それは、突然起こった。
突然、巨大な火球が放り込まれるように、陣地内に降り注いできたのだ。
「――ふえ? なに?」
最初に放り込まれたのは1個の火球だったが、それだけでは終わらない。
2個、3個……一定の間隔で、次々と放り込まれる火球群。
平穏でのどかだったその一帯に轟音が鳴り響き、瞬く間に火が広がっていく。
「なに? なに? なんなの?」
正に刹那の間に、天国から地獄になったくらいの変わりようだった。混乱しているのはリアラだけではない。陣地内の兵士らも、あまりに突然のことに慌てふためているのが分かる。
それでも、さすがは由緒正しき聖アルマイト白薔薇騎士団を全身とする部隊である。
各員は混乱する状況の中でも、組織としての秩序を取り戻し、必死に状況確認に走って混乱を治めるべく動いていた。責任者であるリアラも、そのために陣地をかけずり回って指示を飛ばす。
その中で、ようやく報告が上がってきた。
「き、北から第1王子派の襲撃です。どうも近くに伏せていたようで……」
「――北?」
その言葉を聞いて、リアラはすぐに察する。
3領地同時攻略戦――まだ決着がついていないのは、ここクラベールだけではない。北のノースポール領も攻防の真っ最中だったはずだ。
そしてノースポールに布陣しているという第1王子派の部隊とは
「魔術部隊っ……!」
本作戦におけるコウメイの真髄が、いよいよ発揮される。
飛竜使いフェアから戦況報告を来た時、フェスティアの頭と表情は?で占められた。
左右に伏せさせていた敵両翼部隊は、てっきり本隊を引き付けている隙に後方にある兵糧を強襲するために配置されていたものだと考えていた。しかし、その両翼部隊が今この本隊に迫っているという。
(意味が分からない)
それ以外にフェスティアは感想を持てなかった。
伏せさせていた部隊は、最初から兵糧ではなくこちらの本隊を攻撃するために配置されていたということか? ということは、やはりコウメイの狙いは兵糧ではなく、こちらの部隊を撃破することだったのか?
(でも、それに何の意味が?)
混乱する中でも、フェスティアは必死に思考を働かせる。
コウメイの立場からするとーー
仮にここでフェスティア本隊を撃破出来たとして……やはり、どう考えても意味が無い。
なぜならば、今日の戦いでフェスティア本隊を撃破出来たとしても、結局は後方に勇者リアラは残る。明日明後日以降の戦いでリアラが出てくれば、結局はクラベール領を守り切れないのだ。
そもそも兵力差が互角のこの戦場において、こうしてコウメイが仕掛けてきた包囲戦術も意味が分からない。
互いの兵数は拮抗しているはず。同数の兵力で、こちらの部隊を包囲することなど出来るはずがない。ただ徒に戦力を分散させているだけだ。
やはり、何を取っても意味不明だった。
それでも、意味がないと断じることはしない。何かしらコウメイ側にメリットはないかと、必死に考えた続けることで、フェスティアはとあることに気づく。
「確かに虚は突かれたけど、それだけじゃない」
確かに驚いた。こんな訳の分からない作戦など読みようがない。
こちらが受けたダメージといえば、せいぜいそれだけだ。
コウメイという人間は、その程度だったのだろうか。あのグスタフが第1王子派の中でも格別の憎悪と警戒を見せている相手だったから、フェスティアも過剰に警戒してしまっていただけなのだろうか。
その実は、相手を驚かすだけの戦術指揮を執るような、何の考えもない愚か者なのだろうか。
――とてもそうとは思えないが、もうそれ以外にコウメイが得る利益やこちらのダメージなど考えられなかった。
「そういえば、最初の一騎打ちにしたって……あれに、何の意味が?」
こうなってくると、コウメイの1つ1つの行動が気になって仕方なってくる。
これまでフェスティアが経験してきた戦場は、ほぼほぼ相手の意図や思考を読み切った上で退けてきたものばかりだった。
しかし今回は相手の読みが全く分からない。
何故、最初に大して意味が無い一騎打ちを申し込んできたのか。
何故、こちらに発見させるような形で偵察をしてきたのか。
何故、クリスティアら突撃部隊は撃破されたのか。
何故、意味のない包囲戦術を取ってくるのか。
何故、兵糧を狙わないのか。
気づけば、分からないことばかりになっていた。
こちらの思惑を超越した何かを仕掛けている天才なのか、何も考えていない愚か者なのか。フェスティアは言い知れぬ不吉さを感じる。
「ーー正面部隊を呼び戻しなさい。戦力を集中させて各個撃破するのよ。まずは左右の伏兵部隊、勢いが弱い方から片付けるわ。落ち着いて、冷静に対処なさい」
フェスティアがセオリー通りの戦術指揮を発すると、周囲の伝令係はすぐにその指示を伝えに戦場へ走っていく。
新たな戦局の展開に、安定して優勢を保っていたフェスティア部隊が慌ただしく動き始めるのだった。
一見冷静沈着に対処出来ているように見えるフェスティアだったが
(一体何が起こるというの?)
思考が全く読めない相手を敵にして、フェスティアは内心で恐怖を抱いていた。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
結論から言うと、フェスティアが感じていた不吉は的中していた。
但し、正確に表現すると、コウメイがフェスティアの思考を超越していたということは決してない。
コウメイも苦しい中、必死に頭を悩ませて苦しみながら、そして最終的には運にも助けられた結果、たまたまフェスティアの思惑を超えられたという、ただの結果論に過ぎない。
そんなコウメイ作戦の全貌が明かされたのは、決戦前のクラベール邸で行われた首脳会議の場だ。
「都市内へあえて敵をおびき寄せて叩くというのは、あくまで一時しのぎの奇策です。仮に全て上手くいったとしても、根本的な部分は何も解決していない」
そう言って自分で提言した策を、自らこき下ろすかのように言うコウメイ。
やはりこの度の決戦――いや、今後第2王女派と戦っていくならば、勇者リアラの存在は避けて通れない。そしてこれまでのコウメイの説明では、そこには何も触れていない。
「最初におっしゃられていた、勇者の力を封じるという話は?」
作戦会議の冒頭でコウメイが口走った言葉を覚えていたジュリアスが問う。
もしかすると、国王代理カリオスによって大抜擢されたこの人物は、勇者の力をも封じられるような秘密の神器なり魔具なりを持っているのかもしれない。
そんな根拠のない期待の目に晒されながら、コウメイはあっけらかんと言い放つ。
「彼女が力を発揮出来ない状況を作ってしまえばいいだけです。誰だって、腹ペコになったら戦えないでしょう? 勇者といっても同じ人間なんだから、それは同じでしょう。俺の地元に「腹は減っては戦は出来ぬ」という、万人に知れ渡る名言がありましてね」
「こ、この真面目な会議の場で何をふざけたことをっ……!」
コウメイが軽い口調でそう言うと、顔を真っ赤にするのは領主アイドラドだった。しかしそれ以外の軍人達は、そのコウメイの言葉を聞いてすぐに察する。
つまりコウメイが提案するのは『兵糧攻め』
「――なるほど。確かに連中を追っ払うには有効な作戦ですな。あの勇者と真っ向勝負で勝つ必要もねぇ」
「でしょお?」
ラディカルの言葉に、どこか得意げな反応を返すコウメイ。後ろに控えているプリシティアも、無表情なのにどこか自慢気に見える。
が、すぐにジュリアスが現実的な質問を浴びせてくる。
「具体的にはどのようにして? 元帥の言葉でいう「腹ペコ」になるまでは、勇者の力は健在ですよ」
当然、コウメイがそれを考えていないはずもない。
「具体的には、敵の兵糧を焼き払います。今回の作戦の大枠としては、敵部隊の主力を引き付けた上で、別動隊で手薄になるであろう敵の兵糧を強襲するといったものになります」
フェスティアが率いている部隊はそれなりに大規模の部隊だ。兵糧が無くてはそう長く維持できないだろう。そのような事態になれば、フェスティアはクラベール領から撤退せざるを得ないはずだ。
敵を引き付けるための作戦の1つが、あえて城塞都市内に敵を引き入れるというものだ。
そこで問題なのは
「敵の主力を引き付ける囮部隊は、どうやって勇者の攻撃を耐えるってんですか?」
これまでリアラの脅威にさらされ続けてきたラディカルが問うてくる。あのまともに剣を打ち合うことすら許されない勇者特性の恐ろしさ。それを前にすれば、時間稼ぎすらままならないだろう。
しかし、コウメイはその質問も当然の如く予期していた。不敵な笑みを浮かべながら回答する。
「皆難しく考え過ぎなんですよ。勇者だろうが何だろうが、とんでもない力を封じるのに、特別な道具も魔法も必要ない。どんな力だろうが、戦場にいなければ意味ないんだから」
今度のコウメイの言葉には、軍人の面々もその意図を察することが出来なかった。皆、首を傾けながらコウメイの続きの言葉を待つ。
「今回、勇者リアラは戦場に出て来させません。後方に引っ込んでいてもらいます」
「……それは、どのようにして?」
コウメイの短い言葉が終わった後に、静かに質問を重ねてきたのはジュリアスだった。コウメイはジュリアスに顔を向ける。
「勇者も新白薔薇騎士も有する第2王女派は、俺達にとっては無敵に近い相手です。でも、その中で食料事情だけは別問題だ。これは、相手の急所とも言えます。
これまでのフェスティアの戦い方は報告を聞いていますが、奴は完璧というか慎重過ぎるくらいの方法を取ってきている。だからこちらが急所である兵糧を狙うと分かれば、そこの防衛には必ず最大戦力の勇者を配置するはず。そもそも、相手は勇者の力に依存することなく、新白薔薇騎士だけの力でも充分に優勢に事を進めてきていますからね」
そこまでコウメイが説明すると、場が静まり返る。
今のコウメイの論を、それぞれがそれぞれの頭でゆっくりと咀嚼しているようだった。コウメイはそれを待つようにして口を閉じていると、それから最初に口を開いたのはラディカルだった。
「ーーとすると、最初からフェスティアはコウメイ元帥の策に気づくだろうってことですかい? 真っ向勝負じゃなくて、兵糧を狙うだろうってことを」
「そうですね。フェスティアくらいの人物なら、俺の浅はかな考えなんて見透かされていると思っています」
「ほお……敵ながら、随分とフェスティアのことを買っているんですな。でもそれは推測でしょう? 何か根拠はあるんですかい?」
「今の段階では推測しかないので、根拠はこれから作ろうと思います」
そんなコウメイの言葉に、ラディカルはその顔に疑問符を浮かべる。
「兵糧攻めを行うなら、まずはその場所を探るために偵察を出す必要があります。その偵察部隊を、あえて敵に気づかせます」
会議場の空気が途端にざわめくのが分かる。しかしコウメイはそのまま続ける。
「フェスティアがこちらの意図を察しているなら、偵察部隊に気づいてところで泳がせるでしょう。こちらに作戦失敗だと思わせて都市内に籠城されるよりは、出てきたところを叩いた方が相手にとっては効率が良い。
だから相手もこちらと同じことを考えると思いません? あえて相手を引きずり出したところを叩こうとする。こちらが必勝だと思って差し向けた兵糧強襲部隊を、勇者で返り討ちにしようとしてくると読んでいます」
「でも、それでも100%ってわけじゃないでしょう? 全てを把握した上で、それでも勇者を城塞都市攻撃隊に参加させる可能性もゼロじゃあない。さっきの都市内に敵をおびき寄せるって作戦も、その中に勇者が混じっているとなると随分キツイ気がしますけどね」
「万全は期するつもりです」
そう言ってから、コウメイは僅かに後ろのプリシティアを一瞥する。その視線に気づいたプリシティアは軽くなずくと、コウメイは再び会議の出席者へ視線を戻す。
「開戦前に、フェスティアに一騎打ちを申し入れます。相手にとっては不可解でしょうけど、おそらくこっちの意図を探る意味も込めて受けると思います。その際、相手が出して来るのが勇者ではなく別の人間ならば、勇者は後方に置いてきているとみて間違いない」
開戦前の騎打ちは、その戦いの士気に大きく影響する。リアラを連れてきているのならば、必勝無敗の彼女を指名しない理由がない。それでも彼女を出してこない理由は、その場に不在ということだ。
「もし勇者が一騎打ちに出てくるようであれば、全部白紙に戻します。城塞都市に逃げ帰って立てこもって、また一から作戦を考え直しましょう。……でも俺は、これはあくまで保険というか確認だと思っています。こちらが送り込んだ偵察部隊が泳がされた時点で、そうなる可能性は高いと思っていますから」
ふむ、とラディカルは顎を撫でていると、次はジュリアスが聞いてくる。
「偵察を行う人材に心当たりは? かなり危険が伴う任務ですが」
「うってつけの人材が王下直轄部隊(うち)にいます。ミュリヌス攻略戦でも大活躍してくれた、認識阻害魔術の使い手です。相手が偵察部隊を泳がせるかどうかは未知数ですが、万が一予想が外れたとしても、姿を隠せる術を持っているので生還出来る可能性は高いです」
窮地にあったルエールの救助に一躍買ったレーディルの存在はジュリアスも聞いたことがあったのか、承知したような表情を返してくる。
「ただ、俺が言うのもなんですけど、彼は戦闘能力に関しては貧弱なんですよ。護衛役として、この任務に向いた人材を当てて欲しいんです。いかがですが、ジュリアス副長」
「――そうですね。それに関しては、私の方で手当てしておきましょう」
そこはコウメイが懸念していた部分であったのか、ジュリアスの返答に安堵の息を吐く。
「そ、そういえばーー!」
と、突然大声で割って入ってきたのはアイドラドだった、一応この場ではコウメイに次ぐ立場にも関わらず話に参加出来ないことに、焦っているようだった。
「そもそも先ほどから、正門方面のことしか話をしていないが、敵は南門にも展開しておりますぞ! そちらに関してはどのように対応するおつもりか?」
アイドラドにしては、意外に鋭い質問だった。フェスティアやリアラのことばかりに気を取られていて、南に展開しているオーエン部隊については今のところ言及されていない。
しかし、コウメイがそれを忘れていることなどは有り得ない。
「ああ、それなら何てことないですよ。南の部隊には、決戦当日は黙っておいてもらいます。さすがに最低限度の警戒はしますが、放置していても問題ないくらいの状態には出来ると思います」
「ど、どうやって……!」
あまりにも簡単に言うものだから、誰もが疑わし気にコウメイを見る。ま
さか精神操作系の魔術の心得でもあるんだろうか……などと、また根拠のない邪推を始める者もいる。
「フェスティアと、南の――オーエン、でしたっけ? その連絡経路を完全に遮断してやればいいんです。フェスティアの優秀過ぎるが故の脆さを突きます」
これまでの第2王女派の快進撃は勇者と新白薔薇騎士だけではない。フェスティアの卓越した戦術指揮も大きかったはずだ。
おそらくここまでの戦況はフェスティアが思い描いてきた通りになっているはずだ。それは視点を変えてみると、フェスティア麾下の部隊は彼女の意のままに動いてきたということでもある。
その方法で、誰もが攻略出来なかった龍牙騎士団を退けて、聖アルマイトの領血をを占領してきたのだ。そんな優秀な指揮官の下では、良くも悪くも部下達は何も考えなくなるだろう。何せ黙って言うことを聞いているだけで簡単に戦果が上がるのだ。フェスティアも、意図してそのように部隊を統率している節すらある。
フェスティア部隊は、どんなに不可解に思える命令でも彼女に従順に従うはずだ。それこそがここまで第1王子派を圧倒出来る程の軍事行動を実現出来た理由に違いない。
「だから両部隊の連携を断って、こっちから戦闘が始まっても一切戦闘待機という、不可解で無意味な命令をオーエン部隊に流してやればいい。事前に聞いているオーエンとやらの雑な噂からしても、多分従順に従うと思いますよ」
この世界における通信手段は主に陸路だ。それならば、こちらは周辺の地形を把握しているため、その経路を塞ぐことは難しいことではないだろう。
しかし、その偽の命令に本当にオーエンが従うかどうかは、言葉ではそう言っていてもコウメイは正直あまり自信が持てなかった。
意見を伺うようにジュリアスへ視線を向ける。
「そうですね。連絡を遮断すること自体はそう難しくないと思います。偽の命令を流すことも、おそらく実際の連絡係は末端の奴隷兵に任せているでしょうから、それに紛れる形を取れば出来ないことはないですね。オーエンという男、部下の管理はかなり適当な男だと聞いているので、面白い方法ではあると思います。ただ、出来ればさっきの一騎打ちのように、その効果が確認できれば良いのですが」
「それなら決戦当日までに、その方法で1度オーエン部隊を動かしてみましょうか。無意味にこちらを攻撃させるよう、偽命令を試してみるのはどうです?」
「――なるほど。それならば良いと思います」
思い切った作戦を提示しながらも、1つ1つのことに対してきっちり確認作業を組み込んでくるコウメイの考えは、大胆なのか慎重なのかよう分からなくなってくる。
運に頼る部分はあるものの、リスク管理も出来ているし、試す価値はあるように感じた。少なくとも一か八かの大博打だとは思わない。
但し――
「それでは、そもそもの話をしますが……勇者リアラが、我々が狙う兵糧の防衛部隊に配置されるというならば、こちらの目的は達成出来ないのでは? あくまでも、敵の糧食を焼き払って、敵部隊を撤退させるのが狙いですよね?」
勇者リアラの圧倒的な力を戦場から排除するために後方に引っ込めさせる。そのためのあれやこれやについては分かったが、実は最初から話が進んでいないのは誰もが承知していた。
結局のところ、最強の勇者リアラ=リンデブルグに対してどのように対処するか――やはり第2王女派との戦いについて、この問題は切って離せないのだ。
再び、話は最初に逆戻りしてしまう。
「――ふふ……んふふふ」
「いや、何で君がそんなドヤ顔で笑うのさ」
静まり返った会議室内で、そんな含み笑いを漏らしたのはプリシティアだった。『護衛騎士モード』であるはずの彼女は、コウメイが言った通りのドヤ顔をして腰に手を当てていた。
コウメイはやれやれとため息を吐きながら、頭を振る。
「でもま、その質問が出てきて安心しましたよ。副長やラディカル将軍程の軍人が気づかないなら、敵も気づかないでしょうね。ここまでの下準備が整えられたなら、多分成功する」
妙に自信ありげに笑うコウメイに、誰もが眉をひそめてコウメイの顔色をうかがう。
「まあ見ていて下さいよ。そのための、『寄り道』だったんです。今までジュリアス副長がフェスティアに味合わされた屈辱は、そのまま倍返ししてやりますよ」
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
「くあぁ……あ~、気持ちよかったぁ」
第2王女派後方部隊は、激戦を繰り広げている前線とは打って変わって平和そのものだった。麗かな日和に穏やかなそよ風が吹いており平穏そのもの。
その頃、フェスティアが敵指揮官のコウメイの策に動揺していることなど知らず、性欲を満たしたリアラは幕舎の外で欠伸をしながら身体を伸ばしていた。
「ふえ……あへ、あへぇぇ……~……」
リアラ既に新白薔薇騎士の胸当てなど綺麗に着こなしており、戦闘待機中という万全の状態だった。
一方、彼女の欲望の餌食になった新白薔薇騎士は、未だベッドの上で痙攣していた。様々な体液を垂れ流したまま、正気を失った瞳で、壊れた笑みを浮かべた状態で放置されている。
「ん~、よくない。よくないなぁ。気持ちよくてついやり過ぎちゃった。あんまり騎士団の女の子を壊すと、私もクリスティアさんみたいに怒られちゃう。ま、私はあの人と違って女の子を気持ちよくしてるんだけど♪」
その言葉が意味する内容とはあまりに似つかわしくない、まるで悪戯がバレてしまった時の少女のような無邪気な笑みを浮かべながら、リアラは独り言を零していた。
「でも、グスタフ以外の男とヤルのなんてゴメンだしなぁ。あ、でもリューイならアリかも? 私が逆にリューイを犯すのとか……やだ、すっごいエロいそれ。あ、やば……勃起して――」
そんな狂った妄想に興奮している中――それは、突然起こった。
突然、巨大な火球が放り込まれるように、陣地内に降り注いできたのだ。
「――ふえ? なに?」
最初に放り込まれたのは1個の火球だったが、それだけでは終わらない。
2個、3個……一定の間隔で、次々と放り込まれる火球群。
平穏でのどかだったその一帯に轟音が鳴り響き、瞬く間に火が広がっていく。
「なに? なに? なんなの?」
正に刹那の間に、天国から地獄になったくらいの変わりようだった。混乱しているのはリアラだけではない。陣地内の兵士らも、あまりに突然のことに慌てふためているのが分かる。
それでも、さすがは由緒正しき聖アルマイト白薔薇騎士団を全身とする部隊である。
各員は混乱する状況の中でも、組織としての秩序を取り戻し、必死に状況確認に走って混乱を治めるべく動いていた。責任者であるリアラも、そのために陣地をかけずり回って指示を飛ばす。
その中で、ようやく報告が上がってきた。
「き、北から第1王子派の襲撃です。どうも近くに伏せていたようで……」
「――北?」
その言葉を聞いて、リアラはすぐに察する。
3領地同時攻略戦――まだ決着がついていないのは、ここクラベールだけではない。北のノースポール領も攻防の真っ最中だったはずだ。
そしてノースポールに布陣しているという第1王子派の部隊とは
「魔術部隊っ……!」
本作戦におけるコウメイの真髄が、いよいよ発揮される。
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