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先輩の行方

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「その女神って、こちらではどういう定義なんですか?」

取り合えず、異世界人=女神らしいから、知っておくべきだろう。

「女神か?女神とは……女神だ。」

「なるほど、それは確立しちゃっている訳なんですね。」

こちらでは、その名が浸透するほど皆が知っているのか。
つまり、女神とは珍しくない存在。
それなら女神、異世界人はかなりの数こちらにいる筈だ。
と言う事は、先輩もこちらに来ている可能性が高い。

「ねえ、茉莉香と言う名前の女神様っていなかった?」

「マリカ?マリカ……確かいたな。
遥か昔、その名の女神がいた筈だ。」

「やっぱり。
ねぇ、その女神様って………。
遥か昔?」

嫌な予感がよぎる。
こちらの遥か昔がいつ頃の事を言うのか、聞かなければ。
もしそれが私が認識している時を指さなければ望みはある。
だがそれは甘い夢だった。

「そうだな、数百年前と聞くが。
はっきりとした年数は分からない。
多分調べる方法はあるだろうが。」

「あのさ、女神様って、神と言う名が付いているぐらいだから、
長命だとか、不死って有る…よね。」

わずかな望みを掛け、口に出す。

「一般人より長めに生きるらしいが、不死は無いな。」

「そ…うか、
絶望………。」

私はテーブルに置いたカトラリーを握りしめ、
歯を食いしばった。
これで永久に先輩に会えなくなった。
もう二度と、あの笑顔も見れない。
あの声も聞けない。

「もしかしてお前、その女神と知り合いだったのか?」

「分からない。
あちらで茉莉香先輩がいなくなったのは、1年ぐらい前で、
そんな数百年も前じゃないけど、
次元糸が弾かれた時、一体いつの時間に飛ばされたのか分からない。
もしその名が複数無い限り、その女神様が先輩だった可能性は高い。」

「そうか…残念だったな。」

「……うん。」

あーダメだぁ。
落ち込むどころじゃない。
ずっと向こうで探し回って、諦めた人だって多いのに、
それでも私は諦め切れなくて、探して探して探して。
やっと糸口を見つけたと思った途端、止めを刺された。




「そう落ち込むな。
と、行っても無理か。
しばらく此処で落ち込んでいろ。」

「ありがと。」



「あのさ、女神の事が知りたいって思ったら、
詳しい事知っている人っているの?」

「そうだな、人が語り継ぐには長すぎる時間だ。
その事に興味を持って調べている人はいるだろうが、
頼りになるのは伝書物だな。」

「伝書物?
つまり本?」

本か、いいじゃないか、本。
調べるっていいよね。
そう言う人がいるんだ。
会ってみる価値は有りそうだよネ。
女神か、そう言えば私も女神か?
ふ~ん、まず自分の分析からか。

「女神ってさ、何でそう呼ばれるの?
神って付くぐらいだから、何か特殊な理由が有るの?」

「さあな、何せ俺が会ったのはお前が初めてだ。
何かしら出来るらしいが、具体的な事は知らないな。」

何だ、役立たずか。

「お前、今凄く失礼な事を思っただろう。」

「なぜ分かったの。」

するとお兄さんが噴き出した。

「お前は顔を見ているだけで感情が駄々洩れだ。
マリカの名前を聞いて嬉しそうな顔をしたり、
それが数百年前だと聞いた途端、凄く悲しそうな顔をしたり。
今だってそうだ。」

きっと私は蔑んだような顔をしていたのだろうか。
表情筋を鍛えるか…。

「そう言えば女神に付いての情報が有る。
聞きたいか?」

「聞きたい!この際何でもいいから聞きたい。」

「女神とは、世界中に一人しかいないんだ。」

は…………。

「だって、今まで何人もいたような事言っていたじゃない。」

「いたさ。
何人かな。
全ての女神が把握されていた訳じゃ無いし、
登録されていた訳じゃ無い。
だが、いつの時代にも女神は一人だけだ。
なぜ一人なのか。
噂によれば、女神が死んだ時、新しい女神が現れる。
若しくは、新しい女神が現れると、今までの女神の能力が無くなる。
そんな話だ。
だが、それが世界規模で知られている。
確認したヤツなんていないから、真実は分からないけどな。」

何だ、ガセか?

そう思ったら、お兄さんは私の顔を見て苦笑いをしている。
悪口がバレたかな。
まあいい、はっきりとは分からないんだな。

「その女神の事を調べている人に会う事は出来るの?
若しくは本が見たい。」

でも、その人なら当然本を持っているだろう。

「確かこの国にもいた筈だ。
ただどこに住んでいるのかは知らないな。」

「知らない事ばかりだね。」

「悪かったな。
協力するの止めるぞ。」

「いえ、私が悪うございました。」

先輩はここに来て、どうしていたんだろう。
女神として生きたのだろうか。

「多分調べればすぐに分かると思うが、
もし遠くにいたとしても行く気か?
この国はかなり広いぞ。」

「行くさ、此処に居てもやる事も無いし、
ここまで追ってきた先輩の事だもの。
最後まで知りたい。」

そうかと言って、お兄さんが席を立った。
いつの間にか食事を終えていたんだ。
話ながらご飯を食べていた様子は見えなかったけど、器用だね。

そう言えば…。

「ねぇ、異世界人が男だったら、女神とは言わないよね。
だったら神とでも言うの。」

「おかしなことを言う。
女神は女神だ。
男が流れてくる事は無い。」

納得です。

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