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第2章『クラベール城塞都市決戦』編
第49話 凡人である故の苦悩
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元帥になってからコウメイは、王宮内に用意された専用の部屋で生活していた。
そして、王宮内に仕えるそのほとんどが寝静まった夜ーーコウメイも同じように日中の疲れを癒すべく床についていたが、今夜も熟睡出来ないでいた。
(--怖い)
ベッドで1人横になっているコウメイは、恐怖に震えていた。
山積みだった国内の諸問題が思いがけず順調に片付いていき、自分が戦場へ向かうという実感が徐々に強まっていく。
死と殺意が蔓延する戦闘の最前線へ。限りなく死との距離が近くなる極限の戦場へ。
カリオスは、コウメイを「前線に行くのを恐れているわけじゃないと思っている」と言っていたが、あいにくとそれは大間違いだ。
実際に戦場へ行く実感が強くなっていくにつれて、死の恐怖がコウメイの身体を、感情を押しつぶそうとしていくのだった。
僅かな判断ミス1つーーいや、それどころか運が悪ければ流れ矢1本に突き刺される、そんな程度の運の悪さで簡単に死ぬ。それほどまでに命の価値が、重みが軽んじられる場所へ行くのだ。
凡人であることを自認しているコウメイが、恐怖しないはずがなかった。
『この世界』に来る前までは、生き死になどはどこか違う世界の話のような生活を送っていたのだ。常に安全が約束された、平和な世界で生きていた。
それが、紆余曲折を経て、いつの間にやら1国の軍事最高責任者となっている。
自分が死ぬかもしれない。更に、自分の判断によって多くの他人も道連れのように犠牲にしてしまうかもしれない。そして、仮に自分が生き残って勝利を手にしたとしも、その先にあるのは多くの敵の死ーー多くの人間の死であることは変わらない。
どう転んだとしても、コウメイがこれから築き上げていくのは数多くの死体の山であることは、ほぼ確定している。
「うっ……うええっ……」
自分自身の命のプレッシャーは当たり前。更にそこに、笑えるくらいの大勢の人間の命すらも乗せられていると思うと、コウメイはベッドの中で思わずえづく。胃液が逆流しそうな感覚に、必死にこらえるのが精いっぱいだった。
(死にたくない……誰も死なせたくない……)
心の底からそう思う。
敵は『女傑』フェスティア。
強大な軍事力に加えて戦略や謀略といった、狡猾な駆け引きを得意とする天才だ。これまでの戦いから、その評価の正否はもう疑いようもない。
自身を凡人だと自覚するコウメイは、どうしたって自分がフェスティアに勝てるとは思えなかった。
ミュリヌス領でたまたまフェスティアの思惑ーー本当の黒幕であるグスタフを隠匿するために、フェスティア自身が黒幕であると振舞っていた--を見抜いたコウメイに、周囲は期待している。何せ、今のところ『女傑』を目論みを破ることが出来た唯一の人間なのである。
どんなに前線が苦しくても、コウメイがいればなんとなしてくれる、と。その想いは今まさに前線で苦境に立たされているジュリアス部隊が最も強いだろう。コウメイさえ来てくれれば、この劣勢を跳ね返せる--だから、それまで頑張れる。
(俺1人が行ったところで、本当にどうにか出来るのかよ)
カリオスやリアラのように、英雄の血を引いているわけではない。1人で大軍を屠れる圧倒的な特殊能力など持っていない。
少々悪知恵が働くことと、あとは強いていえば突飛なアイデアを閃くことくらいしか出来ない自分が行って、強大な新白薔薇騎士団を打ち破れるのか。勇者リアラ=リンデブルグを撃破出来るのか。
(嫌だ……嫌だ。行きたくない……死にたくない……)
普段の飄々とした態度、どんなことにも動じない軽い口調ーーこれらはただの強がりだ。こうして怯える自分の弱さを覆い隠すために、嘘の自分を演じているだけ。
周囲に弱さを吐き出し、助けを求めることが出来れば随分と楽になるだろう。しかし立場と状況がそれをコウメイに許さない。何があっても余裕を持ち、どんな困難も容易く乗り越える元帥、聖アルマイトの希望、そういった意味でも嘘の自分を演じ続けることを強要されている。
心の内でそういったすさまじい葛藤を抱えてながら、コウメイは恐怖と周囲のプレッシャーに完全に押しつぶされて、限界に達していた。
その証拠として、このように睡眠障害が起こっており、それは実際に身体へ影響を及ぼし始めていた。
不安と緊張があるから眠れない。眠れないから疲労が取れない。疲労が取れないから日中の集中力が、判断力が落ちていく。
体調が万全だった元帥になりたての時期と比べて、ここ最近のコウメイの凡ミスは目に余る程だった。最近士官したばかりのスタインに、その辺りをかなりフォローさせてしまっている。
(寝ないと……とにかく眠って、疲れを取らないと……)
おそらく戦場では、今よりもシビアで難しい上に時間制限も課せられた判断を次々としなければいけないはずだ。それなのに、睡眠不足で注意散漫という最悪な体調で、的確な思考が出来るはずもない。
こんな状態で前線へ行ったところで、結果は見えている。
自分のミスは、そのまま全軍の死につながるのだ。自分が抱えているのは自分自身の命だけではない。
だから眠らなければ。眠って疲労を回復して、体調を万全にしなければいけない。相手は天才なのだ。万全な状態でも勝てるかどうか分からないのに、体調不良でどうすれば勝てるというのか。
そうやって自分を追い込めば追い込むほど、緊張を強いられて、ますます眠れなくなっていくという悪循環。
これは正に、『この世界』ではそれは病気として認知されていないが、鬱の症状である。
「……ん、む」
そんな緊張と不安の中、ようやくまどろみの波を感じる。
それは、ベッドに入ってから既に何時間も過ぎて、もう間もなく夜が明けようとするくらいの時間。
寝ているのか、起きているのか、夢を見ているのか、よく分からない状態。呻き声を漏らして苦しんでいたはずなのに、その記憶はあまり残っていない。思い悩みながらいつの間にか時間が経過していた、という感覚だった。
当然熟睡感などないし、疲労感はむしろ増したように感じる。
そんな、極めて浅い睡眠の中ーーコウメイは、全身にじんわりとした暖かさを感じ始める。
(……ん、なんだこれ?)
鬱々とした気持ちだったコウメイは、その違和感を感じながらも身体を動かせないでいた。
この感覚、悪いものじゃない。いや、むしろ良い感じ……というか、気持ちいい。暖かくて、どこか嬉しくなるような、不思議な感覚。
「--」
何か音が聞こえる気がする。布団の生地が擦れるような音のようだが、浅いとはいえ睡眠の中にあるコウメイの意識はそれが何なのかは分からない。
しかし、その気持ちいい感覚は徐々に強まってくる。するとコウメイの意識は、軽い睡眠から覚醒の方向へ引き戻される。身体が欲して止まなかった睡眠から引きずり戻される苛立ちは不思議と感じない。
意識が覚醒していくと、その不思議な感覚は下の方から伝わってきていることが分かった。コウメイの意識はぼーっとしつつ、半覚醒していく。そしてその不思議な感覚の正体を確かめるように、寝た状態のまま視線を下へ向けていき--
「何してんの、君ぃ?」
途端に意識が完全覚醒。それまで抱いていた不安も緊張感も疲労も全てが吹っ飛んでいた。
1人だけだったはずのベッドの中に、いつの間にか護衛騎士代理プリシティア=ハートリングが入り込んでいたのだ。
但し日中に見せている鎧姿とは違った、薄布のチュニック姿である。おそらくは寝巻であろう。鎧姿とは違って、彼女本来の少女らしい可愛さが引き立てられている服装だ。
そんなプリシティアがコウメイの下半身のところで、その特徴的な赤髪を揺らしていた。
なんと、彼女はコウメイのズボンをずりさげて、コウメイの肉棒を頬張るようにしていたのだった。
そして、王宮内に仕えるそのほとんどが寝静まった夜ーーコウメイも同じように日中の疲れを癒すべく床についていたが、今夜も熟睡出来ないでいた。
(--怖い)
ベッドで1人横になっているコウメイは、恐怖に震えていた。
山積みだった国内の諸問題が思いがけず順調に片付いていき、自分が戦場へ向かうという実感が徐々に強まっていく。
死と殺意が蔓延する戦闘の最前線へ。限りなく死との距離が近くなる極限の戦場へ。
カリオスは、コウメイを「前線に行くのを恐れているわけじゃないと思っている」と言っていたが、あいにくとそれは大間違いだ。
実際に戦場へ行く実感が強くなっていくにつれて、死の恐怖がコウメイの身体を、感情を押しつぶそうとしていくのだった。
僅かな判断ミス1つーーいや、それどころか運が悪ければ流れ矢1本に突き刺される、そんな程度の運の悪さで簡単に死ぬ。それほどまでに命の価値が、重みが軽んじられる場所へ行くのだ。
凡人であることを自認しているコウメイが、恐怖しないはずがなかった。
『この世界』に来る前までは、生き死になどはどこか違う世界の話のような生活を送っていたのだ。常に安全が約束された、平和な世界で生きていた。
それが、紆余曲折を経て、いつの間にやら1国の軍事最高責任者となっている。
自分が死ぬかもしれない。更に、自分の判断によって多くの他人も道連れのように犠牲にしてしまうかもしれない。そして、仮に自分が生き残って勝利を手にしたとしも、その先にあるのは多くの敵の死ーー多くの人間の死であることは変わらない。
どう転んだとしても、コウメイがこれから築き上げていくのは数多くの死体の山であることは、ほぼ確定している。
「うっ……うええっ……」
自分自身の命のプレッシャーは当たり前。更にそこに、笑えるくらいの大勢の人間の命すらも乗せられていると思うと、コウメイはベッドの中で思わずえづく。胃液が逆流しそうな感覚に、必死にこらえるのが精いっぱいだった。
(死にたくない……誰も死なせたくない……)
心の底からそう思う。
敵は『女傑』フェスティア。
強大な軍事力に加えて戦略や謀略といった、狡猾な駆け引きを得意とする天才だ。これまでの戦いから、その評価の正否はもう疑いようもない。
自身を凡人だと自覚するコウメイは、どうしたって自分がフェスティアに勝てるとは思えなかった。
ミュリヌス領でたまたまフェスティアの思惑ーー本当の黒幕であるグスタフを隠匿するために、フェスティア自身が黒幕であると振舞っていた--を見抜いたコウメイに、周囲は期待している。何せ、今のところ『女傑』を目論みを破ることが出来た唯一の人間なのである。
どんなに前線が苦しくても、コウメイがいればなんとなしてくれる、と。その想いは今まさに前線で苦境に立たされているジュリアス部隊が最も強いだろう。コウメイさえ来てくれれば、この劣勢を跳ね返せる--だから、それまで頑張れる。
(俺1人が行ったところで、本当にどうにか出来るのかよ)
カリオスやリアラのように、英雄の血を引いているわけではない。1人で大軍を屠れる圧倒的な特殊能力など持っていない。
少々悪知恵が働くことと、あとは強いていえば突飛なアイデアを閃くことくらいしか出来ない自分が行って、強大な新白薔薇騎士団を打ち破れるのか。勇者リアラ=リンデブルグを撃破出来るのか。
(嫌だ……嫌だ。行きたくない……死にたくない……)
普段の飄々とした態度、どんなことにも動じない軽い口調ーーこれらはただの強がりだ。こうして怯える自分の弱さを覆い隠すために、嘘の自分を演じているだけ。
周囲に弱さを吐き出し、助けを求めることが出来れば随分と楽になるだろう。しかし立場と状況がそれをコウメイに許さない。何があっても余裕を持ち、どんな困難も容易く乗り越える元帥、聖アルマイトの希望、そういった意味でも嘘の自分を演じ続けることを強要されている。
心の内でそういったすさまじい葛藤を抱えてながら、コウメイは恐怖と周囲のプレッシャーに完全に押しつぶされて、限界に達していた。
その証拠として、このように睡眠障害が起こっており、それは実際に身体へ影響を及ぼし始めていた。
不安と緊張があるから眠れない。眠れないから疲労が取れない。疲労が取れないから日中の集中力が、判断力が落ちていく。
体調が万全だった元帥になりたての時期と比べて、ここ最近のコウメイの凡ミスは目に余る程だった。最近士官したばかりのスタインに、その辺りをかなりフォローさせてしまっている。
(寝ないと……とにかく眠って、疲れを取らないと……)
おそらく戦場では、今よりもシビアで難しい上に時間制限も課せられた判断を次々としなければいけないはずだ。それなのに、睡眠不足で注意散漫という最悪な体調で、的確な思考が出来るはずもない。
こんな状態で前線へ行ったところで、結果は見えている。
自分のミスは、そのまま全軍の死につながるのだ。自分が抱えているのは自分自身の命だけではない。
だから眠らなければ。眠って疲労を回復して、体調を万全にしなければいけない。相手は天才なのだ。万全な状態でも勝てるかどうか分からないのに、体調不良でどうすれば勝てるというのか。
そうやって自分を追い込めば追い込むほど、緊張を強いられて、ますます眠れなくなっていくという悪循環。
これは正に、『この世界』ではそれは病気として認知されていないが、鬱の症状である。
「……ん、む」
そんな緊張と不安の中、ようやくまどろみの波を感じる。
それは、ベッドに入ってから既に何時間も過ぎて、もう間もなく夜が明けようとするくらいの時間。
寝ているのか、起きているのか、夢を見ているのか、よく分からない状態。呻き声を漏らして苦しんでいたはずなのに、その記憶はあまり残っていない。思い悩みながらいつの間にか時間が経過していた、という感覚だった。
当然熟睡感などないし、疲労感はむしろ増したように感じる。
そんな、極めて浅い睡眠の中ーーコウメイは、全身にじんわりとした暖かさを感じ始める。
(……ん、なんだこれ?)
鬱々とした気持ちだったコウメイは、その違和感を感じながらも身体を動かせないでいた。
この感覚、悪いものじゃない。いや、むしろ良い感じ……というか、気持ちいい。暖かくて、どこか嬉しくなるような、不思議な感覚。
「--」
何か音が聞こえる気がする。布団の生地が擦れるような音のようだが、浅いとはいえ睡眠の中にあるコウメイの意識はそれが何なのかは分からない。
しかし、その気持ちいい感覚は徐々に強まってくる。するとコウメイの意識は、軽い睡眠から覚醒の方向へ引き戻される。身体が欲して止まなかった睡眠から引きずり戻される苛立ちは不思議と感じない。
意識が覚醒していくと、その不思議な感覚は下の方から伝わってきていることが分かった。コウメイの意識はぼーっとしつつ、半覚醒していく。そしてその不思議な感覚の正体を確かめるように、寝た状態のまま視線を下へ向けていき--
「何してんの、君ぃ?」
途端に意識が完全覚醒。それまで抱いていた不安も緊張感も疲労も全てが吹っ飛んでいた。
1人だけだったはずのベッドの中に、いつの間にか護衛騎士代理プリシティア=ハートリングが入り込んでいたのだ。
但し日中に見せている鎧姿とは違った、薄布のチュニック姿である。おそらくは寝巻であろう。鎧姿とは違って、彼女本来の少女らしい可愛さが引き立てられている服装だ。
そんなプリシティアがコウメイの下半身のところで、その特徴的な赤髪を揺らしていた。
なんと、彼女はコウメイのズボンをずりさげて、コウメイの肉棒を頬張るようにしていたのだった。
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