【R-18】龍の騎士と龍を統べる王

白金犬

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第2章『クラベール城塞都市決戦』編

第92話 クリスティア=レイオール(終 幸せになるための結果)

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 クリスティアがグスタフの手に堕ちてから程なくして。
 
 第2王女リリライト=リ=アルマイトが第1王子カリオス=ド=アルマイトへの宣戦布告により、聖アルマイト王国で史上最大の内乱が勃発。

 その前に、既にカリオス率いるミュリヌス攻略部隊が押し寄せていた。その際の戦いでは、クリスティアは龍牙騎士団将軍ジュリアス=ジャスティンの片目を奪い撃退するという、大金星を挙げていた。

 これは元白薔薇騎士が龍牙騎士――それも将軍格の人間――を圧倒したという、最初の事例となった。この事実以降、新白薔薇騎士は勢いつき、第1王子派の士気を衰えさせ、第1王子派苦戦という戦況を作った基礎となった。

 そういった意味で、クリスティアが第2王女派にもたらした功績は大きかった。これにより新白薔薇騎士団内におけるクリスティアの地位は確固たるものとなり、リアラやミリアムに次ぐ程のものとなっていた。

「知ってる? クリスティアのこと……」

「ああ、知っているわ。レイオール家だけど、愛人に孕ませて生まれた娘でしょう? どうしてあんな汚い女がグスタフ様をお守りする、栄誉ある新白薔薇騎士団で幅を利かせているのかしら」

 グスタフの「異能」が蔓延する新白薔薇騎士団の中であっても、クリスティアに対するいわれなき陰口は続いていた。むしろ「異能」によって、その陰鬱とした感情を肥大化させられた人間関係の中では、より顕著で醜くくすらなっていた。

 しかし――

「誰のことかしら?」

「ク、クリスティア……!」

 そうやって陰口を叩いていた、新白薔薇騎士達の首根っこをつかむようにするクリスティア。

 その表情は、獲物を見つけた獰猛な肉食獣の笑みを浮かべていた。

「文句があるなら、直接言ったらどうなの?」

「あ、いえ……その……あはは……」

 クリスティアに睨まれると、その新白薔薇騎士は怯えたように誤魔化し笑いを浮かべながら視線を逸らす。

(この気持ち……たまらないわ)

 クリスティアは胸中で舌なめずりをする。

 自分に怯えているこの新白薔薇騎士の姿は以前のクリスティア自身だ。

 ぶつけられる理不尽な悪意に耐えることしか出来なかった。

 --何故なら弱かったからだ。

 逆らえず、ただ怯えることしか出来なかった。

 --何故なら弱かったからだ。

 力を持たない弱者は、力を持つ強者に歯向かうことすら出来ない。

 力を持つ強者は、力を持たない弱者を欲望のままに蹂躙することが出来る。

 それがこの世界の全てなのだ。

「げふっ!」

 クリスティアは、首根っこを掴んでいた新白薔薇騎士の頬を手の甲で殴り飛ばす。

「ちょ、止め……げふっ……がふっ……やだ……あぶっ!」

 その新白薔薇騎士は抵抗すら許されずに、ひたすらに殴られる。血飛沫が飛び、泣きながら許しを乞いてもクリスティアは決して許さない。殴って殴って殴って、ひたすら殴り続ける。

「ぁ……うぅ……ぅあ……」

「ひぃぃ……」

 顔が歪な形になるほどまでに殴られた同僚の姿を見て、もう1人の新白薔薇騎士は怯えた声を出す。

「た、助け……」

「見逃すと思っているの? ――このクソ雑魚が」

 手の甲についた返り血をペロリと舐めながら、嗜虐の愉悦に歪んだ瞳を向けるクリスティア。

(気持ちいい……!)

 己の快楽のために、容赦なく他者を蹂躙する圧倒的な暴力。その何にも代え難い快感と興奮に、クリスティアは身を委ねる。

「んぎゃ! ぎゃふっ……げえええっ!」

 もう1人の新白薔薇騎士へ、更に壮絶な暴力を与え始める。

 彼女がもはや人間とは思えない声を出し、何かも知れぬ体液が漏れ出るようになっても、クリスティアは決して暴力の手を止めない。目玉が飛び出そうになっている彼女のを顔を木の幹に何度もぶつけ、腹を何度も蹴り上げる。

「あははははははっ! あはははははははっ!」

 ――最初からこうしていればよかったんだ。

『貴女は幸せになるために生まれてきたのよ、クリス』

「私は幸せよ、ママ! やっと幸せになれたの! グスタフ様のオチンポ様のおかげで、世界で一番幸せになれたわ! あはははははは!」

「がふっ……げほ……もう、ごろ゛じで……」

 顔の原型を留めていない新白薔薇騎士の返り血を浴びながら、クリスティアは狂気の声を上げるのだった。

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 第1王子派との戦争ーーその緒戦のグラシャス領で大勝を収めた第2王女派陣営。

 その第2王女派を陰から支配するグスタフは、占領したグラシャス領地内で日がな美女を入れ替えるようにして肉欲の宴を繰り広げていた。

「あんっ! グスタフ様っ! 相変わらず、チンポ最高っ! 気持ちいいっ!」

 元グラシャス領主屋敷の寝室にて、グスタフの上に跨って腰を振り乱しているのはクリスティアだった。

 そしてその日は、クリスティアとグスタフ以外にもう1人の姿があった。

「あ゛、あ゛あ゛ぁ~……あ゛~……」

 部屋の片隅に置かれた檻の中で、クリスティアとは違った意味で正気を失った元白薔薇騎士団団長シンパ=レイオール――クリスティアの異母姉の姿がそこにあった。

 守るべきリリライトの側にありながら、グスタフの暴挙を許してしまったかつての護衛騎士。

 シンパは、主君が狂って獣欲を貪る姿を毎日のように見せられることで、白薔薇騎士団長たる使命も誇りも微塵に砕かれしまった。そして彼女自身の理性と人格までもが破壊され、精神が崩壊してしまっていた。

 一糸を纏うことすら許されず、美しかった金髪も肌も薄汚れている姿。赤ん坊のように指をしゃぶっており、まともな言葉すら喋ることが出来ないような状態。正気を失い焦点が定まってないその瞳は、クリスティアとグスタフの性行為を映しているのかどうかも定かではない。

「っふん! 思ったよりも早く頭がイカれてしもうたようだな。もう少し頑張ると思ったが……ほれ、クリスティア! お前のアヘ顔を姉に見せてやれ!」

「は、はいっ♪ グスタフ様っ♪」

 グスタフにそう言われると媚びるように返事をするクリスティア。グスタフの上でくるりと向きを変えて、檻に入ってこちらをボーっとみている異母姉と向き合う。

「あ゛~……」

「ふ、ふふっ……あははっ……!」

 鼻水と唾液を垂らし、それを拭うことすら出来ない異母姉の姿。

『貴女が弱いから、貴女の母も……』

 かつての異母姉の言葉が、顔が、姿が思い浮かぶ。

 あの頃はあらゆる意味で手が届かない相手だと思った。

 容姿、実力、生まれ、誇り、意志――何もかもが劣っていると思った。だから悔しくて憎くて仕方なかったが、憧れのようなものだって持っていた。それくらい完璧な異母姉だった。

「ん゛あ゛……ああ~……」

 それが、まさしく狂人そのもののように、人の言葉すら喋れないただの肉塊へと成り下がっている。生きていることに何の意味もない、ただ心臓を動かして呼吸をするだけの存在だ。

 もはやシンパは、恥をさらすだけにグスタフに生かされているだけの「かつて人間だった何か」と化していた。

「あははっ……あはははははっ!」

 それに比べて今の自分は、世界最強の雄に気に入れられて、雌としての最高の悦びを教えてもらった。更にその副産物として圧倒的な力を手にした。あの龍牙騎士将軍ジュリアス=ジャスティンの片目をも奪い、圧倒する程の力だ。

「私はっ……この力で新白薔薇騎士団長にっ……姉上を超えるっ!」

 唇を下でペロリと舐りながら、「異能」による強さと快感に全身を打ち震わせるクリスティア。自然、グスタフの肉棒を貪る腰の動きも加速していくと、肉がぶつかり合う音とお互いの体液が混ざり合う淫音が部屋内に響き渡る

「っあぁぁん! 気持ちいいっ! セックス気持ちいいのっ! オチンポ様に犯されている時が、一番充実してるっ……♪」

「すっかりドスケベになったのぅ。こっちからはケツ穴もマンコも丸見えじゃぞう?」

 グスタフも下からクリスティアを突き上げつつ、手をクリスティアの後ろの穴へと伸ばすと、そこをマッサージするように刺激する。

「はうっ? あうううっ……! そ、そこはぁ……」

「お前は、ココはまだ未開発だったのぅ。ぐひひひぅ、ここもじっくり開発してやろぅ。マンコよりもケツ穴穿られないと満足できない身体にするのも、面白そうじゃのぅ」

「あっ……あがっ……っああああ……お尻でオマンコ以上に気持ちよくなれるの? そ、そんなの……素敵過ぎますぅ……♪」

 尻肉を広げられてあらわになった後ろの穴を緩ませるようにグスタフの指がズブズブと入ってくる。「異能」の効果か、既にそれだけで全身を強烈な快感が貫いていく。

「あ゛~……あぁぁ゛……あ゛~……」

「あははっ! 見て、姉上っ! これが強さよっ! 逞しい雄チンポ様に仕えて手に入れた強さ! 私は最強よっ! 私は最強になって、幸せになるのぉぉ!」

□■□■

 肉の快楽を貪り合うグスタフとクリスティアは、今はベッドの側に立ちながら、クリスティアは片足をグスタフに持ち上げられるようにして犯されていた。そして後ろの穴には、クネクネと卑猥に動くバイブレーターが挿入されていた。

「あんっ……! あ゛あ゛あ゛~! ぎもぢいいっ! しゅごぉ……ケツマンコしゅきになっちゃ……んほおおおおおっ~!」

「おほっ……おおおっ……おおおお~っ! いいぞ、クリスティアぁぁ!」

 グスタフが激しく腰を打ち付けてクリスティアを責め立てる。クリスティアはもう自分で腰を動かすことも出来ず、なすがままに犯されていた。

「お゛っ、お゛お゛っ……んほおおっ! イ、イキそ……グスタフ様、イキそっ……だ、抱きしめてっ! ギューッとして、一番奥で中出ししてっ♪ 妊娠確実濃厚ザーメンで、また強くなりたい! むちゅううううううっ♪」

 クリスティアは自らグスタフに密着するようにしながら、グスタフの顔を両手で固定して自分の方を向けさせて、その唇と舌を貪る。

「んむっ……んふっ……んほおおおおおおおお~! お゛お゛お゛~っ!」

 そんなクリスティアに興奮したグスタフは、獣のような咆哮を上げながら、一気に腰の動きを加速させると、そのまま腰を深く突き入れて彼女の望み通りに子宮の最も奥で欲望の塊を吐き出す。

「んひぃっ♪ イグイグイグぅぅ♪ 豚イキ、くりゅううっ♪ マンコとケツマンコで同時に、いきゅうううう! ぶひいいいいいいっ♪」

 グスタフに少し遅れるようにして、クリスティアも浅ましい声と表情で絶頂に達する。

「はぁ、はぁ……こ、これでまた強くなった……グスタフ様、好き♪ だいしゅき♪ チンポ騎士クリスティアは、また1つ強くなりましたぁ。ちゅっ……ちゅ……んれぇぇ……」

 心地よい絶頂の余韻に浸りながら、クリスティアは何度も何度もグスタフの唇を吸いながら、舌を絡めていく。

『貴女は幸せになるために生まれてきたのよ、クリス』

(ママ、クリスは幸せだよっ♪ チンポ食べながら、強くなったの♪ すごく幸せ♪ 最強のチンポ騎士になったんだよぉ)

『ええ。私も貴女のことを見ていますよ、クリスティア』

(見て、ジュリアス! ドスケベチンポ騎士になった私を! 強くなったでしょう? セックスしてるだけで、貴方の片目を潰せるくらいの強さを手に入れたんだよ! 今度はちゃんと殺してあげるからね)

 お互いに絶頂を迎えた後も、2人は絡めるようにしながら再びベッドに倒れ込んでお互いの唇を貪り合う。

「あむ……んちゅ……好き、大好き♪ グスタフ様ぁ……ちゅ……れろれろ……あぁ、幸せ……♪」

「あ゛、あ゛あ゛~……あぁ~……」

 そうして狂気に染まって変わり果てた異母妹の姿を、檻の中から見守るシンパ。

 守護するべき姫。

 母は違えど血を分けたには違いない妹。

 大切だった掛け替えのない2人共が、容赦なく悪魔に蹂躙されてしまった。その絶望により心を砕かれてしまったシンパが、目の前の狂った行為を正しく認識出来ているはずが無かった。

「う゛あ゛……あ゛~……」

 そのはずなのに、シンパの瞳からは涙が流れ出ていた。

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 新白薔薇騎士団内でクリスティアに向けられる悪意は、彼女がどれだけ自らの地位を築き上げたとしても止まることは無かった。

 むしろ、クリスティアが暴力的な行為で悪意を向けてくる相手を蹂躙することを続けていくことで、その感情は大きく強くなっていった。 

「あはははははっ! どうした、クソ雑魚がっ! おら、おらっ!」

「あ……あが……もう許して……」

 それでも相変わらずクリスティアは、暴力による蹂躙を止めることは無い。

 自らの陰口を言っていた新白薔薇騎士の頭を、何度も何度も壁に打ち付けていた。鼻が折れ、歯が折れても止めない。何度も何度も続ける。こんな光景が彼女にとっての日常となっていた。

 そんなことが続き、やがて誰もがクリスティアを恐れるようになり、触れないようになっていく。誰もクリスティアに近づかなくなっていったのだった。

(ふふふ、見なさい。これが強さよ。強さがあれば、こんなにも……!)

 暴力で周囲を支配していくこの感覚に、クリスティアはこれ以上ない高揚感を得ていた。

 ――しかし、それは決して彼女への悪意が止まったわけではない。

(死ねばいいのに)
(とっとと戦場で死んで、消えてくれないかな)
(死ね、死ね、死ね、死ね!)

 クリスティアに対する周りからの敵意は、もはや殺意にまで成長していた。それを実際に口に出来る者はいないだけで、確かにそれは存在する。そして言葉にしなくても、水面下で肥大した強い感情は当人へと伝わるものである。

 クリスティアも、周囲からの殺意や憎悪は分かっていたが

(雑魚だから何も言えないし、出来ないんでしょう? ふふ、本当に哀れで可哀そうなクソ女共ね)

 それすらも自らの強さの誇示するものとして、興奮と快感の材料としていた。

 この時期が、おそらくクリスティアが新白薔薇騎士として頂点だった。

 周囲を暴力で黙らせた彼女は、遂に新白薔薇騎士団長であるリアラに決闘を申し込むのだった。

「貴女が勝ったら、騎士団長に?」

 グラシャス領に続いてバーグランド領を占領した時期。ノースポール・クラベール・イシスの3領地同時攻略戦を控えていたその時に、クリスティアは指揮官のフェスティアにその旨を申し入れた。

「強い者が上に立つというのは、自然の摂理でしょう?」

「まあ、それはその通りね」

 自信満々のクリスティアに言われると、フェスティアはリアラの反応を伺うように隣にいる彼女へ視線を滑らす。

 そのリアラは、つまらなそうにため息を吐きながら。

「ん~、あんまり気が乗らないですね。面倒臭いなぁ」

「時間があるなら、相手をしてあげなさい。そうしないと、どうしても納得しなさそうな顔よ」

 珍しくフェスティアが、クリスティアという個人に肩入れする。そんなフェスティアの態度に、リアラはうんざりしたように

「だって、時間の無駄じゃないですか。別に騎士団長の座なんて執着ないですけど、私がクリスティアさんみたいな雑魚に負けると思います? 結果が分かりきっているのに、それでも時間を取って痛い目を見たいって……クリスティアさん、もしかしてドMなんですか?」

 それは煽りなどではなく、本当に純粋な疑問であるように、リアラは不思議そうにクリスティアの顔を覗き込んでくる。

 年下の、しかもつい最近まで学生に過ぎない小娘にこうまで言われて、苛烈な性分になっているクリスティアが心穏やかでいられるはずがない。頭の中が沸騰し、真っ白になり、思わずリアラへ殴りかかろうとする。

 ――それを、フェスティアは手で制する。

「いいから、相手をしなさいリアラ。これは軍師としての命令よ」

 フェスティアが静かな口調でそう言うと、リアラは後頭部で手を組みながら不服そうに答える。

「ちぇー。表向きはフェスティアさんが上司だから仕方ないか。それじゃ、クリスティアさん、とっとと初めてとっとと終わらせましょう。私は貴女と違って、戦うことよりもセックスーが好きなんで。最近忙しくてこっち溜め込んじゃってるんで、適当な娘で一発ヌきたいんですよね」

 妖艶な笑みを浮かべながら舌なめずりをするリアラは、スカートの上からもでも分かるくらい盛り上げっている股間を自分の手で擦るようにしていた。

 あくまでも挑発ではなく、本心なのだろう。そんなリアラの余裕かつ無礼な言動に、クリスティアの苛立ちが止まらない。

 見た目は平静だが、胸の中では腸が煮えくりかえる程の怒りを抱えるクリスティアに、フェスティアは困ったような表情を向けると

「貴女が負けた際は、団内での暴力行為を止めなさい。貴重な新白薔薇騎士が、貴女のつまらない欺瞞でつぶされてはたまらないわ」

 これが、フェスティアがクリスティアに肩入れしているような態度を取った理由だった。つまるところ、フェスティアもクリスティアの存在を面倒に感じていることに違いなかった。

(全員、叩き伏せてやる……!)

 クリスティアは、自分寄りの態度を取っているフェスティアへすらも怒りの感情を向けて、胸中でそうつぶやくのだった。

□■□■

「あっははははは! よわよわですね~、クリスティアさん。クソ雑魚じゃないですか」

「あぐ……く……」

 勇者リアラへの挑戦――その結果は、惨敗だった。

 これまでクリスティアが他の新白薔薇騎士にそうしてきたように、今度はクリスティアは地面に這いつくばりながら、リアラにその後頭部を踏まれていた。

(ど、どうして……!)

 実力の差もさることながら、クリスティアはリアラの“勇者特性”の恐怖を、身を持って実感した。リアラと対峙するだけで、身が竦んで剣が振るえなくなる。

 グスタフの「異能」により、他者を暴力で蹂躙することで増長していたクリスティア。絶対の自信を持ってリアラに挑んだにも関わらす、まともな戦いにすらならなかった。

「ちょーっとグスタフに気に入られたからって調子に乗っちゃいました? あんなの、たまたま貴女がむかつくシンパさんの妹だったのと、くっそ弱いくせに勘違いしちゃってる貴女が面白おかしくて遊ばれただけなんですよ?」

「う、ぐ……こ、このっ……殺してやるっ……!」

 強さだけではなく、偉大なる雄として崇めていたグスタフに気に入られたという自負さえも否定――つまり、クリスティアの全てを全否定してくるリアラ。

 悔しさは怒りと殺意となってリアラへと向けられる。“勇者特性”の影響下にありながらも、そのギラついた眼を向けてくるクリスティアに、リアラは少しだけ感心したような表情を向けるが

「あはは。無理無理。だって、クリスティアさん弱いんだもん。なんか、一生懸命がんばっちゃったりなんだりしてるけど、私やミリアムさんみたいな特別な人間に勝てるわけないじゃないですか。

 ていうか、そんなに雑魚過ぎて、生きてて恥ずかしくないんですか? あ、そうだ。今すぐ自殺したらどうです? 色々勘違いしちゃっているみたいで、はっきり言って目障りなんです。存在しているだけで鬱陶しいんで、今すぐ消えて下さいよ」

「う、ぐ……ぐ……」

 あまりにも容赦の無さすぎる言葉の刃でクリスティアの心を切り刻む。

 その悪意の言葉は、これまでクリスティアが暴力でねじ伏せて黙らせていたものだった。しかし、その暴力はリアラには通じなかった。だから言われたい放題に言われ、クリスティアの心を破壊してくる。

 後頭部をグリグリと踏みつけられながら、しかしどうしようもない程の圧倒的な力の差――クリスティアは涙を流して、怨嗟の声を漏らすことしか出来ない。

「リアラ、止めなさい」

「え~。だって、せっかくグスタフが来る予定だから、それまでに新しい娘をエロエロにしておいて3P楽しみたいと思ってたのに、こ~んな勘違いクソ雑魚女に邪魔されたんですよぉ? 勝者は私なんだから、せめてこうやってバカ女を貶めて悦に浸らせてもらうくらいの役得はあっても良くないですか?」

「リアラ」

「本当、クリスティアさんて生きている価値ないですよね? こんな、誰からも嫌われていて、誰からも必要とされていなくて、貴女って一体何のために生まれてきたんですか?」

 フェスティアの制止の声など全く無視して、リアラはクリスティアの頭を、背中を、顔を、何度も何度も踏みつけて蹴りつける。それは正にクリスティアがやってきたことを、そのまま倣っているようだった。

 痛みと悔しさに包まれながら、クリスティアの中で決して色あせない記憶が、言葉がリフレインされる。

『貴女は幸せになるために生まれてきたのよ、クリス』

 それは例えグスタフの「異能」であっても、穢すことが出来ない、母親の愛の言葉。

(どうして、こんなことに――)

 そのままクリスティアは、リアラが飽きるまで心も身体も散々痛めつけられた。決闘を見ていたフェスティアも、リアラが飽きて攻撃を止めてから事前の約束だった暴力行為の禁止を確認しただけで、ボロボロになったクリスティアをその場に置いて去っていった。

「ぐす……ぐす……うえええっ……」

 1人残されたクリスティアは、そのまま地面に横たわり、子供のように号泣する。

「ママ……ママ……私、幸せになりたいよぉっ……!」

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 リアラとクリスティアの決闘についての顛末は、すぐに新白薔薇騎士団内に知れ渡ることとなった。というか、当のリアラ本人が面白おかしく吹聴したのだった。

 それをきっかけに、正に化けの皮が剥がれたとばかりにクリスティアへの悪意が再燃する。ただ力で抑えていただけだったので、その力で敗北したという事実が広まれば、そうなることは自明の理だった。

『ざまあないわね、身の程を弁えないからよ』
『所詮は妾の娘。汚らして忌まわしい存在よね』
『団長の言う通りよ。生きてて恥ずかしくないのかしら』
『あ~あ、今すぐ消えてくれないかしら』
『皆、あんな奴死ねって思っているよ。良い気味』
『ていうか、死ね。すぐ死んじゃえ。自殺しろ』

 シャワーのように浴びせかけられる罵詈雑言の数々はもはや数えきれない。周りは、それを直接クリスティアに聞かせるかのように陰口の限りを尽くすようになっていた。

 もうクリスティアに陰口を聞かれても、リアラに言いつければいいのだ。リアラも弱者を板いたぶるのを面白がるように、告げ口を受ければすぐにクリスティアを恫喝するようになっていた。

 そしてクリスティアも、フェスティアとの約束がある以上苛烈な暴力行為の走ることが出来ない。

 ――結局は、弱かったあの頃に逆戻りである。

 そんなクリスティアは、暴力と怒りの矛先を敵である第1王子派に向けた。敵であればフェスティアとの約束には触れないし、周囲からのヘイトを買うこともない。

 白薔薇騎士よりも格上とされていた龍牙騎士を「異能」により得た力で蹂躙することでも、クリスティアは興奮と快感を得られた。

 しかし、それも結局は、敵とはいえ龍牙騎士からも憎悪と殺意を買うこととなる。

 新白薔薇騎士の中で、第1王子派へ際立つ被害を与えていたクリスティアの存在は、やがて龍牙騎士団内でも認知されるようになり、明確な敵意が向けられるようになった。

「奴だ! 奴が新白薔薇騎士クリスティアだ!」
「確実に殺せ! 俺の弟は奴に殺されたんだ!」
「貴様も道連れだ! 何が何でも殺してやる! 死ねぇぇぇ!」

 龍牙騎士の返り血を浴びる中、浴びせかけられる殺意に満ちた言葉。

 当然のことながら、こうして敵ーーかつての味方ーーである龍牙騎士からも、当然忌み嫌われるようになる。「第2王女派に与する新白薔薇騎士」としてではなく「クリスティア=レイオール」という個人として。

「どうしてこんなことになっちゃったの……?」

 周囲には龍牙騎士らの死体が死屍累々と転がっている戦場で、クリスティアは独り言をもらす。周囲には味方の新白薔薇騎士や龍の爪の兵士の姿は1人も見当たらない。

 最近はグスタフに抱かれることもない。

 敵からは勿論、味方からも憎悪を向けられる。

 どんなことがあっても自分を愛してくれた母親は、もうこの世にはおらず。

 何よりも大切な親友は、自らが取り返しのつかない傷を与えて裏切った。

 ――もうこの世界に、クリスティアの味方など誰一人もいない。

『貴女は幸せになるために生まれてきたのよ、クリス』

 嬉しい時も辛い時も、どんな時でも、何回も繰り返される母親の言葉。なにがあっても、悪魔の凶悪なる「異能」の影響を受けても、その言葉の輝きだけは決して鈍らない。

 そう言ってくれた母の顔は、声は、今でもありありと想い出せる。

 そんな母親の言葉を、頭の中で何度も再生しながら、クリスティアは戦場の中で1人静かに涙を流していた。

「どうして皆、私のことをそんなに殺したいの?」
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