【R-18】龍の騎士と龍を統べる王

白金犬

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第1章『3領地同時攻防戦』編

第41話 3領地同時攻防戦 Final

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 ジュリアス率いる第1王子派の騎士達が蜘蛛の子を散らすように撤退する中、その最前線でジュリアスとゾーディアスは馬を駆りながら激闘を繰り広げていた。

 どちらが優勢ということはなく、全くの互角。激しい剣戟をお互いに繰り出し、受け、かわし、打ち合いながら、お互いの時間と体力だけが奪われていく。

「あの女の影響下にありながら、ここまでやるとは……さすが龍牙騎士団の副団長だな」

 ゾーディアスは、あくまで冷静な表情のまま、しかしジュリアスとの凌ぎ合いに汗を滲ませながら、彼への評価を口にする。

 リアラはまだこの場には追いついていない。

 そのためか彼女と直接対峙していた時と比べれば、その影響は薄れているようだ。しかしその恐怖がゼロになったということはないはず。多少なりとも、あの絶大な恐怖はジュリアスの身にこびりついているはず。

 それにも関わらず、自分との戦いに一歩も退くことなく立ち向かってくるジュリアスに、ゾーディアスは素直に感嘆していた。

(無能なんてとんでもないな。こいつは今ここで殺しておかねば、必ず将来に禍根として残ることとなる)

 と、ゾーディアスはフェスティアが彼に下した評価を塗り替えるのだった。

「はぁ……はぁ……」

 対するジュリアスも、決して余裕ではない。ゾーディアスと同じように汗を滲ませながら、息を弾ませている。

 正直、龍の爪の中にここまでの手練れがいるとは驚きだった。これは龍牙騎士の将軍級以上の剣の才である。実際、ジュリアス自身と互角以上に切り結んでいることがその証拠だ。

 ジュリアスは、ゾーディアスへの意識は切らないまま周囲にも意識を配る。

 ジュリアス部隊の前線は既に崩壊しており、勢いのまま攻めてくる龍の爪の兵士と新白薔薇騎士達に蹂躙されている。

 リアラの勇者特性による恐怖支配の影響は、個人差があるようだ。気力が残っている勇敢な騎士は前線に残って撤退する味方を守ろうとしているが、完全に戦意を挫かれた騎士は我先へと逃げ出している。

 結果、リアラの勇者特性に色濃く影響を受けている方が命を拾っているような状況だった。

(最早これまでか……)

 もう収拾などつかない状態だ。

 まさかリアラ1人によって、ここまで部隊を壊滅させられるとは予想だに出来なかった。ひょっとするとこの勝負、最初から勝機など無かったのではないか。

 --いや、それでもまだクラベール都市内に引き籠って、籠城に徹していればいくらか被害は少なく出来ただろうが。

(せめて、この剣士だけでも)

 ジュリアスは既に自分が助かることなど考えていない。この状況を作ってしまった責任者として、とうに命を捨てる覚悟は出来ていた。あと考えるべきことは、どうやって後に戦う人間に対して道を繋ぐか、だ。

 ヘルベルト最強の剣士をこの場で退場させておくことは、今後の第1王子派にとっては大きな助けになるはず。

(クリス、すみません。もう1度だけでも、話をしたかった)

 最期に、先の戦場で会ったきりの旧友への言葉を胸中で呟きながら、ジュリアスは剣を構える。

 速く決着を付けなければ、後からリアラが追い付いてくる。そうすれば、もはやジュリアスは戦うことすら出来なってしまう。

「ーーふう、ようやく落ち着いた。やっぱり私も馬術を習わないとダメだな~」

 しかし、現実はそんなジュリアスの不安をその通りになぞるのだった。

 ゾーディアスの後方から、彼女がーー”勇者”リアラ=リンデブルグが迫ってくるのが見える。

「う……あ、あ……」

 その姿を視認してしまえば、再び彼女の勇者特性がジュリアスを襲う。あからさまに怯え始めるジュリアスを見て、ゾーディアスはため息をつく。

「貴様に恨みはないが……これも戦争だ。悪く思うな」

 戦意喪失していくジュリアスを見ながら、ゾーディアスは1人の剣士として失望感を隠せない。久々に自分と同レベルの相手を巡り合えたというのに、このような形で決着とは、甚だ受け入れがたい。

 ――だが、今ゾーディアスが自分で言ったように、これは戦争。これ程までの強敵を倒す機会を、みすみす見逃すわけにはいかない。例えそれが自分の実力ではなく、勇者という反則に近い力で得た機会だとしても。

「覚悟――っおおお?」

 恐怖に震えるジュリアスを斬ろうと馬を動かそうとするゾーディアスは、不意の驚愕の声を上げる。

 彼が乗る馬が、突然両前肢を大きく上げたのだ。ゾーディアスはあまりに突然のことに、馬から振り下ろされないように、剣を落として必死に馬にしがみつく。

「何者だっ!」

 ゾーディアスの視界の外から、何者かが彼の乗る馬の頸を斬ったのだ。馬は激しく血が噴き出しているが、絶命する程ではないようだ。しかしゾーディアスの馬は、その激痛に、主人の手綱を無視して暴れ回っている。

「くっ……このっ!」

 暴れまわる馬を必死に制御しようとするゾーディアスだったが、パニックになっている馬は全く言うことを聞かない。ゾーディアスも、もはや乗り捨てた方が良いにも関わらず、あまりに突然のことに冷静な思考を奪われていて、馬を制御することに執心していた。

「――テアレス!」

「はぁ……はぁ……良かった、間に合いました!」

 ゾーディアスの横から彼の馬を斬ったのは、後方から駆けつけてきたテアレスだった。よほど急いできたのか、息を荒げている。

「何故、こんな所に……!」

「私は、副長の副官としてやるべきことを果たしに来ました。副長、お逃げ下さい。あなたはここで死んでいい人間ではない。今後の戦いのためにも、今は逃げて下さい」

「し、しかし……!」

 副官の勇敢なる言葉に、ジュリアスが素直に従えるはずがない。彼の性格上、部下を犠牲にして逃げることが憚れるのもそうだし、そもそもテアレスがリアラの足止めなど出来るはずもないのだ。

「ふふ、そうですよ。無駄死にするために、戻ってきただけですね」

 ――と、既にジュリアスとテアレスのすぐ側にまで迫ってきているリアラ。騎士剣を手に持ち、邪悪な笑顔を2人に向けている。

「副長、速く! 速く逃げて下さい!」

「そんなこと出来るはずがありません! 私は……」

 未だに問答と続けてこの場に残るジュリアスとテアレスの2人を見て、リアラはイメージする。

 まずはジュリアスの前に立つテアレスを一瞬で斬り殺し、その流れのままジュリアスの首を刎ねる。リアラはそのあまりに簡単過ぎる作業を開始すべく、地面を力強く蹴る。

「……なっ?」

 しかし、リアラは驚きに表情を歪める。

 リアラの勇者特性によって成す術なく斬り伏せられるはずだったテアレスが、いきなりリアラの身体に抱き着くようにして動きを止めてきたのだ。

「ば、馬鹿な……どうして……!」

 ジュリアスですら立ち向かってこられないのに、どうして名もしれない一騎士がここまで出来るのか――そのあまりに予想外なテアレスの行動に、思わずリアラは動きを止める。

「副長、速く逃げて! 速く!」

「う、うああああああ!」

 訳が分からないのはジュリアスも同じだった。

 ただでさえ恐怖に支配されている上に、テアレスがここにいる意味、そして彼がリアラの凶悪なる勇者特性を跳ねのけて、そんな勇敢な行動が取れるのか――

 すっかり混乱状態に陥ったジュリアスは、これ以上は何も考えることが出来ず、テアレスの言葉に従うまま慌てて馬の向きを変えると、そのまま後方へ疾走していくのだった。

「良かった。ジュリアス副長」

「ちっ……!」

 全力で逃げていくジュリアス。その背中が見えなくなると、テアレスは安心しきったような笑みを、リアラはあからさまに舌打ちをする。

「これが、私の――」

 そしてテアレスは、その最期の言葉を最後まで言い切ることを許されず、その生涯を閉じた。

 リアラは、身体に組み敷いていたテアレスの身体をいとも簡単に突き飛ばすと、そのまま騎士剣で彼の首を刎ね飛ばしたのだった。

「どうしてこんな雑魚に、私の勇者特性が効かなかったのかしら」

 何の感慨すらなく、既に物言わぬ死体となったテアレスを見つめながら、腑に落ちない表情でリアラが呟く。

「リアラ騎士団長、ジュリアスは?」

 ここでようやく、冷静に戻って馬を捨てたゾーディアスがリアラの側に寄ってくる。リアラは、大きくため息をつきながら答える。

「ジュリアス副団長には逃げられました。まあ、誤差の範囲ですよ。とりあえず、このまま第1防衛線の陣地を奪いましょう、ゾーディアスさん」

 そのリアラの答えに、ゾーディアスは何ともいない表情を作る。

 ゾーディアスは、リアラが言う以上に逃がした魚は大きかったのでは……と思うが、言葉には出さなかった。

 リアラ程の力を持ていれば、もはや関係ないか……そう思いなおしたゾーディアスは、彼女にうなずき返しながら

「了解した。ただ、私は一応代表の側に戻る。一応、名目は彼女の護衛なんでな」

「分かりました。まあ、安心して前線は任せて下さいよ」

 そうしてもう2つ3つ言葉を交わした後、ゾーディアスは後方へ下がっていく。

 そしてジュリアス部隊を押していた第2王女派の部隊が、司令官のリアラを囲うように徐々に集合してきて、陣形を作り始めていく。

 場は完全に第2王女派が支配した。もはやジュリアス部隊は部隊としての体を保っておらず、ただただ逃げていくだけだ。あとは逃げる獲物をとう仕留めるか、というだけだ。

「――そういえば、旧白薔薇騎士は、各部隊の後方支援に配属されているのよね」

 ふと、少し前に手にした情報を思い出すと、リアラはぺろりと舌を出す。

「男は根こそぎ殺してしまっていいですよ。ただ、女の子――特に可愛い娘は必ず生け捕りで。傷1つでも残したら、その人は問答無用で処刑ですから。それでは全軍突撃!」

 リアラが剣を振り上げて、全部隊に突撃の合図を出す。

 ――ここにジュリアス部隊とフェスティア部隊の勝敗は決した。

□■□■

「はぁ……はぁ……」

 ルルマンドから奪い返した第1防衛線を捨てて、命からがらジュリアスは第2防衛線の陣地まで撤退していた。

 他の騎士達も続々と陣地に戻ってきているが、その数は戦闘開始前よりも明らかに少ない。

 逃げ遅れて捕まった者も少なくないだろう。更には、陣地内に待機していた後方支援部隊は、何が何やら分からないまま逃げることすら叶わずに、ほとんどが敵に捕まってしまったかもしれない。その多くは旧白薔薇騎士団から転属されてきた女性騎士達のはずだ。

 ジュリアスは一軍の指揮官たる立場にも関わらず、恐怖に駆られて、それらを全て見捨てて我先にと逃げてしまったのだった。

「私は、なんということを……」

 中でも特に、大切に育てようとして副官に抜擢したテアレス――彼の死はジュリアスの胸に暗い闇を落とす。正にこれから…という時だったのに、ジュリアスは大事な副官を見捨てて戦場から逃げ出したのだ。

 ――しかしこの非常事態に、落ち込んで何もしないわけにはいかない。それこそ一軍の将として、少しでも被害を抑えるために壊滅状態の部隊を立て直さないといけない。

 今ジュリアスに課せられたのは”最悪”を防ぐこと。

 後悔することも、罰を受けることも、全てはその後だ。

 リアラの恐怖支配から逃れたジュリアスは、ようやく指揮官らしい誇りを取り戻す。まずはラディカルやリューイらと合流しなければならない。

「副長! 大変です!」

 この非常時らしく、切羽詰まったような慌てた声がジュリアスの鼓膜を揺さぶる。

 しかしその声色は、フェスティア部隊に完敗したこの状況のことではない、何か別のことを孕んでいるような、そんな不安をジュリアスに抱かせる。

 その不安は的中する。

 ジュリアスの前に駆けてきたのは、鎧をボロボロにした傷だらけの騎士だった。顔を含めた全身から痛々しく流血してるのが見て取れる。そんな彼が、他の騎士に身体を支えられながら、ジュリアスの前に進み出てくる。

「あなたは……」

「フィリオス部隊のシャガールと申します」

 その時点で、ジュリアスの心臓は爆発するくらいにドクンと高鳴った。

 南方のイシス領に配置したフィリオス部隊の騎士が、満身創痍の状態でここにいる理由など、1つしか考えられない。

 シャガールと名乗ったその騎士は、無念さを顔に滲ませながら、地面に膝をついて顔をうなだれる。

「イシス領は、『殲滅』のオーエン率いる第2王女派部隊の手に落ちました。領主エンディール=イシス侯及びフィリオス隊長は共に戦死――イシス領を占領したオーエンは、そのままクラベールの都市へ向けて進軍を開始しました」

「そんな、馬鹿な……」

 シャガールの報告に愕然とするジュリアス。

 時間を逆算すると、開戦してから1週間も経たずしてイシス領が落ちたということだろうか。いくらなんでも早過ぎる。

 しかしこの状況で、彼が嘘を吐く理由など何もない。何よりシャガールが満身創痍の状態でここにいるということ自体が、それが真実であると物語っている。

 つい昨日まで優勢に戦況を運べていると思っていたのに、それから一夜明けただけで、この体たらくは何ということなのだろうか。これが天才と謳われる『女傑』フェスティア=マリーンの力ということか。

 次から次へジュリアスにのしかかる絶望――しかし、それでもジュリアスは驚いている余裕も、落ち込んでいる時間もない。前線指揮官として、常に次なる決断を求められているのだ。

「――第2防衛線は捨てます。残った部隊は全て都市へ撤退……クラベール城塞都市にて籠城戦に持ち込みます」

 このまま第2防衛線でフェスティア部隊の攻撃に耐えられたとしても、南方から攻めてくるオーエン部隊を相手に、城塞都市に今残っているクラベール侯の僅かな兵士だけでは耐えられないだろう。

 もう、ジュリアス部隊が城塞都市に戻り、フェスティア部隊とオーエン部隊の2面同時攻撃から守るしかない。

 領民が犠牲になる可能性が極めて高い籠城戦ーージュリアスが最も取りたくなかった選択肢を、もはや取らざるを得なかった。

 この日、ジュリアス部隊は第1・第2防衛線を捨てて、城塞都市内へと逃げ込んだ。フェスティア部隊は撤退するジュリアス部隊を追撃しつつ、第2防衛線の陣地までその戦線を進めるのだった。


 次なる戦いの場はクラベール城塞都市。

 ここを落とされればクラベール領は第2王女派の手に落ちる。つまり、第2王女派はいよいよ王都ユールディア侵攻のための前線基地を手に入れることとなる。

 ジュリアスが完全に追い詰められたことで、ここに3領地同時攻防戦の決着はついたのだった。

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

<3領地同時攻防戦 結果>

【北方ノースポール領】
龍牙騎士団 魔術師ニーナ=シャンディ VS アウドレラ=ランボウル
兵数:5,000(内魔術師部隊3,000):7,000(龍の爪の兵士のみ)

ニーナ率いる魔術部隊の圧倒的な火力により戦線を維持。
戦況は硬直状態。


【南方イシス領】
イシス領侯爵 エンディール=イシス VS 『殲滅』のオーエン=ブラッドリィ
兵数:10,000:8,000(新白薔薇騎士が半数以上)

新白薔薇騎士を中心とした電撃作戦により、開戦より1週間でイシス領は陥落。
エンディール侯爵及び龍牙騎士団部隊長フィリオスは戦死。
その他、オーエン部隊に配属されていた新白薔薇騎士ミリアム=ティンカーズの手による戦死者及び捕虜多数。
第1王子派の部隊はほぼ全滅。

【中央クラベール領】
①龍牙騎士団 副団長ジュリアス=ジャスティン VS 龍の爪将軍 ルルマンド=ディランド
兵数:15,000:10,000

新白薔薇騎士の猛攻により1度は第2防衛線まで押し込まれるが、ジュリアス指揮による包囲戦術によりルルマンド部隊を撃退し、第1防衛線を奪還。ルルマンド部隊を領外まで追いやる。


②龍牙騎士団 副団長ジュリアス=ジャスティン VS 『女傑』フェスティア=マリーン
兵数:15,000:不明

ルルマンド部隊を追撃したジュリアス部隊は誘い込まれ、新白薔薇騎士団長リアラ=リンデブルグの勇者特性により、大損害を被る。

リアラの前に、副団長ジュリアス、副官ラディカル、龍騎士リューイはことごとく敗北。副官テアレスはジュリアスらを逃がすために、リアラの手により戦死。

ヘルベルト連合最強の剣士ゾーディアスも戦場に姿を現し、ジュリアス部隊は壊滅。奪い返した第1防衛線を再度奪われる。

撤退中に南方イシス領よりオーエン率いる第2王女派部隊がクラベール領に侵攻しているとの情報があり、ジュリアス部隊は全軍クラベール城塞都市まで撤退。

フェスティア部隊は第2防衛線まで占領し、城塞都市まで手が届く距離まで侵攻。

<彼我戦力>
●第1王子派
ジュリアス部隊 生存者:7,000(内負傷者多数)
ニーナ部隊   生存者:5,000

合計12,000

●第2王女派
フェスティア部隊 生存者:25,000
アウドレラ部隊  生存者:5,000
オーエン部隊   生存者:7,000

合計37,000

    ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 クラベール領での戦いが決着を迎えるよりも、時は少し遡る。

 王都ユールディアでは、最前線で第2王女派からの侵攻を食い止めているジュリアスへの増援部隊の本隊が編成されていた。

 そして今、王宮の正門前では本隊というに相応しい大部隊が威風堂々と隊列を組んでいた。そのほとんどが龍牙騎士で編成されており、その数3万である。

 それを統率するのは勿論――

「頼んだぞ、コウメイ」

 わざわざ国王代理であるカリオス自らが王門の前に出てきて、馬に乗るコウメイを見送っていた。

「一泡吹かせーーられればいいんですけど、ね。まあ、とりあえず相手がどんなものか見てきますよ」

 元帥職を任されている人物とは思えない、微妙に頼りにならない言葉を吐くコウメイはいつも通り気楽な調子で答える。その態度は、逆にカリオス以下彼を知る面々へ安心感を与えるのだった。

「リューゲル卿、王都のことは宜しく頼みます」

「ええ。元帥閣下も、くれぐれもお気を付けて。戦勝報告を楽しみにしていますよ」

 カリオスと一緒に、わざわざ見送りにきた老政治家に向けてコウメイはうなずくと、その横にいる若者へ視線を滑らせる。

「スタインも、リューゲル卿とよく相談しながら進めてくれ。頼りにしているよ」

「はっ。必ずやご期待に沿えます」

 コウメイ自らが新しく元帥補佐に任命したその若者ーースタインが礼儀正しく頭を下げると、コウメイは安心したようにうなずく。

「さて……それじゃ、ジュリアス副長をあんまり待たせても悪いから、そろそろ行こうか。これから宜しく頼むよ、プリティ」

「私は、その呼ばれ方はあまり好きではないと、昨日言いました」

 コウメイと同じく馬に乗りながらすぐ側にいるのは、赤い髪を肩まで伸ばし、その色と同じ鎧――紅血騎士の鎧――に身を包んだ女性騎士である。彼女は、なんだか微妙に違和感がある口調でコウメイの軽口に文句を言った。

「ではでは、全軍出撃! 進路はクラベール領。急ぐけど、焦らず事故がないように」

 戦場に赴くには、緊張感にやや欠ける掛け声と共に、遂にコウメイ率いる増援部隊本隊が出発する。

 聖アルマイト王国の希望は、この男に託された。
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