【R-18】龍の騎士と龍を統べる王

白金犬

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第1章『3領地同時攻防戦』編

第7話 暗黒時代の再来(前編)

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 かつて魔王アゼルゲスがこの大陸を支配していた時代のことを暗黒時代という。

 魔王が発する漆黒の瘴気に太陽は覆われ、その光が地上に届くことは無く、常に闇に覆われていた。そして人類は圧倒的な力を持つ魔族に支配、虐待をされていた。

 ただ殺されるだけならば幸運なくらいだった。魔族に奴隷として使役され、奴隷とされる者、食料にされる者、見世物として同じ人間同士で殺し合わされるもの、魔法や薬物の実験台として廃人にされながら、永遠の苦痛と共に生き永らえさせられる者など、その悲惨さは枚挙に暇がない。

 更には、魔族達は自らの『玩具』を絶やさないように、『繁殖牧場』を準備し、その生殺与奪を子孫にわたってまで完全に支配していた。

 延々と終わらぬ生き地獄。人類にとって永遠に痛苦が続くと思われたその絶望の時代は、光が地上を照らすことのない状態と合わさり、『暗黒時代』と呼ばれるようになったのだった。

 しかし、後に魔王アゼルゲスは4人の英雄達によって滅ぼされ、人類が笑顔と光を取り戻し、希望に満ち溢れた世界を築き上げていくことになるのだが--

□■□■

 聖アルマイト王国の内乱ーー第1王子派と第2王女派の戦争、その緒戦であるグラシャス領の戦いから1ヶ月が過ぎていた。

 過酷な冬の寒さが過ぎ去り、暖かな春の気候が訪れた頃に開戦したこの愚かな内乱は、すっかり汗ばむような気温になった今、おおむね第2王女派優勢に傾いていた。

 グラシャス領を陥落させた第2王女派は、そのまま第1王子派に属する各諸侯へ戦線を展開。対する第1王子派は、現地の戦力を主力にしつつ、王都からは龍牙騎士団を中心に支援部隊を派遣し、第2王女派の部隊を迎え撃った。

 しかし、フェスティア指揮の下に統括された第2王女派の部隊は、第1王子派の動きを翻弄。第1王子派の戦力の隙を突きながら、各地で第1王子派の戦力を敗走させて、勝利を重ねていた。

 そして3日程前、遂にグラシャス領に続いて、バーグラント領を占領したのだった。若き領主ヒルトリア=バーグランドは戦死し、彼の指揮下にいた部隊は全て第2王女派によって拘束されるという、第1王子派は極めて甚大な被害を被った。

「く、くそ! 離せっ! よくも、よくもお父様をっ!」

「ああ、神よ……どうかお救い下さい」

 バーグランド邸の寝室に、2人の女性が手を拘束された状態で引き立てられていた。

 1人は修道服に身を包んだ、見た目そのままであるシスターのシエスタが、怯えたような表情で震えていた。

 もう1人は気の強そうにな目つきをしている貴族の令嬢ーー戦死したバーグランド侯爵の一人娘のリスタリア=バーグランドである。美しい長い金髪を、ポニーテールにしてまとめている健康的な美人だった。

「ぐひ、ぐひひひ。こういうのも久しぶりじゃのう」

 そしてその寝室のベッドの上にいるのは領主ヒルトリア--ではなく、醜く肥え太って油ぎっている中年男性だった。

 その体型にふさわしき、醜悪な笑みを浮かべたその男は、腰にバスタオルを1枚巻いただけの格好だった。そして、引き立てられた美女2人を舐めまわすように見つめていた。

「まさか……貴様がこの内乱の黒幕だったのか、グスタフっ! リリライト王女殿下が反乱などと誰がどう見てもおかしかったが、道理で……!」

 縛られても尚、血気盛んに敵意を剥けてくるリスタリアに醜悪な男ーーグスタフは悪魔の笑みを浮かべる。

 リスタリアの言葉がそのまま真実。この男、グスタフこそが、第2王女リリライトを唆し、今回の内乱を引き起こしたその首謀者である。

 聖アルマイト王国の元大臣、王族に次ぐ地位と権力を手にしていた立場にも関わらず、第2王女リリライトを操り、武力蜂起させた。自らは表に出ることなく、リリライトが全ての悪事の首謀者になるよう仕立て上げ、万が一失敗すれば全てリリライトの責任、上手くいった際の利益は全てを自分の物としようとする、悪辣極まりない男である。

「いくら何でもおかしいと思ったんだ! あのリリライト王女がカリオス王子に反旗を翻すなんて……全てお前が裏で操っていたんだな! ……っあう!」

 両手を拘束されたままでも尚も闘争心が萎えないリスタリア。しかしすぐ側で、彼女の両手を拘束している手枷から繋がった鎖を持つ1人の女性騎士が、ひねる上げるようにその鎖を動かすと、リスタリアは痛みに顔をしかめる。

「さすが、屈強な戦士として知られるバーグランド候のご息女ですね。血気盛んなのは良いことですが、少々度が過ぎますよ?」

「っく……!」

 悔しそうに、その女性騎士をにらみつけるリスタリア。

 リスタリアを拘束している女性騎士は、おそらくは聖アルマイト王国の白薔薇騎士団の制服を模したものだろう、それよりもいくばくか派手になっている騎士服を着て、黒髪をショートカットにまとめている、溌剌とした印象の美少女だった。

「先にそのシスターからいただこうかのぅ……リアラ、しっかりとその生意気な雌を抑えておれよ」

「はぁい、グスタフ様ぁ♪ ふふ、ひっさびさに可愛い娘がグスタフの逞しいオチンポに堕ちるところが見られるなんて……ああぁ、興奮しちゃうなぁ。ねえ、堕ちた後は私にもちょうだい。ね?」

 嬉しそうに顔をほころばせながら下半身をくねらせる女性騎士ーーリアラ=リンデブルグ。彼女は、第2王女派が擁する最大戦力である『新』白薔薇騎士団の騎士で、若いながら騎士団長を任されている。そのまま、リアラという人物は第2王女派の中で最強の武力を持った騎士だった。

 そのリアラが腰をリスタリアに押し付けるようにすると、その股間から有り得ない感触を臀部に感じて、リスタリアはゾッとする。

「あ、貴女……女じゃないのっ?」

「--あはは。それじゃ、まずは貴女からいってらっしゃい」

 リスタリアの驚愕の声は無視して、リアラはもう1人手枷から伸びる鎖を握っていたその手を離す。そして、手枷で両手を拘束されたままの彼女ーーシエスタの背中を押すと、グスタフが待つベッドへと押し込んでいく。

「い、いやあっ! リスティ、リスティ! 助けてっ!」

「シエスタ、シエスタ! くそお、離せっ! 何が新白薔薇騎士団だっ! この、このっ!」

 涙を流しながら助けを求めるシエスタに、リアラの手の中で必死にもがくようにして抵抗するリスタリア。

「微笑ましい友情ですね。ただ、あまりしつこいと鬱陶しくて、さすがの私も苛つきますよ、リスタリア様?」

「っああああ!」

 リアラが笑顔のまま、リスタリアの両手を後ろ側へ、ぎりぎりとひねる上げる。関節を極められたリスタリアは激痛が走り、悲痛な叫びを上げると、それ以上抵抗する気力を奪われてしまう。

「あぁ……シエスタ。ごめん、ごめんね……弱くて、ごめん……」

「あっはははは! そうですね。弱いですね。バーグランド領という狭い箱庭の中で、領主様のご令嬢だから持て囃されていただけとも知らずに、楽しかったですか? どんな相手も面白いように倒せていたのは、自分の実力だと? 屈強な戦士の血が自分にも流れていたとでも思っていましたか? みぃーんな、あなたがバーグランド候のご令嬢だから、華を持たせてあげただけだったんですよ。惨め、惨めですね! あはははは! あっはっはっはっは!」

「ううう……ぐす、ぐす……うえぇぇぇ……」

 心底可笑しそうに悪魔の哄笑を上げるリアラに捕らわれたまま、リスタリアは号泣し、涙が止まらなくなる。

「あああ、リスティ……ひどい、ひどすぎます。あなた達は悪魔です……ああ、神よ。お救いを……か弱きあなたの子に、どうかどうか救いの手を……」

「ぐっひひひひひ。あんまりやり過ぎるなよぉ、リアラ。ワシはリョナは嫌いじゃからなぁ……ただ、あとでワシがドスケベに慰めた時にワシに惚れるくらい、精神攻撃はしておいても良いぞ」

「はぁ~い、ダーリン♪」

 絶望に瀕するリスタリア、シエスタの2人と、まるでコメディの一場面のように笑い合うグスタフとリアラの2人。その対照的な態度が、この同じ部屋の中で同時発生しているそのこと自体が、既に狂気の世界を表していた。
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