【R-18】龍の騎士と龍を統べる王

白金犬

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第2章『クラベール城塞都市決戦』編

第56話 決戦前Ⅳ--ニーナ部隊①「ノースポール領戦線」

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 中央クラベール領・南方イシス領の2領地が激動の中にあった時も、北方ノースポール領の戦況は相変わらずだった。

「とーつげきぃ」

 第2王女派側の指揮官アウドレラが、全くやる気のない号令を掛ける。そしてそのやる気の無さが伝染しているようかのように、龍の爪によるやる気のない突撃が開始される。

 第1王子派の龍牙騎士達が迎撃してくる。相変わらず、横に大きく広がった横隊での防衛陣形。相手を倒すのではなく、後ろに通さないことを優先とした戦術だ。

 そしていつも通りに龍の爪の兵士達は、その龍牙騎士達の壁に阻まれて、進撃を止められる。

 そうこうしているうちに、敵後方から巨大な火球が飛来してくる。

 どがーん、ばがーんとかいう冗談みたいな爆音と共に地面が抉れて、瞬く間に前線が崩壊していく。

「たーいきゃーく」

 後方からその様を観客のように見物していたアウドレラは、やはりやる気のない号令をかけると、アウドレラ部隊は尻尾を巻くという表現さながらに撤退を始めていく。

 後退を始めた後も、しばらくは火球が飛来してきたが、射程距離以上に敵が追撃してくることもなく、程なくして魔術攻撃も止む。

「被害は?」

 陣地に戻ったアウドレラは興味無さそうに、鼻をほじりながら部下に確認する。

「軽傷者は多数ですが、戦死者はいつも通り僅かです」

 はあ、とアウドレラは大きくため息を吐く。

 ノースポール領攻略戦が始まって、とうに1週間以上が経過していた。なんでもイシス領は占領し、本丸であるクラベール領も占領間近であるという。

 にも関わらず、ここノースポール領は、開戦当初と状況は何も変わっていない。いや、むしろあらゆる意味でひどくなっている。

 この戦いを続けていくうちに、戦術級魔術部隊というのは、それはもう笑ってしまうくらいに圧倒的な火力を持っていることとアウドレラは痛感した。

 せめて、まだこの部隊には不在ながら中央や南方には配置されている新白薔薇騎士や、それこそ勇者とやらのリアラ=リンデブルグがここにもいれば、少しは面白い勝負も出来るかもしれなかった。しかしアウドレラに与えられた部隊は、奴隷や下級兵士を中心とした龍の爪の兵士のみである。

 その戦力でもって魔術部隊を引き付けておくことだけを命じられたアウドレラ。それでも開戦して間もなくくらいまでは、敵に少しくらい油断があれば、その隙をついて戦果を上げてやろうと思っていた。

 しかし実際に戦術級魔術部隊の火力を目の当たりにして、早々に諦めた。手持ちの軍勢ではどうしようもない。下手に頑張れば、自分を含めて死傷者が増えるだけで、何の意味もない。

 だからといって、攻撃の手を緩めてしまえば、魔術部隊がクラベール領などへ転戦しかねない。魔術部隊がいなくなれば、その途端にノースポール領を占領する体を保っておき、奴らの動きを止めておくことそがアウドレラに課せられた任務だった。絶対に勝てない勝負だが、攻撃の手を緩めるわけにもいかなかった。

 だから、アウドレラは毎日無意味な突撃の号令をかけては、敵の魔術が発動すれば犠牲者が出ないうちに早々に退却することを、何も考えることなく儀式のように日々続けていた。

 相手も防衛に徹しており、攻めてくることも無かったため、戦争の真っ最中だというのにアウドレラの日々は完全に惰性となっていた。何も考えずに、ただひたすら変化のない毎日を繰り返すという、日常よりも退屈な戦場だった。

「あー、これ何て言うんだっけな?」

 この、あまりに退屈で滑稽な状況に、思わずアウドレラは愚痴をこぼす。

「そうそう。茶番ってやつだわ」

□■□■

 アウドレラが茶番と吐き捨てたこの状況に遺憾を抱いているのは、何も彼だけではない。第1王子派の中にも同様に、面白くないと思っている人物がいた。

 龍牙騎士団魔術部隊、通称「ニーナ部隊」の部隊長ニーナの副官ゴーガンもその1人。そして彼だけではなく、彼と同じ副官のアンリエッタも苛立ちを抱いていた。
 
(ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく)

 つい先ほど戦闘が終わったばかりである。

 いつものように攻撃を仕掛けてきた敵部隊に対して、ニーナにあらかじめ指示されていた通りに魔術を叩き込んだところ、敵は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。あまりにも簡単過ぎて、アンリエッタやゴーガンすらも、アウドレラ同様にこの戦いをただの儀式だと思うようになっていた。

 アンリエッタ=ブルウィッチ。艶やかで真っ直ぐな茶色い髪を背中まで伸ばした、若く美形な女性である。年齢は20代前半で、リューイなどの同世代にあたる。目つきが悪い上に口数が少なく、感情の動きをあまり表情に出さないので人からは冷淡に思われることが多いが、決して冷酷な人物ではない。人一倍の向上心を持っていて、龍牙騎士らしい真面目な性格の人物である。

(どうして、あんな人が隊長を……!)

 戦闘が終わってから戻ってきた陣地内を歩くアンリエッタは、思わす拳を握りしめる。その感想は、ゴーガンと同じ。そう思う理由までもが全く同じだった。

 特に今日はいつもの何十倍も怒りが募っていた。

 確かに毎日同じように繰り返される『茶番』に意味を感じなくなり、やる気が無くなるのは理解できる。アンリエッタ自身も、不謹慎ながらついそう思ってしまう部分もある。

 ーーしかし、だからといって部隊を統率する立場の部隊長が戦闘に参加しないというのは、いくらなんでもひどすぎる。

 今回の戦闘、ニーナは副官であるゴーガンとアンリエッタに指示を与えるだけで、自分は参加しなかったのだ。実際指示通りにしたら今までと同じように敵は撤退していったので、必要最低限の責任は果たしていると言えなくもないのかもしれないが。

 でも、それでも……いくらなんでも……戦場にいながら戦闘に参加せずに、その代わりにしていることを考えると--

「隊長っ、ニーナ隊長っ!」

 アンリエッタにしては珍しく怒りをあらわにしながら、ニーナのテントの入り口を豪快に開け放つ。

「っああん! お、お姉様……わわ、私これ好きです……ちゅば……ちゅる……ちゅ」

「んっ……ふっ……これってなぁに? エッチなわんわんミルちゃんは、何をするのが好きなのか、お姉様に教えて?」

「あんっ……ちゅっ…ちゅうう……え、エッチなわんわんのミルは……お姉様と、アソコを……オマンコを舐め合うのが大好き! ちゅっ……ちゅば…ちゅううう」

「あんっ! ミルってばすっごくエッチになっちゃって……ちゅっ、ちゅっ……大好き♪」

 アンリエッタがテントに入ってきたことにすら気づかず、部隊長のニーナは一糸まとわぬ姿で、同じく全裸になっている少女ーー確か最近になってニーナの側近となった旧白薔薇騎士ーーと、ベッドの中で秘部を貪り合っていた。

「……隊長」

 あまりにもな光景だったが、予想は出来ていた。アンリエッタは努めて怒りを出さないようにしながら、無感情で静かな声ーーしかし確実にニーナに届く声で呼びかける。

 --が、その声は全く微塵にも当の本人は届いておらず。

「ぐへへへ、ここがええのか? ここがええのんか?」

「あっ……あぁぁんっ! だめぇ、そこはお尻……っひゃあああん! は、恥ずかしいのに気持ちいいっ!」

「ぐっへへへへ。つい数日前まで、『私、女同士は~』とか言っていたのに、すっかり百合に染まってしまのう。苦しゅうない、苦しゅうないぞぉぉぉぉ!」

「ああああああああああああっ!」

 戦闘に参加することなく、日が高く昇っているこんな時間帯にも関わらず、部下と快楽を貪り合っている部隊長の姿を見てーー

 部隊内では冷静で冷淡だと勘違いされているはずのアンリエッタは、もう1人の副官と同じように血の涙を流して絶叫していた。
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