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第1章『3領地同時攻防戦』編
第28話 3領地同時攻防戦Ⅶ--南方イシス領戦線②
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時を遡ること10年程前。
イシス領領主エンディール邸において。
その時、エンディール=イシスは若くして亡くなった父の後に代わり、家督を継いだばかりのことだった。
「ほ、ほおおおお……なんだお前ら。俺に黙ってそういう仲だったのかよ」
この頃から、聖アルマイト国内で争い事が起これば、嬉々として一番に戦場に駆けつける程の戦士だったエンディールは、驚愕の色を隠せないまま笑った。
エンディールの前にいるのは、彼が従えるイシス領部隊の責任者であるフィリオス=ガルガンダだった。そしてフィリオスの隣には、そばかすと癖のある髪が特徴のメイドが、もじもじとしながら立っていた
「黙っていて申し訳ありませんでした、侯爵様」
「ははは、よせよ。こういう時は、昔のままだって約束だろう? お前とアイリスがそういう仲だってなら、アイリスももう身内みたいなもんだしな」
フィリオスは、変にかしこまった態度を笑い飛ばされて、脱力したように笑いをこぼす。
「この様子だと、ご主人様の許可は大丈夫そうだ。よかったな、アイリス」
「はははは、はいぃ」
隣にいるメイド--アイリスに笑いかけるフィリオス。そのアイリスは嬉しいやらなんやらで、慌てた口調で、必死な表情で返事をしていた。
「いやー、それにしても……そうかそうか。あのフィリオスとアイリスがなぁ……お前、恋愛事には奥手だから心配していたんだが、よりにもよってアイリスとか。こいつはめでたい。
いやー、良い男を捕まえたなアイリス! こいつは良い男だ。幼馴染で親友の俺が保証してやる。がはははは!」
両手に腰をやって豪快に笑うエンディールは、まるで自分のことのように嬉しそうに笑う。
「あ、ああああ……あのっ! わ、分かってます……フィリオス様が、大変素敵な方だと。わ、わわた……私なんかに……そ、その……プププ、プロポーズを……はう」
火が出るのではないかというくらいに顔を赤くしたアイリスは、そのまま口ごもってしまう。その言葉にエンディールは額に顔を当てて、困ったように天井を仰ぐ。その表情は相変わらず嬉しそうな笑顔。
「いやー、参ったな。早速のろけられちまったぜ。がははははは!」
「あんまり、からかってやるなよエンディ。アイリスの性格は分かってるだろう」
そういうフィリオスもどこか嬉しそうな声で言うと、エンディールは「そうだな」と返事をする。その瞳に滲んでいる涙は、笑い過ぎか、幼馴染と大切な使用人の幸せが嬉しくて感動しているのか。
「ん? でもお前、確か龍牙騎士団への入団が決まっていたよな? アイリスも王都に連れていくつもりか? まあ、俺としてはそれも全然オーケーだが」
このイシス領で育ったフィリオスは、ずっと領主麾下の部隊に身を置いており、今ではその隊長を務めていた。しかし、つい先日にフィリウス自身も希望していた龍牙騎士団への入団が決まり、領主であるエンディールもそれを認めていたのである。
「いや、アイリスもやはり生まれ育った土地で暮らしたいだろうし、ここに置いていく。時間を見つけてイシスに戻ってこようとは思うが、しばらく一緒に暮らせない。だから、実際に結婚するのはまだ先にするつもりだ」
「なんだよー、寂しい話じゃねえか」
「その内実力を認められて部隊を任されるようになれたら、イシスで仕事をさせてもらうように希望を出すつもりだ。結婚はその時だな」
龍牙騎士団のほとんどは王都に詰めているが、状況などによっては各領地へ駐留部隊を派遣することも少なくない。実際、この時はファヌス魔法大国との関係が緊張状態にあり、ファヌスと隣接するダリア領南部やここイシス領にも龍牙騎士団の駐留部隊が滞在している。
そういった部隊の部隊長に昇りつめるのは、そこまで上流階級ではない家柄のフィリウスにとっては、決して簡単な道ではないだろう。
「まあ、乗り越える困難が大きい程、恋は燃え上がるって言うしな」
「は、はははい。私は、何百年でもお待ちしておりますぅ」
慌てながら、それでも熱のこもった返事をするアイリスに、エンディールは再び豪快な笑い声を上げるのだった。
その瞳には、やはり涙が滲んでいた。
□■□■
エンディールへの報告を終えると、フィリオスはその晩はエンディール邸に宿泊することとなり、アイリスと同じ部屋をあてがわれた。
「あ、あううううう……わ、私なんかが客室なんて……きょ、恐縮です」
イシス家に仕えるメイドのアイリスは、普段は邸内の使用人用の部屋で夜を過ごしている。勿論1人部屋などではない。決して粗末でもないが、2人相部屋の小さな部屋だ。
それに比べると、賓客を迎えるためのこの客室は、アイリスにとっては夢の世界のような豪華さに溢れていた。
「--すまないな。せっかくプロポーズを受けてくれたにも関わらず、結婚は随分先になってしまいそうだ」
「あわわわ。と、とんでもないです……その、その……わわわ、私なんかがフィリオス様のような素敵な御方に……その……目をかけていただけるなんて……きゅううう」
「お、おい大丈夫か?」
緊張やら嬉しさやら何やらで、アイリスはベッドに倒れこんでしまう。
元々の性格もあるだろうが、アイリスがここまで感情を動かすには理由があった。
アイリスは、元奴隷なのである。
物心もつかない頃から、心ない両親にその身を奴隷商人に引き渡されて、絵に書いたような不幸な人生を歩んでいたアイリス。
それを救ったのがフィリオスだった。
カリオスが政治面を取り仕切るようになる前である当時ーー奴隷取引はまだ禁止されいなかった。しかし、当時アイリスを囲っていた奴隷商人は相当に悪質且つ違法に手を染めていた男だったのだ。
アイリスは、そんな商人に捕まってしまっていたため普通の奴隷よりも更に悲惨で過酷な状況にあった。それを救ったのが、領内で奴隷取引に関わらず違法行為を取り締まる立場にあったフィリオスだった。
それがフィリオスとアイリスの出会い。
アイリスの不憫な生い立ちに同情したフィリオスが、エンディールに口を利いて、彼女はイシス家に仕えるようになった。
最初はアイリスの不幸な生い立ちへの同情だったが、日々親交を重ねることで、フィリオスはアイリスに惹かれていったのだった。
「わ、私……こんなに幸せで良いんでしょうか? 顔も不細工で、引っ込み思案で、いつも暗くてうじうじしてて、ドジばっかりしてて。奴隷時代も、胸が大きいばっかりの役立たずって、いつもいじめられていた私が……」
両手で目頭を押さえて涙をこぼすアイリス。
確かにアイリスは自分で言うように、彼女は決して貴族のお嬢様のような美少女ではない。顔にはそばかすが目立つし、手入れをしてもすぐに跳ねてしまうくらい強い癖毛だ。ネガティブな性格が顔に現れているのか、顔色も良くなく不健康そうに見える。
「どうして……元奴隷の私なんかを……フィリオス様は……」
涙で濡れた目で、未だ自分の幸せを信じられないアイリスは、不思議そうにフィリオスを見つめる。
フィリオスも、イシス家には劣るものの貴族階級にあたる家柄の出身だ。使用人ーーしかも元奴隷を結婚相手に選ぶなど、周囲から苛烈な反対にあうのは目に見えている。
しかしフィリオスは微笑みを浮かべながら、アイリスの目に浮かんだ涙を指で拭ってやる。
「俺達が怪我して戻ってくると、いつも一生懸命に手当てをしてくれた。腹を減らして戻ってくると、いつもうまい飯を準備して待っててくれた。魔獣に襲われていたのを俺達が守った子供達、俺達兵士じゃ怖がらせるだけだったのを、優しく慰めて笑顔にしてくれていた。俺が帰ってくると、いつも笑顔で『お帰りなさい』って言ってくれた」
涙を拭っていた手で、そのままアイリスの柔らかい頬を撫でるようにするフィリオスは続ける。
「いつの間にか当たり前になっていたアイリスのその笑顔が、いつの間にか俺にとっては無くてはならないものになっていたんだ。俺には、アイリスがいない人生なんて、もう考えられない」
じっと優しい瞳でアイリスの瞳を見つめる。そうすると、熱に浮かされたような表情でアイリスもフィリオスの瞳を見つめ返していた。
「不細工なんてとんでもない。アイリスは可愛いよ。笑うともっと可愛くなる。その可愛い笑顔で、これからもずっと『お帰りなさい』って言って欲しい。愛しているよ、アイリス--」
そのままフィリオスは顔を近づけていき、フィリオスは優しく唇を重ね合わせる。震えるほどまでに緊張していたアイリスは、そのフィリオスの唇の感触を感じると、途端に身体が弛緩して、そして再び涙をこぼし始める。
「あ……ぁぁう……わ、私……可愛いなんて言われたの初めてです。ブスだ不細工だって、胸の大きさしか取り柄がないなんてずっと言われ続けてきたから、自分の顔も胸も大嫌いだったのに……フィ、フィリオス様にそんなことを言ってもらえるなんて……ああ、嬉しい……!」
感極まったように言うと、アイリスはフィリオスの手をぎゅっと握る。フィリオスも握られた手を、ぎゅっと握り返す。
「そんなことない。アイリスはすごく可愛いし、優しい、俺は、アイリスのそんなところに魅かれたんだ」
「ああ、フィリオス様。こんな……こんなに幸せな日が来るなんて信じられません……嬉しすぎて、私……」
そのまま2人はお互いの身体を抱きしめ合う。
奴隷時代は、それこそ幼女と言われるくらいの年ごろから様々な男性の相手をしてきたアイリス。性行為の経験だけなら、それこそフィリオスよりもよっぽど豊富なはずの彼女だが、フィリオスの腕の中でカタカタと震えていた。
「あううぅ……す、すみません……私……あああ……ど、どうして……処女なんかじゃないのに……」
しかし、それは当然だ。
金銭やその他利害もない、思いを寄せる相手との行為は初めてなのだ。身体は汚されていても、心は純粋無垢な処女のままのアイリスが、緊張しないはずもなかった。
そんなアイリスの想いは、フィリオスは全て理解している。だから彼女の背に腕を回して、優しく抱きしめる。
「アイリス、愛してる」
「わ、私もです。フィリオス様っ……!」
両親に売られて、望まぬ相手との行為を強要され続ける悲惨な過去を背負った元奴隷のアイリス。
「これからは、ずっと俺が守ってやる」
その頼もしい愛する人の言葉を聞きながら、彼女はこの日初めて愛する人と1つになり、人生最大の幸せを享受するのだった。
イシス領領主エンディール邸において。
その時、エンディール=イシスは若くして亡くなった父の後に代わり、家督を継いだばかりのことだった。
「ほ、ほおおおお……なんだお前ら。俺に黙ってそういう仲だったのかよ」
この頃から、聖アルマイト国内で争い事が起これば、嬉々として一番に戦場に駆けつける程の戦士だったエンディールは、驚愕の色を隠せないまま笑った。
エンディールの前にいるのは、彼が従えるイシス領部隊の責任者であるフィリオス=ガルガンダだった。そしてフィリオスの隣には、そばかすと癖のある髪が特徴のメイドが、もじもじとしながら立っていた
「黙っていて申し訳ありませんでした、侯爵様」
「ははは、よせよ。こういう時は、昔のままだって約束だろう? お前とアイリスがそういう仲だってなら、アイリスももう身内みたいなもんだしな」
フィリオスは、変にかしこまった態度を笑い飛ばされて、脱力したように笑いをこぼす。
「この様子だと、ご主人様の許可は大丈夫そうだ。よかったな、アイリス」
「はははは、はいぃ」
隣にいるメイド--アイリスに笑いかけるフィリオス。そのアイリスは嬉しいやらなんやらで、慌てた口調で、必死な表情で返事をしていた。
「いやー、それにしても……そうかそうか。あのフィリオスとアイリスがなぁ……お前、恋愛事には奥手だから心配していたんだが、よりにもよってアイリスとか。こいつはめでたい。
いやー、良い男を捕まえたなアイリス! こいつは良い男だ。幼馴染で親友の俺が保証してやる。がはははは!」
両手に腰をやって豪快に笑うエンディールは、まるで自分のことのように嬉しそうに笑う。
「あ、ああああ……あのっ! わ、分かってます……フィリオス様が、大変素敵な方だと。わ、わわた……私なんかに……そ、その……プププ、プロポーズを……はう」
火が出るのではないかというくらいに顔を赤くしたアイリスは、そのまま口ごもってしまう。その言葉にエンディールは額に顔を当てて、困ったように天井を仰ぐ。その表情は相変わらず嬉しそうな笑顔。
「いやー、参ったな。早速のろけられちまったぜ。がははははは!」
「あんまり、からかってやるなよエンディ。アイリスの性格は分かってるだろう」
そういうフィリオスもどこか嬉しそうな声で言うと、エンディールは「そうだな」と返事をする。その瞳に滲んでいる涙は、笑い過ぎか、幼馴染と大切な使用人の幸せが嬉しくて感動しているのか。
「ん? でもお前、確か龍牙騎士団への入団が決まっていたよな? アイリスも王都に連れていくつもりか? まあ、俺としてはそれも全然オーケーだが」
このイシス領で育ったフィリオスは、ずっと領主麾下の部隊に身を置いており、今ではその隊長を務めていた。しかし、つい先日にフィリウス自身も希望していた龍牙騎士団への入団が決まり、領主であるエンディールもそれを認めていたのである。
「いや、アイリスもやはり生まれ育った土地で暮らしたいだろうし、ここに置いていく。時間を見つけてイシスに戻ってこようとは思うが、しばらく一緒に暮らせない。だから、実際に結婚するのはまだ先にするつもりだ」
「なんだよー、寂しい話じゃねえか」
「その内実力を認められて部隊を任されるようになれたら、イシスで仕事をさせてもらうように希望を出すつもりだ。結婚はその時だな」
龍牙騎士団のほとんどは王都に詰めているが、状況などによっては各領地へ駐留部隊を派遣することも少なくない。実際、この時はファヌス魔法大国との関係が緊張状態にあり、ファヌスと隣接するダリア領南部やここイシス領にも龍牙騎士団の駐留部隊が滞在している。
そういった部隊の部隊長に昇りつめるのは、そこまで上流階級ではない家柄のフィリウスにとっては、決して簡単な道ではないだろう。
「まあ、乗り越える困難が大きい程、恋は燃え上がるって言うしな」
「は、はははい。私は、何百年でもお待ちしておりますぅ」
慌てながら、それでも熱のこもった返事をするアイリスに、エンディールは再び豪快な笑い声を上げるのだった。
その瞳には、やはり涙が滲んでいた。
□■□■
エンディールへの報告を終えると、フィリオスはその晩はエンディール邸に宿泊することとなり、アイリスと同じ部屋をあてがわれた。
「あ、あううううう……わ、私なんかが客室なんて……きょ、恐縮です」
イシス家に仕えるメイドのアイリスは、普段は邸内の使用人用の部屋で夜を過ごしている。勿論1人部屋などではない。決して粗末でもないが、2人相部屋の小さな部屋だ。
それに比べると、賓客を迎えるためのこの客室は、アイリスにとっては夢の世界のような豪華さに溢れていた。
「--すまないな。せっかくプロポーズを受けてくれたにも関わらず、結婚は随分先になってしまいそうだ」
「あわわわ。と、とんでもないです……その、その……わわわ、私なんかがフィリオス様のような素敵な御方に……その……目をかけていただけるなんて……きゅううう」
「お、おい大丈夫か?」
緊張やら嬉しさやら何やらで、アイリスはベッドに倒れこんでしまう。
元々の性格もあるだろうが、アイリスがここまで感情を動かすには理由があった。
アイリスは、元奴隷なのである。
物心もつかない頃から、心ない両親にその身を奴隷商人に引き渡されて、絵に書いたような不幸な人生を歩んでいたアイリス。
それを救ったのがフィリオスだった。
カリオスが政治面を取り仕切るようになる前である当時ーー奴隷取引はまだ禁止されいなかった。しかし、当時アイリスを囲っていた奴隷商人は相当に悪質且つ違法に手を染めていた男だったのだ。
アイリスは、そんな商人に捕まってしまっていたため普通の奴隷よりも更に悲惨で過酷な状況にあった。それを救ったのが、領内で奴隷取引に関わらず違法行為を取り締まる立場にあったフィリオスだった。
それがフィリオスとアイリスの出会い。
アイリスの不憫な生い立ちに同情したフィリオスが、エンディールに口を利いて、彼女はイシス家に仕えるようになった。
最初はアイリスの不幸な生い立ちへの同情だったが、日々親交を重ねることで、フィリオスはアイリスに惹かれていったのだった。
「わ、私……こんなに幸せで良いんでしょうか? 顔も不細工で、引っ込み思案で、いつも暗くてうじうじしてて、ドジばっかりしてて。奴隷時代も、胸が大きいばっかりの役立たずって、いつもいじめられていた私が……」
両手で目頭を押さえて涙をこぼすアイリス。
確かにアイリスは自分で言うように、彼女は決して貴族のお嬢様のような美少女ではない。顔にはそばかすが目立つし、手入れをしてもすぐに跳ねてしまうくらい強い癖毛だ。ネガティブな性格が顔に現れているのか、顔色も良くなく不健康そうに見える。
「どうして……元奴隷の私なんかを……フィリオス様は……」
涙で濡れた目で、未だ自分の幸せを信じられないアイリスは、不思議そうにフィリオスを見つめる。
フィリオスも、イシス家には劣るものの貴族階級にあたる家柄の出身だ。使用人ーーしかも元奴隷を結婚相手に選ぶなど、周囲から苛烈な反対にあうのは目に見えている。
しかしフィリオスは微笑みを浮かべながら、アイリスの目に浮かんだ涙を指で拭ってやる。
「俺達が怪我して戻ってくると、いつも一生懸命に手当てをしてくれた。腹を減らして戻ってくると、いつもうまい飯を準備して待っててくれた。魔獣に襲われていたのを俺達が守った子供達、俺達兵士じゃ怖がらせるだけだったのを、優しく慰めて笑顔にしてくれていた。俺が帰ってくると、いつも笑顔で『お帰りなさい』って言ってくれた」
涙を拭っていた手で、そのままアイリスの柔らかい頬を撫でるようにするフィリオスは続ける。
「いつの間にか当たり前になっていたアイリスのその笑顔が、いつの間にか俺にとっては無くてはならないものになっていたんだ。俺には、アイリスがいない人生なんて、もう考えられない」
じっと優しい瞳でアイリスの瞳を見つめる。そうすると、熱に浮かされたような表情でアイリスもフィリオスの瞳を見つめ返していた。
「不細工なんてとんでもない。アイリスは可愛いよ。笑うともっと可愛くなる。その可愛い笑顔で、これからもずっと『お帰りなさい』って言って欲しい。愛しているよ、アイリス--」
そのままフィリオスは顔を近づけていき、フィリオスは優しく唇を重ね合わせる。震えるほどまでに緊張していたアイリスは、そのフィリオスの唇の感触を感じると、途端に身体が弛緩して、そして再び涙をこぼし始める。
「あ……ぁぁう……わ、私……可愛いなんて言われたの初めてです。ブスだ不細工だって、胸の大きさしか取り柄がないなんてずっと言われ続けてきたから、自分の顔も胸も大嫌いだったのに……フィ、フィリオス様にそんなことを言ってもらえるなんて……ああ、嬉しい……!」
感極まったように言うと、アイリスはフィリオスの手をぎゅっと握る。フィリオスも握られた手を、ぎゅっと握り返す。
「そんなことない。アイリスはすごく可愛いし、優しい、俺は、アイリスのそんなところに魅かれたんだ」
「ああ、フィリオス様。こんな……こんなに幸せな日が来るなんて信じられません……嬉しすぎて、私……」
そのまま2人はお互いの身体を抱きしめ合う。
奴隷時代は、それこそ幼女と言われるくらいの年ごろから様々な男性の相手をしてきたアイリス。性行為の経験だけなら、それこそフィリオスよりもよっぽど豊富なはずの彼女だが、フィリオスの腕の中でカタカタと震えていた。
「あううぅ……す、すみません……私……あああ……ど、どうして……処女なんかじゃないのに……」
しかし、それは当然だ。
金銭やその他利害もない、思いを寄せる相手との行為は初めてなのだ。身体は汚されていても、心は純粋無垢な処女のままのアイリスが、緊張しないはずもなかった。
そんなアイリスの想いは、フィリオスは全て理解している。だから彼女の背に腕を回して、優しく抱きしめる。
「アイリス、愛してる」
「わ、私もです。フィリオス様っ……!」
両親に売られて、望まぬ相手との行為を強要され続ける悲惨な過去を背負った元奴隷のアイリス。
「これからは、ずっと俺が守ってやる」
その頼もしい愛する人の言葉を聞きながら、彼女はこの日初めて愛する人と1つになり、人生最大の幸せを享受するのだった。
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