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多分大丈夫です

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「一体どうしたんだい、
いきなり横になれなんて、こんなに人が多い所で君にそう言われても……。」

「切る‼」

「隊長やめて下さい、彼は私の大事な練習台なんですから。」

「エリーちゃん、いいからさっさと押し倒しちゃいなさい。」

「yes, madame!」

支離滅裂なやり取り。
副隊長は相変わらず、笑い転げている。
私は彼の車椅子を押し、隣の部屋に拉致する。

「一体何をするんだ!
理由を説明しろ。」

「失礼しました。
あなたの足が治せる可能性が有るのです。
大人しく言う通りにしていただけますか。」

司令官さんが治療すれば、治るんですと確定出来るけど、
私がやるから、かもしれないと可能性を匂わせておくんだ。

「そ、それは本当なのか?」

「はい、私が見たところ、あなたの腰椎の神経部分に異常が有りそうなんです。
もしそれが私の魔法でうまく治療できれば、足の痛みも痺れも、この先出る事は有りません。」

「歩けるのか……。
しかし君が治療できるのか?」

普通そう思いますよね。
ですがこれは司令官さんの指示です。
諦めて下さい。

「大丈夫ですわ。
あなたが歩けるかどうかは、やってみなければ分かりませんが、
彼女は年の割にはとても優秀ですから。」

司令官さんの言ったここ大事~。
年の割にですから。

するとリヴィンさん自ら、ベッドに向かい体を引きずるように横になった。

「俯せになればのかい?」

「はい、お願いします。」

いつの間にか静まる室内。
私の隣には訓練司令官さん。
さてやりますか。

腰椎部分、神経が集中している所。
よく見ればそこに椎間板がかなり変形している。
多分落馬の衝撃で脊椎が圧迫され、押し出されたんだろう。
その部分が神経を圧迫し、歩行を困難にしているのだ。
ならば方法は二つ。
椎間板自体を切除するか、
脊椎自体を元の状態に戻し、椎間板をその間に押し込む。
簡単なのは前者だけど、後者の方がいい点貰えるんだろうなぁ。
でもかなり難しいよね。
本人もかなりの痛みを伴うだろうし、技術的にも難しい。

「訓練司令官殿……。」

「なぁにー、エリーちゃん。」

ニンマリと笑う司令官さんが怖い…。
これは後者を期待している顔だ。

「あの…、お手伝いを願えませんでしょうか…。」

「仕方ないわね、痛覚は私が処理しますから、
あなたは処置に専念しなさい。」

ありがとうございます。

訓練司令官さんが術を掛けたことを確認すると、
私はさっそく作業に取り掛かる。
つぶれた脊椎を元の状態にすべく少しづつ引き伸ばす。
この時点で普通ならばかなりの激痛を伴うだろう。
だって飛び出した椎間板はそのままだもの。
だからそれで神経を傷つけないように、細心の注意をしなければならない。
引き延ばす内に、その部分にわずかづつ椎間板が入っていく。
ふうっ、集中大事。
それからどのぐらい経っただろう。
本当に少しづつ引き延ばしていた、つぶれた脊椎がようやく元の位置まで戻った。
椎間板もほとんど中に入ったけど、まだわずかに変形していたものを、
形よく中に収めた。
それからそこを固定する。
10年近くつぶれた状態だったから、また元の形に戻る可能性だって有るから。

「訓練司令官殿、チェックをお願いします。」

思わず敬礼してしまったのはご愛敬。
まだ術を掛けたままで、司令官さんは私の術後の状態。
首から腰に至るまでの椎間板をチェックし、
足にかけての神経をチェックし終えた。
それからが済んでから、自分の魔法も解いたようだ。

「大変良く出来ました。
初めての腰椎の治療でしたが、いい出来ですよ。
花丸を上げましょう。」

わーい。

「初めての治療ですか!?
こんな小さな子に、なぜそんな危ない事をさせたんだ!
もし失敗していたらどうしてくれるんだ‼」

「あなたの腰や足は治ったんですよ。
感謝されるならまだしも、何を怒っていらっしゃるのですか?」

訓練司令官殿がお得意の上から目線で、リヴィンさんを追い込む。

「もし御不満でしたら、私が元の状態にお戻しいたします。
如何されますか?」

それを言われると、何も言えませんよね。

「本当に治ったのか……。」

「はい、完璧に。
私もチェックしましたので断言できます。」

「今まで、何人もの医者が匙を投げたんだ。
それをこんな小さい子が、たった数十分で……。」

「だから言ったでしょう?
この子は優秀だと。」

訓令司令官殿、それ違います。
年齢の割に、が入っていました。

「もしお疑いでしたら、歩いてみたらいかがですか?
ただし治したのは痛みを伴う部分だけです。
筋肉は衰えたままですから、
しっかりと歩けるまでは、リハビリやトレーニングが必要です。」

そうか、筋肉は修復してないものね。
後でメモしておこう。
すると、リヴィン様は恐る恐る床に足を付け、体を前に傾けて行く。
それからへっぴり腰ながら、自分の二本の足で立ち上がった。

「い…たくない…。」

そう言い一歩、また一歩と足を踏み出す。

「歩ける…。痛くも痺れもしない。歩けるんだ………。」

覚束無い足取りでも、隣の部屋まで歩き、
そこで力が尽きたようにソファに腰を下ろした。

「おめでとうございます、リヴィン様。」

「ありがとう、私は何て言っていいのか…。
君の、いや、あなた達のおかげです。
私はあなた達にどうお礼をすればいいのだろう。」

「お気になさらないで下さい、
こんな大所帯を泊めていただくのですもの。
それで十分です。」

しいて言えば、そこに残っている美味しいお菓子をもう少しもらいたいなぁ。

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