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第1章『3領地同時攻防戦』編
第15話 伝えたい言葉
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アンナ=ヴァルガンダルが王都に保護されてから、3ヶ月程の時が経っていた。その間、王宮内には彼女専用の治療室として、1室が与えられていた。
“治療”――アンナは元ミュリヌス学園の生徒であったが、在学中にグスタフに目を付けられ、その異能の手に堕ちてしまったのだ。そこをコウメイに助けられて保護されたわけだが、つまり治療とはグスタフによって植え付けられた異能の効果を打ち消すことだった。具体的には、衝動的に湧き上がってくる淫欲――理性が、いとも簡単に崩壊する程の――を打ち消すことだった。
未知なる異能の初期治療にあたったのは、大陸最高峰の治癒魔術師として名高いファヌス魔法大国第1王子イルギルス。彼をもってして「完治は難しい」と言わしめたこの異能だったが、この3か月間の経過を見るに、完治はしていないものの、快方に向かっているように見えていた。
以上がアンナ=ヴァルガンダルの現状である。
症状が回復していくにつれて、最初はほとんどベッドに寝たきりだったアンナだったが、たまには庭園などを散歩する程度の運動は出来るようになっていた。今はちょうど散歩から帰ってきてから少ししたところで、ベッドの上に座り、そこから見える窓の景色をボーっと眺めていた。
「お加減はお変わりありませんか?」
アンナが王宮内に運び込まれてから今日までずっと彼女の身の回りの世話をしてくれているのは、ヴァルガンダル家に仕えるメイドのミンシィだった。30代半ばで、アンナにとっては頼れる姉のような存在。そのふくよかな体つきと優しげな顔が、いつもアンナを安心させてくれるのだ。
「うん、ありがとう。今日はだいぶ調子が良いみたい」
ミンシィは、アンナとルエールの状況を知らされればすぐに王宮に駆けつけてくれた。そして異性は論外だとして、同じ女性であっても赤の他人に任せるわけにはいかないと、異能に苦しむアンナの世話を、自ら進んで引き受けてくれた。その時からずっと、慣れない王宮暮らしをしながらアンナの側についていてくれている。
「ごめんね、ミンシィさん。ボクのせいで、こんな大変な目に」
今はだいぶ落ち着いているが、本当に初期の頃――その時は、アンナが目を覚ます度に、餓えた獣のように暴れ回っていたのだ。そのたびに睡眠香で眠らせる役目を担っていたのは彼女だ。
敬愛している主人の愛娘が、目を覚ます度に性に狂いながら暴れて、それを眠らせるというのは、どれだけ辛いことだったろうか。ミンシィが心の底からルエールを、そしてアンナを気遣ってくれているのが分かるだけに、アンナは余計に胸が締め付けられる思いだった。
「もう、毎日1回は謝っていますよ、お嬢様。私が好きでやっていることですから気にしないでくださいな。今は心も体も休ませて、ゆっくりなさってください」
ニコニコとしながらそう返してくれるミンシィの存在は、今のアンナにとっては本当にありがたい。
自分がこんな状態になっただけではなく、父親のルエールまでもが瀕死の重態という絶望的な状況でも、何とかアンナが落ち着いていられるのはミンシィの存在があったからこそのことだろう。
「それじゃ、お嬢様。新しいシーツを持ってきますね。それにお召し物も。最近はすっかり暖かくなってきたから、汗も掻いたでしょう」
甲斐甲斐しく世話をしてくれるミンシィは、やはりニコニコとした笑顔でそう言いながら部屋を退室した。
「――ふぅ」
――今は、あえて何も考えないようにしている。
自分の身体のことも、父親の重傷のことも、この先どうなるのかということも。
ミュリヌス学園でライバルと認め、共に刺激し合いながら高め合っていけると信じた親友が、最強最悪の敵となってこの国に攻めてきていることも。
「うう……ぐす……」
自分と父親のことは何回も葛藤しながら、何とか耐えることが出来るようになってきた。
でも、そうしたら今度は親友――少なくともアンナはそう思っていた――だと思っていたあのリアラのことを想うと、涙が溢れてくる。今リアラは、第2王女派の尖兵となって、大量の聖アルマイトの人間を虐殺していると聞いている。
リアラはそんなことをする人間じゃない。そんなことをしたいはずがない。リアラが正気に戻った時、もし自分の行いを知ったら、きっと優しい彼女の心は残酷なその現実に耐えられないだろう。
グスタフの異能の強力さと悪辣さは、第1王子派の人間で最も実感しているのはアンナを置いて他にないだろう。なにしろ、自らの身を持ってそれを味わっているのだ。
リアラの本当の心がどれだけ傷ついているのか、アンナには痛すぎる程に分かる。
誰もがリアラの存在に恐怖して威圧されている中、彼女を想って泣くことが出来る人間は、今はアンナだけなのかもしれない。
アンナが声を押し殺しながら涙をポロポロと流していたら不意に扉がノックされた。その音にビクリと反応して、慌ててアンナは涙を拭う。
(ミンシィさん、忘れ物でもしたのかな?)
今しがた出ていったばかりのミンシィが戻ってきたのだろうか。だとしたら、1人で泣いていた言い訳を考えなければならない――そんなことを考えながら「どうぞ」と声を出す。
「――キミは?」
無言で扉を開けて入ってきたのは、アンナの見知らぬ若者――おそらく同世代の青年である。龍牙騎士が戦場以外で身に纏う緑色の騎士服に似ているが、微妙に違ったデザインの服を着ている。おそらくはその恰好が示す通り、彼も騎士なのだろう。
アンナが不思議そうに首を傾げると、彼は言葉少なに自分の名を口にする。
「リューイ=イルスガンド。その……リアラと付き合っている相手、だよ」
それを聞いてアンナは眼を見開いで驚きをあらわにする。
「キミが、リューイ。うん、リアラから話は聞いているよ。あ、どうぞ座って?」
驚きながらも、アンナは努めて微笑みを浮かべながら、ベッド側にあるスツールを進める。リューイは軽く頭を下げて、スツールに腰かける。
「ごめんね。せっかく来てくれたのに、ベッドの上で」
「いや、気にしなくて大丈夫だよ。病気――みたいなものだし」
そう言ってしまってから、その表現が適切だったかどうか微妙なことに気づいて、難しい表情をするリューイ。しかしアンナは特に気にする様子もなく、何かを考えているように中空を見上げると
「病気……病気――か。そうだね。本当にただの病気なら、きっと治るから……そうだといいね」
どこか他人事のようにそう返してくるアンナが傷ついたどうかはリューイには分からず、いきなりの己の迂闊さを呪うしかなかった。
「もうね、リアラったら恋愛話になったらいつもキミのことばっかり話してさ。ボクは正直恋愛ごとにはあんまり興味無いのに、それでもちょっと羨ましくなっちゃったよ。いつもリアラはキミのことを話していたよ」
リューイから訪問してきたにも関わらず、アンナが話の主導権を持つと、いきなりミュリヌス学園にいた時のリアラの様子を語り始める。
良きライバルとして、良き友人として、短い間ではあったが仲良く過ごしていたこと。実技結果ではわずかにアンナが上回っていたけど、日々腕を上げてくるリアラに決して油断は出来なかった。お互いに真剣に競い合いながら、それでも嫌味など全くなかった。爽やかに、それでいて熱く、お互いを高め合うことが出来ていた関係。
「こういう言い方はなんなんだけど、まともにボクと勝負できる相手に会えたのはリアラが初めてだったんだ。ボクって、騎士になることしか頭になかった戦闘バカだからさ、それがすごくうれしくて……あはは」
それはそうだろう。
ヴァルガンダル家――魔王を倒した英雄の1人、剣士の家系に生まれたアンナのとまともにやり合える相手など希少だ。勇者の家系に生まれたリアラだったからこそ、アンナの良きライバルになれたのだ。勿論、血筋だけではなく、リアラ自身の努力もあるだろうが。
「それだけじゃなくて、リアラはすごく優しいくて明るくて話しやすかったし。ちょっとドジなところもあるけど、凄く気を使ってくれてたりもしてね。誰からも好かれていて、ボクも大好きで。多分――ううん、絶対に最高の友達だった。と、思う」
楽しく親友のことを語っていたアンナの表情は徐々に沈んでいき、言葉も弱弱しくなっていく。「だった」という過去形が何を意味しているのか、そこにアンナの感情を読み取れるような気がして、リューイは胸が重くなる。
しかし、リューイから何か言葉を掛けることは出来なかった。何と言葉を掛けていいのかが分からず、何も喋れなかった。
――一体、自分は何のためにアンナに会いに来たのだろうか。
コウメイやカリオスに会って欲しいと言われたから?
いや、それだけじゃない。
上手く言葉では説明できない。でも……それでも王都を発つ前に、アンナには絶対に会わなければいけないと、リューイの心がざわついていたのだ。
尊敬している龍牙騎士団長ルエールの愛娘にして、リアラの友人だったというアンナ=ヴァルガンダル。グスタフの異能にかかり、今も苦しんでいる彼女に会って、自分は何をしたかったのだろうか。どんな言葉を掛けてやろうというのか。自分の魂は、自分に何をしろと言うのか。
「助けて……あげて……」
リューイが自身の心の内で迷っていると、アンナが涙をポロポロと流し始める。表情は親友のリアラのことを語っていた時の様に、無理に作った笑いを浮かべながら。
「リアラのこと、聞いてるよ。たくさん人を殺して、たくさんの人を不幸にしているって……。でも違うの。リアラはそんな人間じゃない。みんなリアラを悪く言うけど、きっと心の奥底で一番傷ついているのはリアラなの! ねえ、お願い! リアラを助けてあげて!」
「――分かってる」
ベッドから身を乗り出して、リューイの袖にすがりつくように嗚咽を漏らすアンナに、リューイはたった一言の言葉しか返せない。
「ボクには分かるんだ。すごく辛い……苦しいの! 逆らえないの! ダメだって分かっているのに、頑張って抵抗しているのに、そうしているうちに心が壊れちゃうの! もう楽になりたいって、気持ちよくなりたいって……全てがどうでもよくなるの」
涙の勢いは止まらず、ベッドのシーツを掴んでいるアンナ自身の手の上にポタポタと落ちていく。
それはグスタフの異能にかかったものだけが知り得る、想像を絶する苦しみだろう。壮絶という言葉すら生ぬるい程の、圧倒的で絶望的な苦悩。
アンナは、はぁはぁと息を切らしながら、頬を赤くして、眼を腫らしながら訴え続ける。
「こんな大変な時なのにっ……! 親友が辛い目に合っているのに、大好きなお父様が死にそうになっている時なのに、ボクはずっとずっとセックスがしたいの。チョードスケベで変態セックスがしたくてたまらないって、いつも考えちゃうの! 親友の恋人なのにっ! 久しぶりに若い男のチンポが来たって思って嬉しくなっちゃうの!チンポ欲しいよぉ! セックス! ねえ、セックスしたい! お願い、チョースケベなエロエロセックスしようよぉぉぉ! うわああああああ!」
これが、カリオスやコウメイから聞いていた、グスタフの異能によるアンナの『発作』。
アンナは頭を抑えながら狂ったように頭を振り乱していると、やがて絶叫を上げ始める。そのあまりに凄い光景に、リューイが唖然として動けないでいると、突然乱暴にドアを開けて1人の女性が入ってくる。
「――お嬢様っ!」
アンナの世話役のミンシィだった。持ってきた新しいシーツを投げ捨てて、慌ててアンナの身体を支えるように近寄ると、ポケットに忍ばせていた布を取り出す。睡眠香をしみこませたものだ。
「出て行って下さい! 早く!」
ミンシィはアンナの身体を抱きすくめるようにしながら、リューイを憎い敵を見るような鋭い視線で射抜く。それは、こんな状態のアンナと若い男性を2人きりにしてしまった己の迂闊さに対する怒りでもあるのかもしれない。
「いや、でも……その……」
しかしリューイはここに来て何もしていない。これではただアンナを悲しませて、発作を起こさせて苦しめただけではないか。
自分は……一体、アンナに何を――
「ま、待って……ミンシィさん……そ、それは嫌っ……!」
リューイが戸惑いながらその場に立ち尽くしていると、アンナは肩で息をしながら睡眠香の布を顔に押し付けようとするミンシィの手を抑えた。
「し、しかしお嬢様……」
「お、お願い……はぁ、はぁ……少し、待って。彼にどうしても……はぁ、はぁ……伝えたいの」
赤く充血した眼。口からは唾液が垂れ落ちている。そんな見るからに興奮して、しかしそれを無理やり抑え込もうとしているアンナの様子は、見ていて痛々しい。
それでもアンナは、僅かに理性を残した瞳で、訴えかけるようリューイを見る。
「ごめん、ね」
そしてアンナの言葉から出たのは謝罪の言葉。それが何を意味しているのか、リューイには分からず、ただアンナの瞳を見返すことしか出来ない。
「ボクは、リアラの側にいたのに、彼女の異変に気付くことが出来なかった。多分、ボクだったら守ってあげられたのに、それが出来なかった。ボクが堕ちたせいで、リアラもあの悪魔の手にかかってしまったんだ」
『んむ……んふああっ! り、リアラぁっ! ボクの方が気持ちいいもんっ! グスタフ様のおちんちんに雌豚おまんこ穿られると、すっごく幸せになるんだよっ! あんっ……あぁぁんっ! 本当だぁっ! エッチなこと言うと、ボクも興奮するぅっ! ああっ……雌豚に生まれて、幸せですぅぅっ!』
『ち、違うっ! 私の方がエッチだもんっ! はむ……んちゅ……抱っこされながら、ベロチューされると幸せになる、変態で淫乱なレズビアンだもんっ! はふっ…れろっ! お姉様、もっとリアラの頭をエッチなことで一杯にしてぇっ! んちゅ……ちゅば…れろれろっ……お姉様のおちんちんで、リアラの頭を一杯にして欲しいですっ!』
『ぼ、ボクだよっ! ボクの方がエッチなこと大好きな変態雌豚オマンコだもんっ! っあああ……グスタフ様っ! もっとベロチュー! ベロチュー好きなのっ! 愛し合ってる感じがするベロチュー好き! れろれろっ! れろれろっ』
『っもおお! らめぇぇ! グスタフ様のおちんちんで雌豚マンコイカされるぅ! イクぅ! イクゥ! イクイクイクう!』『わ、わらひも、お姉様のおちんちんで淫乱おまんこイカされるっ! 本物のレズセックスでイクぅ! 女同士、最高ですっ! おまんこ、気持ちいいー! イクイクぅ! イックウウウウウウウ!』
あの日、グスタフに堕とされた時、壁1枚を隔てた向こう側でリアラもまた堕とされていた狂気の時間。
あの時確かにアンナは隣のリアラの声が聞こえていた。どうなっているのか想像出来ていた。それなのに自らも快楽に溺れてしまい、リアラと共に堕ちていってしまった。
本来なら、自分こそがリアラを助けなければいけなかったのに――!
「ボクが守らないといけなかったんだ……恋人のキミが側にいないんだから、ボクにはその力があったんだから! それなのにボクは、欲望に溺れて本能のままに……あんな悍ましい悪魔と……」
それは、アンナの本望などではない。あの悪辣なるグスタフの、人間の尊厳を蹂躙し尽くす凶悪な『異能』のせいなのだ。
「たくさん泣いた……たくさん謝ったの。でも、ボクはボクを許せない! いくら泣いても、謝っても、全然足りないの……!」
ありきたりな励ましの言葉は、カリオスやコウメイから既に何度も言われただろう。しかしそれだけでは彼女の心に届かない。罪悪感で絶望にとらわれたアンナの心を救ってやることが出来ないのだ。
「ごめん、ごめんなさい。許して……許してください。なんでもするから……どんな変態でスケベなことでもするから……ち、違う! ああああっ……! リアラを助けたいのに、ごめんなさい! ボクはリアラを助けたいっ……お願い、助けて! 友達を……リアラをっ……! ボクは、ボクは……ごめんなさいっ!」
発作が強くなってきているのか、再び半狂乱になり、言葉が支離滅裂になるアンナ。苦しそうに、それでも口から出るのは謝罪と、親友を想う言葉。
それを聞いて、リューイは何かが心に触れたような、そんな感情の動きを見せる。
「もう、お願いです! 出て行って! このままではお嬢様がっ!」
理性を失いつつあるアンナを抱きしめながら、ミンシィも泣き始めてリューイにそう訴える。そうするとリューイはうなずきながら立ち上がる。
「アンナ……俺は君に罪があるなんて思っていない。でも謝罪の言葉は確かに聞いた」
静かなリューイの言葉に、理性を失いかけているアンナは、弱弱しくリューイの顔を見上げる。そのリューイの顔には、もう迷いや戸惑いなどなく、ただ力強い真っ直ぐな視線でアンナを見下ろしていた。
「そんなに泣く程にリアラのことを想ってくれてありがとう。すごく嬉しい。俺は必ずリアラを助け出すよ。約束する。そのために龍騎士になったんだ。だから安心してくれ。そしてーー」
――そうだ。多分、俺はリアラのことを想ってくれる親友に……この言葉を……
「先に行って、待っている」
アンナを慰める? 元気づける?
なんて、とんでもない勘違いだ。龍騎士なんて大層な称号を叙勲したからって思いあがっていたのか?
自分は所詮凡人に過ぎない1騎士だ。しかし彼女は剣士ヴァルガンダル家の血筋をひく英雄の子孫だ。自分など、その実力の程を比べるべくもない存在だ。
アンナは、凡人に過ぎない自分が手を差し伸べるべき存在などではない。
こんなに苦しんで、辛くて、泣き叫んでいても、それでも口にすることは自分のことではない。大切に思っている親友を救って欲しい、救いたいという願い。リューイは、そこにアンナの強さを見出す。
でも、自分だって負けていない。リアラを想う心ーーその1点については、英雄だろうが剣士だろうが、誰にだって負けるはずない。
つまり、自分と彼女は想いを同じくする対等な立場に違いないのだ。
だから彼女にかけるべき言葉は――
「アンナにはリアラを助ける力が、心の強さがあると思う。敵は強大で俺1人の力ではおそらく足りない。アンナの力が必要だ。だから、待っている。必ず追いついてきて、そして一緒にリアラを助けてくれると、信じている」
上から目線で、弱っているアンナを少しでも元気付けたい――そんな思いでここに来たからこそ、違和感だらけでリューイは何も口に出来なかったのだ。
それは違う。断じて違う。
アンナは同志だ。仲間だ。同じ大切な人を救わんとする、大切な仲間なのだ。
こんなにも凶悪な『異能』に捉われながらも、それでも大切な親友を想う言葉を口にすることが出来るアンナが弱いはずがない。
「だから、俺は先に行くけど……”待っている”」
異能に苦しめられる中で、アンナの心を強さを感じたリューイは、本当に伝えたかったその言葉をもう1度繰り返す。
「あ……あぁぁ……」
そのリューイの言葉を聞いたアンナは、不思議なことに、何か憑きものが取れたように、苦痛に歪ませていた表情を楽にしていく。
そして、王都で保護されてから、ひたすらに泣いて謝ってばかりいたアンナが――
「ありがとう」
初めて心の底からの笑顔を浮かべて、感謝の言葉を口にしたのだった。
“治療”――アンナは元ミュリヌス学園の生徒であったが、在学中にグスタフに目を付けられ、その異能の手に堕ちてしまったのだ。そこをコウメイに助けられて保護されたわけだが、つまり治療とはグスタフによって植え付けられた異能の効果を打ち消すことだった。具体的には、衝動的に湧き上がってくる淫欲――理性が、いとも簡単に崩壊する程の――を打ち消すことだった。
未知なる異能の初期治療にあたったのは、大陸最高峰の治癒魔術師として名高いファヌス魔法大国第1王子イルギルス。彼をもってして「完治は難しい」と言わしめたこの異能だったが、この3か月間の経過を見るに、完治はしていないものの、快方に向かっているように見えていた。
以上がアンナ=ヴァルガンダルの現状である。
症状が回復していくにつれて、最初はほとんどベッドに寝たきりだったアンナだったが、たまには庭園などを散歩する程度の運動は出来るようになっていた。今はちょうど散歩から帰ってきてから少ししたところで、ベッドの上に座り、そこから見える窓の景色をボーっと眺めていた。
「お加減はお変わりありませんか?」
アンナが王宮内に運び込まれてから今日までずっと彼女の身の回りの世話をしてくれているのは、ヴァルガンダル家に仕えるメイドのミンシィだった。30代半ばで、アンナにとっては頼れる姉のような存在。そのふくよかな体つきと優しげな顔が、いつもアンナを安心させてくれるのだ。
「うん、ありがとう。今日はだいぶ調子が良いみたい」
ミンシィは、アンナとルエールの状況を知らされればすぐに王宮に駆けつけてくれた。そして異性は論外だとして、同じ女性であっても赤の他人に任せるわけにはいかないと、異能に苦しむアンナの世話を、自ら進んで引き受けてくれた。その時からずっと、慣れない王宮暮らしをしながらアンナの側についていてくれている。
「ごめんね、ミンシィさん。ボクのせいで、こんな大変な目に」
今はだいぶ落ち着いているが、本当に初期の頃――その時は、アンナが目を覚ます度に、餓えた獣のように暴れ回っていたのだ。そのたびに睡眠香で眠らせる役目を担っていたのは彼女だ。
敬愛している主人の愛娘が、目を覚ます度に性に狂いながら暴れて、それを眠らせるというのは、どれだけ辛いことだったろうか。ミンシィが心の底からルエールを、そしてアンナを気遣ってくれているのが分かるだけに、アンナは余計に胸が締め付けられる思いだった。
「もう、毎日1回は謝っていますよ、お嬢様。私が好きでやっていることですから気にしないでくださいな。今は心も体も休ませて、ゆっくりなさってください」
ニコニコとしながらそう返してくれるミンシィの存在は、今のアンナにとっては本当にありがたい。
自分がこんな状態になっただけではなく、父親のルエールまでもが瀕死の重態という絶望的な状況でも、何とかアンナが落ち着いていられるのはミンシィの存在があったからこそのことだろう。
「それじゃ、お嬢様。新しいシーツを持ってきますね。それにお召し物も。最近はすっかり暖かくなってきたから、汗も掻いたでしょう」
甲斐甲斐しく世話をしてくれるミンシィは、やはりニコニコとした笑顔でそう言いながら部屋を退室した。
「――ふぅ」
――今は、あえて何も考えないようにしている。
自分の身体のことも、父親の重傷のことも、この先どうなるのかということも。
ミュリヌス学園でライバルと認め、共に刺激し合いながら高め合っていけると信じた親友が、最強最悪の敵となってこの国に攻めてきていることも。
「うう……ぐす……」
自分と父親のことは何回も葛藤しながら、何とか耐えることが出来るようになってきた。
でも、そうしたら今度は親友――少なくともアンナはそう思っていた――だと思っていたあのリアラのことを想うと、涙が溢れてくる。今リアラは、第2王女派の尖兵となって、大量の聖アルマイトの人間を虐殺していると聞いている。
リアラはそんなことをする人間じゃない。そんなことをしたいはずがない。リアラが正気に戻った時、もし自分の行いを知ったら、きっと優しい彼女の心は残酷なその現実に耐えられないだろう。
グスタフの異能の強力さと悪辣さは、第1王子派の人間で最も実感しているのはアンナを置いて他にないだろう。なにしろ、自らの身を持ってそれを味わっているのだ。
リアラの本当の心がどれだけ傷ついているのか、アンナには痛すぎる程に分かる。
誰もがリアラの存在に恐怖して威圧されている中、彼女を想って泣くことが出来る人間は、今はアンナだけなのかもしれない。
アンナが声を押し殺しながら涙をポロポロと流していたら不意に扉がノックされた。その音にビクリと反応して、慌ててアンナは涙を拭う。
(ミンシィさん、忘れ物でもしたのかな?)
今しがた出ていったばかりのミンシィが戻ってきたのだろうか。だとしたら、1人で泣いていた言い訳を考えなければならない――そんなことを考えながら「どうぞ」と声を出す。
「――キミは?」
無言で扉を開けて入ってきたのは、アンナの見知らぬ若者――おそらく同世代の青年である。龍牙騎士が戦場以外で身に纏う緑色の騎士服に似ているが、微妙に違ったデザインの服を着ている。おそらくはその恰好が示す通り、彼も騎士なのだろう。
アンナが不思議そうに首を傾げると、彼は言葉少なに自分の名を口にする。
「リューイ=イルスガンド。その……リアラと付き合っている相手、だよ」
それを聞いてアンナは眼を見開いで驚きをあらわにする。
「キミが、リューイ。うん、リアラから話は聞いているよ。あ、どうぞ座って?」
驚きながらも、アンナは努めて微笑みを浮かべながら、ベッド側にあるスツールを進める。リューイは軽く頭を下げて、スツールに腰かける。
「ごめんね。せっかく来てくれたのに、ベッドの上で」
「いや、気にしなくて大丈夫だよ。病気――みたいなものだし」
そう言ってしまってから、その表現が適切だったかどうか微妙なことに気づいて、難しい表情をするリューイ。しかしアンナは特に気にする様子もなく、何かを考えているように中空を見上げると
「病気……病気――か。そうだね。本当にただの病気なら、きっと治るから……そうだといいね」
どこか他人事のようにそう返してくるアンナが傷ついたどうかはリューイには分からず、いきなりの己の迂闊さを呪うしかなかった。
「もうね、リアラったら恋愛話になったらいつもキミのことばっかり話してさ。ボクは正直恋愛ごとにはあんまり興味無いのに、それでもちょっと羨ましくなっちゃったよ。いつもリアラはキミのことを話していたよ」
リューイから訪問してきたにも関わらず、アンナが話の主導権を持つと、いきなりミュリヌス学園にいた時のリアラの様子を語り始める。
良きライバルとして、良き友人として、短い間ではあったが仲良く過ごしていたこと。実技結果ではわずかにアンナが上回っていたけど、日々腕を上げてくるリアラに決して油断は出来なかった。お互いに真剣に競い合いながら、それでも嫌味など全くなかった。爽やかに、それでいて熱く、お互いを高め合うことが出来ていた関係。
「こういう言い方はなんなんだけど、まともにボクと勝負できる相手に会えたのはリアラが初めてだったんだ。ボクって、騎士になることしか頭になかった戦闘バカだからさ、それがすごくうれしくて……あはは」
それはそうだろう。
ヴァルガンダル家――魔王を倒した英雄の1人、剣士の家系に生まれたアンナのとまともにやり合える相手など希少だ。勇者の家系に生まれたリアラだったからこそ、アンナの良きライバルになれたのだ。勿論、血筋だけではなく、リアラ自身の努力もあるだろうが。
「それだけじゃなくて、リアラはすごく優しいくて明るくて話しやすかったし。ちょっとドジなところもあるけど、凄く気を使ってくれてたりもしてね。誰からも好かれていて、ボクも大好きで。多分――ううん、絶対に最高の友達だった。と、思う」
楽しく親友のことを語っていたアンナの表情は徐々に沈んでいき、言葉も弱弱しくなっていく。「だった」という過去形が何を意味しているのか、そこにアンナの感情を読み取れるような気がして、リューイは胸が重くなる。
しかし、リューイから何か言葉を掛けることは出来なかった。何と言葉を掛けていいのかが分からず、何も喋れなかった。
――一体、自分は何のためにアンナに会いに来たのだろうか。
コウメイやカリオスに会って欲しいと言われたから?
いや、それだけじゃない。
上手く言葉では説明できない。でも……それでも王都を発つ前に、アンナには絶対に会わなければいけないと、リューイの心がざわついていたのだ。
尊敬している龍牙騎士団長ルエールの愛娘にして、リアラの友人だったというアンナ=ヴァルガンダル。グスタフの異能にかかり、今も苦しんでいる彼女に会って、自分は何をしたかったのだろうか。どんな言葉を掛けてやろうというのか。自分の魂は、自分に何をしろと言うのか。
「助けて……あげて……」
リューイが自身の心の内で迷っていると、アンナが涙をポロポロと流し始める。表情は親友のリアラのことを語っていた時の様に、無理に作った笑いを浮かべながら。
「リアラのこと、聞いてるよ。たくさん人を殺して、たくさんの人を不幸にしているって……。でも違うの。リアラはそんな人間じゃない。みんなリアラを悪く言うけど、きっと心の奥底で一番傷ついているのはリアラなの! ねえ、お願い! リアラを助けてあげて!」
「――分かってる」
ベッドから身を乗り出して、リューイの袖にすがりつくように嗚咽を漏らすアンナに、リューイはたった一言の言葉しか返せない。
「ボクには分かるんだ。すごく辛い……苦しいの! 逆らえないの! ダメだって分かっているのに、頑張って抵抗しているのに、そうしているうちに心が壊れちゃうの! もう楽になりたいって、気持ちよくなりたいって……全てがどうでもよくなるの」
涙の勢いは止まらず、ベッドのシーツを掴んでいるアンナ自身の手の上にポタポタと落ちていく。
それはグスタフの異能にかかったものだけが知り得る、想像を絶する苦しみだろう。壮絶という言葉すら生ぬるい程の、圧倒的で絶望的な苦悩。
アンナは、はぁはぁと息を切らしながら、頬を赤くして、眼を腫らしながら訴え続ける。
「こんな大変な時なのにっ……! 親友が辛い目に合っているのに、大好きなお父様が死にそうになっている時なのに、ボクはずっとずっとセックスがしたいの。チョードスケベで変態セックスがしたくてたまらないって、いつも考えちゃうの! 親友の恋人なのにっ! 久しぶりに若い男のチンポが来たって思って嬉しくなっちゃうの!チンポ欲しいよぉ! セックス! ねえ、セックスしたい! お願い、チョースケベなエロエロセックスしようよぉぉぉ! うわああああああ!」
これが、カリオスやコウメイから聞いていた、グスタフの異能によるアンナの『発作』。
アンナは頭を抑えながら狂ったように頭を振り乱していると、やがて絶叫を上げ始める。そのあまりに凄い光景に、リューイが唖然として動けないでいると、突然乱暴にドアを開けて1人の女性が入ってくる。
「――お嬢様っ!」
アンナの世話役のミンシィだった。持ってきた新しいシーツを投げ捨てて、慌ててアンナの身体を支えるように近寄ると、ポケットに忍ばせていた布を取り出す。睡眠香をしみこませたものだ。
「出て行って下さい! 早く!」
ミンシィはアンナの身体を抱きすくめるようにしながら、リューイを憎い敵を見るような鋭い視線で射抜く。それは、こんな状態のアンナと若い男性を2人きりにしてしまった己の迂闊さに対する怒りでもあるのかもしれない。
「いや、でも……その……」
しかしリューイはここに来て何もしていない。これではただアンナを悲しませて、発作を起こさせて苦しめただけではないか。
自分は……一体、アンナに何を――
「ま、待って……ミンシィさん……そ、それは嫌っ……!」
リューイが戸惑いながらその場に立ち尽くしていると、アンナは肩で息をしながら睡眠香の布を顔に押し付けようとするミンシィの手を抑えた。
「し、しかしお嬢様……」
「お、お願い……はぁ、はぁ……少し、待って。彼にどうしても……はぁ、はぁ……伝えたいの」
赤く充血した眼。口からは唾液が垂れ落ちている。そんな見るからに興奮して、しかしそれを無理やり抑え込もうとしているアンナの様子は、見ていて痛々しい。
それでもアンナは、僅かに理性を残した瞳で、訴えかけるようリューイを見る。
「ごめん、ね」
そしてアンナの言葉から出たのは謝罪の言葉。それが何を意味しているのか、リューイには分からず、ただアンナの瞳を見返すことしか出来ない。
「ボクは、リアラの側にいたのに、彼女の異変に気付くことが出来なかった。多分、ボクだったら守ってあげられたのに、それが出来なかった。ボクが堕ちたせいで、リアラもあの悪魔の手にかかってしまったんだ」
『んむ……んふああっ! り、リアラぁっ! ボクの方が気持ちいいもんっ! グスタフ様のおちんちんに雌豚おまんこ穿られると、すっごく幸せになるんだよっ! あんっ……あぁぁんっ! 本当だぁっ! エッチなこと言うと、ボクも興奮するぅっ! ああっ……雌豚に生まれて、幸せですぅぅっ!』
『ち、違うっ! 私の方がエッチだもんっ! はむ……んちゅ……抱っこされながら、ベロチューされると幸せになる、変態で淫乱なレズビアンだもんっ! はふっ…れろっ! お姉様、もっとリアラの頭をエッチなことで一杯にしてぇっ! んちゅ……ちゅば…れろれろっ……お姉様のおちんちんで、リアラの頭を一杯にして欲しいですっ!』
『ぼ、ボクだよっ! ボクの方がエッチなこと大好きな変態雌豚オマンコだもんっ! っあああ……グスタフ様っ! もっとベロチュー! ベロチュー好きなのっ! 愛し合ってる感じがするベロチュー好き! れろれろっ! れろれろっ』
『っもおお! らめぇぇ! グスタフ様のおちんちんで雌豚マンコイカされるぅ! イクぅ! イクゥ! イクイクイクう!』『わ、わらひも、お姉様のおちんちんで淫乱おまんこイカされるっ! 本物のレズセックスでイクぅ! 女同士、最高ですっ! おまんこ、気持ちいいー! イクイクぅ! イックウウウウウウウ!』
あの日、グスタフに堕とされた時、壁1枚を隔てた向こう側でリアラもまた堕とされていた狂気の時間。
あの時確かにアンナは隣のリアラの声が聞こえていた。どうなっているのか想像出来ていた。それなのに自らも快楽に溺れてしまい、リアラと共に堕ちていってしまった。
本来なら、自分こそがリアラを助けなければいけなかったのに――!
「ボクが守らないといけなかったんだ……恋人のキミが側にいないんだから、ボクにはその力があったんだから! それなのにボクは、欲望に溺れて本能のままに……あんな悍ましい悪魔と……」
それは、アンナの本望などではない。あの悪辣なるグスタフの、人間の尊厳を蹂躙し尽くす凶悪な『異能』のせいなのだ。
「たくさん泣いた……たくさん謝ったの。でも、ボクはボクを許せない! いくら泣いても、謝っても、全然足りないの……!」
ありきたりな励ましの言葉は、カリオスやコウメイから既に何度も言われただろう。しかしそれだけでは彼女の心に届かない。罪悪感で絶望にとらわれたアンナの心を救ってやることが出来ないのだ。
「ごめん、ごめんなさい。許して……許してください。なんでもするから……どんな変態でスケベなことでもするから……ち、違う! ああああっ……! リアラを助けたいのに、ごめんなさい! ボクはリアラを助けたいっ……お願い、助けて! 友達を……リアラをっ……! ボクは、ボクは……ごめんなさいっ!」
発作が強くなってきているのか、再び半狂乱になり、言葉が支離滅裂になるアンナ。苦しそうに、それでも口から出るのは謝罪と、親友を想う言葉。
それを聞いて、リューイは何かが心に触れたような、そんな感情の動きを見せる。
「もう、お願いです! 出て行って! このままではお嬢様がっ!」
理性を失いつつあるアンナを抱きしめながら、ミンシィも泣き始めてリューイにそう訴える。そうするとリューイはうなずきながら立ち上がる。
「アンナ……俺は君に罪があるなんて思っていない。でも謝罪の言葉は確かに聞いた」
静かなリューイの言葉に、理性を失いかけているアンナは、弱弱しくリューイの顔を見上げる。そのリューイの顔には、もう迷いや戸惑いなどなく、ただ力強い真っ直ぐな視線でアンナを見下ろしていた。
「そんなに泣く程にリアラのことを想ってくれてありがとう。すごく嬉しい。俺は必ずリアラを助け出すよ。約束する。そのために龍騎士になったんだ。だから安心してくれ。そしてーー」
――そうだ。多分、俺はリアラのことを想ってくれる親友に……この言葉を……
「先に行って、待っている」
アンナを慰める? 元気づける?
なんて、とんでもない勘違いだ。龍騎士なんて大層な称号を叙勲したからって思いあがっていたのか?
自分は所詮凡人に過ぎない1騎士だ。しかし彼女は剣士ヴァルガンダル家の血筋をひく英雄の子孫だ。自分など、その実力の程を比べるべくもない存在だ。
アンナは、凡人に過ぎない自分が手を差し伸べるべき存在などではない。
こんなに苦しんで、辛くて、泣き叫んでいても、それでも口にすることは自分のことではない。大切に思っている親友を救って欲しい、救いたいという願い。リューイは、そこにアンナの強さを見出す。
でも、自分だって負けていない。リアラを想う心ーーその1点については、英雄だろうが剣士だろうが、誰にだって負けるはずない。
つまり、自分と彼女は想いを同じくする対等な立場に違いないのだ。
だから彼女にかけるべき言葉は――
「アンナにはリアラを助ける力が、心の強さがあると思う。敵は強大で俺1人の力ではおそらく足りない。アンナの力が必要だ。だから、待っている。必ず追いついてきて、そして一緒にリアラを助けてくれると、信じている」
上から目線で、弱っているアンナを少しでも元気付けたい――そんな思いでここに来たからこそ、違和感だらけでリューイは何も口に出来なかったのだ。
それは違う。断じて違う。
アンナは同志だ。仲間だ。同じ大切な人を救わんとする、大切な仲間なのだ。
こんなにも凶悪な『異能』に捉われながらも、それでも大切な親友を想う言葉を口にすることが出来るアンナが弱いはずがない。
「だから、俺は先に行くけど……”待っている”」
異能に苦しめられる中で、アンナの心を強さを感じたリューイは、本当に伝えたかったその言葉をもう1度繰り返す。
「あ……あぁぁ……」
そのリューイの言葉を聞いたアンナは、不思議なことに、何か憑きものが取れたように、苦痛に歪ませていた表情を楽にしていく。
そして、王都で保護されてから、ひたすらに泣いて謝ってばかりいたアンナが――
「ありがとう」
初めて心の底からの笑顔を浮かべて、感謝の言葉を口にしたのだった。
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