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お兄さんは重要人物でした。

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それから私は旅に出た。
ちゃんと礼儀正しく、お世話になったお礼を言ってから。
だが、なぜクロゥさんが旅支度をして私の横を歩いている?
どこかに用事でも有るのかな。
なんてボケは申しません、多分私の予想通りだろう。

「女神が旅に行くと言うのだ。
世話をするのが理だろう。」

「いえ、いいです。
そこまでご迷惑を掛けられません。」

「気にする事は無い。
これは私が勝手にやっている事だ。
だが、何か望みが有るなら言ってみろ、
出来るだけ叶えるように努力する。」

いえいえいえ、大丈夫です。
過去に女神と呼ばれた人の情報や、
地理も把握しましたし、
先立つ物もお借りしました。
多分一人でも大丈夫です。

「誰かに襲われたならどうする気だ。」

「もしあなたの言っている理が正しいのならば、
私は襲われないですよね。」

「それなら女神と言う事を公表するのか。」

とんでもございません。

「それに魔物が襲ってくる可能性もある。
あいつらに話は通じんぞ。
お前に防ぐことが出来るのか?」

…………。
まぁ、何とかなるんじゃないですか?
なんて能天気な返事をしておこう。

「女神の特権を使いたければ、まず公表してから行動しろ。
さもなくば、諦めて俺を利用しろ。」

「とんでもない。」

私は激しく首を振った。
これはあれだな。
その内クロゥさんの隙をついて、逃げ出した方がいいか。

「諦めろ。」

クロゥさんがぽつりと言うけど、また顔を読まれたのかな。
いったいクロゥさんは何者だ。
……魔族か。
多分魔法もいろいろできるんだろうな。
始末が悪い。


それから一日が経った。
クロゥさんは相変わらず、黙って私の横を歩いている。
そう、何も話さず何も聞かず。
愛想が無いなと思うけど、私も同じか。
私も必要な事以外は、余り話はしないから。
だが、聞いてみたい事が有る。

「この世界の移動手段は歩く以外に何か有るの?」

「魔力が無い奴なら歩くか馬だな。
大人数だったら馬車だ。
それで時間をかけて移動する。」

「そうか、やっぱり馬が主な移動手段か。」

馬に乗った事の無い私には無理だ。
せいぜい交通機関だろう、馬車に乗るしかないだろうな。

「だがそれは魔力の無い奴と言っただろう。
魔力がそれなりに有り、能力も有るのなら、
転移魔法を使う。」

何か聞いた気がする……。

「で、お前はどこに行きたいのだ。」

「えっと、初代女神が降りたとされる、ルーン王国へ…。」

「ルーンか、俺も旅で行った事が有る。」

つまりまさか。

「俺の転移魔法で行くことが出来るな。」

出発する時に聞きたかった……。
まぁ、頼るつもりは無かったけど、
一緒に行動すると納得したなら、頼ったかな。
道は舗装されて無いし、一日中歩くのってかなり辛い。
今はもう、頼る気全開だ。

「すいませんクロゥさん。
私をルーン王国まで連れて行っていただけないでしょうか。」

「承知した。」

そう言った途端、目の前が暗転した。
一瞬停電したような感覚。
しかし、それも本当に一瞬だった。

今の目の前は、先ほどいた林の道では無かった。
振り返れば、洋風の関所のようなものがある。
そして周りには、旅装束の人や、商人風の人、馬車などが行きかって……。
いない。
殆んどの人が目を見張り、こちらを凝視している。

「ど、どうしたのかな?」

「転移魔法を使えるのは、
かなり魔力の有るの者だけだ。珍しいのだろう。」

「そっか~、力の有る人しか使えないのね。
て、クロゥさんて、そんなにすごい人だったんだね。」

「凄いのはお前だろう、俺は単なる魔族の頂点にいるだけだ。」

「頂点?つまり代表者?魔族の王様?イコール魔王?」

うわっ、とんでもない人だった。

「そんなに驚く事か?
俺の替えなどいくらでもいる。」

「だって魔王様だよ、魔族の王様だよ。すんごく偉い人だよね。」

「確かに俺には王と言う肩書が付くが、
王などいくらでもいる。
各国にもいるし、俺の様に種族の中にもいる。
だがお前は女神だ。
神と言う肩書が付いているうえに、
この世の地上に存在する女神はただ一人しかいない。」

その言い方って、自分が希少動物になった気がするからやめて。

「俺は単に魔族の中で一番魔力があり、選ばれただけだ。
凄くも何とも無いだろう。」

「とんでもございません。
十分すごい存在ですよ。」

「相変わらず変な奴だな、お前は」

変じゃ有りませんよ。
変なのは魔王さんです。

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