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第0章 物語が始まる前にあった物語
第2話 英雄達の物語Ⅱ--最後の戦い(後編)--
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魔王アゼルゲスの最大魔法『ドルマ・ドルステリア』の直撃を受けた勇者リンデブルグ。
普通に考えれば即死。彼が特別な存在『勇者』だということを考えても、戦闘行為などもはや不可能な致命傷のはずだ。そのまま動くことすら出来ずに、魔王による一方的な処刑を座して待つだけ。
ーーそのはずだった。
しかし、驚くことに、リンデブルグは倒れない。さすがに地面に膝をつくものの、聖剣に体重を預けるようにしながら、決して倒れないのだ。
そのリンデブルグの姿を見て、アゼルゲスは怒りよりも驚愕が勝る。
自身が絶対の自信を持っている、最大の闇魔法の直撃を受けても膝をつく程度で、未だその瞳から闘志の色は失われていない。
――どうすれば、この人間は死ぬというのだ。
地面に膝をついたリンデブルグは地面に突き立てた聖剣を杖にしながら、倒れるどころか、地についた膝を持ち上げるようにして、何と立ち上がるのだった。
「おっ……おおぉ……!」
全身は血まみれ、疲労困憊。瀕死という言葉すら足りていないような状態のリンデブルグが自らを奮い立たせるように唸ると、アゼルゲスは身をぶるっと震わせる。
その刹那に生まれた感情は恐怖ーー
いや、そんなはずがない。と、アゼルゲスは首を何度も振りながら否定する。
「な、何なのだ! 一体貴様は何だというのだ……! どうしてそれほどまでに……貴様はっ!」
「僕達は負けるわけにはいかないんだ。僕たちがここに辿り着くために、応援してくれた人、力をくれた人、自らを犠牲にしてまで道を開いてくれた人――みんなの想いを、希望を背負って、僕たちはここにいるんだ! 絶対に負けるわけにはいかない!」
歯を食いしばりながら、懸命にアゼルゲスを睨みつけるリンデブルグ。
満身創痍でありながら、戦う意志も希望も、微塵にも滲んでいない。
その強い意志を込めたリンデブルグの想いが「勇者特性」を通して、その場にいる他の人間に伝播していく。
「くたばりやがれぇぇぇ!」
「っ!」
バチバチバチという電撃音に、アゼルゲスは咄嗟に反応して、その場を飛びのく。
すると、その一瞬後にアゼルゲスが立っていた場所へと強烈な雷が落ちる。
その雷は王の間の天井を打ち砕くと地面に突き刺さり、その石畳を盛大に抉った。いくら“闇の障壁”で守られていて死なないアゼルゲスといえど、まともに直撃すれば無傷では済まなかっただろう。
アゼルゲスが落雷で砕けた天井を見上げると、魔族の瘴気で黒色の淀んだ空が覗く。
次に声がした方へ振り返ると、そこにはリンデブルグと同じく満身創痍の状態で、壁に打ち付けられたはずのアルマイトが不敵な笑みを浮かべて立っていた。その手から、先ほど持っていた盾と槍は消えており、代わりに持っているのは雷神の槌『トールハンマー』だった。
この人の身を越えた防御力、そして複数の神器を自在に行使する――これこそがアルマイトの「戦士特性」。
「ぐぐぐ……まだ生きていたか、この羽虫がっ!」
「てめーのカスみたいな攻撃こそ、羽虫以下だぜ……げほっ……ごほ」
咳き込むアルマイト。彼が吐き出す中には血も混じっており、強がりなのは火を見るより明らかだ。
それでもアゼルゲスを激昂にさせるには充分すぎる挑発だった。
「ドーラ・シールメント!」
しかし、そのアゼルゲスの怒りの矛先はアルマイトではなく、破邪魔法を詠唱中のサージュに向けて放たれた。
魔族が得意とする「呪い」――対象の魔力を封じ込め、あらゆる魔法の発動を防ぐ闇の呪いが、黒い靄となってサージュの身体にまとわりつく。
「――っ!」
それまで全く動揺しなかったサージュが、僅かに動揺を見せる。
――が、それでもそのまま詠唱を続ける。
練り上げていく自らの魔力が、アゼルゲスの呪いの靄にかき消されていきながらも、決してサージュは破邪魔法を中断しない。
「うおおおおおお! 止めろ、止めろ、止めろぉぉぉ! 止めろぉぉぉぉぉ!」
魔封じの呪いは確実に賢者の魔力を封じ込めている。これまで練り上げたサージュの魔力は霧散していき、新たに魔力を練っても、魔力が発生するすぐ側から呪いの魔法がそれを打ち消していく。
サージュの行為は全くの無為だ。それなのに、サージュはひたすらその行為を続ける。意味が分からない。どうして、そんな無駄なことを続けるのだ。
アゼルゲスは、そのサージュの無駄な行動を一笑に付すことが出来ない。もう破邪魔法を発動することなど出来ないはずなのに、滑稽でしかないはずなのに、それなのにただひたすらに詠唱を続けるサージュに、魔王が恐怖している。
そして、そのアゼルゲスの恐怖は的中する。
サージュの身を覆うその黒い靄が、いくつもの剣閃に切り裂かれると、そのまま空気に溶けるように、霧散していく。
「呪いだろうが、何だろうが――私の剣は全てを切り裂く!」
それこそが、剣士ヴァルガンダルが有する「剣士特性」。
口から血を流しながら、その身体には想像を絶する激痛が走っているはずなのに――彼にしては珍しい不敵な笑みを浮かべながらーーサージュの側には、双剣を構えて立つヴァルガンダルの姿があった。
呪いから解放されたサージュの魔力は、再び結集――サージュはまるでこうなることが分かっていたかのように、破邪魔法の発動に向けて魔力を練り上げる。
「な、なんなのだ。何だというのだ……どうしてそんな状態で立てる。魔王たる私に向かってこられるのだ!」
相手にするのは、3人の死にぞこない。魔王の巨大な手を一振りすれば、それだけで握りつぶせてしまいそうなのに、アゼルゲスは2歩3歩と、恐れるように後退する。
「これが、僕達の……人間の力だっ!」
よろめきながら聖剣を構えるリンデブルグの意志には一点の曇りも、絶望もない。
彼にあるのは、多くの人間の希望と期待――それを背負って、絶対に負けられないという不屈の勇気だ。
そのリンデブルグの想いが、アルマイトに、ヴァルガンダルに、サージュに伝わる。
絶対の希望が、勇気が、限界を超えた苦痛を受けて致命傷を身体を奮い立たせる。それがある限りリンデブルグが痛みに、苦しみに負けるはずがない。そしてそのリンデブルグの勇気は、勇者特性を通して仲間に伝わるのだ。
「お、おお……馬鹿な。この私が……魔族の王たる、この魔王がっ……!」
恐怖と絶望で相手を支配しようとするアゼルゲスは、そのリンデブルグ達の希望と勇気の感情に圧倒されて、魔王というにはあまりに情けない程の狼狽を見せる。
己の感情を増幅し周囲に伝播する能力――仲間には希望と勇気を与えて心身を強化し、敵には威圧感を与えて弱体化させる力――これが、4人の英雄の中でも最強の「勇者特性」。
「破邪星光――!」
そして遂に、サージュの口から破邪魔法の呪文が紡がれる。
アルマイトが穴を空けた天井へ向けて、サージュの身体から光の柱が伸びる。その光の柱は、空に溜まっていた魔族の瘴気を貫き、打ち払う払う。すると、それまでその瘴気に阻まれて見えなかった、爽やかな青空がその姿を見せる。
そしてさらにその上では、長年の間瘴気の壁のせいで地上に光を届けることが出来なかった太陽が、変わらず燦燦と光輝いていた。その強い光は、天井が砕けた魔王城の王の間を明るく照らす。
サージュの身体から天へ伸びた光の柱――強大な魔力を帯びたそれは太陽に向かって伸びていく。サージュの魔力を受けた太陽は、そのまま光量を増幅させる。
すると今度は太陽からアゼルゲスに向かって、凝縮された光が、柱のようになって降り注ぎ、アゼルゲスの巨体を包み込む。
「ギャアアアアアアア!」
魔王の間が、その眩しい光に包まれる。魔王の瘴気に満たされたこの場を打ち払うかのように、いかんなくその輝きを増して、広げていく。
「オオ、オ……オオオオ……!」
数十秒の間、その太陽の光に焼かれるアゼルゲス。
光が晴れた後、その見た目に大きな変化は無かったが、身体の至るところから黒い煙ようなものが上がっている。そして苦悶の声を漏らしながら頭を抑える魔王の姿を見て、サージュは唾を飛ばしながら叫ぶ。
「はぁっ……はぁっ……! “闇の障壁”は消えたわ! 今よ、リンデブルグ! トドメの一撃、頼んだわよ!」
グッと握りこぶしを握ってガッツポーズを決めるサージュの息は荒く、身体をよろよろと崩しながら地面に膝をついていた。それほどまでに破邪魔法による消耗が激しいのだろう。しかし、その表情に苦しさはない。彼女はリンデブルグから受け取った希望をそのまま彼に返すように、声援を送る。
「君が、この世界と人々を救う希望になるんだ! 行け、リンデブルグ!」
ヴァルガンダルも、いつもの冷静淡々とした雰囲気からは想像も出来ない程の大声で声援を送る。彼もやはり、リンデブルグから受け取った希望を、何倍にもして彼に返す。
「一番いいところはお前に譲ってやるよ。とっとと片付けて、さっさと帰ろうぜ! なあ、リンデブルグ!」
アルマイトもまた、他の2人と同じ。瀕死の身体を奮い立たせるために、リンデブルグから受け取った希望を、彼に託す。
「アゼルゲス、これで最後だ! 聖剣エクスカリバーで、お前を討つ!」
神器の中で唯一――魔王という存在を完全に滅することが出来る聖剣エクスカリバー。その聖剣の力を無効化する“闇の障壁”は既に打ち払われた。
もはや、アゼルゲスに身を守る術は残っていない。
「やめろ……ヤメロォォォォォォォ!」
自らの存在が、命が、この世界から消え去っていく恐怖。
それはアゼルゲスが、この百年の間に何千何万もの人間に対して行ってきた行為だった。その恐怖を、今まさにアゼルゲスは味わっていた。
「「「いっけええええええ、リンデブルグ!」」」
「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁ!」
両手で握った聖剣を振り上げて、魔王の巨体でとびかかるリンデブルグ。特に名前を付けていない、リンデブルグの持つ一撃必殺の超剣技が発動する。
聖剣エクスカリバーの剣が上から下へと斬り上げられ、魔王の身体が縦に真っ二つへと切り裂かれる。そしてアゼルゲスは、死の絶叫を上げることも叶わず、2つに切断された身体を地面に倒れさせて、そのまま物言わぬ骸へと化した。
こうして百年もの間、魔王アゼルゲスの支配に怯えていた人間達が、4人の英雄達により遂に解放されたのだった。
普通に考えれば即死。彼が特別な存在『勇者』だということを考えても、戦闘行為などもはや不可能な致命傷のはずだ。そのまま動くことすら出来ずに、魔王による一方的な処刑を座して待つだけ。
ーーそのはずだった。
しかし、驚くことに、リンデブルグは倒れない。さすがに地面に膝をつくものの、聖剣に体重を預けるようにしながら、決して倒れないのだ。
そのリンデブルグの姿を見て、アゼルゲスは怒りよりも驚愕が勝る。
自身が絶対の自信を持っている、最大の闇魔法の直撃を受けても膝をつく程度で、未だその瞳から闘志の色は失われていない。
――どうすれば、この人間は死ぬというのだ。
地面に膝をついたリンデブルグは地面に突き立てた聖剣を杖にしながら、倒れるどころか、地についた膝を持ち上げるようにして、何と立ち上がるのだった。
「おっ……おおぉ……!」
全身は血まみれ、疲労困憊。瀕死という言葉すら足りていないような状態のリンデブルグが自らを奮い立たせるように唸ると、アゼルゲスは身をぶるっと震わせる。
その刹那に生まれた感情は恐怖ーー
いや、そんなはずがない。と、アゼルゲスは首を何度も振りながら否定する。
「な、何なのだ! 一体貴様は何だというのだ……! どうしてそれほどまでに……貴様はっ!」
「僕達は負けるわけにはいかないんだ。僕たちがここに辿り着くために、応援してくれた人、力をくれた人、自らを犠牲にしてまで道を開いてくれた人――みんなの想いを、希望を背負って、僕たちはここにいるんだ! 絶対に負けるわけにはいかない!」
歯を食いしばりながら、懸命にアゼルゲスを睨みつけるリンデブルグ。
満身創痍でありながら、戦う意志も希望も、微塵にも滲んでいない。
その強い意志を込めたリンデブルグの想いが「勇者特性」を通して、その場にいる他の人間に伝播していく。
「くたばりやがれぇぇぇ!」
「っ!」
バチバチバチという電撃音に、アゼルゲスは咄嗟に反応して、その場を飛びのく。
すると、その一瞬後にアゼルゲスが立っていた場所へと強烈な雷が落ちる。
その雷は王の間の天井を打ち砕くと地面に突き刺さり、その石畳を盛大に抉った。いくら“闇の障壁”で守られていて死なないアゼルゲスといえど、まともに直撃すれば無傷では済まなかっただろう。
アゼルゲスが落雷で砕けた天井を見上げると、魔族の瘴気で黒色の淀んだ空が覗く。
次に声がした方へ振り返ると、そこにはリンデブルグと同じく満身創痍の状態で、壁に打ち付けられたはずのアルマイトが不敵な笑みを浮かべて立っていた。その手から、先ほど持っていた盾と槍は消えており、代わりに持っているのは雷神の槌『トールハンマー』だった。
この人の身を越えた防御力、そして複数の神器を自在に行使する――これこそがアルマイトの「戦士特性」。
「ぐぐぐ……まだ生きていたか、この羽虫がっ!」
「てめーのカスみたいな攻撃こそ、羽虫以下だぜ……げほっ……ごほ」
咳き込むアルマイト。彼が吐き出す中には血も混じっており、強がりなのは火を見るより明らかだ。
それでもアゼルゲスを激昂にさせるには充分すぎる挑発だった。
「ドーラ・シールメント!」
しかし、そのアゼルゲスの怒りの矛先はアルマイトではなく、破邪魔法を詠唱中のサージュに向けて放たれた。
魔族が得意とする「呪い」――対象の魔力を封じ込め、あらゆる魔法の発動を防ぐ闇の呪いが、黒い靄となってサージュの身体にまとわりつく。
「――っ!」
それまで全く動揺しなかったサージュが、僅かに動揺を見せる。
――が、それでもそのまま詠唱を続ける。
練り上げていく自らの魔力が、アゼルゲスの呪いの靄にかき消されていきながらも、決してサージュは破邪魔法を中断しない。
「うおおおおおお! 止めろ、止めろ、止めろぉぉぉ! 止めろぉぉぉぉぉ!」
魔封じの呪いは確実に賢者の魔力を封じ込めている。これまで練り上げたサージュの魔力は霧散していき、新たに魔力を練っても、魔力が発生するすぐ側から呪いの魔法がそれを打ち消していく。
サージュの行為は全くの無為だ。それなのに、サージュはひたすらその行為を続ける。意味が分からない。どうして、そんな無駄なことを続けるのだ。
アゼルゲスは、そのサージュの無駄な行動を一笑に付すことが出来ない。もう破邪魔法を発動することなど出来ないはずなのに、滑稽でしかないはずなのに、それなのにただひたすらに詠唱を続けるサージュに、魔王が恐怖している。
そして、そのアゼルゲスの恐怖は的中する。
サージュの身を覆うその黒い靄が、いくつもの剣閃に切り裂かれると、そのまま空気に溶けるように、霧散していく。
「呪いだろうが、何だろうが――私の剣は全てを切り裂く!」
それこそが、剣士ヴァルガンダルが有する「剣士特性」。
口から血を流しながら、その身体には想像を絶する激痛が走っているはずなのに――彼にしては珍しい不敵な笑みを浮かべながらーーサージュの側には、双剣を構えて立つヴァルガンダルの姿があった。
呪いから解放されたサージュの魔力は、再び結集――サージュはまるでこうなることが分かっていたかのように、破邪魔法の発動に向けて魔力を練り上げる。
「な、なんなのだ。何だというのだ……どうしてそんな状態で立てる。魔王たる私に向かってこられるのだ!」
相手にするのは、3人の死にぞこない。魔王の巨大な手を一振りすれば、それだけで握りつぶせてしまいそうなのに、アゼルゲスは2歩3歩と、恐れるように後退する。
「これが、僕達の……人間の力だっ!」
よろめきながら聖剣を構えるリンデブルグの意志には一点の曇りも、絶望もない。
彼にあるのは、多くの人間の希望と期待――それを背負って、絶対に負けられないという不屈の勇気だ。
そのリンデブルグの想いが、アルマイトに、ヴァルガンダルに、サージュに伝わる。
絶対の希望が、勇気が、限界を超えた苦痛を受けて致命傷を身体を奮い立たせる。それがある限りリンデブルグが痛みに、苦しみに負けるはずがない。そしてそのリンデブルグの勇気は、勇者特性を通して仲間に伝わるのだ。
「お、おお……馬鹿な。この私が……魔族の王たる、この魔王がっ……!」
恐怖と絶望で相手を支配しようとするアゼルゲスは、そのリンデブルグ達の希望と勇気の感情に圧倒されて、魔王というにはあまりに情けない程の狼狽を見せる。
己の感情を増幅し周囲に伝播する能力――仲間には希望と勇気を与えて心身を強化し、敵には威圧感を与えて弱体化させる力――これが、4人の英雄の中でも最強の「勇者特性」。
「破邪星光――!」
そして遂に、サージュの口から破邪魔法の呪文が紡がれる。
アルマイトが穴を空けた天井へ向けて、サージュの身体から光の柱が伸びる。その光の柱は、空に溜まっていた魔族の瘴気を貫き、打ち払う払う。すると、それまでその瘴気に阻まれて見えなかった、爽やかな青空がその姿を見せる。
そしてさらにその上では、長年の間瘴気の壁のせいで地上に光を届けることが出来なかった太陽が、変わらず燦燦と光輝いていた。その強い光は、天井が砕けた魔王城の王の間を明るく照らす。
サージュの身体から天へ伸びた光の柱――強大な魔力を帯びたそれは太陽に向かって伸びていく。サージュの魔力を受けた太陽は、そのまま光量を増幅させる。
すると今度は太陽からアゼルゲスに向かって、凝縮された光が、柱のようになって降り注ぎ、アゼルゲスの巨体を包み込む。
「ギャアアアアアアア!」
魔王の間が、その眩しい光に包まれる。魔王の瘴気に満たされたこの場を打ち払うかのように、いかんなくその輝きを増して、広げていく。
「オオ、オ……オオオオ……!」
数十秒の間、その太陽の光に焼かれるアゼルゲス。
光が晴れた後、その見た目に大きな変化は無かったが、身体の至るところから黒い煙ようなものが上がっている。そして苦悶の声を漏らしながら頭を抑える魔王の姿を見て、サージュは唾を飛ばしながら叫ぶ。
「はぁっ……はぁっ……! “闇の障壁”は消えたわ! 今よ、リンデブルグ! トドメの一撃、頼んだわよ!」
グッと握りこぶしを握ってガッツポーズを決めるサージュの息は荒く、身体をよろよろと崩しながら地面に膝をついていた。それほどまでに破邪魔法による消耗が激しいのだろう。しかし、その表情に苦しさはない。彼女はリンデブルグから受け取った希望をそのまま彼に返すように、声援を送る。
「君が、この世界と人々を救う希望になるんだ! 行け、リンデブルグ!」
ヴァルガンダルも、いつもの冷静淡々とした雰囲気からは想像も出来ない程の大声で声援を送る。彼もやはり、リンデブルグから受け取った希望を、何倍にもして彼に返す。
「一番いいところはお前に譲ってやるよ。とっとと片付けて、さっさと帰ろうぜ! なあ、リンデブルグ!」
アルマイトもまた、他の2人と同じ。瀕死の身体を奮い立たせるために、リンデブルグから受け取った希望を、彼に託す。
「アゼルゲス、これで最後だ! 聖剣エクスカリバーで、お前を討つ!」
神器の中で唯一――魔王という存在を完全に滅することが出来る聖剣エクスカリバー。その聖剣の力を無効化する“闇の障壁”は既に打ち払われた。
もはや、アゼルゲスに身を守る術は残っていない。
「やめろ……ヤメロォォォォォォォ!」
自らの存在が、命が、この世界から消え去っていく恐怖。
それはアゼルゲスが、この百年の間に何千何万もの人間に対して行ってきた行為だった。その恐怖を、今まさにアゼルゲスは味わっていた。
「「「いっけええええええ、リンデブルグ!」」」
「これで、終わりだぁぁぁぁぁぁ!」
両手で握った聖剣を振り上げて、魔王の巨体でとびかかるリンデブルグ。特に名前を付けていない、リンデブルグの持つ一撃必殺の超剣技が発動する。
聖剣エクスカリバーの剣が上から下へと斬り上げられ、魔王の身体が縦に真っ二つへと切り裂かれる。そしてアゼルゲスは、死の絶叫を上げることも叶わず、2つに切断された身体を地面に倒れさせて、そのまま物言わぬ骸へと化した。
こうして百年もの間、魔王アゼルゲスの支配に怯えていた人間達が、4人の英雄達により遂に解放されたのだった。
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