【R-18】龍の騎士と龍を統べる王

白金犬

文字の大きさ
上 下
58 / 143
第2章『クラベール城塞都市決戦』編

第56話 決戦前Ⅳ--ニーナ部隊①「ノースポール領戦線」

しおりを挟む
 中央クラベール領・南方イシス領の2領地が激動の中にあった時も、北方ノースポール領の戦況は相変わらずだった。

「とーつげきぃ」

 第2王女派側の指揮官アウドレラが、全くやる気のない号令を掛ける。そしてそのやる気の無さが伝染しているようかのように、龍の爪によるやる気のない突撃が開始される。

 第1王子派の龍牙騎士達が迎撃してくる。相変わらず、横に大きく広がった横隊での防衛陣形。相手を倒すのではなく、後ろに通さないことを優先とした戦術だ。

 そしていつも通りに龍の爪の兵士達は、その龍牙騎士達の壁に阻まれて、進撃を止められる。

 そうこうしているうちに、敵後方から巨大な火球が飛来してくる。

 どがーん、ばがーんとかいう冗談みたいな爆音と共に地面が抉れて、瞬く間に前線が崩壊していく。

「たーいきゃーく」

 後方からその様を観客のように見物していたアウドレラは、やはりやる気のない号令をかけると、アウドレラ部隊は尻尾を巻くという表現さながらに撤退を始めていく。

 後退を始めた後も、しばらくは火球が飛来してきたが、射程距離以上に敵が追撃してくることもなく、程なくして魔術攻撃も止む。

「被害は?」

 陣地に戻ったアウドレラは興味無さそうに、鼻をほじりながら部下に確認する。

「軽傷者は多数ですが、戦死者はいつも通り僅かです」

 はあ、とアウドレラは大きくため息を吐く。

 ノースポール領攻略戦が始まって、とうに1週間以上が経過していた。なんでもイシス領は占領し、本丸であるクラベール領も占領間近であるという。

 にも関わらず、ここノースポール領は、開戦当初と状況は何も変わっていない。いや、むしろあらゆる意味でひどくなっている。

 この戦いを続けていくうちに、戦術級魔術部隊というのは、それはもう笑ってしまうくらいに圧倒的な火力を持っていることとアウドレラは痛感した。

 せめて、まだこの部隊には不在ながら中央や南方には配置されている新白薔薇騎士や、それこそ勇者とやらのリアラ=リンデブルグがここにもいれば、少しは面白い勝負も出来るかもしれなかった。しかしアウドレラに与えられた部隊は、奴隷や下級兵士を中心とした龍の爪の兵士のみである。

 その戦力でもって魔術部隊を引き付けておくことだけを命じられたアウドレラ。それでも開戦して間もなくくらいまでは、敵に少しくらい油断があれば、その隙をついて戦果を上げてやろうと思っていた。

 しかし実際に戦術級魔術部隊の火力を目の当たりにして、早々に諦めた。手持ちの軍勢ではどうしようもない。下手に頑張れば、自分を含めて死傷者が増えるだけで、何の意味もない。

 だからといって、攻撃の手を緩めてしまえば、魔術部隊がクラベール領などへ転戦しかねない。魔術部隊がいなくなれば、その途端にノースポール領を占領する体を保っておき、奴らの動きを止めておくことそがアウドレラに課せられた任務だった。絶対に勝てない勝負だが、攻撃の手を緩めるわけにもいかなかった。

 だから、アウドレラは毎日無意味な突撃の号令をかけては、敵の魔術が発動すれば犠牲者が出ないうちに早々に退却することを、何も考えることなく儀式のように日々続けていた。

 相手も防衛に徹しており、攻めてくることも無かったため、戦争の真っ最中だというのにアウドレラの日々は完全に惰性となっていた。何も考えずに、ただひたすら変化のない毎日を繰り返すという、日常よりも退屈な戦場だった。

「あー、これ何て言うんだっけな?」

 この、あまりに退屈で滑稽な状況に、思わずアウドレラは愚痴をこぼす。

「そうそう。茶番ってやつだわ」

□■□■

 アウドレラが茶番と吐き捨てたこの状況に遺憾を抱いているのは、何も彼だけではない。第1王子派の中にも同様に、面白くないと思っている人物がいた。

 龍牙騎士団魔術部隊、通称「ニーナ部隊」の部隊長ニーナの副官ゴーガンもその1人。そして彼だけではなく、彼と同じ副官のアンリエッタも苛立ちを抱いていた。
 
(ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく)

 つい先ほど戦闘が終わったばかりである。

 いつものように攻撃を仕掛けてきた敵部隊に対して、ニーナにあらかじめ指示されていた通りに魔術を叩き込んだところ、敵は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。あまりにも簡単過ぎて、アンリエッタやゴーガンすらも、アウドレラ同様にこの戦いをただの儀式だと思うようになっていた。

 アンリエッタ=ブルウィッチ。艶やかで真っ直ぐな茶色い髪を背中まで伸ばした、若く美形な女性である。年齢は20代前半で、リューイなどの同世代にあたる。目つきが悪い上に口数が少なく、感情の動きをあまり表情に出さないので人からは冷淡に思われることが多いが、決して冷酷な人物ではない。人一倍の向上心を持っていて、龍牙騎士らしい真面目な性格の人物である。

(どうして、あんな人が隊長を……!)

 戦闘が終わってから戻ってきた陣地内を歩くアンリエッタは、思わす拳を握りしめる。その感想は、ゴーガンと同じ。そう思う理由までもが全く同じだった。

 特に今日はいつもの何十倍も怒りが募っていた。

 確かに毎日同じように繰り返される『茶番』に意味を感じなくなり、やる気が無くなるのは理解できる。アンリエッタ自身も、不謹慎ながらついそう思ってしまう部分もある。

 ーーしかし、だからといって部隊を統率する立場の部隊長が戦闘に参加しないというのは、いくらなんでもひどすぎる。

 今回の戦闘、ニーナは副官であるゴーガンとアンリエッタに指示を与えるだけで、自分は参加しなかったのだ。実際指示通りにしたら今までと同じように敵は撤退していったので、必要最低限の責任は果たしていると言えなくもないのかもしれないが。

 でも、それでも……いくらなんでも……戦場にいながら戦闘に参加せずに、その代わりにしていることを考えると--

「隊長っ、ニーナ隊長っ!」

 アンリエッタにしては珍しく怒りをあらわにしながら、ニーナのテントの入り口を豪快に開け放つ。

「っああん! お、お姉様……わわ、私これ好きです……ちゅば……ちゅる……ちゅ」

「んっ……ふっ……これってなぁに? エッチなわんわんミルちゃんは、何をするのが好きなのか、お姉様に教えて?」

「あんっ……ちゅっ…ちゅうう……え、エッチなわんわんのミルは……お姉様と、アソコを……オマンコを舐め合うのが大好き! ちゅっ……ちゅば…ちゅううう」

「あんっ! ミルってばすっごくエッチになっちゃって……ちゅっ、ちゅっ……大好き♪」

 アンリエッタがテントに入ってきたことにすら気づかず、部隊長のニーナは一糸まとわぬ姿で、同じく全裸になっている少女ーー確か最近になってニーナの側近となった旧白薔薇騎士ーーと、ベッドの中で秘部を貪り合っていた。

「……隊長」

 あまりにもな光景だったが、予想は出来ていた。アンリエッタは努めて怒りを出さないようにしながら、無感情で静かな声ーーしかし確実にニーナに届く声で呼びかける。

 --が、その声は全く微塵にも当の本人は届いておらず。

「ぐへへへ、ここがええのか? ここがええのんか?」

「あっ……あぁぁんっ! だめぇ、そこはお尻……っひゃあああん! は、恥ずかしいのに気持ちいいっ!」

「ぐっへへへへ。つい数日前まで、『私、女同士は~』とか言っていたのに、すっかり百合に染まってしまのう。苦しゅうない、苦しゅうないぞぉぉぉぉ!」

「ああああああああああああっ!」

 戦闘に参加することなく、日が高く昇っているこんな時間帯にも関わらず、部下と快楽を貪り合っている部隊長の姿を見てーー

 部隊内では冷静で冷淡だと勘違いされているはずのアンリエッタは、もう1人の副官と同じように血の涙を流して絶叫していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...