上 下
3 / 15

逆転ホームラン 勝利です

しおりを挟む
「ジュエリー、ちょっとそこに座りなさい。」

隊長さんが怖い顔をして私に命令します。

「はい…………。」

お小言ですか?お小言ですね…。

「訓練指令官から報告が有った。
今日エリーは、訓練中よそ見をしてケガをしたそうだな。」

「はい…。」

すると隊長は片膝を着き、私の左足を手に取った。

「………どこだ。」

えっと、ケガをしたところですね。

「ここから…ここ。」

そう言って膝下のけがをした部分を指でなぞる。

「ここか。」

そう言って隊長は、ケガをしたところを、親指でそっと触れた。
魔力を感じるけど、もう傷は完璧に治っているから、その必要は無いんです。

「エリーはもう、戦闘訓練に出なくていい。
と言うか、危ない事は禁止だ。
包丁も火も使ってはいけない。
一人で外を歩くのもだめだ。」

なら私にどうしろと?
仮にも私は特殊部隊。
その私に訓練をするな?
火を使うな?
刃物を使うな?
一人での行動も禁止?

「分かりました。」

そう言って私はトコトコと、いったん自室に戻り、
お気に入りの大きなうさぴょんの人形を持ち、
また隊長達の部屋に戻ってきました。
それを椅子に座らせると、隊長達に深々とお辞儀をする。

「今までありがとうございました。
私はほかの方の担当に志願しますので、
これからはこの人形が私の代わりをします。
よろしくお願いします。」

それからもう一度軽くお辞儀をすると、回れ右をする。
何にもするなと言うのなら、うさぴょん人形でも十分事足りますよね。
さあ、これから自分の事は自分でやってもらいます。
洗濯物を運ぶのも、寝具を整えるのも、連絡係も、お風呂の支度も全てです。
頑張って下さいね。

「ま、待て、どこへ行くんだ。」

「訓練司令官さんの所です。
移動願の申請書を出しに行きます。
そうだ、その前に私物の片づけをしなくちゃ。」

私は方向転換をし、隣の自分の部屋へと向かった。


クローゼットを開け、自分の服を次々と積み上げていく。
とにかくこの部屋に有る私物は全て持って行く事になるだろう。
隊長達、いや、隊長が考えを変えない限り。
だって、副隊長さんはいつもみたいに笑っていたから、
これはきっと隊長一人の判断でしょう。


するとすぐに、隊長はうさぴょんを抱えて私の部屋に顔を出した。
恐る恐ると…。

私はチロッと隊長を見てから、忙しそうに動き回る。

「何か用ですか?」

棚に並べてあった、お気に入りの本、
”武器の種類・パーフェクト版”や”台所用品での戦い方”を持ち、
積み重ねた服の隣に置く。

「どこに行くんだ…。」

「ですから、まず司令官さんの所です。」

「本当にここを出て行くのか?」

「そうですね、ここに私は必要が無い様なので。」

「だ、だが、今から新しい奴に志願しても、
多分下っ端、
今まで特殊部隊が付いていなかったような、無知な奴の担当しか残っていないぞ。
そんな奴は、特殊部隊の事なんてろくに知らずに、
思い違いした扱いをされるぞ。
苦労するに決まっているぞ。」

「今からでしたら、多分そうなるでしょうね。
でも仕方が有りません。
お仕事ですから、我慢します。」

「…此処に居ればいいじゃないか。」

隊長が小さな声でぽつりと言う。

「隊長、私言いましたよね。
ここには私のする仕事が有りません。
だから私はここを出て、仕事の有る所に行くんです。」

そう言って、積み上げた荷物の傍に座り込み、収納のインベントリを開いた。
別名4次元ポケットです。

「待てっ、ここから出て行くな!命令だ。」

「特殊部隊憲法、第12条、理不尽な命令には従う必要はない。
知ってますか?
隊長ですもの、知ってますよね?」

私はにっこりと笑う。
さて、反論でも何でもして下さい。
いざとなったら、お姉さまや司令官さんに言いつけてやる。
すると突然隊長は、腰を90度曲げて頭を下げた。

「すまなかった。
この通り謝るから、エリーはどこにも行ってはダメだ。」

おぉ、まさかの泣き落としですか。
そして、副隊長が、隊長の後ろで、お腹を抱えて笑い転げています。
チャカしちゃダメですよ~、本人は真剣みたいですから。

「謝られても困ります。
私は特殊部隊の一員ですから、お仕事をするのがお仕事です。
それを取り上げられたら特殊部隊では有りません。
だからここを出て行こうとしたんですよ。
隊長、分かっていますか?」

「分かった。いや、良く分かっている。
エリーは今まで通り仕事をしてもいいから、此処に居てくれ。」

「ナイフや、包丁や、箒などの刃物も使っていいですか?」

「いい、ただし十分注意してくれ。」

「コンロや爆薬などの火も使っていいですか?」

「うっ、い…い。取扱いにくれぐれも気を付けるならば。」

「一人で出かけたり、任務の為に単独での侵入行為もいいですよね。」

まあ、そんな事は新米の私には、めったにない事だけど。
隊長は戸惑いながらも、首を縦に振った。
やりました、私の勝利です。

「それでは、私の仕事が戻ってきたようなので、今まで以上に、
誠心誠意使えさせていただきます。」

それを聞いた隊長は、がっくりと首をうなだれ、
私のうさぴょんを定位置、私のベッドにそっと置いて、出て行かれました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...