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情報収集

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えっと、地主さん…、庄屋さん…、あ、領主さんだ。
とにかくここは魔族の里で、お兄さんはそこの領主さんで、
名前をクロゥ・ボウさんと言うらしい。
取り合えず、強引にそこにお世話になって、お兄さんの家、いやお屋敷で情報収集。
その間に、クロゥさんは私に必要だと思われる物を用意してくれた。
それに関しては、私はおねだりをしたわけじゃない。
反ってこんな物いらないと思ったし。

十着以上のドレスでしょ。
その他必要と思われる物が多数。
靴だって、ドレスに合わせて色違いで13足。
宝石やらなんやらアクセサリー。
向こうでそれなりに女の子っぽい格好をしてたけど、
さすがに、こんなに持ってなかったよ。

「こんなに要らなーい。邪魔、荷物になる。」

「そう言うな。
下女でさえ、これ位は持っているぞ。」

嘘だね、そんな訳無いじゃん。

「邪魔なら、圧縮してやる。
その方が持ち歩く時も便利だろう。」

「圧縮?布団みたいな感じ?
それでも邪魔じゃん。
要らないって。
どうしてもって言うなら、一セットだけでいいよ。
着ている物と着回すからさ。
後は返品してよ。」

クロゥ兄ちゃんは、渋い顔をしているけど、
まるで聞き分けの無い妹に、
しょうもない奴と思っているような顔だね。

「一番小さくなるように圧縮してやるから、
飾り代わりに腕にでも付けて置け。」

何か分からないけど、ブレスレットぐらいならいいよ。
こっちの圧縮袋ってどれほど優秀なの。

「それで、うちの本では大した収穫は無かっただろう。」

「いやいやいや、何を仰いますか。
クロゥさんご自分の家の図書室、覗いた事が有ります?」

きっとないだろうな、
有ったらさっきみたいな事は言わない。

私はじゃじゃ~んと、20冊近い百科事典みたいに厚みのある本を持ち上げた。
この世界の本は軽いんだね。

「何だ、その古びた本は。」

「はい、お宅に有ったこの本は古びております。
つまりこれは古いんです。
分かりますか?
古いとは、昔の事が書かれているって事です。
これはざっと見積もっても、300年ほど昔の事が書かれているみたいだし、
その中でもこの本は、女神の事が載っている本です。」

なぜ私に異世界の文字が読めたのか?
そんな事、分かりません。
とにかく読めたんだから。
読めないより読めた方がいいでしょう?
そんな能力の事を追求するのは、先輩の事が分かってからにしよう。
優先順位は先輩の方が上。

「クロゥさんの家は、かなり昔からこの土地を統治していたみたいですね。
当時の本が山の様に有りましたよ。
ご存じなかったんですか?」

「ある事は知っていたが、そんな埃だらけの本は奥に入っていたからな。
必要が有ったなら読んでいただろうが、
読んでいなかったと言う事は、必要じゃ無かったって事だ。」

なるほど納得。

「取り合えずこれは、昔の女神に関する本です。
読みたいので、ちょっとお借りしてもいいですか。」

「あぁ、好きにしろ。」

「………服の事と言い、本と言い、居候の件だって、ずいぶん親切なんですね。」

「まあ、理だからな。」

「理?何ですかそれ。」

いや、理の意味が分からない訳じゃ無い。
理とは、物事の筋道。条理。道理。
つまりするべき事、しなければならない事、して当たり前の事。
簡単に言えばそんな所だ。

「女神降臨なれば、その意を違う事無かれ、さすれば己の良き道も開かれん。
昔からの言い伝えだ。
まあ、女神には逆らうな。
女神にいい事をしておけば、自分にもいい事が起こるだろうって事だろう。
しかし、それをするのは普通の事だと皆知っている。
気にするな。」

言い伝えか、なるほど。

居候を始めて4日、
結局18冊あった分厚い本は全て読破した。
つまり、頭の中に書き写した。

「ここにあった情報はこれで全部か。」

一応もう一度この屋敷の図書室は確認してある。
後から出て来た18冊目、ほんの少し乗っていた女神の情報も仕入れた。

「さて、次に行ってみますか。」

私は床から立ち上がり、自分に纏わりついた埃をパンパンと払い落とした。
それからクロゥさんを探しに屋敷を彷徨う。

「この屋敷って、クロゥさん以外は二人ぐらいしか見かけないけど、
何故だろうね。」

この大きさなら、貴族社会なら管理する者がもう少し居てもいいだろう。
かなりの部屋数があるにもかかわらず、大半は埃だらけだ。
しかし埃が積もっていると言う事は、
多分クロゥさんはその場所を使っていない。 
使っていないからこそ、放置し埃が積み重なっていく。
つまり、生活の場は限られた場所のみ、だから掃除はそこだけでいいし、
人数も少なくて済むって事か。

つまりクロゥさんを探すのも楽だ。
まあ、家の中にいる事を前提だが、
いつもクロゥさんがいる部屋を探せばいい。
何部屋も有る、使われていそうもない部屋は除外すればいい。


「クロゥさん見っけ。」

書斎で積み上げられた書類に囲まれ、
幾つもの水晶玉を並べた机と仲良ししてたよ。

「今暇?邪魔?」

「まあ、暇ではないが、邪魔じゃない。
何か用か?」

「実はさ、私ここを出て行こうと思うんだ。」

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