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第0章 物語が始まる前にあった物語
第4話 この物語が始まる前にあったこと
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「おはよう」
――
――――――
「こんにちは、こんばんは、はいさい。はろー、はろー、聞こえますか地球?」
――――――――
「ニイハオ、ボンジュール、ナマステ、アニョハセヨ、ダンケシェーン、ヒューヴェーフォメンタ!」
――――――――――
「あれー?」
ーーダンケシェーンは「ありがとう」じゃなかったっけ? あと、最後のやつはマニアック過ぎて分からない。
「ああ、良かった! 生きていたんだね。いや、死んでるんだけど。ていうか、日本人だよね? 全然返事しないから、焦ってとりあえず知っている言語を片っ端から口走っちゃたよ。ごめんね、てへぺろっ☆」
ええと。
すごく色々突っ込みたいんだけど。
なんていうか、その……俺はやっぱり……
「おお、ミタムラよ。死んでしまうとは情けない」
死んだのか。
「うん、そう。残念ながらね。ま、過ぎたことは仕方ないよね。気を落とさず、未来に向かって前向きに生きていこう。いやまあ、死んでるんだけど。あー、ここ笑うとこ。ボクの持ちネタにするつもりだから! あはははははは!」
そうか……俺はやっぱり。
なんかの漫画で腹を刺されたら止血出来ないって言ってたし。
そりゃ、助かるわけないよな。
「あれれ? なんか会話成立していない感じ? ねえねえ、『お前は誰だ?』って聞いてみてよ。そしたら、用意していたさいっっっこうに受ける台詞をーーぷー、くすくす! ぶふぉおっ!」
これは、どういう状況なんだろうか。
手も足も、身体の感覚が何もない。何も見えない。
「あー、そうやってボクのことガン無視する態度。うーん、嫌いじゃないなぁ」
でも、このやたらやかましい声だけは鮮明に聞こえてくる。
これが死後の世界ってやつか?――っていうより、むしろこのシチュエーションは。
「異世界より転生されし、勇者ミタムラよ。私はこの世界の創造主たる女神です。貴方を転生させたのは、他でもありません。今、この世界は悪しき者の手により混迷に満ちています。貴方の正義の力を持ってして、この絶望に支配された暗黒なる世界を解放し、人々を救うのです。ーーナンチャッテ」
……あの、そろそろ真面目な話を始めたいんですけど。
「えー、失礼だなキミは。今までの話だって、4割くらいは本当だよ。プンプン!」
半分以上が嘘なのか。
「嘘っていうか冗談だよ、冗談。――あ、やっぱり本当のことは2割くらいかも」
すくなっ!
「わー、やった。やっと突っ込んでくれたー。ぱちぱちぱち。……というわけで、ぼちぼち話を進めましょうかね」
そうしてもらえると助かります、はい。
「うんうん、よろしい。それじゃあまず、君に何より先に伝えないといけないことがあるんだ。心して聞いて欲しい」
まさか……俺が死んだ後にも、まだ何かあったとか?
「最初のボクの呼びかけ、最後の言語はフィンランド語だよ」
あのおおおおおお!
「あはははは。ごめん、ごめん。そうやってムキになれるんじゃない。安心したよ。
じゃ、本当に気を取り直して、ちゃんと説明するね。三田村翼さん、貴方は貴方が生きていた世界で死を迎えました。――その経緯は、説明する必要はないよね?」
そう、ですね。
誰に、どうやって殺されたのかは、嫌すぎるほど分かっています。
その理由も――
「ああ、一応ボクは君らの世界で言う女神――いや、別に男神でもなんでもいいんだけど、それっぽい感じの存在だけど、敬語なんて使わないでよねー。フランクにいこう、フランクに」
――えぇと……
「あーあー、ごめんごめん。ついつい話が逸れちゃうんだよねー。つまり君みたいな人間よりも上位の存在だから、性別とか何かとか、そういうの全く別次元の話なんだよー……って、そっちじゃないか。
えとえと……そうそう、君が死んでしまったという話か。
ま、ボクからも、君の元の世界について語るつもりなんてさらさらないよ。さっき言った2割の本当の部分――ここは、これからのこと、未来のことについて語り合う場だからね。
というわけで、まずは今の君の状況から説明しよう。
人間っていうのは、魂が肉体を失うーーいわゆる『死』を迎えるーーと輪廻転生するのが通常ルールなのさ。簡単に言うと、それまでの記憶、経験、成長とかを一切リセットして、また全く別の人間として生を受けて死ぬまで生きる……その繰り返しさ。
でもごくたま~に、ボクのような存在――君らの言葉で分かりやすくいうと『神様』ってやつだーーの気まぐれで選ばれた魂は、リセット無しで別世界の人間として、転生させられることもある。
つまり、君はボクの気まぐれで選ばれた人間だ。
これに選ばれる確率って、想像を絶するくらい低いんだよ? ソシャゲで言うと、SSSRくらい? 君ってば、超ラッキー!」
なんか、神様というには随分俗っぽい知識を持っているな――と、一応突っ込んでおくとして。
SSSRとか聞くとあんまりありがたみがないけど、ちなみに確率としてはどのくらい?
「100人に1人くらいかな?」
意外に高いっ! それに、それだとせいぜいRくらいのレアリティなのでは? いや、ソシャゲやらないから、分からないけども。
「あはははは! そうそう、その調子! 地が出てきたねー。いいよ、君。世界狙えるよ」
なんかもう、死んだことなんてどうでもよくなってきました……
「うんうん、良い傾向だね。過去の辛いことなんて忘れて、未来を向いて歩こうじゃないか。元の世界の、君が気に入っていた娘もそう言ってたろう?」
――っ!
やっぱ……本当に、あんたは神様なんだな。
そんなことまで、知っているのか。
「ん。まあ、神様だからね。神様は何でも知っているよ。――さて、下らない話ばかりしていたらいつまで経っても話が進まないし、いい加減本題に入ろうかな。
三田村翼君、君は本当にたまたま偶然、ボクの暇つぶしに選ばれました。ボクの力で、特別に君が元にいた世界とは別の世界へ転生させてあげます。ボクはここから君がどう生きるのかを見守っているから、せいぜい楽しませてよね?」
マジで、暇つぶしなの?
すると、ひょっとしてアレな感じ?
転生者に色々と絶望を味合わせて苦しませたり、地獄みたいな世界を延々とループさせたり的な?
「えー、何それ。プークスクスクス! ラノベの読み過ぎ!」
………
「ボクは、転生させる以外は別に何もしないよ。ただ見守るだけ。ボクが作った世界に、ちょっとした異物を混ぜたら、どんなことが起こるのか? そこから世界がどう変わっていくのか! それはボクにも予想できない! 最高の余興だよ」
なんか、ムカついてきたな。
「だからー、別に君は女神に選ばれた特別な英雄とか存在だーとか思わなくて大丈夫。ていうか、君が転生する世界には、既に勇者だとか英雄だとか言われる特別な存在はいるしね。
転生した後、君がその世界でどう生きるかは、君の自由さ。女神から与えられた使命とか、そういうのも特にないから好きに生きていいよ。実際、君はごく普通の一般人として次の世界に転生するわけだしね」
そんなんで良いのか? 俺の性格も能力もよく知っているなら、俺が転生した先で、神様が楽しめるくらい、何かとんでもないことなんて出来るわけないって分かるだろう?
「んんー、そうだねー。能力はさておいといて、君だからこそ次の世界ではジッとしてられないと思うんだな。出来る出来ないは別として、君は自分の意志で世界の変革に関わろうとする……そうなるに違いないと、女神は確信するなぁ」
何だと?
「それに、せっかくの異世界転生だからね。能力については、ボクが特別に特典をつけようじゃないか! いわゆる転生特典ってやつだね。さあ、何がいい?」
ちょっと待て。今言った言葉の意味をもう少し詳しく説明しろ。それ、めっちゃ重要事項だろう!
「あー、ちなみに「剣Lv〇〇」とか「筋力〇〇」とか、そういうのは不可。人間の才能とか能力が、数字やらアルファベットやらで設定出来るわけないじゃない! スキルツリーとか、本当に笑っちゃうよね。ラノベの読み過ぎな上にゲームに毒され過ぎ! プークスクス!」
あー、もうなんなのこの神様。ものすごい厄介な神様にあたっちゃったのかな?
「さあさあ、何でも願い事を1つ叶えてあげようじゃないか。ちなみに、ついさっき君と同じように転生させた汚いおっさんは、そりゃもう事細やかに発動条件やら効果やらを設定した、欲望丸出しの転生特典を付加して転生していったよ。ありゃ、さすがの女神もドン引き」
うーん、転生特典か。
そうだなぁ。こんな神様を楽しませるための能力ってのも癪に触るしなぁ。戦闘系以外がいいかな……ん~、でもラノベあるあるの中世西洋風世界観のファンタジー世界だったら、設定によっては治安が悪くて、速攻ゲームオーバーになる可能性もあることを考えたら……
「あ、君もいよいよボクを無視し始めたね? それに、それボクに聞こえているのを分かってて、若干ディスっているよね?」
そうだなぁ、本当に何でもいいのか?
「うんうん。すごーく自然にボクのことを無視しているよね? 勿論いいともさ。基本、ボクに不可能は無いから。どんな能力でも特典として付加してあげよう」
神様のくせに「基本」とか付いているのが、少しだけ不安だけど。
それなら。
『―――――――』
っていうのは?
「ぽかん」
は?
「あー、ごめんごめん。今の君には視覚が無いから、ボクがどんな表情をしているのか擬態語で表現してみたんだ。そんなのでいいのかい? せっかくの、女神様からの貴重な転生特典だよ?」
俺からしてみたら、これ以上のものは無いんだけど。
「君はやっぱり卑怯だねー。いや、強かっていうのかな。君の世界からの転生者は、大体こういった転生者特典っていうと、いろーんな質問をしてきながら、細かい上に無駄に多くのリクエストをしてくるのが多いんだけど……いやはや、まさか質問無しに、たった一言とは。これには女神もびっくり」
別にそんなに深く考えて言ったわけじゃないんだけどな。
あんたが何を望んでどうしようが、俺には世界を変えるような大層な能力なんていらない。本当に次の世界があるんなら、俺はただ楽しく気ままに生きることが出来るなら、それだけで良いと思っている。
それが、あいつとの約束だからな。
「なるほどねー。確かに、それだけなら最適な特典かもしれないね。でも、本当にそれでいいのかい?」
なんだよ。もっとこう、全属性の魔法を自在に操れるエレメントマスターとか、勇者しか扱えない聖剣と魔王しか扱えない魔剣の両方を使える伝説のソードマスターとか、いっそのことシンプルに不死身とか、なんかそんなチート的な特典にしろっていうのか?
「プークスクス! なにそれー! ラノベの読み過ぎどころか、微妙にセンスが古くてダサいんですけどー! もっと流行りのラノベを読み込んだ方がいいよ。最近だと――」
ああもう、うっせーな!
いいから、どうなんだよ。出来るのか、出来ないのか。
なんでもいいってんなら、こんなささやかなものでもいいだろ?
「いやいや、三田村君。そりゃ、とんでもない特典だ。熟考されて練りに練られたどんな特典よりも、ある意味強力で凶悪だ。ま、君が自分で言った通り、何も深く考えないからこそ出てきたんだろうけどね」
……はあ? 頭大丈夫か? 強力と凶悪の意味を辞書で調べて来いよ。あ、そもそも辞書の読み方も分からないか。ってか、日本語大丈夫か? ラノベばっか読んでいたら語彙が偏って、どんな漢字にもカタカナの当て字が浮かぶようになるぞ。強力=ストロングパワー、凶悪⇒イビルデーモンって訳したら、もう立派な厨二病患者だぞ。
「うーん。それってただ英訳っぽくしただけだよね。そしてやっぱりセンスがダサい。何より突然の毒舌と煽りに、女神はさすがにショック。ーーまあ、それはさておき。勿論OKだよ。女神には(基本的に)不可能は無いからね」
()付けると、余計胡散臭くなるんだけど。
「それじゃ転生特典も決まったし、いよいよ出発だね。そうそう、転生先の世界で君の魂の器として準備したのは、君と同じくその世界で死を迎えた人間のものを準備しているよ。とりあえず記憶喪失という設定で通せば、何とかなるんじゃないかな(多分)。頑張って!」
うん、そこら辺の詳細の情報は事細やかにたくさん教えて欲しいんだけど、きっと教えてくれないんだろうなー。
ーーまあ、どうせ1度は死んだ身だし、なるようになればいい。
よく分からんが、せっかく手に入れたもう1回の人生。
自分が思うように、とことん楽しんで生きてやるさ。
「うん、そうだね」
□■□■
その言葉を皮切りに、彼――三田村翼の視覚が急に覚醒した。
何もない真っ暗な空間に浮かび上がるシルエット。
女神を自称するにしては、あまりにも普通過ぎる1人の女性。その顔は、表情は見えない。至って平均的な日本人女性の姿形のシルエットだけが、三田村の網膜に焼き付いていた。
「楽しんできてね」
相変わらずその顔は見えない。
しかし不思議なことに、その表情はとても優しくて暖かな笑顔だということが分かった。
こうして三田村翼という人間は、別の世界の別の人間として、異例の2度目の人生を歩むこととなったのだ。
”コウメイ=ショカツリョウ”としての、新たな道を--
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「こんにちは、こんばんは、はいさい。はろー、はろー、聞こえますか地球?」
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「ニイハオ、ボンジュール、ナマステ、アニョハセヨ、ダンケシェーン、ヒューヴェーフォメンタ!」
――――――――――
「あれー?」
ーーダンケシェーンは「ありがとう」じゃなかったっけ? あと、最後のやつはマニアック過ぎて分からない。
「ああ、良かった! 生きていたんだね。いや、死んでるんだけど。ていうか、日本人だよね? 全然返事しないから、焦ってとりあえず知っている言語を片っ端から口走っちゃたよ。ごめんね、てへぺろっ☆」
ええと。
すごく色々突っ込みたいんだけど。
なんていうか、その……俺はやっぱり……
「おお、ミタムラよ。死んでしまうとは情けない」
死んだのか。
「うん、そう。残念ながらね。ま、過ぎたことは仕方ないよね。気を落とさず、未来に向かって前向きに生きていこう。いやまあ、死んでるんだけど。あー、ここ笑うとこ。ボクの持ちネタにするつもりだから! あはははははは!」
そうか……俺はやっぱり。
なんかの漫画で腹を刺されたら止血出来ないって言ってたし。
そりゃ、助かるわけないよな。
「あれれ? なんか会話成立していない感じ? ねえねえ、『お前は誰だ?』って聞いてみてよ。そしたら、用意していたさいっっっこうに受ける台詞をーーぷー、くすくす! ぶふぉおっ!」
これは、どういう状況なんだろうか。
手も足も、身体の感覚が何もない。何も見えない。
「あー、そうやってボクのことガン無視する態度。うーん、嫌いじゃないなぁ」
でも、このやたらやかましい声だけは鮮明に聞こえてくる。
これが死後の世界ってやつか?――っていうより、むしろこのシチュエーションは。
「異世界より転生されし、勇者ミタムラよ。私はこの世界の創造主たる女神です。貴方を転生させたのは、他でもありません。今、この世界は悪しき者の手により混迷に満ちています。貴方の正義の力を持ってして、この絶望に支配された暗黒なる世界を解放し、人々を救うのです。ーーナンチャッテ」
……あの、そろそろ真面目な話を始めたいんですけど。
「えー、失礼だなキミは。今までの話だって、4割くらいは本当だよ。プンプン!」
半分以上が嘘なのか。
「嘘っていうか冗談だよ、冗談。――あ、やっぱり本当のことは2割くらいかも」
すくなっ!
「わー、やった。やっと突っ込んでくれたー。ぱちぱちぱち。……というわけで、ぼちぼち話を進めましょうかね」
そうしてもらえると助かります、はい。
「うんうん、よろしい。それじゃあまず、君に何より先に伝えないといけないことがあるんだ。心して聞いて欲しい」
まさか……俺が死んだ後にも、まだ何かあったとか?
「最初のボクの呼びかけ、最後の言語はフィンランド語だよ」
あのおおおおおお!
「あはははは。ごめん、ごめん。そうやってムキになれるんじゃない。安心したよ。
じゃ、本当に気を取り直して、ちゃんと説明するね。三田村翼さん、貴方は貴方が生きていた世界で死を迎えました。――その経緯は、説明する必要はないよね?」
そう、ですね。
誰に、どうやって殺されたのかは、嫌すぎるほど分かっています。
その理由も――
「ああ、一応ボクは君らの世界で言う女神――いや、別に男神でもなんでもいいんだけど、それっぽい感じの存在だけど、敬語なんて使わないでよねー。フランクにいこう、フランクに」
――えぇと……
「あーあー、ごめんごめん。ついつい話が逸れちゃうんだよねー。つまり君みたいな人間よりも上位の存在だから、性別とか何かとか、そういうの全く別次元の話なんだよー……って、そっちじゃないか。
えとえと……そうそう、君が死んでしまったという話か。
ま、ボクからも、君の元の世界について語るつもりなんてさらさらないよ。さっき言った2割の本当の部分――ここは、これからのこと、未来のことについて語り合う場だからね。
というわけで、まずは今の君の状況から説明しよう。
人間っていうのは、魂が肉体を失うーーいわゆる『死』を迎えるーーと輪廻転生するのが通常ルールなのさ。簡単に言うと、それまでの記憶、経験、成長とかを一切リセットして、また全く別の人間として生を受けて死ぬまで生きる……その繰り返しさ。
でもごくたま~に、ボクのような存在――君らの言葉で分かりやすくいうと『神様』ってやつだーーの気まぐれで選ばれた魂は、リセット無しで別世界の人間として、転生させられることもある。
つまり、君はボクの気まぐれで選ばれた人間だ。
これに選ばれる確率って、想像を絶するくらい低いんだよ? ソシャゲで言うと、SSSRくらい? 君ってば、超ラッキー!」
なんか、神様というには随分俗っぽい知識を持っているな――と、一応突っ込んでおくとして。
SSSRとか聞くとあんまりありがたみがないけど、ちなみに確率としてはどのくらい?
「100人に1人くらいかな?」
意外に高いっ! それに、それだとせいぜいRくらいのレアリティなのでは? いや、ソシャゲやらないから、分からないけども。
「あはははは! そうそう、その調子! 地が出てきたねー。いいよ、君。世界狙えるよ」
なんかもう、死んだことなんてどうでもよくなってきました……
「うんうん、良い傾向だね。過去の辛いことなんて忘れて、未来を向いて歩こうじゃないか。元の世界の、君が気に入っていた娘もそう言ってたろう?」
――っ!
やっぱ……本当に、あんたは神様なんだな。
そんなことまで、知っているのか。
「ん。まあ、神様だからね。神様は何でも知っているよ。――さて、下らない話ばかりしていたらいつまで経っても話が進まないし、いい加減本題に入ろうかな。
三田村翼君、君は本当にたまたま偶然、ボクの暇つぶしに選ばれました。ボクの力で、特別に君が元にいた世界とは別の世界へ転生させてあげます。ボクはここから君がどう生きるのかを見守っているから、せいぜい楽しませてよね?」
マジで、暇つぶしなの?
すると、ひょっとしてアレな感じ?
転生者に色々と絶望を味合わせて苦しませたり、地獄みたいな世界を延々とループさせたり的な?
「えー、何それ。プークスクスクス! ラノベの読み過ぎ!」
………
「ボクは、転生させる以外は別に何もしないよ。ただ見守るだけ。ボクが作った世界に、ちょっとした異物を混ぜたら、どんなことが起こるのか? そこから世界がどう変わっていくのか! それはボクにも予想できない! 最高の余興だよ」
なんか、ムカついてきたな。
「だからー、別に君は女神に選ばれた特別な英雄とか存在だーとか思わなくて大丈夫。ていうか、君が転生する世界には、既に勇者だとか英雄だとか言われる特別な存在はいるしね。
転生した後、君がその世界でどう生きるかは、君の自由さ。女神から与えられた使命とか、そういうのも特にないから好きに生きていいよ。実際、君はごく普通の一般人として次の世界に転生するわけだしね」
そんなんで良いのか? 俺の性格も能力もよく知っているなら、俺が転生した先で、神様が楽しめるくらい、何かとんでもないことなんて出来るわけないって分かるだろう?
「んんー、そうだねー。能力はさておいといて、君だからこそ次の世界ではジッとしてられないと思うんだな。出来る出来ないは別として、君は自分の意志で世界の変革に関わろうとする……そうなるに違いないと、女神は確信するなぁ」
何だと?
「それに、せっかくの異世界転生だからね。能力については、ボクが特別に特典をつけようじゃないか! いわゆる転生特典ってやつだね。さあ、何がいい?」
ちょっと待て。今言った言葉の意味をもう少し詳しく説明しろ。それ、めっちゃ重要事項だろう!
「あー、ちなみに「剣Lv〇〇」とか「筋力〇〇」とか、そういうのは不可。人間の才能とか能力が、数字やらアルファベットやらで設定出来るわけないじゃない! スキルツリーとか、本当に笑っちゃうよね。ラノベの読み過ぎな上にゲームに毒され過ぎ! プークスクス!」
あー、もうなんなのこの神様。ものすごい厄介な神様にあたっちゃったのかな?
「さあさあ、何でも願い事を1つ叶えてあげようじゃないか。ちなみに、ついさっき君と同じように転生させた汚いおっさんは、そりゃもう事細やかに発動条件やら効果やらを設定した、欲望丸出しの転生特典を付加して転生していったよ。ありゃ、さすがの女神もドン引き」
うーん、転生特典か。
そうだなぁ。こんな神様を楽しませるための能力ってのも癪に触るしなぁ。戦闘系以外がいいかな……ん~、でもラノベあるあるの中世西洋風世界観のファンタジー世界だったら、設定によっては治安が悪くて、速攻ゲームオーバーになる可能性もあることを考えたら……
「あ、君もいよいよボクを無視し始めたね? それに、それボクに聞こえているのを分かってて、若干ディスっているよね?」
そうだなぁ、本当に何でもいいのか?
「うんうん。すごーく自然にボクのことを無視しているよね? 勿論いいともさ。基本、ボクに不可能は無いから。どんな能力でも特典として付加してあげよう」
神様のくせに「基本」とか付いているのが、少しだけ不安だけど。
それなら。
『―――――――』
っていうのは?
「ぽかん」
は?
「あー、ごめんごめん。今の君には視覚が無いから、ボクがどんな表情をしているのか擬態語で表現してみたんだ。そんなのでいいのかい? せっかくの、女神様からの貴重な転生特典だよ?」
俺からしてみたら、これ以上のものは無いんだけど。
「君はやっぱり卑怯だねー。いや、強かっていうのかな。君の世界からの転生者は、大体こういった転生者特典っていうと、いろーんな質問をしてきながら、細かい上に無駄に多くのリクエストをしてくるのが多いんだけど……いやはや、まさか質問無しに、たった一言とは。これには女神もびっくり」
別にそんなに深く考えて言ったわけじゃないんだけどな。
あんたが何を望んでどうしようが、俺には世界を変えるような大層な能力なんていらない。本当に次の世界があるんなら、俺はただ楽しく気ままに生きることが出来るなら、それだけで良いと思っている。
それが、あいつとの約束だからな。
「なるほどねー。確かに、それだけなら最適な特典かもしれないね。でも、本当にそれでいいのかい?」
なんだよ。もっとこう、全属性の魔法を自在に操れるエレメントマスターとか、勇者しか扱えない聖剣と魔王しか扱えない魔剣の両方を使える伝説のソードマスターとか、いっそのことシンプルに不死身とか、なんかそんなチート的な特典にしろっていうのか?
「プークスクス! なにそれー! ラノベの読み過ぎどころか、微妙にセンスが古くてダサいんですけどー! もっと流行りのラノベを読み込んだ方がいいよ。最近だと――」
ああもう、うっせーな!
いいから、どうなんだよ。出来るのか、出来ないのか。
なんでもいいってんなら、こんなささやかなものでもいいだろ?
「いやいや、三田村君。そりゃ、とんでもない特典だ。熟考されて練りに練られたどんな特典よりも、ある意味強力で凶悪だ。ま、君が自分で言った通り、何も深く考えないからこそ出てきたんだろうけどね」
……はあ? 頭大丈夫か? 強力と凶悪の意味を辞書で調べて来いよ。あ、そもそも辞書の読み方も分からないか。ってか、日本語大丈夫か? ラノベばっか読んでいたら語彙が偏って、どんな漢字にもカタカナの当て字が浮かぶようになるぞ。強力=ストロングパワー、凶悪⇒イビルデーモンって訳したら、もう立派な厨二病患者だぞ。
「うーん。それってただ英訳っぽくしただけだよね。そしてやっぱりセンスがダサい。何より突然の毒舌と煽りに、女神はさすがにショック。ーーまあ、それはさておき。勿論OKだよ。女神には(基本的に)不可能は無いからね」
()付けると、余計胡散臭くなるんだけど。
「それじゃ転生特典も決まったし、いよいよ出発だね。そうそう、転生先の世界で君の魂の器として準備したのは、君と同じくその世界で死を迎えた人間のものを準備しているよ。とりあえず記憶喪失という設定で通せば、何とかなるんじゃないかな(多分)。頑張って!」
うん、そこら辺の詳細の情報は事細やかにたくさん教えて欲しいんだけど、きっと教えてくれないんだろうなー。
ーーまあ、どうせ1度は死んだ身だし、なるようになればいい。
よく分からんが、せっかく手に入れたもう1回の人生。
自分が思うように、とことん楽しんで生きてやるさ。
「うん、そうだね」
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その言葉を皮切りに、彼――三田村翼の視覚が急に覚醒した。
何もない真っ暗な空間に浮かび上がるシルエット。
女神を自称するにしては、あまりにも普通過ぎる1人の女性。その顔は、表情は見えない。至って平均的な日本人女性の姿形のシルエットだけが、三田村の網膜に焼き付いていた。
「楽しんできてね」
相変わらずその顔は見えない。
しかし不思議なことに、その表情はとても優しくて暖かな笑顔だということが分かった。
こうして三田村翼という人間は、別の世界の別の人間として、異例の2度目の人生を歩むこととなったのだ。
”コウメイ=ショカツリョウ”としての、新たな道を--
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※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
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