【R-18】龍の騎士と龍を統べる王

白金犬

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第2章『クラベール城塞都市決戦』編

第55話 決戦前Ⅲ--オーエン部隊「最低の妻」

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 聖アルマイト王国龍牙騎士団の中で、女性騎士というのは珍しい。

 魔術の腕前如何では、女性が男性に勝ることは珍しくない世界だが、それでも性別による基礎体力の差はれっきとして存在しているため、やはり戦闘職においては男性が多数を占めているのだ。

 そんな中でミリアム=ティンカーズは、女性の身ながら龍牙騎士団長に次ぐナンバー2の実力の持ち主として評判だった。

 ティンカーズ家という由緒正しき上級貴族の出、美しい金髪に透き通るような翡翠色をした瞳、騎士ながら汚れ1つない美麗な顔立ち、鍛え抜かれて引き締まった美しい体型、常に鍛錬を欠かさない向上心強き心、上役には敬意を払い、後輩には優しさと厳しさをもって接し、同僚には信頼と友愛を、弱者には誠実さを持って寄り添い、悪には決して退かない強さを持つ。

 唯一、何故か幼女のような声色だけが幼い頃からずっと変わらないままというのが密かに抱える悩の、性格・容姿・身分と、どれをとっても完璧な騎士と言って差し支えが無い人間だった。

「--そこまでっ!」

 王都にある鍛錬場にて、声が響く。

 ミリアムは同僚であるランディと手合わせをしていた。訓練用に刃を鈍らせた実剣で持って、激しい剣激を交わしていたが、やがてミリアムがランディの一瞬の隙を突くと、懐に入り込んで剣の切っ先をランディの喉元に突き付けていた。

 そこで決着の声を上げたのは、立会人として指名されたミリアムの後輩であるルエンハイムだった。

「これで87戦45勝42敗ね、ランディ」

「……クッソ。なかなか勝ち越せないなぁ」

 実力が拮抗したぎりぎりの戦いを終えて、2人とも汗だくになりながら爽やかな笑みを浮かべていた。

 勝敗が決すると、ミリアムはランディへ突き付けていた剣を腰の鞘に納める。ランディは団内最強もライバルに敗北した悔しさを胸に抱えながらも、苦笑しながら答える。

 ミリアム、ランディ、そしてジュリアスをくわえた3人ーーこの世代のことは、団内では密かに『ミリアム世代』と呼ばれていた。それ程までにこの3人の実力は団内でも突出していた。特にミリアムが世代の名前を冠している通り、彼女の実力は3人の中でも頭1つ抜けて出ていた。

 この世代は、団長ルエールが引退した後の龍牙騎士団の未来を担う存在として期待されていたのだった。

「す、すごい! ランディ先輩の剛力もすさまじかったですが、ミリアム先輩の可憐な剣さばきもまた美しく、まるで物語の妖精が舞を舞っているようでした」

「ルエンハイム……貴方は、もう」

 訓練を終えた2人に、ルエンハイムは興奮した様子でタオルを渡してくる。ミリアムはそれを受け取り、汗をぬぐいながら苦笑するのだった。

「もはや、ミリアム先輩は女性では聖アルマイト最強なのではと自分は思います! 僭越ながら、シンパ白薔薇騎士団長すらも、凌駕されているのではないでしょうか」

 聖アルマイト王国では、女性騎士にとっての最高峰は新白薔薇騎士団長とされている。

 常に戦場の最前線で血と汗に塗れる龍牙騎士よりも、王族の親衛隊という高貴で可憐な白薔薇騎士、そしてその頂点である白薔薇騎士団長こそが女性騎士として最高の栄誉、というのが一般的な価値観なのである。そういった事情も、女性の龍牙騎士が少ない要因でもある。

「それはないわ、ルエンハイム。今の私ではシンパ様の足元にも及ばないわ」

 それが本心なのか謙遜なのかは分からない声色でミリアムは答えから、続きの言葉を紡ぐ。

「それに、私は白薔薇騎士を目指すつもりもない。私はずっと龍牙騎士で、ルエール団長の後を追い続けるつもりだから」

「ルエンハイム、こいつ実はおっさん趣味なんだぜ。いわゆるファザコンってやつだ」

 横から入ってきたランディが茶化すように言ってくると、一気にミリアムの顔が赤くなる。

「な、何を言うのランディ! わ、私は団長にそんな想いなど……恐れ多くて……」

「なんでだよ。確かに年齢差はあるけど、奥様には先立たれているし、チャンスはあるじゃねえか。アンナお嬢様にも気に入られているんだろう? 倫理的にも、何の問題もない」

「そ、そういう問題ではないわ! あ、あくまでルエール団長は、騎士として尊敬して目指すべき方で……そ、その……あうあう……」

 ミリアムにしては珍しく、もじもじとしながら言葉を逃がしてしまう。訓練で負けた腹いせとばかりに、ランディはミリアムを弄り倒すのだった。

 ミリアムに憧れ以上の感情を寄せているルエンハイムにとっては、それを見るのは心中複雑ではあったが。

「そ、その……いいんです。私はあの方と一緒に高みを目指して、そしてこの国に暮らす人々を守っていければ……それだけで幸せなんです」

 ランディに弄られながらも、ミリアムは顔を赤くしながら、どこか嬉しそうにそうつぶやいた。

 ルエールと共に龍牙騎士の誇りに生きることーーこの現状だけで、ミリアムは充分に嬉しい。憧れの人間と一緒にいることだけで幸せなのだと、その表情で語る。

「はぁー……勿体ねぇなあ。ミリアムくらい美人だったら、相手が団長でも可能性あると思うんだけどなぁ」

 心底残念そうにそういうのはランディだった。

「なぁなぁ、機会があったら団長に迫ってみろよ。せめてキスくらいはしてみたらどうだ?」

「キキキキキ……キスぅ? ルエール団長とぉ?」

 普段ならこういった話題も、落ち着いて冷静にスルー出来る程の器量を持っているはずなのだが、ルエールを引き合いに出されてしまうと、思わず上ずった声を出してしまうミリアムだった。

「そ、そそそ……そんな、そんなっ! 何を言っているの、ランディ! 龍牙騎士ともあろう人間が、そんな色欲に呑まれなんて絶対にいけないわ! 鍛錬が足りない証拠よ」

「いや、色欲て……キスだけで大げさな。なあ、ルエン?」

 予想以上に取り乱すミリアムに若干引きながら、ランディが側にいたルエンハイムに話を振る。しかしミリアムに密かな想いを寄せる彼としては「はぁ……」と答えるくらいしか出来ない。

「と、とととっ……とにかく! 今の私にはそのようなことをしている暇はないの! 今はとにかく鍛錬を重ねて、少しでも団長に近づかないと。あの御方の側にいるに相応しい龍牙騎士になる事、それが私の一番の目標なの」

 プンプンという音が聞こえてきそうなくらいに頬を膨らませるミリアムに、ランディはバツが悪そうな顔をして宥め始める。

「--でも、ありがとうランディ。貴方やジュリアスは、大切な友人よ。これからも一緒に龍牙騎士団を支えていきましょう」

 ようやく機嫌を直したミリアムが笑顔でそういうと、ランディも笑いながら「おう」とうなずいた。

 気の許せる仲間達と一緒に、心の底から敬愛する上司を目指しながら、大好きな国を守ることが出来る。

 ティンカーズ家という代々騎士の家系に生まれ、幼い頃からずっと騎士になることを夢見たミリアムは、そんな幸せな時がこれからもずっと続くように、ずっとこの大好きで大切な仲間達と一緒にいたいと願っていた。

 そして更に今後、想いを寄せるルエール=ヴァルガンダルと将来を誓いあうような未来ーーもしも、万が一にでも、そんな未来があれば。そんな幸せが許されるならば、どんなに嬉しいことだろうか。

 それは叶わなくて当たり前な夢だと分かっている。だけど今が幸せだから、ついつい今以上の幸せを夢見てしまう。それはいけないことだろうか。それを夢想するというだけでも、贅沢で分不相応であるのに、それを自覚出来ていない愚か者なのだろうか。

 --おそらくその通りだった。

 だからきっと、罰が当たったのだ。

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 クラベール城塞都市を攻撃する第2王女派の部隊は、西からのフェスティア本隊、そして南からのオーエン部隊と2部隊に分かれている。

 ジュリアス率いる第1王子派の部隊を城塞都市にまで追い詰めたこの2部隊は、それぞれ連携を取りながら、第1王子派に休息を取らせないように断続的な攻撃を続けてきた。

 それこそ昼夜問わずの攻撃を仕掛けていた。しかしそれらは、あくまで敵を休ませない程度で、大規模なものになる前に撤退するようなものだった。

 力のままに敵を蹂躙することに悦びを感じるオーエンにとって、ちまちまとした戦闘を続ける此度のフェスティアの命令は、はっきり言って物足りなかった。当初はてっきり勢いのまま城塞都市へ猛攻を仕掛けるものとばかり考えていたからだ。

 しかし聖アルマイト内乱に至る前を含めてこれまでのフェスティアの指揮手腕については、オーエンは全幅の信頼を寄せている。だからフェスティアの麾下にある時は、オーエンは頭脳労働はフェスティアの役目だと言わんばかりに、戦場では自分で作戦を考えることはない。自分が下手に策を練るよりも、フェスティアに従った方が上手くいくし、何よりもその方が存分に暴力でもって他者を踏み躙れるのだ。

 だから多少の不満はありつつも、オーエンは大人しくフェスティアに従っていた。

 そのため戦闘に参加する機会が減ったオーエンは、その持て余した時間で、毎晩のように自らの『妻』を抱いていた。

「あぁんっ……! あん、すごいっ……旦那様っ!」

 城塞都市南門の前に布陣するオーエン部隊の陣地内。その部隊長であるオーエンの幕舎内。

 元龍牙騎士、そして今は新白薔薇騎士として猛威を振りまいているミリアムは、は媚びた雌の表情でオーエンの上で腰を躍らせていた。その美しく長い金髪を振り乱し、両手はオーエンと手を握り合い、見つめ合っている。

「すごい、すごいのっ! 旦那様の逞しいオチンポ、好き! 大好き! 愛していますっ!」

 ミリアムはオーエンを見下ろすようにしながら、うっとりとした瞳でオーエンを見つめていた。その表情は愛情というよりは、淫欲に緩み切った本能むき出しの顔だった。愛情ではなく、快楽による多幸感に狂った顔。

「私、知らなかったっ! 女としての幸せは、雌になることだったんですね! 逞しい雄の欲望の捌け口になることが、女の最高の幸せ……おほおおおおおおっ!」

 オーエンに腰を激しく突き入れられると、ミリアムは情けない表情と声を出しながら、挿入されたオーエンの肉棒を締め上げて、絶頂に達する。

「おっ……おあああっ……あああ゛~っ! ぎもぢいい~……凄く幸せれすぅ……」

 呂律が回らなくなった程に理性が蕩けてしまうミリアムは、そのままフラフラとオーエンの胸板に身体を預けるように倒れ込む。

「おいおい、俺はまだ出してねぇのに勝手に満足してんじゃねえぞ」

「あ、あふ……も、申し訳ありまふぇん……旦那様の愛が、オチンポが気持ち良すぎて……」

「はっ、よく言うぜ」

 媚びるように言ってくるミリアムから肉棒を引き抜くと、オーエンは脱力しているミリアムの腰を持ち上げるようにして、今度は後ろから犯し始める。

「んふおおおっ? イ、イッたばっかりでぇぇぇぇ! おほおおおおっ!」

「知ってんだぞ。てめぇ、ミュリヌスにいた時は俺に黙って新白薔薇騎士団長に抱かれてんだろ? ああ? あんな女の癖にイチモツ生やした化け物に……気持ちわりぃ」

 布団の上に手もつけない状態のミリアムは、無理やり腰を持ち上げられると、そのままオーエンに乱暴に腰を打ち付けられる。

「おっ、おっ、お゛っ~! 壊れりゅっ! マンコ壊れちゃうっ! 旦那様、ごめんなさいっ! 浮気してごめんなしゃい! 少しでも旦那様好みのビッチ妻になりゅために、たくさんセックスしたかったにょおおお。おっ、おっ! そこ、いい! 子宮にチンポ届いてりゅうう!」

 白目を剥いた目からは涙を流しながら快感に狂うミリアム。しかしオーエンは決して容赦せず、ミリアムの尻肉をぱぁんと音を立てながら叩く。

「あっひゃあああああ! お尻叩かれたら、マンコ締まっちゃうっ! 嬉しくてマンコキュンキュンしちゃいましゅ!」

「へっ……!」

 数か月前のミュリヌス領リリライト邸の戦いで、オーエンはミリアムに敗北を喫した。

 龍の爪の中でも『殲滅』の二つ名を与えられ、それまで何度か龍牙騎士の将軍を屠ってきた経験もある。それだけの自信も自負もあったオーエンが、あの時は成す術もなくミリアムに切り伏せられた。

 自分のことを眼中にすらないと言わんばかりの、見下してきたミリアムの目が忘れられない。あの目を思い出すだけで、怒りでどうにかなりそうだった。更にあの時のミリアムの剣技を、不覚にも美しいとすら思ってしまったことも、オーエンには許せなかった。

「なーにが俺のためだ。てめぇ、俺のことを建前にして、俺以外に犯されるのに興奮してんだろ? ああ? 男のモノがありゃあ、男だろうが女だろうが、人間でなくてもいいんだろ?」

「あふぁっ……あふううっ! しょ、しょんな……わらひは旦那様を……あひぃぃぃっ!」

 オーエンはミリアムの背後に一緒に寝そべるようにしながら、片脚を持ち上げて、更に深く肉棒を突き入れる。

「おらっ、おらっ! 認めちまえよ。国だとか騎士の誇りだとかより、今はセックスが一番なんだろう? どうしたら気持ちいいセックスが出来るかしか考えてねえんだろう? おらおら、言ってみろ! 大陸で最高のビッチ騎士を目指しているって!」

「ふおおおっ? おおおんっ! んおおおおっ! ら、らめ……あ、頭がおかしく……!」

 グチュグチュと愛液が飛沫を飛ばす程に激しく腰を打ち付けるオーエン。その太い腕でもってミリアムの引き締まった身体を撫でまわすようにしながら、その乳房を荒々しく揉みしだいていく。

「んほおおお~っ! お゛お゛お゛~! う、浮気エッチ気持ちいいんれすううう! 旦那様以外のチンポをマンコにハメるの、最高に興奮して気持ちいいにょおおお! ごめんなさい、ごめんなさいっ! こんな変態マゾ妻でごめんなしゃいい! わらし、大陸で最高のビッチ騎士をめざしてましゅううう!」

「く……くははっ!」

 かつてオーエンを切り伏せた凛々しい龍牙騎士の面影は全く残っていない。涙と鼻水で滅茶苦茶になりながら、本能を剥きだしにして、快楽に狂い、雄に媚びてくる程のミリアムの変わりようを見ると、ミリアムの中でオーエンの肉棒が膨らんでくる。

「おああああっ! チンポ射精くりゅっ! マンコの中で爆発しそぉっ! お願いしましゅ、中にっ! 旦那様との赤ちゃん欲しいぃぃ! 旦那様との赤ちゃん孕んで、リアラ団長と中出し浮気セックスしたらぁぁぁ……んおおおおおお~っ! おおおおっ! おおお~! スケベ過ぎて、頭が馬鹿になりゅううううううううっ!」

 舌を突き出しながら、ミリアムは盛大に絶頂に達する。そして雄の精を一滴残らず吸い取ろうと、挿入されている肉棒に吸い付くようにして、きつく吸い上げていく。

 --が、オーエンは精を吐き出す前に、ミリアムの中から肉棒を引き抜いて、外で大量の白濁液を吐き出した。

「んふぁ……あ……な、なんで……?」

 蕩け切った顔で、しかし最後に欲していた精の感覚を得られなかったミリアムは、明らかに物足りなさそうな顔でオーエンを見つめる。

「はん。てめー、自分で言っていること分かってんのか。自分が気持ちよくなることしか考えてねぇ、エゴマゾビッチが」

「はんっ!」

 そんなオーエンの侮蔑の言葉だけで、ミリアムは下腹部を切なくさせて、軽く達してしまうのだった。

「この戦闘真っ只中で、てめぇを妊娠させるわけねぇだろ、ばーか。戦争が終わったら、きっちり孕ませてやろうかとも思ったが……なんか萎えたな。てめぇ、他の奴に抱かれたいから孕みたいのかよ?」

「あ、あ……ご、ごめ……なさい。で、でも……でも……ああ、そんなこと言わないでください。オチンポ欲しいの……逞しい旦那様のオチンポで種付けして下さい。浮気セックスも、許して下さい。じゃないと死んじゃう。ミリアムは、気持ちいいセックスしないと死んでしまいます。浮気セックス気持ちいいんです!」

 必死に縋りつくようにミリアムーーもはやその言葉に龍牙騎士の誇りどころか、普通の女性としての倫理観も貞操感も何もない。オーエンの言葉通り、いかに自分が快感を得られるしか頭にない。

 それだけ理性が崩壊したミリアムの姿を見て、オーエンは嗜虐の笑みを浮かべる。もともとオーエンだって、純愛なんて柄ではない。それよりも、あれだけ凛としていた強い騎士が、完全に肉欲の前に屈する姿が滑稽で、支配欲が満たされるのだった。

「くはははっ! それは、てめぇーの頑張り次第だなぁ。そうだなぁ……エロい命令ばっかなのも飽きたし、そうだなぁ」

 射精の快感の余韻に浸りながら、オーエンはミリアムの身体を力強く抱きしめる。そして耳元で悪魔のささやきをこぼす。

「てめぇの元仲間の中でも、特に仲が良かった奴を全員殺ってきたら、きっちりガキを孕ませてやるよ。誰かに任せるんじゃなく、てめぇが自分の手で殺るんだ。例え相手がどれだけ逃げようと、執拗に追いかけて、地獄の苦しみと恐怖を味合わせながら、だ。いいな、分かったな?」

「はぁ……はぁ……それは……」

 今でいう第1王子派ーーその龍牙騎士団にいたミリアムは、間違いなく幸せだった。

 良い上司に恵まれ、仲間想いの同僚がいて、自分を慕ってくれる後輩がいてーー

 もしかしたら、自分が高みを目指していたのは、国を守るとかそんな大げさなものではなかったのかもしれない。ちっぽけな自分の世界、だけどそれは凄く素敵で何にも代えられない程の大切なもの。

 だから、どんなに苦しいことがあっても、大事で大好きな仲間達がいたから頑張れたのかもしれない。それはきっと、その時の自分にとって何よりも大切な者。

 しかし既にそのうちの大切な人ーールエールとランディは自らの手で斬り捨てた。自分の快楽の為に。もっと言うなら、オーエンとのセックスの為に。

 まだ残っている、ミリアムにとって縁の深い大切な仲間といえば--

「ジュリアス……ルエンハイム……アンナお嬢様……」

 頼もしい同僚とひたむきに自分を慕ってくる真面目な後輩、そして敬愛する上司が愛して止まなかった愛娘の顔を思い浮かべるミリアムは

「あは……私頑張りますね。旦那様のために、3人を必ず殺します。八つ裂きにしてみせますから♪」

「俺のためじゃなくて、てめーのためだろ。本当、てめーはどうしようもねえ、エゴでマゾで最低の妻だな」

 狂気の言葉を蕩けた表情で吐くミリアムは、オーエンに変わらぬ侮蔑の言葉を掛けられて、マゾヒストの興奮に身を震わせていた。

 勇者リアラに次ぐ凶悪な敵ーー元龍牙騎士ナンバー2のミリアム=ティンカーズ、その牙がクラベール城塞都市に籠るジュリアス達へ容赦なく伸びようとしていた。

 それは第1王子派にとっては、既に最悪で絶望で地獄のような現実だった。
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