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第2章『クラベール城塞都市決戦』編
第72話 クラベール城塞都市決戦(Ⅳ)--フェスティア部隊猛攻
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遂に戦況が大きく動き出た。先の動いたのはフェスティア部隊である。
部隊を分割して兵数が薄くなったコウメイ部隊に対してフェスティアは、一転に戦力を集中させての中央突破を仕掛けた。
結果、コウメイ部隊はフェスティア部隊の中央突破を許してしまった。フェスティア部隊の中から「突撃部隊」として編成された一隊が、コウメイ部隊の中央を突破したかと思うと、そのまま後方の城塞都市へ進撃していく。
部隊を突破されたコウメイだったが、フェスティアの突撃部隊を追撃することは無かった。それよりも、突破されて崩れた自軍の陣形を立て直し、正面に残ったフェスティア部隊本隊と再び相対する。
右翼にいたコウメイは、中央を突破された直後に中央後方へ移動。背後から戦況を俯瞰しながら、そのような指示を出していた。
「押され気味か……」
ジリジリと戦線を下げながら、敵本隊の戦力を引き付ける--これは当初の予定通りだったが、思った以上に状況が悪い。本来ならばもっと時間をかけて後退していくつもりだったが、予想以上に敵の猛攻が激しい。更に部隊を突破されてしまい、遂に城塞都市への侵攻までも許してしまった。
「このままじゃ、でいに苦しいやがね。コウメイさ」
前線に助太刀に言っていたプリシティアが後方のコウメイの下へ戻ってくる。前線にいた彼女の口からはその苦しい状況が語られる。
「小細工無しの力押しかよ。フェスティアめ、一番やって欲しく正攻法で攻めてきたか」
コウメイは苦々しくそう言う。敵ながらフェスティアのことを評価せざるを得なかった。
コウメイが頼みの綱としているのは、敵の兵糧を攻撃する強襲部隊だ。コウメイが仕掛けた小細工は、全てその強襲部隊の存在をフェスティアに気取られないようにすることに全力を注いでいる。
しかしこのまま問答無用の力押しで攻め続けられれば、強襲部隊の攻撃よりも先にこちらの本隊が潰されかねない。仮に強襲部隊の攻撃が成功したとしても、城塞都市が占領されたり本隊が壊滅すれば、こちらの敗北だ。
今回の作戦に際して、コウメイは本隊・両翼へ伏せさせた2部隊・都市防衛隊の4部隊に分けている。その中でも都市防衛部隊に配置した兵力は多くない。兵力の最も多い本隊であるコウメイ部隊ですら押されているこの状況で、ジュリアス達都市防衛部隊は突破していった突撃部隊の攻撃を防ぎきれるか。
だからといって強襲部隊の攻撃を急ぎ過ぎてはいけない。敵戦力を充分に引き付ける前に強襲部隊を動かすことで、敵本隊に後方に引き返されてそのまま兵糧の防衛に当たられたら、強襲部隊の兵力ではひとたまりもないだろう。
--強襲部隊を動かすタイミングを間違えるわけにはいかない。早過ぎても遅すぎても、こちらの全部隊が壊滅してしまう。
いよいよ切迫してきた状況に、コウメイの胸がドクンと大きく鼓動する。
「コウメイさ、大丈夫っち?」
明らかに顔色が悪くなったコウメイを心配するように、プリシティアが顔を覗き込んでくる。
コウメイは慌てて首を振ると、パンと自分の顔を両手で叩いて喝を入れる。
「大丈夫……大丈夫だ」
敵が強襲部隊の存在に気付いているのなら、部隊を分けて突破など仕掛けてくるはずがない。この時点で後方引き返して防衛に当たるはずだ。
想像以上に苦境ではあることは認めるが、状況はまだ想定の範囲内。予定通りだと言っても良い。この本隊と都市防衛隊が強襲部隊の攻撃まで持ちこたえられれば、きっと勝てる。
「こんな危険な作戦に付き合わせて、本当にごめんな」
コウメイがそう零すと、プリシティアはきょとんとした顔を向けてくる。
「でも、最後まで頼りにさせてくれな。頼むよ、プリティ」
「勿論やがっ! 見ててね、コウメイさ! もう、わーは誰にも負けないがよ!」
□■□■
「敵本隊は態勢を整えて、こちらに備えてきました」
部隊中央に座するフェスティアへは、常に前線の戦況報告がなされている。その報告に、フェスティアは馬上で顎に手を当てながら、満足そうに微笑んでいた。
「予想通りね。コウメイからしてみれば、突破していった部隊を追撃すれば、ここに残る私達本隊を自由にさせることになるものね。突撃部隊のことは、城塞都市に配置している防衛部隊に任せざるを得ないわ」
そうしてしまえば、フェスティアの本隊で両翼に伏せさせている強襲部隊に対応されかねない。強襲部隊の存在をひた隠しにしたいコウメイとしては、何としてもこちらの戦力を強襲部隊から逸らさせておきたいはず。
「でも、残念ね。こちらは既に気づいているし、そもそもかあの勇者を後方の防衛部隊に配しているとは思わないでしょう」
それこそがコウメイ最大の誤算である。
現時点で勇者に対する有効手段が無いのであれば、コウメイは徹底してリアラとの交戦を避けようとするはずだ。真っ向勝負ではなく、兵糧強襲といった小細工を弄していること自体がその証拠だ。
だから、もしもコウメイが兵糧の防衛部隊にリアラを配置していることを察知しているのならば、すぐに作戦を中止――両翼の強襲部隊を下がらせて、都市防衛に当たらせるはず。都市を占領されてしまえば、そこで敗北が確定するのだから。
コウメイは、自分が狙っている場所に最悪の敵である勇者リアラが配置されていることに気づいていない。だからこそ強襲部隊を伏せさせたまま、それを動かすタイミングを図るために自らの本隊を今も囮にしているのだ。
「強襲部隊はリアラに全滅させるし、城塞都市も完璧に占領してみせるわ。そして最後に、完膚無きまでに部隊を全滅させてあげるわ、コウメイ。お前は「あの御方」を侮蔑した罪で一生苦しみ、そして私は「あの御方」のチンポ愛人として、一生幸せな人生を過ごすの。うふふふ……ふふふふふ」
冷たく狂気に染まった笑みをこぼしながら、フェスティアは早くも勝利の美酒、その気配だけで酔っているようだった。
--ここで、戦局は大きく2つに分かれた。
今この場所でのコウメイ部隊本隊とフェスティア部隊本隊。
そして城塞都市における、城塞都市防衛隊とフェスティア部隊突撃部隊だ。
ここでの本隊同士の戦況は極めて順調。新白薔薇騎士を中心とした単純な力押しに、敵は成す術もなく押されている。
そしてこれから城塞都市へ攻撃を仕掛ける突撃部隊ーーフェスティアがその重要な部隊を任せたのは、龍の爪将軍ルルマンドと新白薔薇騎士のクリスティアだった。
「こなされた仕事はきっちりとこなしなさいな。失敗は許さないわよ」
その場にいない、重要任務を与えた2人に向かって、フェスティアはそうつぶやいた。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
「来ましたっ! 第2王女派ですっ!」
クラベール城塞都市外壁上の監視塔から敵の動きを察知した見張り役は、慌ててそれを知らせる旗を振るように指示した。
それを見て動き出すのは、城塞都市外周に配置されたジュリアス率いる都市防衛部隊だった。
「――来ましたね」
待機していたジュリアスは、静かに言葉を零した。
コウメイが予想していたよりも随分と早い。前線が想像以上に苦しい状況なのは間違いないようだ。
しかしジュリアスに焦りはない。いつ敵部隊が来てもいいように、部隊も、自分の心身も既に研ぎ澄ませている。
「全軍出撃です。全て、コウメイ元帥の指示通りに。
都市防衛はこの戦いの勝敗条件そのものです。万が一にでも都市を陥とされることがあってはなりません。各位、命に代えても敵の侵攻を阻止して下さい」
あの優しいジュリアスが命を賭けて戦えと指示するのは、副団長に任命されてから初めてのことだった。それ程に切羽詰まった、そして重大な戦いになると、全部隊が緊張に包まれる。
そして、遂にフェスティア部隊による猛攻がクラベール城塞都市へと届くのだった。
□■□■
「ヒャッハーっ! 行け行けぇ! 殺せえぇぇぇ」
龍の爪の兵士の下品な咆哮が戦場に響く。
龍の爪には馬に乗って戦場を駆ける騎馬兵の数は少ない。戦場に必要なレベルの馬術技能を有する人材が少ないからだ。
突破力を重視させた突撃部隊には、その数少ない騎馬兵が多く配置されていた。
いよいよ城塞都市まで迫ってきたフェスティア部隊の突撃部隊。騎馬兵である龍の爪らが先陣を切り拓くようにして、突き進む。
周辺に配置されていた都市防衛部隊が立ち塞がるが、その騎馬の突破力を止めることは出来ない。さらにその騎馬隊の後には、強力な新白薔薇騎士らが続くのだ。
都市防衛戦は瞬く間に乱戦の様を呈した。
両軍ともに陣形を保てずに、敵味方入り乱れての大乱戦。
そんな状況で都市防衛部隊が、都市内部へ侵攻していく騎馬隊を止められるわけがなかった。
「死ね、死ねっ! をらあああっ!」
龍の爪の士気は高かった。
彼らは指揮官のフェスティアより、都市に残った人間は好きなようにして良いとお達しを受けていた。つまり、女性を見つければ好きなだけ凌辱して良いとのことである。これはグスタフによる性の支配で成り立っている第2王女派の、狂気の象徴といっていい体制だった。
龍の爪、特に下級層の兵士にとっては、聖アルマイト王国の大都市に住まう女性は、例え平民であっても上流層に違いない。そんな上流層を好きに凌辱しても良いという許しは、普段は鬱屈している下級層兵士の士気と興奮を著しく駆り立てていた。
「げはははは! 一番乗りだぁぁっ!」
そして遂に龍の爪の兵士らはジュリアスの防衛部隊を完全に抜けていく。もう彼らを止められる人間は存在しない。
そして“なぜか城塞都市正門は開放されたままになっている”
しかし戦闘と欲望の興奮に酔っている龍の爪の兵士に、その不自然な状況を怪訝に思う者は誰一人としていなかった。
剣と剣が打ち合う音、大量の馬が駆け抜ける地鳴り、殺意と憎悪に満ちた人同士の咆哮ーーそんな戦場の狂気が満ちた中で、次々と龍の爪の兵士らが城塞都市の中へ雪崩れ込んでいく。
こうして城塞都市防衛を担っているジュリアス部隊は、あまりにも呆気なくフェスティアの突撃部隊による城塞都市内部への侵攻を許してしまったのだった。
部隊を分割して兵数が薄くなったコウメイ部隊に対してフェスティアは、一転に戦力を集中させての中央突破を仕掛けた。
結果、コウメイ部隊はフェスティア部隊の中央突破を許してしまった。フェスティア部隊の中から「突撃部隊」として編成された一隊が、コウメイ部隊の中央を突破したかと思うと、そのまま後方の城塞都市へ進撃していく。
部隊を突破されたコウメイだったが、フェスティアの突撃部隊を追撃することは無かった。それよりも、突破されて崩れた自軍の陣形を立て直し、正面に残ったフェスティア部隊本隊と再び相対する。
右翼にいたコウメイは、中央を突破された直後に中央後方へ移動。背後から戦況を俯瞰しながら、そのような指示を出していた。
「押され気味か……」
ジリジリと戦線を下げながら、敵本隊の戦力を引き付ける--これは当初の予定通りだったが、思った以上に状況が悪い。本来ならばもっと時間をかけて後退していくつもりだったが、予想以上に敵の猛攻が激しい。更に部隊を突破されてしまい、遂に城塞都市への侵攻までも許してしまった。
「このままじゃ、でいに苦しいやがね。コウメイさ」
前線に助太刀に言っていたプリシティアが後方のコウメイの下へ戻ってくる。前線にいた彼女の口からはその苦しい状況が語られる。
「小細工無しの力押しかよ。フェスティアめ、一番やって欲しく正攻法で攻めてきたか」
コウメイは苦々しくそう言う。敵ながらフェスティアのことを評価せざるを得なかった。
コウメイが頼みの綱としているのは、敵の兵糧を攻撃する強襲部隊だ。コウメイが仕掛けた小細工は、全てその強襲部隊の存在をフェスティアに気取られないようにすることに全力を注いでいる。
しかしこのまま問答無用の力押しで攻め続けられれば、強襲部隊の攻撃よりも先にこちらの本隊が潰されかねない。仮に強襲部隊の攻撃が成功したとしても、城塞都市が占領されたり本隊が壊滅すれば、こちらの敗北だ。
今回の作戦に際して、コウメイは本隊・両翼へ伏せさせた2部隊・都市防衛隊の4部隊に分けている。その中でも都市防衛部隊に配置した兵力は多くない。兵力の最も多い本隊であるコウメイ部隊ですら押されているこの状況で、ジュリアス達都市防衛部隊は突破していった突撃部隊の攻撃を防ぎきれるか。
だからといって強襲部隊の攻撃を急ぎ過ぎてはいけない。敵戦力を充分に引き付ける前に強襲部隊を動かすことで、敵本隊に後方に引き返されてそのまま兵糧の防衛に当たられたら、強襲部隊の兵力ではひとたまりもないだろう。
--強襲部隊を動かすタイミングを間違えるわけにはいかない。早過ぎても遅すぎても、こちらの全部隊が壊滅してしまう。
いよいよ切迫してきた状況に、コウメイの胸がドクンと大きく鼓動する。
「コウメイさ、大丈夫っち?」
明らかに顔色が悪くなったコウメイを心配するように、プリシティアが顔を覗き込んでくる。
コウメイは慌てて首を振ると、パンと自分の顔を両手で叩いて喝を入れる。
「大丈夫……大丈夫だ」
敵が強襲部隊の存在に気付いているのなら、部隊を分けて突破など仕掛けてくるはずがない。この時点で後方引き返して防衛に当たるはずだ。
想像以上に苦境ではあることは認めるが、状況はまだ想定の範囲内。予定通りだと言っても良い。この本隊と都市防衛隊が強襲部隊の攻撃まで持ちこたえられれば、きっと勝てる。
「こんな危険な作戦に付き合わせて、本当にごめんな」
コウメイがそう零すと、プリシティアはきょとんとした顔を向けてくる。
「でも、最後まで頼りにさせてくれな。頼むよ、プリティ」
「勿論やがっ! 見ててね、コウメイさ! もう、わーは誰にも負けないがよ!」
□■□■
「敵本隊は態勢を整えて、こちらに備えてきました」
部隊中央に座するフェスティアへは、常に前線の戦況報告がなされている。その報告に、フェスティアは馬上で顎に手を当てながら、満足そうに微笑んでいた。
「予想通りね。コウメイからしてみれば、突破していった部隊を追撃すれば、ここに残る私達本隊を自由にさせることになるものね。突撃部隊のことは、城塞都市に配置している防衛部隊に任せざるを得ないわ」
そうしてしまえば、フェスティアの本隊で両翼に伏せさせている強襲部隊に対応されかねない。強襲部隊の存在をひた隠しにしたいコウメイとしては、何としてもこちらの戦力を強襲部隊から逸らさせておきたいはず。
「でも、残念ね。こちらは既に気づいているし、そもそもかあの勇者を後方の防衛部隊に配しているとは思わないでしょう」
それこそがコウメイ最大の誤算である。
現時点で勇者に対する有効手段が無いのであれば、コウメイは徹底してリアラとの交戦を避けようとするはずだ。真っ向勝負ではなく、兵糧強襲といった小細工を弄していること自体がその証拠だ。
だから、もしもコウメイが兵糧の防衛部隊にリアラを配置していることを察知しているのならば、すぐに作戦を中止――両翼の強襲部隊を下がらせて、都市防衛に当たらせるはず。都市を占領されてしまえば、そこで敗北が確定するのだから。
コウメイは、自分が狙っている場所に最悪の敵である勇者リアラが配置されていることに気づいていない。だからこそ強襲部隊を伏せさせたまま、それを動かすタイミングを図るために自らの本隊を今も囮にしているのだ。
「強襲部隊はリアラに全滅させるし、城塞都市も完璧に占領してみせるわ。そして最後に、完膚無きまでに部隊を全滅させてあげるわ、コウメイ。お前は「あの御方」を侮蔑した罪で一生苦しみ、そして私は「あの御方」のチンポ愛人として、一生幸せな人生を過ごすの。うふふふ……ふふふふふ」
冷たく狂気に染まった笑みをこぼしながら、フェスティアは早くも勝利の美酒、その気配だけで酔っているようだった。
--ここで、戦局は大きく2つに分かれた。
今この場所でのコウメイ部隊本隊とフェスティア部隊本隊。
そして城塞都市における、城塞都市防衛隊とフェスティア部隊突撃部隊だ。
ここでの本隊同士の戦況は極めて順調。新白薔薇騎士を中心とした単純な力押しに、敵は成す術もなく押されている。
そしてこれから城塞都市へ攻撃を仕掛ける突撃部隊ーーフェスティアがその重要な部隊を任せたのは、龍の爪将軍ルルマンドと新白薔薇騎士のクリスティアだった。
「こなされた仕事はきっちりとこなしなさいな。失敗は許さないわよ」
その場にいない、重要任務を与えた2人に向かって、フェスティアはそうつぶやいた。
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「来ましたっ! 第2王女派ですっ!」
クラベール城塞都市外壁上の監視塔から敵の動きを察知した見張り役は、慌ててそれを知らせる旗を振るように指示した。
それを見て動き出すのは、城塞都市外周に配置されたジュリアス率いる都市防衛部隊だった。
「――来ましたね」
待機していたジュリアスは、静かに言葉を零した。
コウメイが予想していたよりも随分と早い。前線が想像以上に苦しい状況なのは間違いないようだ。
しかしジュリアスに焦りはない。いつ敵部隊が来てもいいように、部隊も、自分の心身も既に研ぎ澄ませている。
「全軍出撃です。全て、コウメイ元帥の指示通りに。
都市防衛はこの戦いの勝敗条件そのものです。万が一にでも都市を陥とされることがあってはなりません。各位、命に代えても敵の侵攻を阻止して下さい」
あの優しいジュリアスが命を賭けて戦えと指示するのは、副団長に任命されてから初めてのことだった。それ程に切羽詰まった、そして重大な戦いになると、全部隊が緊張に包まれる。
そして、遂にフェスティア部隊による猛攻がクラベール城塞都市へと届くのだった。
□■□■
「ヒャッハーっ! 行け行けぇ! 殺せえぇぇぇ」
龍の爪の兵士の下品な咆哮が戦場に響く。
龍の爪には馬に乗って戦場を駆ける騎馬兵の数は少ない。戦場に必要なレベルの馬術技能を有する人材が少ないからだ。
突破力を重視させた突撃部隊には、その数少ない騎馬兵が多く配置されていた。
いよいよ城塞都市まで迫ってきたフェスティア部隊の突撃部隊。騎馬兵である龍の爪らが先陣を切り拓くようにして、突き進む。
周辺に配置されていた都市防衛部隊が立ち塞がるが、その騎馬の突破力を止めることは出来ない。さらにその騎馬隊の後には、強力な新白薔薇騎士らが続くのだ。
都市防衛戦は瞬く間に乱戦の様を呈した。
両軍ともに陣形を保てずに、敵味方入り乱れての大乱戦。
そんな状況で都市防衛部隊が、都市内部へ侵攻していく騎馬隊を止められるわけがなかった。
「死ね、死ねっ! をらあああっ!」
龍の爪の士気は高かった。
彼らは指揮官のフェスティアより、都市に残った人間は好きなようにして良いとお達しを受けていた。つまり、女性を見つければ好きなだけ凌辱して良いとのことである。これはグスタフによる性の支配で成り立っている第2王女派の、狂気の象徴といっていい体制だった。
龍の爪、特に下級層の兵士にとっては、聖アルマイト王国の大都市に住まう女性は、例え平民であっても上流層に違いない。そんな上流層を好きに凌辱しても良いという許しは、普段は鬱屈している下級層兵士の士気と興奮を著しく駆り立てていた。
「げはははは! 一番乗りだぁぁっ!」
そして遂に龍の爪の兵士らはジュリアスの防衛部隊を完全に抜けていく。もう彼らを止められる人間は存在しない。
そして“なぜか城塞都市正門は開放されたままになっている”
しかし戦闘と欲望の興奮に酔っている龍の爪の兵士に、その不自然な状況を怪訝に思う者は誰一人としていなかった。
剣と剣が打ち合う音、大量の馬が駆け抜ける地鳴り、殺意と憎悪に満ちた人同士の咆哮ーーそんな戦場の狂気が満ちた中で、次々と龍の爪の兵士らが城塞都市の中へ雪崩れ込んでいく。
こうして城塞都市防衛を担っているジュリアス部隊は、あまりにも呆気なくフェスティアの突撃部隊による城塞都市内部への侵攻を許してしまったのだった。
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